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大動脈瘤について

  1. 大動脈瘤治療の歴史
  2. 解離性大動脈瘤について
  3. 腹部大動脈瘤について

1. 大動脈瘤治療の歴史

大動脈瘤は部位別で大まかに分けると、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分けられます。主として動脈硬化や高血圧が原因となり大動脈が拡張してくるものであり、破裂した場合は大出血によるショック状態となり、その救命率は極めて低い。

大動脈瘤の治療は人間の体の中で最も太い動脈の外科手術であり、46年前の1952年に初めて腹部大動脈瘤手術成功例が欧米でも我が国でも発表されています。1950年代に胸部大動脈瘤の手術成功も報告されています。しかし、胸部大動脈からは腕頭動脈や左総頚動脈などの頭部(脳)へ向かう血管が分かれており、その構造は腹部よりさらに複雑です。このため手術中に脳の血流をどうすべきか、脳の保護をどうすべきか長らく議論されてきました。

手術成績も胸部では初期の頃は不良で手術死亡率30%でしたが、1980~90年頃は手術死亡率も20%に低下し、1997年には平均10%となっています。これは主として補助手段(脳の保護)と、置換材料としての人工血管の進歩に負うところが多いといわれています。

脳の保護としては適切な潅流圧・灌流量、低体温の併用などの各種方法が成果を上げてきました。一方、人工血管は化学繊維を使った織物で、当初は硬くて縫いにくく、出血も多かったものでした。しかし、1991年頃から、コラーゲンやフィブリンを糊状にしてコーティングした人工血管が出始め、漏れず・柔らかく縫いやすいを両立したため外科医にとっては大いなる福音となりました。また、腹部大動脈瘤の手術危険率も2~3%であり、安心して手術を受けることができます。

1990年代に入り、腹部を大きく切開することなしに人工血管を腹部大動脈瘤内に挿入する治療法(ステント付き人工血管挿入術)が米国などを中心に始まりました。我が国でも、これに引き続き開始されましたが、手作り状態あるいは欧米で造られたものの治験段階であり、保険適用も認められていません。ステント付き人工血管挿入術は、適用・手技などが十分には確立されておらず、長期の結果も不明ですが、手術リスクが大きな患者さんにとっては、より安全に行える方法として今後の発展が期待されています。

2. 解離性大動脈瘤について

心臓から大動脈という太い血管がでており、体のあちこちに血液を運ぶ際の重要なパイプラインとなっています。この大動脈はタイヤのように重層構造をしており、内膜・中膜・外膜の3層から成り立っています。大動脈の病気にも種々の病気がありますが、内膜に亀裂を生じここから血液が中膜に流入して、中膜が内外の2つの部分に解離して二重円筒状の動脈瘤を作ることがあり、解離性動脈瘤と言われます。殆どの場合は高血圧を伴った中年~高年に多く見られますが、このほかマルファン症候群や先天性心疾患、大動脈炎、自己免疫疾患、妊娠にともなってみられることあり、中膜の先天性あるいは原因不明の脆弱性がその原因と考えられる場合もあります。

多くの場合は、重いものを持ったり、ゴルフのスヴィングをしたり、トイレで力んだとき等に血圧が上がり、これが原因で解離を生じ突然背部の激痛に襲われます。場合によってはそのままショック状態となることもあり、救急車で運ばれCT検査(コンピューター断層撮影)にておおよその診断がなされます。解離の範囲で上行大動脈から弓部大動脈を含む部分に解離がある場合をStanfordA型、下行大動脈以下に解離のある場合をStanfordB型といいます。特にA型では心嚢内への破裂による心タンポナーデや急性心筋梗塞合併による急性の転帰を伴うことが多くみられ、急性期の死亡率が70~90%と極めて高いため、手術治療が第一選択と考えられています。一方、B型ではほとんどの場合は高血圧の治療を主体とした内科的治療にてかなり良好な結果が得られますが、破裂や下肢の血流障害、腎不全合併例などでは手術が必要となります。

手術は内膜亀裂部(エントリー)を含む上行大動脈や弓部大動脈を人工血管にて置換する方法が一般的となっています。人工血管の改良や補助手段の改善により手術死亡率は20%前後で以前よりかなり改善していますが、さらに救命率を向上すべく努力・研究がなされているところです。

3. 腹部大動脈瘤について

急速に進む高齢化と健康に対する関心の高まり、さらに臨床検査装置の進歩により、腹部大動脈瘤はかかりつけの開業医の先生にも診断できる病気のひとつとなりました。

腹部大動脈瘤とは、お腹の大動脈が動脈硬化や高血圧のために拡張している状態をいいます。お腹の腹部大動脈のみが拡張する場合と、腹部大動脈から分かれた総腸骨動脈や内腸骨動脈も瘤状に拡張する場合があります。腹部大動脈瘤そのものは症状をともなうことはまれですが、瘤の直径が4.5~5.0cmを越しますと急に破裂する危険が増すといわれています。多くの場合は、晩秋から初冬の寒い日、あるいは重いものを持ったりトイレでりきんだときなどに血圧が上がり、これが原因で瘤に亀裂を生じ、突然腹痛に襲われます。場合によってはそのまま救急車で運ばれ緊急手術を受けることになります。

通常は、腹部の拍動性の腫瘤に気づき、診察を受けて、腹部エコーやCT検査にて診断がなされるか、あるいは他の病気を患っていて腹部エコーやCT検査をして偶然に動脈瘤が発見されるかのどちらかです。手術は全身麻酔でお腹を開けて動脈瘤を人工血管に取り替えるわけですが、最近では人工血管の改良により出血量も減り、手術成績が向上し危険率も1~2%と、安心して受けることのできる手術のひとつになっています。

余談になりますが、著名人ではアインシュタイン、司馬遼太郎氏のお2人が腹部大動脈瘤の破裂でお亡くなりになっています。