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アルツハイマー病では、中核症状と周辺症状という言葉がよく用いられます。中核症状とは、病気の本質的な症状であるさまざまな認知機能の障害をさします。もの忘れ(記憶の障害)はアルツハイマー病には必ずみられる症状であり、最も重要な中核症状です。その他の中核症状には、言語の障害である失語や行為の障害である失行、物事を段取りよく遂行できなくなる実行機能障害などがあります。周辺症状とは、幻覚、妄想、うつ、徘徊、攻撃的な態度、といった精神症状や行動異常などに対して用いられる言葉です。
しかし、認知症の種類によって症状は異なり、アルツハイマー病についての知識だけでは、適切な診断や対応ができない場合があります。
アルツハイマー病では記憶障害が必ずみられますが、前頭側頭葉変性症では逆に記憶障害が目立たないことが、その特徴です。一口に前頭側頭葉変性症といっても様々なタイプがあり、それぞれに異なった対応が求められますが、いずれの場合もアルツハイマー病とは区別して対応することが重要です。また、レビー小体病でも初期には記憶障害が軽いこともあります。特にレビー小体病では、日によって症状が変動するため、一回の診察だけでは認知症ではないと誤診される可能性があります。
アルツハイマー病では幻覚や妄想は周辺症状であり、環境を整備したり介護者が適切に対応することで減少させることができるとされています。たしかに、不安感や寂しさが幻覚や妄想を引き起こしている可能性は十分にあります。しかし、レビー小体病でみられる幻視は、心理的要因とはほとんど無関係に出現するものであり、レビー小体病の中核症状の一つなのです。この幻視は介護者の対応によって減少させることは困難です。この病気の症状は適切な治療によって見違えるほど改善する場合があるので、専門医に相談することが大切です。
アルツハイマー病の徘徊は、記憶障害や見当識障害を背景に、不安や寂しさなどの心理的原因が重なって起ると考えられます。したがって、患者さんにとって居心地のよい場所にいる時は徘徊は少なくなります。これに対して、前頭側頭葉変性症でみられる周徊という症状は、毎日同じコースを同じパターンで繰り返し歩くことであり、前頭側頭葉変性症の中核症状である繰り返し行動の一種です。周徊では徘徊と違って、道に迷うことはほとんどありません。また、環境を整備しても、説得しても、周徊を押さえることは難しく、徘徊とは異なった対応が求められます。
(Q&A参照)