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じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

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令和3年(2021年)6月(第158号)

 当課では毎年、行政職員等を対象に、インターネット上の人権侵害の現状や課題を把握し、差別書込等の防止に向けた取組を推進するための研修会を開催しています。

 今回のじんけん通信は、前回号(令和3年5月号)に引き続き、総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の座長を務められている京都大学大学院法学研究科教授の曽我部 真裕(そがべ まさひろ)さんから、令和3年2月に「SNS上の表現の自由と被害者救済対策」をテーマに御講演いただいたインターネット人権啓発研修会の内容について紹介します。

特集 SNS上の表現の自由と被害者救済対策(後編)

プラットフォームサービスに関する研究会「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」(令和2年8月7日)

 総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の緊急提言について、ご紹介します。

 プラットフォームサービスに関する研究会は、利用者情報の適切な取扱いの確保の在り方やフェイクニュースへの対応など、プラットフォームサービスに関する諸問題について検討を行う場として、平成30年(2018年)から開催されています。

 フェイクニュース対策等について、令和2年(2020年)2月に報告書を取りまとめ一段落していたところ、木村 花さんの事件を受けて急遽再開され、令和2年8月7日に緊急提言が出されました。

 内容としては、インターネット上の誹謗中傷への対策が重要な問題であることを認めつつ、新たな規制を導入することを求めたわけではなく、官民による総合的な取組を推進すべきとされました。具体的には、以下のような取組を組み合わせた総合的な対応が提言されています。

1. ユーザーに対する情報モラルおよび ICT(※1) リテラシー(※2)の向上のための啓発活動

 SNSで情報を発信する側のモラルやリテラシーと、被害を受けた場合に取りうる方策の周知、被害者になった場合の対応の周知という両側面が含まれています。


※1「ICT」・・・Information and Communication Technologyの略。情報通信技術。

※2「リテラシー」・・・本来、「識字力=文字を読み書きする能力」を意味するが、「情報リテラシー」や「ICTリテラシー」のように、その分野における知識、教養、能力を意味することに使われている場合もある。


2. プラットフォーム(※3)事業者による取組

 削除やアカウント停止等の対応の強化、AIによる表示の仕方の調整などのほか、透明性レポートの公表等を通じたアカウンタビリティ(※4)の向上が含まれています。

 また、グローバル事業者(ツイッターやフェイスブックなど)については、同じ事業者が米国や欧州で義務付けられたりしているような方策については、可能な限り日本でも実施することが望ましいとされています。


※3「プラットフォーム」・・・情報通信技術を利用するための基盤となるハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク事業等。また、それらの基盤技術。

※4「アカウンタビリティ」・・・説明責任。


3.国における環境整備

 国は環境を整備するという立場であることが示され、削除義務を課したりするといった法規制に関しては、極めて慎重な判断を要するとされています。

 プラットフォーム事業者の自主的な取組について、そのヒアリングシートの提出を求める等により把握するほか、ユーザー側の状況の把握も同時に行うことが適当とされています。

 自主的な取組が効果を挙げない場合には、プラットフォーム事業者に対して透明性・アカウンタビリティの確保の方策に関する行動規範の策定および遵守の求めや、透明性・アカウンタビリティに関する法的枠組みの導入の検討など、行政からの一定の関与も視野に入れて検討を行うことが適当とされています。

発信者情報開示の在り方に関する研究会

 私が座長を務めた総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会」について、御紹介します。

 令和2年(2020年)8月に「中間とりまとめ」を出し、その後12月に「最終とりまとめ」を出しています。

 この研究会は、木村 花さんの事件が起きる前からスタートしており、当初はプロバイダ責任制限法第4条に定める発信者情報開示制度に関するテクニカルな点を検討することとされていました。

 木村さんの事件の影響は非常に大きく、6月になって政治レベルの問題になったことから、かなり大きな改革を議論することになりました。

中間とりまとめ(令和2年8月31日)

 まず、「中間とりまとめ」では、大きく2つの改革を提言しました。

1. 発信者情報の開示対象の拡大

 一つは「発信者情報の開示対象の拡大」です。発信者情報開示請求が認められた際に開示される具体的な項目は、プロバイダ責任制限法の委任を受けた総務省令で定められており、発信者の氏名、住所、IPアドレス、電子メールアドレスなどで、さきほどお話していたタイムスタンプも含まれています。

