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しが水環境ビジネス推進フォーラム

企業による地域に根差した水環境保全活動の進展・努力

水環境保全に対する意識が高まり、市民がいわゆる「石けん運動」をはじめとする活動を展開してきたことに影響を受けて、企業や工場も、「琵琶湖の環境を守らなければならない」という使命を抱き、行政と連携しながら、企業団体の設立等により主体的に取り組んできました。

目次

1.「富栄養化防止条例」をはじめとする制度基準の順守に向けた企業努力と行政との関係構築

県による企業・工場へのきめ細やかな個別相談・指導

  • 1979年に制定された「富栄養化防止条例」をはじめとする厳しい排水規制に企業が対応するため、滋賀県には多くの企業から相談や指導の問合が相次ぐようになり、企業の相談受け入れ、指導業務を中心業務として行政がきめ細かに対応していました。
  • 滋賀県が発行している「環境白書」(昭和56年度)の中には、以下のような記載があります。
  • 『排水基準値をクリアするため、処理施設についての「ハウ・ツー」の相談やそれに必要な経費と後年の維持管理にかかわる照会または指導を要請することが頻繁となり、関係者間での逼迫感が生まれてきた』
  • 実際の現場では、既存の処理施設の有効な運転管理の方法や、規制に対応するために必要な設備投資、工場排水の自主検査と行政による検査結果にギャップが出た場合の解決策の検討、活性汚泥内の窒素処理で嫌気状態にしなければならない時間の長さなど、ありとあらゆる相談や指導を行うことで、行政が企業とともに水環境保全にかかる技術やノウハウを醸成・蓄積してきました。

企業努力と県の相談・指導等による水質改善の成果

  • 規制対象の514施設のうち、約130施設については、1981年7月1日の排水基準の適用日までにかなりの改善が必要でしたが、県と各企業が改善に向けた最善の努力を尽くしたことにより、排水基準の適用日までに95%の工場において適切な施設整備がなされました。
  • この結果、琵琶湖におけるリン濃度は数年後には大幅に減少し、現在でも低い濃度を保ち続けています。(図表6)
  • 現在では、企業が独自に条例よりも厳しい基準を設定する等、法令遵守はもちろんのこと、自主的な取組みを行っており、琵琶湖の水質管理に対する意識は、企業に強く根付いています。
全リン濃度の推移

2.企業・工場の地域に根差した水環境保全活動の進展

  • 1970年代に入ってから問題となった琵琶湖の水質悪化等より、環境問題が一般の人々の身近になるにつれて、企業や工場が公害の発生元ではないか、という論調が出てくるようになりました。
  • このような状況下において、多くの企業が「琵琶湖の水質改善に向けて、もっとしっかり対応しなければならない」という意識を持ち、行政指導だけではなく、自主的に環境関連法規および公害防止技術等の知識を習得し、企業間で情報交換することにより、経験や知識を共有するといった、自主管理体制を確立する必要性を強く感じるようになり、地域の企業が集まり、「湖南・甲賀環境協会」が1978年に設立されました。
  • また、滋賀県の環境条例に順応するよう、条例のスムーズな運用や分析コストの削減、従業員の知識・技術レベルの向上等に向けて、企業が助け合いによる連携を図りつつ、自助努力を重ねるため全県的な活動団体として、1981年に「公益社団法人滋賀県環境保全協会」の前身である滋賀県環境公害防止協会が設立されました。
  • 公害発生の未然防止、公害防止に関する技術の進歩向上と知識普及を目指して設立されたこれら2つの団体は、設立から30年以上の月日を経た現在でも、企業等の会員により、企業間で活発にコミュニケーションを図り、県や市町など行政と連携しながら地域に根ざした水環境保全活動を展開しています。

湖南・甲賀環境協会

  • 設立年:1978年
  • 対象地域:草津市・守山市・栗東市・野洲市・湖南市・甲賀市
  • 会員数:企業171社/個人会員22名(平成24年8月1日現在)

