がん相談・緩和ケア
取材日:平成27年2月
2014年6月に大腸がんの手術をし、その後抗がん剤治療を受けました。同年8月には、心臓カテーテル手術もしました。がんの手術をするとき、麻酔をしますが、麻酔をかけると心臓の悪いところが良く分かるそうです。そのとき不整脈があることが分かり、手術は何とか持ちこたえましたが、術後にも不整脈が出ていたので、カテーテルを入れることにしました。
瞬間的には「自分はもう死ぬんだな」と感じました。医師から「ステージ3です」と言われたのですが、私はステージという言葉を知らなかったのでよく聞いてみると、がんの進行と広がりの程度を示すもので、ステージ3だと5年後の生存率は60%だということでした。でも、それなら日本人男性の平均寿命よりも長く生きられるんじゃないか、と思ったんですよ。そうすると「死」が気にならなくなりました。
キューブラー・ロスというアメリカの精神科医が書いた「死ぬ瞬間」という本を読みました。末期がんの患者のインタビューをまとめたもので、実は、私の父親が膵臓がんになったときに買ったのですが、その時は読めませんでした。父親ががんで、余命幾ばくもないということに対して「そんなことはないだろう」という思いが強かったんです。でも、今回は手術の前にその本を読んで、腹をくくることができました。
また、今までは仕事中心に生きてきましたが、それを180度転換して、自分のやりたいことをやろう、と決めました。これまでは、技術士という資格を持っていますのでものづくりのコンサルタントとして働いてきましたが、がんになって、今までできなかった「福祉や介護の方面の勉強をしたいと思いました。障害者施設なども見学して回ったのですが、これまで携わってきた生産技術を生かして、身障者の方の作業環境を改善するようなことに取り組んでいきたいなと思っています。
フランクルという心理学者が書いた「夜と霧」という作品も、がんになってから読んだのですが、アウシュビッツ強制収容所に入ったときの記録なんです。そこには「どんなところでも人間は希望をなくしてはいけない」「ユーモアをなくしてはいけない」ということが書かれていて、とても励まされました。
キルケゴールというデンマークの哲学者は「幸せの扉は外にしか開かない」と言ったそうですが、「がんになって、自分はかわいそうだ」と考えると、内にこもってますます落ち込んでしまいます。インターネットでいろんな情報が入手できますが、そういうときはネガティブな情報ばかり見てしまいます。そうではなく、外に出て、いろんな人と思いを共有すれば、幸せや生きがいを感じることができるとわかりました。
私は、あまり気にしないでオープンに話した方がいいと思います。言わないでいると、自分の中に溜め込んでしまいますから、良くないですね。どんどん吐き出した方がいいと思います。ただ、タイミングは大切ですね。本人は死を受け入れているのに、家族が受け入れられないということもあります。そうすると、患者本人がかえって疲れてしまいます。また、自分史を書く、世話になった人に感謝の手紙を残す、ということにも取り組みました。ウソや無理のない、誠実な生き方を心がけることが大切だと思います。
「明日死ぬように今日を生き、永遠を生きるように学ぶ」というトマス・モアの言葉があります。私はこの言葉に学んで、がんになってから、どうしたら健康になれるかということを勉強しました。
医学的にがんをどうやって治すか、ということは、医師に任せるしかありません。「がんになったかわいそうな自分」から「かわいそうではなくなるために、どうしたらいいんだろう」と発想を転換して、自分の周りの人との付き合いを深めたり、これまで出来なかったことに取り組んでいく。がんになったことを、そのような機会ととらえて前向きになっていってほしいなと思います。