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虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の治療

心臓カテーテル検査で冠動脈の狭窄が見つかったときは、次のような治療を行います。

薬物療法

冠動脈の狭窄が軽度の場合は、内服薬による狭心症のコントロールを行います。主に使用される薬剤は、亜硝酸薬(いわゆるニトロ)、カルシウム拮抗薬、ベータ遮断薬、抗血小板薬などです。また、糖尿病、高血圧、高脂血症などの基礎疾患の治療が必要な場合もあります。

冠動脈バイパス術(CABG)

冠動脈バイパス術

冠動脈の狭くなった部分、またはつまっている部分に自分の血管を使用して迂回路(バイパス)をかけて血液の流れる新しい血管路をつくる手術です。バイパスの一端を大動脈に縫い付けもう一端を狭くなった部分、またはつまっている部分を飛び越えて冠動脈に縫い付けます。これで、血液は大動脈から冠動脈にある狭くなった部分、またはつまっている部分を迂回つまり飛び越えて流れるようになります。

経皮的冠動脈形成術(風船治療、カテーテル治療、PTCA、DCA)

・カテーテル(バルーンカテーテル)

冠動脈の狭くなった部分、またはつまっている部分を、先端にバルーン(風船)のついた細い管(バルーンカテーテルといわれるカテーテル)などを使ってひろげる治療のことです。

冠動脈の狭くなった部分でバルーンをふくらませると、その圧力により血管の壁面が外側に押しひろげられます。このようにして狭くなった部分が改善されます。

バルーンカテーテル

ステント

ステントは小さな金属製の網状チューブで、バルーンカテーテルに載せて冠動脈に挿入します。冠動脈の狭窄部でバルーンを膨らませることにより、ステントが拡張し、血管の内壁を押し拡げます。この後、バルーンをしぼませて血管から取り出しますが、ステントは永久的に病変部にとどまり、血管壁を拡げて血流を確保します。

ステント

DCA(方向性アテローム切除術)

冠動脈アテローム切除術に使用する治療機器である経皮的方向性冠動脈粥腫アテレクトミー(Directional Coronary Atherectomy: DCA)カテーテルは、モーターで操作できる小さなカッターの付いたカテーテルでアテローム(粥腫)を切除し、それをカテーテルの先端に収納して体外に取り出す治療法です。

DCA(方向性アテローム切除術)

カテーテル検査・治療の入院日数とアプローチ(カテーテル挿入部位)

  1. カテーテル検査および治療のための入院は、事前に充分な全身評価と説明を行うため2泊3日の入院を原則としています。 しかし、お仕事の都合などで1泊2日入院しかどうしても無理な方に対しては、 入院当日のカテーテル検査・治療、翌日退院にも対応しています(事前に担当医と病棟看護部との打ち合わせが必要です)。
  2. 心臓カテーテルによる冠動脈検査は、冠動脈収縮性狭心症の診断をつける場合や 冠動脈狭窄が複雑な病変で、そのまま治療に以降する場合には下肢(そけい部)からの アプローチが第一選択となります。検査後5~6時間仰向けで安静にしていただきます。
  3. 一方、冠動脈狭窄が単純な病変の場合には、上肢からのアプローチで治療が可能な場合が多く、 術後短時間の安静後に歩行することができます。
  4. 冠動脈狭窄の詳細が不明でカテーテル検査を施行する場合、上肢アプローチも可能ですが、 狭窄が複雑性であった場合、治療は下肢から穿刺をし直して行うことになります。 上肢アプローチでの検査を強く希望される方には、この点を御理解いただく必要があります。
カテーテル検査の様子

まとめ

以前ではPTCAが困難、または、不適当であるとされていた病変も治療技術の向上とともに比較的安全に治療することができるようになりました。

最近の大きな技術革命は薬剤溶出ステントの登場です。これはPTCA後の再狭窄を予防する薬剤をステン トの表面にコーティングしたもので、従来のステントに比べ再狭窄率を半減させます。 例えば非保護左主幹部病変は従来、冠動脈バイパス術が唯一の治療法で、 PTCAは原則禁忌ですが、最近はPTCAの良好な成績も報告されています。また慢性完全閉塞性病変(CTO)も器具や術者の技術向上で治療成績が改善し ています。すでに海外および国内でもPTCAの適応が広がり、冠動脈バイパス術が減少しつつあります。

虚血性心疾患手術画像
左冠動脈主幹部病変治療例
左冠動脈主幹部病変治療例: 治療前(左) 治療後(右)
慢性完全閉塞病変治療例
慢性完全閉塞病変治療例: 治療前(左) 治療後(右)

なお従来のステントは金属でできているため、体内に永久的に残存しますが、生体吸収性ポリマーを用いたステントは血管内で徐々に吸収分解され、最終的に消えてなくなります。当院は、生体吸収性ステントの開発および臨床試験を、世界に先駆け施行し(イギリス国営放送BBCのページへ)、その長期成績をアメリカ心臓病学会誌‘Circulation’に報告しました。冠動脈治療分野における一般臨床への生体吸収ステントの応用は今しばらく時間を要しますが、下肢の閉塞性動脈硬化症に対する生体吸収ステントの臨床応用は間近となっており、当院もその臨床治験に参加しています。

冠動脈生体吸収ステント