公益社団法人 滋賀県環境保全協会

  • 設立年:1981年(滋賀県環境公害防止協会として)
  • 対象地域:滋賀県内全域
  • 会員数:県内企業を中心に330社

コラム:2つの協会における先進的な活動例

2つの協会では、地域に根ざした水環境保全の「情報共有」と「見える化」の先進的な取組が進められています。

湖南・甲賀環境協会

「地区別環境情報交換会」による企業間の「助け合いの風土」の醸成

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■ 設立当初の環境情報交換会の様子

  • 設立当初から進められている「地区別環境情報交換会」では、管内7地区に分かれて、企業規模に関係なく会員同士で気さくに各自の環境汚染防止の取組を話し合い、また、行政から環境情報を提供されることで最新情報をお互いに知る機会として、会の継続を通じて、会員同士の技術やノウハウが集積し、会員企業のレベルアップを果たしてきました。
  • また、他企業の環境保全活動を参考にしたり、会員企業同士が顔見知りになることで、環境事故発生時に緊急備蓄資材を融通し合うシステムを作るなど「助け合いの風土」の醸成が進んでいます。たとえば、会員企業が保有する排水処理施設に関しては、たとえライバル会社であっても、お互いに工場内の施設や設備を見せ合い参考にすることも多かったと言われています。

地域内における排水流出の水路図の作成

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■ 水路図は、地区全域の1枚の大きな地図に、工場や流出の影響を及ぼす敷地とともに色鉛筆で整理されている。

  • 2004年より、水質事故が発生した際にどの水路に排水が流れ込み、どこで対処すれば被害拡大を防止できるか情報共有できるよう「見える化」するため、油流出時の被害を想定した水路図を、会員企業と会員企業のOBが実地調査を行い、1年がかりで作成しました。
  • 水路図により、事前に排水の流出経緯が把握できるため、実際の工場等での流出事故防止のリスク管理に活用されています。
  • 作成当初は紙ベースのみの情報でしたが、滋賀県琵琶湖環境部及び滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの協力により、情報のGIS化が進められています。

水質事故時の地域での迅速な対応に向けた、工場をモデルとした水質被害防止訓練の実践

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■ 訓練の様子

  • 工場からの油流出等の水質事故時における公共水域への流入阻止には、関係者が初動期に連携して迅速な対応をとることが重要であるため、2009年より、協会と滋賀県の協働で会員企業の工場をモデルとした水質事故被害拡大防止訓練を毎年実施しています。
  • 訓練には、毎回、会員企業や県のほか、消防署や各市2カ所で約200名が参加し、工場からの油流出の防止や、河川への流出を想定したオイルフェンス、オイルマット、土のうなどを用いた河川での対応などを訓練しています。
  • 訓練を通じて、非常時の緊急連絡、対策本部の運営方法を確認し、事業者、行政のそれぞれが、実際に事故が起こったときに、行うべき迅速な連絡・対処を習得しています。

公益社団法人 滋賀県環境保全協会

しが環境管理アドバイザーによる、企業の環境管理人材の育成、知識・技術レベルの向上支援

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■ 企業への個別指導の様子

  • 公益社団法人滋賀県環境保全協会では、企業や行政、環境関連団体の要請に応じて、環境負荷低減活動に関する技術的アドバイスや、環境管理体制の構築の支援、勉強会・講習会等の場における講師などとして、協会に登録している「しが環境管理アドバイザー」を派遣する制度があります。
  • 経験や知識の豊富なアドバイザーにより、環境知識・技能の伝承方法のアドバイス、排水処理の日常管理改善策の提案、各種届出書類の書き方の教授など、企業ごとにあった個別指導を実施。また、技術面に加えて、社内の人材育成面や経営面からも環境問題を多角的にとらえて、企業支援を行っています。
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■ 水処理担当者への勉強会の様子

  • 現在、「しが環境管理アドバイザー」への登録者は100名前後となっており、水質、土壌、大気など、さまざまな分野において、企業出身者、大学・研究機関の実務担当者、行政出身者など、多彩な人材が登録されています。

水環境分科会におけるプロジェクト推進の動き

  • 企業、大学、行政が連携し、琵琶湖の水環境における具体的な課題解決に向けた議論を深め、共同研究調査や技術開発プロジェクト等を進めていくことを目的として、2012年より「水環境分科会」を立ち上げました。
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■ 2012年5月に開催された第1回水環境分科会では、今後の分科会活動について活発な意見交換がなされた。

  • 現在、コーディネーターに立命館大学の中島 淳教授を迎えて、「琵琶湖水草のバイオマス有効利用」「河川浄化技術」「難分解性有機物の効率的処理法」「工場排水を利用した小型水力発電システム」の4つのテーマについて、企業や大学などが参画し、琵琶湖をはじめとする実証フィールドでのプロジェクト実施に向けて、分析等調査や情報収集、意見交換が進められています。
  • 各プロジェクトは、工場排水を利用した水力発電や、水草を用いたバイオマス燃料の生成など、琵琶湖をめぐる水環境を「地域資源」と捉えて、活用する意識を持って展開しています。
お問い合わせ
商工観光労働部 商工政策課
電話番号:077-528-3712
FAX番号:077-528-4870
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