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第42回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手「滋賀県農協青壮年部協議会」の皆さん

「滋賀県農協青壮年部協議会」の皆さん

今回は、「滋賀県農協青壮年部協議会」の皆さんと対話を行いました。

滋賀県農協青壮年部協議会は滋賀県内で農業を営む青壮年の組織であるJAの青年部や青壮年部の協議体で、「農」をキーワードに多種多様な青壮年が集い、活動を通じて県内外での仲間づくりに励み、若いエネルギーとアイデアで地域農業の活性化を図っておられます。

農業を取り巻く環境が非常に厳しい状況が続く中で、地域農業を維持・発展させ、安定した農業経営を確立するため、JAと一体となって組織力を発揮し、消費者等を巻き込んだ活動を推進しています。

今回は、キャベツのほ場でキャベツ苗の定植体験をした後、農業に携わる青壮年の皆さんと三日月知事が滋賀県農業の未来について語り合いました。

知事から

今回の対話について

  • 農業県である滋賀県で農業という産業を、いかに守り、強くし、次の時代に引き継いでいくのかということは極めて重要な課題だと考えている。
  • 現状、様々な課題があり、どちらかというとうまくいかないと思うところが多い状況だが、なんとか打開して、次の時代をつくっていく知恵を集めていきたいと考えている。
  • 次の時代にも選ばれる滋賀であるためには、農業や畜産業などの産業を持続可能なものにしていくということを考えて、取り組んでまいりたい。

