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特発性側彎症の原因

ヒポクラテスの時代から記載されている歴史のある疾患ですがいまだに原因不明です。

まず誰もが考える事は、姿勢が悪い為に発生したのではないか?ということでしょう。もし姿勢が悪いことが原因ならば話しは簡単です。よい姿勢を保てば予防可能となるからです。残念ながら、たくさんの例を見てきましたがこのような事実はなく、普段の姿勢と側彎は無関係といえます。むしろ特発性胸椎側彎の場合には胸椎の彎曲が減少し、まっすぐに近付いて一見姿勢が良く見えるくらいです。

脚長差が原因ではないか?というのもすぐ思い付くでしょう。もしそうであるならば、両脚の長さ揃えてやれば予防可能となります。残念ながらこれも特発性側彎の原因とは考えられません。本センターには脚延長のために脚長差のある患者さんが大勢訪れます。たしかに立位で脊椎のレントゲンを撮影すると側彎がありますが、臥位で撮影すると脊椎彎曲は消失します。この方達に特発性側彎が多いということはありません。ただし、脚長差によって脊柱の彎曲が形成された状態が長期間持続すると彎曲部分が硬くなってまっすぐに戻らない例は実際にあります。

運動不足のために身体が硬くなっていることが原因ではないか?と主張する人もいます。残念ながら、身体の硬さ(たとえば体幹前屈がしにくい)も側彎とは無関係です。たとえばバレリーナの人達は、私達整形外科医がびっくりするくらい身体が柔らかいのですが、一般の人と同じように側彎が発生します。或いは、新体操の選手も身体が柔らかいのですが、側彎が発生します(新体操のチャンピオンだったブルガリアの女子選手がフランスで側彎の手術を受けたというニュースは有名です)。

食べ物との関係が論議されたことがあります。バランスのよい食事、とくに旬のもの、すなわち生命の勢いのあるものを食べる事には成長期の子供にとって大切なことで私達も大賛成です。しかし、栄養の片寄りが側彎と関係があるかについての科学的証明はありません。世界には食料事情が悪いために栄養不良の子供達がたくさんいますが、この子達に側彎が多く発生しているという報告はありません。側彎検診がはじまり、この疾患がホットな話題になった時期にちょうどインスタントラーメンが流行りましたので、このことにむすびつける議論があったと思われます。

腰背筋力の低下にも注目されたことがあります。最近の子供は、たとえば布団のかたずけなどをする機会が少ないので背筋が弱くなっていることが彎曲の原因ではないか、という意見もあります。筋ジストロフィー症で側彎が発生しやすい事実から腰背筋力が関係があるのではないか、とも推測されますが、腰背筋力低下と特発性側彎の関係はまだ科学的に証明されていません(腰背筋などの筋力を強化することには賛成ですが)。

背部筋肉の左右のバランスが悪いのではないか?というのはかなり研究されてきました。側彎患者さんの手術の際に、筋肉を採取して顕微鏡で調べた研究者がいました。その結果、確かに左右の筋肉のタイプに差がでましたが、これは側彎の原因というよりも結果である、と考える人のほうが多いようです。

神経学的な左右の不均衡はどうでしょうか?たとえば向き癖に極端な差がある場合です。英国からの報告で、赤ちゃんの向き癖と側彎の関係について調べた研究があります。赤ちゃんに側彎がある場合、その彎曲の方向は、赤ちゃんの向き癖と関係があるというものです。1980年前後、大学で研究をしているとき私はこの論文に影響をうけ調査をしたのですが、その結果、幼児性(0-3歳)側彎では、向き癖と彎曲の方向には一定の関係があり、若年性(3-10歳)でもある程度関係が見られるが、思春期(10歳以後)側彎では向き癖と彎曲の方向は無関係であることがわかりました。したがって向き癖など、神経学的左右のアンバランスは10才以下の側彎になんらかの影響を与えていることは推測されます。

平行機能異常と側彎との関係については1960年代国際的にも有名となっているわが国における独創的な研究があります。私達も、患者さんの耳鼻科的平行機能障害に注目して1995年、本センター耳鼻科医師と共同で研究をおこないました。その結果、側彎進行期の患者さんでは、彎曲の程度と重心動揺の大きさとが正の相関関係にあり、成人になって側彎進行が停止すると重心動揺が正常に戻る、ということが科学的に証明されたのです(耳鼻臨床88:429-434、1995)。脊柱側彎によって平行機能が障害を受けるということは考えにくいので、平行機能障害は側彎の原因の1つと考えても良いでしょう。

ホルモン。これは関係あります。特発性側彎は圧倒的に女性に多いのです。また、思春期に進行します。このように性ホルモンは深い関係があります。

松果体ホルモン(メラトニン)本センターではこれまで側彎症患者(11名)におけるメラトニン分泌量の日内変動を測定しました。その結果、側彎症患者の約半数の方がメラトニン分泌量が低下する傾向にあり、特に進行性の症例でより低下の傾向があることがわかりました。しかしこれまでのところ統計学的有意差は見出す事が出来ず、メラトニンが側彎発生と関係がある、と断言することはできません。この研究結果は、2002年11月の日本側彎症学会で報告しました。

遺伝。関係あります。姉妹の側彎症はよく見かけます。いやむしろ、臨床の現場では姉妹の側彎は普通であるといっても良いかもしれません。母親に側彎症があるとお子さんにも発生する率が高いといわれています。しかしながら、現在のところどの染色体に異常があるのかなど詳しいことはわかっていません。

原因についてのまとめ

以上のように考えてきますと、特発性側彎の発生因子は複雑でありますが、平行機能を含めた中枢神経系に関連していること、ホルモンが関与していること、遺伝的であること、早期の治療効果が大きいこと、重症度があること、人間の成長の節目に発生あるいは増悪すること、などが注目すべきことです。これらの事実は先天性股関節脱臼の病因とまことによく似ている事に注目してください。また、胸椎側彎では殆どの例が右側凸であること(心臓が関与している?)、逆に腰椎側彎では多くの例が左凸であること、彎曲と脊椎回旋には正の相関があること、などもこの疾患の原因を考える上で参考となります。

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