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日本におけるがんによる死亡者数で最も多い部位は肺がんです。男性では1位、女性でも大腸がんに次いで2位であり、2015年の統計では男性が53,208人、女性で21,170人が肺がんで亡くなられています。
がんと診断された数(罹患者数)でみると肺がんは男性で3位、女性で4位であることから、最も治すことが難しいがんの一つと言えます。国の対がん政策により早期発見を目指したがん検診も広く行われるようになってきていますが、いまだ肺がんと診断された患者さんを治癒に近づけるために各診療科の緊密な連携による集学的治療が何よりも必要と考え、2016年肺がんセンターを立ち上げました。
肺がんの診断には放射線診断科による画像診断、呼吸器内科を主体とした気管支内視鏡検査やCTガイド下生検などによって得られた検体をもとに病理診断科が肺がんの確定診断と組織型の決定を行います。がんの進行度(病期)によって外科治療(呼吸器外科)、抗がん剤を主とした内科治療(呼吸器内科)、局所制御に優れる放射線治療(放射線治療科)、社会生活を維持するための栄養管理(栄養指導部)やリハビリテーション(リハビリテーション科)、また診断時点から始まる身体的な苦痛緩和だけでなく精神的なサポートも含めた緩和ケア治療(緩和ケア科)のそれぞれが最適な選択、時期、組合せで行われるように合同カンファレンスなどを通じ、各診療科が協力し合う医療体制を構築しています。
比較的早期の肺がんに対しては外科療法が主体となります。当院ではより低侵襲な(身体に優しい)手術を目指して肺がんの標準手術術式を2002年より胸腔鏡下手術としています。
以前の開腹手術と比べて術後の回復も早いことから、入院期間も短くなり、術後1週間以内の退院が多く、全国平均に比べても2日以上短い入院期間となっています。2016年の肺がん手術の99%を完全胸腔鏡下で手術を行いました。
肺がん診療の基本は診断です。毎年健診の胸部異常陰影で当院を受診される方がたくさんおられます。昨年導入した超音波内視鏡を用いれば肺の末梢にできた小さな陰影からでも組織採取が可能です。昨年約300例の気管支鏡検査を施行しました。図では左上葉の長径13mmの腫瘍を超音波で確認して生検を行い肺腺癌と診断しました。
気管支鏡検査では診断がつかなかった場合にはCTガイド下生検を行います。
CTガイド下生検とは、胸壁から生検針を穿刺してCTを撮影しながら腫瘍まで針を誘導して生検を行う方法です。当院では10mm以下の小さな陰影に対してもCT下生検を行っています。昨年1年間に約100例のCTガイド下生検を施行し、2cm以下の小さな陰影の診断率は約70%でした。
胸膜への転移が疑われた場合には局所麻酔下胸腔鏡検査を行います。
昨年は約50例の局所麻酔下胸腔鏡検査を施行しました。
肺がんには腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌などの組織型があり、それぞれ治療方針が大きく変わります。組織型は採取した組織を顕微鏡で覗いたり、特殊な染色をしたりして診断します。腺癌のなかでも、EGFR、ALK、ROS-1、RETといった遺伝子異常があれば、それぞれにあった抗癌剤が選択されます。また、昨年度から導入している免疫チェックポイント阻害薬も特殊な染色をすることで、その効果がある程度予測できるようになりました。
EGFR阻害薬でがんはほとんど消失
ALK阻害薬で脳転移はほぼ消失
治療開始後1年 PET検査で癌病巣はほとんど消失
効率よく肺癌の治療を行うためには、治療前に十分な検査が必要です。そのために私達は色々な技術を駆使してがん組織を採取します。
がんで細くなった気管支を広げてあげることも私達の仕事です。
受診ご希望の方は、かかりつけ医に相談するか、初診受付にお越しください。