がん相談・緩和ケア
取材日:平成27年2月
2010年に膀胱と尿道にがんが見つかり、手術をしました。ステージは2だったのですが、グレード(がんの悪性度)は3と最悪の数値で、調べてみると5年後の生存率が40%と出たので、これは大変だと思いました。今年で、手術をしてから5年になります。膀胱を取って人工膀胱(回腸導管)を造設し、身体障害者になりました。
現在はピアサポーター(※)として、がん患者サロンなどでがんの患者さんのサポートをする活動に取り組んでいます。
※ピアサポーター:がん患者やその家族を支援する人。同じがんという病気を経験した人が仲間(ピア)としてサポートする。
自分はいつまで生きられるのかということと、転移や再発はないのか、ということですね。それが心の重荷になりました。もう一つ、自分ががんになったことを話したときの周りの人の反応が、まさに「腫れ物に触る」ようで、それがとても辛かった、ということがあります。
がんになると、手術をした後もいつ再発するか、いつ転移が見つかるか分からないという不安がつきまといます。そういうことを話せる場がありませんでした。今、私自身がピアサポーターとなっているのも、がんになった人と話すことで、安心感を持てるからなんです。
実は定年退職を迎えたとき、「人間、いつどんなふうに死んでしまうか分からない。だからこれからは思い切り楽しもう」と考えていました。会社勤めをしていた頃から、脳腫瘍や胃がん、心筋梗塞、動脈瘤破裂といった病気で同僚や後輩を亡くしました。それで、自分だけ例外であることはあり得ない、だから人生を楽しんで、好きなことに取り組み続けよう、と思いました。
釣りが趣味で、よく友達と出かけていたのですが、オストメイトになったことで体のケアも必要になりました。でも、友達がいろいろと気遣ってくれて、また一緒に釣りに行けるようになりました。これはすごく自分にとってありがたいことでしたし、がんの不安を乗り越える大きな力になりましたね。
がんの手術をすると、私のように身体障害者になることもありますが、体と相談しながら、出来る範囲で好きなことを楽しむことが大切だと思います。
もともと、私は無口で人と話すのが苦手な方だったのですが、がんになって、自分の苦しみや痛みを他の人にも知ってほしい、という思いがあったのでしょうね。がんのことを話したいという思いが強くなりました。それが話せない、分かってもらえない辛さがありましたので、今はピアサポーターとして、自分の辛さやこうしたいという思いを、思い切り話してもらい、耳を傾けることを心がけています。そうして話を聞いてみると、がん患者さんもほっとした表情になられますね。
まず大切なのは、自分の病気や治療について、主治医や看護師に詳しく聞いて、自分自身が理解し、納得するということです。自分が納得した上で治療を受ければ、抗がん剤治療の辛さにもかなり耐えられるのではないかと思います。また、「自分にはこういう可能性が残っているんだ」とわかった上で治療を受ける、という意味もあります。
それから、主治医が信頼できるかどうか、も大切なポイントです。不安を抱えながらの治療だと、どうしても、体力的にも精神的にも脆くなってしまいます。もし不安や疑念が解消しなければ、セカンド・オピニオンを求めて、確認することをおすすめします。
やりたいことを思い切ってやりましょう、と伝えたいですね。私は "三途の川"を渡ることになったとき、自分の人生を振り返って「そこそこ出来たじゃないか」と思えたらいいな、と考えました。後悔のある人生にはしたくなかったんです。その意味でも、自分のしたいことを一生懸命やることは、大きな励みになります。
そして、目標を持つことです。私はがんの手術をしたとき、「あと30年生きよう」と思いました。それまでは「平均寿命まで生きられたらいいかな」と思っていたのですが(笑)。そんな目標を持つことで、強くなれるのではないでしょうか。