拝啓、お母さんお手紙有難う
山本の兄さんの事、大学生の応召の事等色々とニュースを有難う御座居ました。
逢坂山のトンネルも貫通されたとのこと所で栄一から一つニュースをお知らせ致します。
それは栄一が単独(今までは先生と共に飛行機に乗って色々と練習をしていたのでありますが、単独とは先生と共に乗らず栄一一人で飛行機に乗って出ることです)をやったと言ふことです。
今までは先生と共に乗っていたのが一人で乗るのですから楽しい事といへばちょっとちょっと口や筆では書けません。
しかしその半面仲々不安です。なにしろ、子供が親の手から離れて一人歩きをするのと同じやうなものですからね。
それから栄一の卒業の時の写真に御飯やめずらしいたべもの等を与へていて下さるとのこと、栄一は嬉しくて嬉しくてたまりません。
栄一も入隊以来ずうっと、朝と夜床に入る時とは、お父さん、お母さんに挨拶をしておりますよ。
所で正月に色々の品がいるだらうからとのこと、栄一は何もほしくありませんから御心配なく。
ただ毛糸の腹巻が出来ることならお送り下さい。
それも今は入隊する時持って来た腹巻をしておりますから、そう心配して下さらぬやう。
所で目方がへったであらうとの御心配、所が栄一は少しもやせていない位か、ますますこえておりますから御安心下さい。栄一が此の間お送りした写真もよくこえているでせう。まだ師範学校の卒業の時の写真の方のがやせている位でせう。くらべてみてください。入隊して必ずこえていますから。
では又便りをいたします。お父さん、お母さんもお元気で、栄一はとても元気です。
さようなら
十二月十一日、夜