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リー脳症、MELAS,NARPその他のミトコンドリア病の診療を行っています。ミトコンドリア病はかなり頻度の高い疾患ですが、成人のミトコンドリア病に比べて小児のミトコンドリア病は症状があまり特徴的でない場合も多く、その診断は必ずしも容易ではありません。血液検査で乳酸が高ければ疑いますが、かならずしも高いとは限りません。さらに小児では採血に時間がかかることが多く、その場合はミトコンドリア病でなくても血液の乳酸が高くなることがあり、血液乳酸値は診断の参考にはなっても確実な指標にはなりません。髄液検査を行い、髄液の乳酸が高値である場合は、かなりミトコンドリア病である可能性が濃厚となりますが、髄液の乳酸が正常なケースもあります。一般に、脳、聴神経、筋、腎など、複数臓器に症状がある場合にミトコンドリア病を疑います。確定診断は、血液で可能な場合もありますが、多くは筋生検(小手術で筋の一部を採取する検査)でミトコンドリア病に特徴的な筋の変化の有無を調べ、さらに筋ミトコンドリア酵素活性の測定や遺伝子解析をすることによって行います。筋生検より侵襲の少ない検査法として、皮膚生検があります。これは直径5ミリ程度の皮膚を採取して検査する方法で、外来処置室で可能な検査です。採取した皮膚から線維芽細胞を培養することができ、培養細胞のミトコンドリア酵素活性測定や遺伝子解析が可能となります。しかし、ミトコンドリア自体の遺伝子異常が原因の場合、検査した組織によっては異常が検出できないことがあり、血液や皮膚生検で異常がみつからない場合は、やはり筋生検が必要となります。当科では筋生検および皮膚生検が可能です。採取した検体は、生検皮膚や血液は主に千葉県こども病院と埼玉医科大学に、生検筋は国立精神・神経医療研究センターに送付して解析を依頼しています。
ミトコンドリア病の治療は現段階では根本的な治療法がないのが現状です。しかし、MELASではアルギニンの投与が頭痛や梗塞様発作の予防に有効です。また、MELASやリー脳症などにピルビン酸ナトリウムの内服が一定有効なことが知られています。しかし、これらはいずれも医薬品として承認された治療薬ではなく、臨床研究としての治療に位置づけられます(現在、医薬品扱いになることを目的に両者とも治験が行われています)。当センターでは、これらの治療が可能です。これ以外にコエンザイムQ10が有効な例も少なからずあります。ピルビン酸脱水素酵素欠損症では、ビタミンB1が著効するケースがあるので、診断がつけば、まず投与します。ビタミンB1が著効するかどうかは、培養リンパ球を使用して予め知ることが可能ですが、現在この検査を行っている研究室は本邦にはない状況です。理論的にはピルビン酸脱水素酵素欠損症にはケトン食が一定の効果があるはずですが、いくつか効果があったとの症例報告があるものの、まだ有効性のエビデンスは乏しいのが現状です。当院ではケトン食療法が可能です。