 これらは限定列挙であり、発信者の身元を明らかにするために必要な情報であっても総務省令に列挙されていない情報については開示が認められないということになります。

 省令に列挙されていなかった情報として電話番号がありましたが、「中間とりまとめ」では、電話番号も発信者情報開示の対象に加えるべきだとされて、「中間とりまとめ」と同時に、8月に省令が改正されてこれが実現しています。

 電話番号が開示されると、大きな影響があります。ネットサービスの利用時に、以前はログインをするときにIDとパスワードを入れることが普通でしたが、最近は、それに加えて自分のスマートフォンに確認コードが送られてきて、それを入力して初めてログインできるという2段階認証が増えてきています。

 確認コードはショートメッセージで送られてきますが、このメールアドレスに当たるものが電話番号ですので、SNS事業者は、2段階認証を行うためにユーザーの携帯電話番号情報を保有することになります。

 今回の省令の改正で電話番号の開示請求ができるようになったことは、SNS事業者に対して権利侵害者の携帯電話番号の開示を求めることができるようになったということを意味します。

電話番号取得後の情報取得手続

 資料1の図で比較してみると、従来は、まずコンテンツプロバイダ(※5)に対して、発信者のIPアドレス(※6)・タイムスタンプ(※7)の開示請求をし、次に、そのIPアドレス・タイムスタンプをもってアクセスプロバイダ(※8)に発信者の氏名、住所の開示請求をするプロセスでした。

 電話番号が追加されることで、コンテンツプロバイダに電話番号の開示をしてもらうことができるということです。

 電話番号が開示されると、IPアドレス・タイムスタンプよりも使い出があり、例えば直接電話してみる、あるいは電話会社に電話番号の契約者情報として、住所、氏名を入手するため弁護士会照会(弁護士法第23条の2)ができます。

 今までは2段階目の開示請求は通常は裁判を行う必要がありましたが、弁護士会照会という裁判ではない手続によって住所、氏名が得られるということで、被害者にとっては非常に負担が軽くなります。

 2段階認証を導入している事業者であることや弁護士に依頼するといった条件はありますが、今までよりも迅速に開示を受けることができるようになるということが狙いとしてあります。


※5「コンテンツプロバイダ」・・・デジタルコンテンツをWeb上で提供する事業者のこと。

※6「IPアドレス」・・・インターネットなどのIPネットワークに接続されたコンピュータや通信機器1台1台に割り振られた識別番号。

※7「タイムスタンプ」・・・電子データに付加される時刻情報であり、付加された時刻から、いかなる変更および改ざんが行われていないことを証するもの。

※8「アクセスプロバイダ」・・・インターネットへの接続サービスを提供する事業者。ISP(Internet Service Provider)とも呼ぶ。


2.新たな裁判手続の創設

 もう1つは、「新たな裁判手続の創設」ですが、これは「最終とりまとめ」の方で詳しく内容が述べられていますので、そちらの方でお話しします。

「最終とりまとめ」(令和2年12月22日)

 「最終とりまとめ」についても、2つの提言をしています。

1.発信者情報の開示対象の拡大

 一つは、さきほどの「中間とりまとめ」のところで電話番号について話をしましたが、開示対象に「ログイン時IP」を追加する提言をしています。

 誹謗中傷をした書き込みの、IPアドレスとタイムスタンプの開示請求をしても、個々の投稿についてIPアドレス・タイムスタンプを残されていないようなときには、ツイッターなどにログインしたときのIPアドレスとタイムスタンプの開示請求をすることになります。

 ログインのときのIPアドレス自体が別に権利侵害をしているわけではないため、現在のプロバイダ責任制限法上で、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプが開示の対象になるかどうかは難しいものの、他に方法がないため、認めた裁判例もありこれまで見解が分かれていました。

 この点について、法改正で明確にしようとログイン時IPを開示対象に追加する提言をしています。(資料2 説明図)

ログイン型投稿サービスにおける利用イメージ(その2)

