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内反足の治療成績は経験豊富で治療に熱心な専門家を受診することが重要です。
内反足の変形には、下腿骨の捻れ、足関節変形、凹足、中足骨の内転等等いろいろあり、またその存在について議論もされてますが、この疾患の病態の本質的な部分は、踵骨(踵の骨)は回旋しながら距骨(足首を形成する骨、距骨の下に踵骨がある)の下に内転してもぐり込み、同時に舟状骨は距骨の先端から内方に転位している、ということです(距骨とその周囲骨群における位置関係の異常)。
Ponsetiは内反足に存在する変形を下の図のごとく、
と説明し、これらを段階的に矯正する方法を確立しています(Ponseti法)。当センターもこの方法に準じて治療を行っています。
治療はまず保存的(手術をしない方法)に行います。年齢が低ければ足の骨周囲の靱帯や関節包などがまだ軟らかいので矯正効果は大です。まず徒手操作によって、距骨とその周囲骨群との配列異常の矯正に全力を傾けます。この時のポイントはリズミカルにそして赤ちゃんに優しい矯正操作を行うことです。矯正操作をしている間に赤ちゃんは気持ちよくなって寝てしまうことが多いのですが、このような状態になれば最後にギブスを巻く時も楽になります。赤ちゃんを泣かせるような操作は(アキレス腱伸長以外では)できるだけ避けなければなりません。このことは他の疾患の治療についてもあてはまります。
矯正操作が終われば、矯正位置でギブスを巻きます。術者によっては、最初の矯正を1時間以上かけておこないその日のうちに矯正してしまう、という方法をとっておられる人もいます。矯正操作は早ければ早い程効果的ですが、無理に長時間かけて早く矯正位にもっていくより、徐々に(ギプス10回程度)矯正位を得る方が良い(組織が瘢痕化しない)という考え方もあります(Ponseti,Morecundo)。彼等の方法は初回ギプスは無理なく、およそ30秒~1分程度のマッサージ後にギプス固定としています。
Ponsetiらの方法は近年世界中に広まりつつあります。これは従来職人的で若干主観に基づく考え方で進められてきた変形矯正に関し、変形の解剖学的な理解と、治療過程の足への変化を組織学的に観察しているところが科学的で優れていると思います。
初回の矯正後にギブスを巻きますが、数日から1週後にギブスをはずすとまたもとに近い形に戻るのがふつうです。しかし、矯正・ギブス固定が順調に進むと、もうギブスをはずしてもよい形(軽度外反位)のまま戻らなくなります。下図のように徐々に足を外へ向けるように矯正し、約70度の外転が得られるまで(約10回)矯正後、デニスブラウン装具に変えるのが得策です。
この装具に変えれば入浴も可能となり、御両親による関節の動きを回復する訓練もできるようになり、さらに装具のまま下肢の運動が可能なため、筋肉の萎縮がすこしでも防げることができるからです。
内反足の本質的な部分(距骨とその周囲の骨との病的な配列)は多くの場合上の操作で矯正することができますが、尖足(アキレス腱の短縮や足関節の拘縮)の矯正は難しい場合があります。その場合には後に手術的に尖足の矯正をおこないます。
先天性内反足も他の多くの疾患と同様に、重症度があります。重度の場合は徒手矯正による治療には限界があり、変形の本質的な部分に対し外科的治療を行わざるを得ません。実際には早期(生後2-3日以内)に治療を開始してもまったく手術なしで完全に治癒するのは15%ほどといわれています。
徒手矯正をおこなっても変形が残存していれば手術療法が行われます。時期についてはいろいろ意見があるのですが、通常は生後4-6ヶ月以上になった頃行います。これはこの時期になれば全身麻酔が安全にかけられるようになり、また足も充分大きくなって手術もやりやすくなるからです。歩行開始までには矯正を完了しておきたいものです。なぜなら歩行開始後に手術が計画されると、そのためにせっかくの歩行が中断してしまうからです。
内反足の外科的療法には確立されたいくつもの方法があります。内反足の重症度に応じて、それぞれの方法が適応されます。例えば生後1ヶ月以内に専門家による治療を開始すれば多くの場合前足部の矯正(変形の本質的部分)に成功するはずです。この場合、たとえ尖足が残っていても内反足の本質的な部分は矯正されているわけですから、アキレス腱延長を含めた後方解離術という簡単な手術をおこなうだけで充分です。しかし、治療開始が遅れたり、重症度の大きなものでは最終的には侵襲の大きな、たとえば距骨下解離術などが必要かもしれません。学童期以降に変形が残存していればイリザロフ法による矯正が適応となるでしょう。診断が正しくおこなわれれば、それに応じた治療法が選択され、最終的には完璧とはいかないまでも満足する結果が得られると思います。
内反足は再発しやすいことで有名です。完全に変形を矯正するためには数回の手術が必要なこともあります。保存的治療・手術療法はともに難しく、内反足自体が専門性の高い疾患であり、しかも発生率が低いので、一般の病院ではしだいに扱うことが少なくなってきています。そのため、若い整形外科の先生には馴染みのない疾患になりつつあります。今後はますます専門性の高い疾患として扱われるようになることはまちがいありません。