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乳児期早期から発症し、生涯にわたり座位不能のI型(ウエルドニッヒ・ホフマン病とも呼ばれる)、座位までは可能となるがその後退行するII 型、歩行可能でその後退行するIII型(クーゲルベルグ・ヴェランダー病とも呼ばれる)に大きく分類されますが、成人以降に発症するタイプをIV型と分類しています。原因は5番目の染色体にあるSMN1遺伝子の異常によりSMNタンパク質が産生されないことです。
この結果、脊髄前角細胞と呼ばれる脊髄の運動神経が変性していきます。ヒトはSMN1遺伝子の類似遺伝子であるSMN2遺伝子を持っており,SMN2遺伝子からは微量のSMNタンパク質が産生されています。SMN2遺伝子の数(コピー数といいます)は人によって異なっており,SMN2遺伝子のコピー数が多いほど産生されるSMNタンパク質が多いため,症状が軽症となる傾向にあります。
採血による遺伝子診断が可能です。2024年3月より滋賀県では拡大新生児マススクリーニング(公費負担)の対応疾患として取り上げられており,新生児の間に診断がつくことが増えると予想されております。
2024年現在3つの治療薬が使用可能です。
1つ目はスピンラザという髄腔内(背中からの注射投与)に投与することで直接脊髄を治療することを目的とした薬剤です。2つ目はエブリスディという飲み薬で全身に作用する薬剤です。3つ目はゾルゲンスマという毒性を除いたウイルスの殻(ウイルスベクター)の中にSMN1遺伝子を入れた薬剤です。
スピンラザとエブリスディはSMN2遺伝子から産生されるSMNタンパク質の量を増やす働きがあり,ゾルゲンスマは失われたSMN1遺伝子そのものを補完する働きがあります。これらの治療薬は全て明らかな効果を有しており,その効果は同等であると考えられています。
家族の希望や各種薬剤の特性などをじっくり相談して治療法を決めます。脊髄性筋萎縮症の治療において最も大事なことは早期に診断して早期に治療することです。治療開始日が遅れるほど治療薬の効果は薄れるため,特にI型の場合は日齢30日以内などの早期の治療が求められます。
治療薬の出現によりこれまでは歩くことも座ることもできなかった子供達が歩いたり,走ったりできるようになってきました。しかし治療薬の出現からまだ日が浅いため,長期的な効果の保証がありません。
そのため定期的な診察やリハビリによる運動機能評価を行っています。呼吸機能の評価や人工呼吸器の必要性の有無なども筋ジストロフィーと同様に行っております。(呼吸器に関してはホームページの筋ジストロフィーの説明を参照してください。)