2. 新たな裁判手続の創設

 もう一つは、「新たな裁判手続の創設」ということで、これは報道等でも大きく取上げられています。

 発信者情報の開示のために2段階の裁判手続が必要だという話をしてきましたが、この点を改革して、1度の手続で発信者を特定できるようにしようということです。

 これは「中間とりまとめ」で提案され、「最終とりまとめ」において、より具体的な提案がなされたものです。ただ、かなり訴訟手続の細かい点も含み、「最終とりまとめ」で述べられたことについては、細部については必ずしも詰め切れてないところがあったため、法案化するに当たって関係省庁で詰めていただいていると聞いています。

 では、新たな裁判手続を提案される背景となる問題意識を、確認しておきたいと思います。

 一つは、裁判以外での開示は法律上認められていますが、実際には稀であり、先ほども申し上げたとおり開示請求については、通常は裁判手続を利用する必要があることに実務上なっています。

 従来の裁判手続としては、前述の資料1のとおり1.コンテンツプロバイダに対して発信者情報開示請求の仮処分申し立てを行い、2.アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟の手続を行ったあと、さらに3段階目として損害賠償請求の訴訟を提起する必要があり、裁判手続を3回しなければならないことから、時間的・経済的・心理的な負担が大きいということで被害者救済のハードルになっています。

 それから、時間がかかることによって通信記録、ログが消去されてしまい発信者の特定に至らない場合があります。

 また海外事業者に対する開示請求は、非常に時間がかかる場合があるという問題もあり、こういった課題を解決あるいは軽減するために、新たな非訟手続の創設を提案しています。

 非訟というのは専門用語ですけども、要するに訴訟ではなくて、裁判なのですが訴訟よりも柔軟な手続で行うのが非訟手続です。その特徴として、まず単一の手続で、コンテンツプロバイダおよびアクセスプロバイダ双方からの開示を受けられるという点にあります。 それから手続の中でログの保全命令も発出できるということです。

 具体的なイメージとして、資料3をご覧ください。

新たな裁判手続き

 まず、被害者は裁判所に開示命令を申し立て、その後、アクセスプロバイダ(携帯電話会社等)は、コンテンツプロバイダから得られた情報をもとに最終的に特定するため、まずはコンテンツプロバイダのほうで特定作業をすると、確定した情報をアクセスプロバイダに、被害者に知られない裏側で提供されます。

 つまりは、今までの手続ですとコンテンツプロバイダから被害者はまず情報提供を受け、被害者の側がその情報をもってアクセスプロバイダのほうにもう1回行くということですが、新しい手続では、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダのほうに直接情報を提供し、アクセスプロバイダは、その情報をもとに特定をして最終的に氏名、住所を被害者のほうに開示します。アクセスプロバイダとコンテンツプロバイダの情報提供に関しては、被害者は見ることはできません。そのために必要な各種の命令を裁判所が出すということです。

 それからもう一つ、ログ・通信記録の消去問題に関しては、ログの保全命令を裁判所がこの手続の中で出せるということですので、特定作業をしている間に記録が期限切れで消されるということがないよう命令を出せることを一つの手続の中で行うのが、この新たな裁判手続になります。

 ただ、最終的に権利侵害の明白性要件を満たせば開示されるわけですが、明白性要件を満たさないと判断されれば開示されないという点は従来と一緒です。

 当然結論に対して、当事者双方いずれかが不服を持つ場合もあるので、不服がある場合は、正式な訴訟手続ができるということになります。

 要するに、今までは2段階もしくは3段階の別々の裁判手続が必要だったけれども、新たな裁判手続においては、一つの手続の中で最終的には開示まで受けられることが目指されていた、という大きな違いがあるということです。

おわりに

 SNS上の誹謗中傷対策においては、単に被害者保護を強化すればよいというものではなく、表現の自由とのバランスを十分に考える必要があります。いかに本人が負担に思おうとも、正当な批判であるために削除請求や法的責任の追及ができないような場合は、本人にとって不快な投稿であってもすべてを削除させることはできません。

 諸対策として、「新たな裁判手続」の導入や、SNS事業者による削除の実効性向上といった改善を施したとしても限界があります。

 削除とか法的責任が生じうるような悪質な投稿であっても、それが殺到して、いわゆる炎上状態になってしまうと、すべてを削除させるとか、あるいは個別に損害賠償を請求するといった対応がしきれないため限界があると言わざるを得ません。

