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しが水環境ビジネス推進フォーラム

行政による琵琶湖の水環境保全に向けた制度設計、取組

滋賀県は、富栄養化防止条例をはじめとする水環境保全に関する制度設計や、マザーレイク21計画の策定などにより、企業や市民などによる水環境保全の推進に努めてきました。

また、公共下水道をはじめとする地域特性に応じた汚水処理モデルの採用・整備を通じて、先進的な汚水処理の取組を展開し、水環境保全に努めてきました。

目次

1.「富栄養化防止条例」の制定、企業による施設の整備・維持管理に向けた制度等の設計・運用

  • 1977年に琵琶湖で淡水赤潮が異常発生したことを契機として、石けん運動などの市民運動が盛り上がったのを背景に、滋賀県では1979年に「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(富栄養化防止条例)」を制定しました。
    富栄養化防止条例(1979年10月)
    ・有リン合成洗剤の県内での使用、販売の禁止
    ・工業排水に対する窒素・リンの排水基準設定《日本初》
    ・肥料の適正使用
    ・家畜ふん尿の適正処理
    ・雑排水の処理
  • 「富栄養化防止条例」は、工業排水に対する窒素・リンの排水基準を適用するという、日本初であると同時に世界でも先駆的な規制であり、当時、企業や工場が順守するにはかなり厳しい基準であったと言われています。
  • また、「富栄養化防止条例」の施行直後の1980年には、工場、事業所に対する窒素・リンの排出改善指導のための立入調査を強化するようになりました。
  • さらに、窒素・リンの排水基準を順守するために必要な処理施設の整備と維持管理には、適切な技術的対応が必要であるため、工場等がより対応しやすいよう、県によって以下の制度を新たに設計・運用しました。
  • 「窒素・リン処理施設改善技術マニュアル」を作成し、その説明会を県内各地で業種別に開催。あわせて、条例規制対象工場の管理担当者や責任者に対して具体的な研修指導を実施。
  • 公害防止にかかる貸付制度とは別に「滋賀県窒素・リン処理施設整備資金貸付要綱」を制定し、中小企業に対して長期で低利の融資を運用。(1980年4月)
  • 貸付限度額:5,000万円まで(1事業所あたり)
  • 貸付利率:年2%(小規模事業者は無利子)
  • 償還期間:10年以内(2年の据置期間を含む)

※現在は貸付制度を終了しています。

2.各種の条例制定等による水環境保全の誘導

  • 琵琶湖の赤潮発生以前から、滋賀県では、「水質汚濁防止法の上乗せ条例」および「滋賀県公害防止条例」などにより、国の法律よりも厳しい水質保全にかかる基準・規制を設定していました。
  • この他にも、滋賀県内の行政では、水環境保全のための先進的な条例制定や計画策定により、琵琶湖の水環境保全の推進に努めてきました。(図表1)
琵琶湖の水環境保全に関連する県内の主な条例等

3.下水道の普及、下水道をはじめとする3つの汚水処理モデル

下水道の普及

  • 1972年から1996年の25年間にわたり、国および県により実施された「琵琶湖総合開発事業」では、琵琶湖基準水位のプラス30cmからマイナス1.5mまでの水を利用できるよう、水資源を新たに開発することにあわせて、流域河川の治水対策、水質保全対策が総合的に行われました。
  • 事業において、下水道事業を水質保全対策の重要な柱に位置付けたのを機に、県内の下水道の整備を本格的に進めるようになりました。
  • その結果、滋賀県の下水道普及率は、開発着手時では2.6%ときわめて低い数値であったものの、大幅に普及が進み、平成12年度末で全国平均を上まわり、平成23年度末は86.4%と、全国第7位となっています。(図表2)
下水道普及率の推移

※全国平均値については、岩手県、福島県の2県において、東日本大震災の影響により調査不能の市町村があるため、公表対象外となっているため、参考値である。

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■ 湖南中部浄化センター
  • また、1974年から、国と県の協働により「琵琶湖における下水の高度処理技術の開発調査」に取り組み、1982年に供用開始した湖南中部浄化センターに、日本で初めて窒素、リンを除去する高度処理を導入しました。現在では、県内すべての浄化センターにおいて高度処理を導入するとともに、処理レベルのさらなる向上を目指し、超高度処理の実証調査を進めています。

その他の汚水処理モデル

滋賀県での汚水処理には、都市部を中心とした「公共下水道」以外にも、農村部を対象にした「農村集落排水」、家屋が分散した地域での「合併処理浄化槽」があり、都市から農村まで多様な地域特性に応じた汚水処理を行っています。

●農業集落排水

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■ 農村集落での処理場

農業振興地域内の汚水等を集合的に処理するため、同地域内の農業集落を対象に、高度処理および処理水の再利用にあわせて、処理に伴い発生する汚泥を農地に還元し、水と有機資源のリサイクルによる循環型社会の構築を目指しています。

●合併処理浄化槽

分散して点在する小規模集落などでは、合併処理浄化槽の設置による汚水処理を推進しています。

4.上水道の普及

上水道の普及と水質悪化に対応した浄水施設の改良

  • 滋賀県における近代水道は、1930(昭和5)年、大津市柳が崎で、琵琶湖の水を浄化して給水が開始されたのが始まりです。昭和30年代以降、県および県内各市町等で水道事業を実施するようになり、施設整備に努めた結果、急速に水道の普及が進み、2011年3月31日現在の本県の水道普及率は99.4%と全国平均を上回り、全国第10位となっています。(図表3)
下水道普及率の推移
  • また、浄水場における水源は、水量が豊富な琵琶湖を水源として、総給水量の67.6%にあたる1億2942万立方メートルを給水しています。(図表4)
水源別年間給水量

高度浄水処理施設の導入

  • 琵琶湖の富栄養化の進行に伴い、水道水に1969(昭和44)年に初めてカビ臭が発生し、これに対応するため、粉末活性炭を用いた臭気対策が行われるようになりました。
  • その後、生ぐさ臭の発生など、水道に影響を与える異臭味障害が確認されるようになったのを受けて、粒状活性炭ろ過池をはじめとする高度浄水処理を行うようになりました。中でも、大津市では1992(平成4)年、膳所浄水場に日本で初めて生物接触ろ過施設を導入し、粉末活性炭ろ過池と組み合わせて処理することで効果を上げています。

5.「マザーレイク21計画」

  • 2000年、琵琶湖を21世紀における湖沼水質保全のモデルとして、2050年頃の琵琶湖のあるべき姿を念頭に置いて「琵琶湖総合保全整備計画(マザーレイク21計画)」を策定し、水質保全、水源かん養、自然的環境・景観の保全等の幅広い取組を進めてきました。
  • また、2011年には、第2期計画期間にあたり、「琵琶湖総合保全整備計画(マザーレイク21計画)」(第2期)の改定が行われました。第2期計画では、「琵琶湖流域生態系の保全・再生」に加えて、「暮らしと湖の関わりの再生」を新たな計画の柱に位置付け、「個人・家庭」「生業」「地域」の3つの段階に分けて、それらのつながりと合わせて目標・指標を設定しています。(図表5)
琵琶湖総合保全整備計画(マザーレイク21計画)(第2期改訂版)における計画の方向性