-滋賀師範から特攻隊への道-
宇野栄一さん(大正13年生まれ 京都市)
宇野栄一さんは、小学校を卒業すると両親の故郷である滋賀県の滋賀師範学校に入学しました。しかし、先生への道をめざしながらも、途中で陸軍のパイロットになることを選びました。特攻訓練を受けた後、昭和20年4月16日、沖縄の西の海上にいた米軍の艦船に向け、突入していきました。
拝啓、お母さんお手紙有難う
山本の兄さんの事、大学生の応召の事等色々とニュースを有難う御座居ました。逢坂山のトンネルも貫通されたとのこと
所で栄一から一つニュースをお知らせ致します。
それは栄一が単独(今までは先生と共に飛行機に乗って色々と練習をしていたのでありますが、単独とは先生と共に乗らず栄一一人で飛行機に乗って出ることです)をやったと言ふことです。
今までは先生と共に乗っていたのが一人で乗るのですから楽しい事といへばちょっとちょっと口や筆では書けません。
しかしその半面仲々不安です。なにしろ、子供が親の手から離れて一人歩きをするのと同じやうなものですからね。
それから栄一の卒業の時の写真に御飯やめずらしいたべもの等を与へていて下さるとのこと、栄一は嬉しくて嬉しくてたまりません。栄一も入隊以来ずうっと、朝と夜床に入る時とは、お父さん、お母さんに挨拶をしておりますよ。
所で正月に色々の品がいるだらうからとのこと、栄一は何もほしくありませんから御心配なく。ただ毛糸の腹巻が出来ることならお送り下さい。それも今は入隊する時持って来た腹巻をしておりますから、そう心配して下さらぬやう。
所で目方がへったであらうとの御心配、所が栄一は少しもやせていない位か、ますますこえておりますから御安心下さい。栄一が此の間お送りした写真もよくこえているでせう。まだ師範学校の卒業の時の写真の方のがやせている位でせう。
くらべてみてください。入隊して必ずこえていますから。では又便りをいたします。
お父さん、お母さんもお元気で、栄一はとても元気です。
さようなら
十二月十一日、夜
師範学校を卒業する宇野さんは、両親にも友人たちにも告げることなく、突然「陸軍特別操縦見習士官」を志願したのです。 飛行訓練を学んだ宇野さんは、憧れのパイロットになります。そして、昭和20年3月、群馬県の前橋飛行場で特攻訓練を受けた宇野さんたち特攻隊員は、近くの伊香保温泉の旅館の庭で「運命」や「G線上のアリア」などのレコードを聴き、「これで思い残すことはない」と語らいながら伊香保をあとにしたそうです。