 誹謗中傷の問題だけではなく、ヘイトスピーチとか、フェイクニュース、デマなどの問題に関しても同じですが、最も重要なのはSNS利用者のリテラシーです。

 SNSで投稿、拡散する際には、批判的な投稿がその数によって暴力と化して、その対象者に対して非常に苦しみを与えてしまうことや、発信者が特定され責任を問われることにもなりうることを理解し、十分注意する必要があります。

 また、SNS事業者には、投稿や拡散の際の注意事項や、被害に遭った場合にとれる手段などを、わかりやすく周知するとともに、誹謗中傷の投稿をしたり拡散したりしないように熟慮を促す、テクノロジー面で利用者のリテラシーを補助するような取組が求められます。

 SNS上の「炎上」は、マスメディア関係者からは、ネット上の問題であって自分たちには無関係であると捉えられがちですが、実際には、炎上はテレビの影響で発生することが少なくありません。最初はSNS上に火元があるわけですけれども、ネットで炎上しているということをテレビで流すと、本当に炎上するということにつながりかねず、マスメディアの役割、とりわけテレビの情報番組の在り方が重要となります。

 ネット上の匿名表現の自由は非常に重要ですが、強力な副作用も伴います。副作用を抑えつつ、匿名表現の自由の意義を十分発揮させるためには、発信者情報の開示や損害賠償請求のような誹謗中傷に対する法的な措置だけでは十分ではなく、利用者のモラルおよびモラルを育むための啓発や、事業者の取組など重層的な対策が不可欠です。

 若い法律家や法学の学生は、誹謗中傷対策というと法的な対策つまりは規制ということを連想しがちだと思いますが、法的な対策にできることは限られており、実際には総合的・重層的な対策が必要です。(資料4)

「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」の概要

人権カレンダー6月

・1日 人権擁護委員の日
6月1日は「人権擁護委員の日」です。人権擁護委員は、あなたの街の相談パートナーとして、様々な人権侵害など、皆さんの問題解決のお手伝いをしています。女性・子ども・高齢者などをめぐる人権の問題やインターネット上の人権侵害、新型コロナウイルス感染症に関連した差別などでお困りの方は、ご相談ください。

・12日 児童労働に反対する世界デー
平成14年(2002年)にILO(国際労働機関)が制定しました。児童労働の撤廃をめざして、世界各地で様々な活動が展開されます。

・20日 世界難民の日
平成12年(2000年)に国連が制定しました。難民の保護と援助に対する世界的な関心を呼びかけています。

・22日 らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日
平成21年度から、ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給に関する法律の施行日である6月22日が「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」と定められています。ハンセン病に対する偏見・差別をなくすため、この機会にハンセン病への理解を深めましょう。

・23日~29日 男女共同参画週間
6月23日から29日は「男女共同参画週間」です。今年度は「女だから、男だから、ではなく、私だから、の時代へ。」というキャッチフレーズのもと、国、地方公共団体などが、男女共同参画社会づくりに対する国民の理解と関心を高めるためさまざまな行事を行います。

”正しく知り、正しく恐れる”新型コロナ人権研修の資料を作成しました!

 企業・団体の皆様よりご要望が寄せられていました「新型コロナウイルス感染症に関連した人権侵害防止にかかる人権研修資料」を作成し、県ホームページ上に公開しています。事業所内や自治会等でご活用ください。

「新型コロナ人権研修資料」について

1.概要

 新型コロナウイルス感染症を正しく知り、正しく恐れることを学び、他者を攻撃するような人権侵害につながる行動を抑制することを目的とした研修資料です。

 2.内容

 ・新型コロナウイルス感染症をよく知ること

 ・本県の感染症にかかる情報の公表等について

 ・本県の人権侵害等の状況

 ・法改正による偏見や差別を防止するための規定について

 ・人権侵害を防止するために

 ※滋賀県人権啓発キャラクター「ジンケンダー」のテレビスポット広告などの動画も含み、親しみやすい研修資料となっています。

3.その他

 ・各種データが更新され次第、随時更新する予定です。

 ・掲載先ホームページURL:https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kurashi/zinken/312226.html

 ファイル形式:PDF形式(パワーポイント形式、動画(MP4形式)については、ご希望に応じて別途配布する予定です。)

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
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