その昔、延暦寺の僧侶が修行する場であったという、米原市日光寺の森。ここを、拠点に活動しているのが、NPO法人やまんばの会です。かつては、薪炭林として利用されていたその森もすっかり利用されなくなり、マツ枯れがひどくなっていた2000年、旧近江町のまちづくりプロジェクトの一つとして、住民参加の「山林整備プロジェクト」が立ち上がりました。これがNPO法人やまんばの会の前身です。2003年にNPO法人化し、「やりたいことを実践して、里山を整備し、次の世代にも伝えていきたい」というミッションを達成するために、企業ともタイアップしながら精力的に活動を続けてきています。高齢化の森づくり団体が多い中、30代・40代の参加者が増えているという同団体。事務局長・廣瀬正明さんにその活動の内容と、参加者増加の工夫などについてお話を聞きました。
Q現在は、どのような活動をされていますか?
A前出のミッションを達成するために、4つの取組を行っています。里山の保全活動、伐った木などの里山資源の活用、希少種を守る活動、子ども達への自然体験・環境教育の支援、が主な取組です。
具体的な活動としては、春から秋は、里山協定林での竹林整備などの活動、そして子どもたちを対象とした「やまんばの森学園」「モッコクラブ」のほか、森林療法プロジェクトを行っています。「やまんばの森学園」は、子ども会やガールスカウトなど「一見さん」を対象としています。一方で、「モッコクラブ」は、「秘密基地づくり」や「ツリーハウス」など年度のはじめに子どもたちがやりたいことを出し合ってグループで決め、月1回集まりながら1年かけてそれを実行します。大人のスタンスは一貫して「見守ること」。危険な時の注意や、道具の使い方などを指導することはありますが、「とにかくやってみたら」とやりたいことに挑戦させます。また、森を好きになってもらうことが目的なので、「森の大切さ」などの環境教育的な話もほとんどしません。やはり、大人になった時に、森に帰ってきてもらうには、「好き」「楽しい」という思い出が大切だと思うからです。
冬は、「暮らしに里山を」と暮らしに根ざした活動を目指して、里山整備をし薪を調達する「薪ストーブクラブ」を行っています。カシやナラの枯れた木の伐採、小さな木を育てるための大木の伐採などが主な作業です。
Q参加者を増やすにはどのような工夫をされていますか?
Aウエブサイトはその団体が信頼できるか等を判断する大きな材料です。ウエブサイトを見て活動参加や視察の申し込みが来ますし、不参加の会員さんに活動内容がわかるようにしておくのも継続的に来ていただけるポイントだと思っています。そのためには、見やすく、こまめに更新できるウエブサイトを心がけています。ただ、経費を考えると凝ったものや業者さんにお願いはできませんので、この部分はかなり努力して、「簡単に更新できるが、プロ仕様に見えるソフト」を使い作成・更新しています。
工夫ということではないのですが、参加される方がたくさん集まっていただいているのは、私たちの活動のモットー「やりたいことをやる!」に共感してくださっているからなのかな、と思います。私自身も、「地元に遊び場が欲しい」と活動を始めた経緯があります。やはり、やりたいこと、楽しいことでないと続かないと思います。「薪」が欲しい人は、木を伐り、間伐をしてもらいます。「ハンモック」を吊したい人は、下草を刈る。やりたいことをやって、それが里山保全につながっていく。それが、ポイントだと思います。30代、40代の参加者がここ数年で増えたのは、「薪ストーブクラブ」を始めてからです。最初は、薪を調達したいという目的で参加される方も多かったのですが、それだけの方は長続きしませんね。生活と密着した里山の利用という意味を理解し、そして森林整備の楽しさを知って、みなさんやりがいを持って参加されているのだと思います。
子どもも同じで、「モッコクラブ」は、毎年20人定員ですが、特に広報をしなくても口コミで集まって来られます。子ども達が楽しんでくれている結果でしょうかね。
Q団体運営に係わる人材はどのように確保されていますか?
A事務局の人材は、なかなか確保できないのが現状です。事務局は裏方作業ですので、「森づくり」がしたくて来ている人には、ちょっと別の種類のようです。現在、事務局は私、廣瀬が1人で行っています。やはり、事務局がすべてを仕切るのは難しく限界がありますので、効率化をはかるためにさまざまな工夫をしています。連絡や申し込みはメールをメインにし、手間のかかるプログラムは廃止、手数を少なくするためごみの持ち帰りのお願いするなどで省力化しています。今後はプロジェクトごとにリーダーを設定して、リーダーがプロジェクト運営をするような展開を考えているところです。
Q団体運営の資金に関してはどのような工夫をされていますか?
A以前は、セブンイレブン緑の基金や、国土緑化推進機構などさまざまな民間の助成金に応募をし、助成金をいただいてきました。これは、機器購入など当法人の基礎づくりに役立ちました。現在は、企業寄付金が基幹的な収入になっていますが、寄付のきっかけは、当法人の「ウエブサイトを見て」というのも数件あります。ですので、ウエブサイトは、参加者募集のためだけでなく資金調達にも重要な役割を果たしています。やはり、ウエブサイトに法人の定款や、事業報告や決算報告を掲載し公開していていることも信頼性を高めていると思っています。また、現在、寄付金をいただいているハウスウェルネスフーズ(株)のウエブサイトの特別コーナーにリンクをさせていただいていますが、企業とタイアップして活動しているということも、イメージアップにもつながっていると思います。
Q今後の展望についてお聞かせください
A2年ほど前から、地域住民の方の生活と私達の活動の結びつきが強くなってきて、集落周辺の枯れ木の伐採などで頼られることも多くなってきました。私たちの活動が、地域に喜ばれたり、高齢者集落の課題解決などにもつながっていることはうれしく思います。そして、今後はもっと、地域や地元企業との結びつきを強くし、さらに地域に役立てる活動も展開していけたらと思っています。あと、これは展望というか希望なのですが、「モッコクラブ」は、今年で8年目。1年目に参加していた子どもたちはもう18才になります。この子どもたちが、活動に帰ってきてくれると、うれしいですね。