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主な疾患の治療方針は以下のとおりです。
基本的には日本胃癌学会で作成された胃癌治療ガイドラインに従って治療を行っています。手術術式は2群リンパ節郭清を伴う標準的根治手術を基本としており、早期癌ではガイドラインに従って郭清範囲を縮小しています。また腹腔鏡下手術は約半数に行っています(昨年実績20例)。さらに2019年からロボット手術を導入し、現在は保険診療で行なっています。立体的な画像を見ながら、術者が患者さんから離れたコンソールで手術を行ない、安全確実に施行可能です。当院には内視鏡外科学会で認定された胃の技術認定医1名が在籍しています。
3群リンパ節郭清を伴う標準的根治手術を基本としており、大腸癌では一部の開腹手術既往例や他臓器浸潤例以外は原則として腹腔鏡下手術を行っています。昨年は大腸切除手術124例中、86例(69.4%)を腹腔鏡手術で施行しました。腹腔鏡手術は手術の傷が小さいことが強調されていますが、実は拡大視効果により細かい手術が可能になったことが最大の特徴です。特に従来開腹手術では見えにくかった下部直腸癌の手術に最も威力を発揮し、肛門に近い下部直腸癌でも根治性を損なわずに人工肛門を造ることなく括約筋を温存する正確な手術が可能となっています。また進行した大腸癌では時に肝臓や肺に転移することがあります。従来これらの転移は予後不良と考えられていましたが、最近では大腸癌の肝転移は外科的に切除することによりかなり良好な予後が期待できるようになり、外科的切除と化学療法の組み合わせで長期生存や完治も可能となっております。また呼吸器外科と協力して肺転移に対しても切除を行っており良好な成績を得ています。当院には内視鏡外科学会で認定された大腸の技術認定医2名が在籍しています。
癌が肛門の近くにある場合でも、癌の位置や進行度によっては肛門を温存できる場合があります。この手術を括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)といいます。ただしこの手術は、専門的な知識と高度な技術が必要とされるため、一部の施設において行われているのが現状です。当院では肛門温存手術に特に力を入れており、2012年より腹腔鏡手術による括約筋間直腸切除術を導入し、良好な成績を得ています。さらに直腸の分野でもロボット手術を導入しました。骨盤内の深い視野であっても、ロボットのアームは関節機能がありますので、きわめて繊細、確実に手術を行なうことが可能です。2020年は20例に施行し、いずれも安全に完遂できています。
膵外科学会の高度技能医修練施設Aに認定されていて、専門資格である高度技能専門医を取得している医師が2名勤務して、高難度手術も安全に実施しています。一般に肝臓癌といわれるものには大きく分けて原発性肝癌(肝細胞癌、胆管細胞癌)と転移性肝癌がありますが、当院ではいずれに対しても積極的な切除を行っており、術前の正確な画像診断や肝機能評価、術前門脈塞栓術の施行、先進的な手術手技の導入により合併症のない安全な肝切除術をめざしています。また胆道癌(胆管癌、胆嚢癌)や膵癌については血管外科手技の導入など最新の手術手技を駆使して進行症例にたいしても積極的に切除を行っていますが、一方不要な拡大切除は避け安全で回復の早い手術をめざしています。
当院では転移性肝癌の治療に特に力を入れております。癌が肝臓に転移したといえば、予後不良と考えられておりました。しかし近年手術技術の向上と有効な新薬の開発により転移性肝癌の治療成績は画期的に向上しています。その中でも特に大腸癌の肝転移は最近数年の間に次々と出現した新規抗癌剤と先進的な技術を駆使した外科手術との組み合わせで約10年前には考えられなかったほど予後が改善しています。2006年以後の当科での大腸癌肝転移切除全症例150例の3年生存率は約60%となっていますが、その中には初診時手術不能と判断され抗癌剤投与にて治癒切除可能となった症例も含まれています。また大腸癌と比べて予後が不良と考えられている胃癌の肝転移についても当科では積極的に切除手術を行っており、2006年以降胃癌肝転移27例に肝切除手術を行い8例がすでに5年を越えて無再発生存中です。
頚部胸部腹部3領域リンパ節郭清を伴う標準的根治手術を基本としており、胸部下部食道の症例に対してはガイドライン通り、頚部郭清を省略しています。また2008年度より臨床病期2、3の症例には術前化学療法後の手術を標準治療としています。さらに2009年度より胸部操作は原則として胸腔鏡下に行っており、胸腔鏡下操作を行うことにより従来の開胸手術に伴う頑固な創痛や呼吸機能低下を防ぎ、さらに前述したように精密な手術が可能となっています。また根治的放射線化学療法(手術を行わず放射線治療と化学療法のみで行う治療法)施行後の再発症例に対する切除手術(いわゆるサルベージ手術)に対しても厳密な適応下に積極的に取り組んでいます。また、形成外科チームが加わったことにより、従来再建臓器の虚血による縫合不全が問題となっていましたが、血管吻合を付加することで、安全に再建することが可能となりました。
毎週月曜日17時より外科、消化器内科、病理診断科、放射線診断科、放射線治療科、臨床検査技師が参加して消化器キャンサーボードを行っています。これらのスタッフが合同で消化器悪性疾患症例の画像所見、検査所見、病理診断などを総合的に検討して治療方針を決めています。オープンですので紹介して下さった他の医療施設の先生方にもご参加いただけます。