「滋賀県農協青壮年部協議会」の皆さんから

環境こだわり農業について

  • 「みずかがみ」は、安心、安全の「環境こだわり」を売りにしているが、「環境こだわり」が全国的に当たり前になってきており、名前についても「特別栽培米」に統一される流れの中で推進されているが、この流れに疑問を持っている。今の世代は、昔ながらの除草剤を使った環境こだわり農業でない農業で生きてきており、「環境こだわり」→「収量の減少」→「単価が安い」→「補助金目的」になっていることに疑問を感じている。
  • 「環境こだわり」については、価格の高い有機肥料を使っても収量が少ないうえ、除草作業を手作業で行うなど手間が増加している現状がある。
  • 農業をどうすればよいのか迷っている。滋賀県は「集落営農法人」を設立させることで地域の農地を守ることを推進しているが、集落営農では除草作業による人件費を増やすと、利益が減少するので、滋賀県の目指す姿はそこにはないと思っている。
  • 私自身が農業を推進するなかでは、こだわってはいけない、取りあえず収量を増やすことを目指すべきだと思っている。これからの集落営農法人は人の出役を増やしたらダメだと思う。機械でできる作業は機械で行う。乾燥施設も新たに建てずに、農協の施設を使う。片手間で、いわゆる「土日百姓」でできる農業を目指そうというのが今の私のスタイルである。
  • 今の集落営農法人の課題は後継者不足である。滋賀県の兼業農家率は全国でも高く、法人化率も高い。今後、集落営農法人をどのように県やJAがサポートしていくかが一番重要だと考えている。
  • 「みずかがみ」は価格が安く、冷めてもおいしいので消費者にはすごく人気がある。しかし、安ければ収量を増やさないといけないので、化学肥料を使ってでも、量を多く作って売り出すのも手だと思う。
  • 有機肥料をよく言われるが、花をつくるのには、有機肥料をあまり使わない。有機栽培でも土づくりが基本であって、肥料は化学肥料で十分である。アンモニア態窒素から硝酸態窒素に変わって、有機から無機に変わって植物に吸収されるためで、有機は土には優しいが体には優しくないと思う。私は花を生産しているので、そう思うのかもしれないが。
  • 水田は水を張るため、菌はほとんど死滅する。有機肥料にこだわる必要があるのかと思う。「みずかがみ」は環境こだわり農業で、栽培ガイドラインでは育苗箱の苗を1反あたり18箱分植えることになっている。今は多くの品種で1反あたり11箱分から13箱分程度で田植えをされる。「みずかがみ」は高密度で植えるので、苗が多く必要なうえ、米の価格が安い。県が勧めている「みずかがみ」の生産が増えないのは、そうしたことも影響しているのではないか。
  • ブロッコリーを環境こだわり農業で生産しているが、近年は異常気象で、特に昨年は9月に長雨があり、ちょうど定植後の育つ時期と重なりほとんどが駄目になってしまった。長雨や台風等の後に殺菌剤を散布すると根腐れが軽減されるが、環境こだわり農業では散布できる農薬に制限があるので殺菌剤を使いにくい。また、使用できる殺菌剤もあるが効かない。やっぱり抗生物質を含む殺菌剤がよく効く。昨年は環境こだわり農業に限界を感じた。年によっては気象条件が良く、環境こだわり農業で十分生産できる年もあるが、虫が多いときや異常気象の年は厳しい。
  • 市場に出荷するとライバルは全国から集まってくるピカピカのブロッコリーである。環境こだわり農業の中で育てたブロッコリーを市場に出荷すると全国の産地とは土俵がまったく違う。環境こだわり農産物は市場で値打ちが付かない。
  • 環境こだわり農業が始まった頃は環境こだわり農産物の価格が高かったが、最近は世間一般に普及しているので、価格は他の農産物と変わらない。価格が変わらず、見た目に問題が多い。手間もかかり、収量も少ない。
  • 私が昨年から始めているのが、加工業務用野菜の生産。最近はスーパーで千切りにして、そのまま売っているようなキャベツがあるが、米の低価格化により全国の米どころでキャベツを導入するところが増えている。昨年は天候不順で全国的に野菜価格が高騰したが、価格が安くなったときに差別化できるように環境こだわり農産物のキャベツを考えている。業者の中にもそのようなキャベツを求めている業者はいるので、求めている業者とつなげることを確立する必要がある。実際、昨年も普通の加工業務用のキャベツと環境こだわり農産物のキャベツで多少値段の差をつけて売っていただいた。
  • 環境こだわり農作物は、それを求めている業者に販売できるルートを確立できればと思っている。また、以前、ペットボトルのお茶の売り上げの一部を琵琶湖の環境保全に活用するキャンペーンがあった。環境こだわり農産物を買えば琵琶湖の環境保全に貢献できるようになれば、消費者も魅力的だと思う。ただ、消費者の動向として、他のものより1.5倍以上高いと買わないので、価格設定も考えないといけない。
  • 環境こだわり農業を普及させるには、日本国民の意識改革が必要だと思う。スイスのように自国の物を高くても買うという意識が必要かと思う。
  • 見た目もきれいで価格も安い輸入品を買うという消費者も一定程度おられるが、地元の農産物というのは近年非常に意識されつつある。「おいしがうれしが」のシールも要らないと思っている。直売で売っている人は「おいしがうれしが」でなく、生産者個人のネームバリューで売っていこうとしている。消費者も生産者名を見て、地元で採れた商品ということで買うようになってきている。
  • 安く売ってしまうと、所得を下げるだけになってしまう。いいものは高く買ってほしい。
  • 栗東金勝の山奥の地域で「こんぜ清流米」を生産している。環境こだわり農業で栽培しており、全量を農協に出荷している。農協は数量限定で予約注文を取る形式で環境こだわり「清流米」のコシヒカリとして販売されている。消費者は年間注文で毎月決まった日に欲しい分量を購入するという方式にされている。一般のコシヒカリと比べて1俵あたり3,000円以上は高い価格になっている。
  • 清流なので水温が冷たく、稲が分けつしない。分けつしないと収量も少ない。普通の米は清流米の1.5倍程度の収量があるので、価格差を加味しても採算は同程度である。
  • 補助金込みで1.5倍の収入ではなく、販売価格が1.5倍で売れる米を生産しないといけない。

滋賀県農業の課題とこれからについて

  • 直売所ブームで県内にも多くの直売所がある。専業で直売される方もいれば、定年帰農されて直売向けに頑張っておられる方もいるが、滋賀県の人口は約140万人で福岡市の人口よりも少ないので、直売で儲けるのは難しいと思う。今、農協や市の方と市場に出荷する人を増やそうと話している。直売で練習してから、市場に出荷する。直売から売れるものは市場へというように今後の生産振興はその方向に向けるべきかと思っている。
  • 滋賀県の野菜の生産額のランキングが上がり生産量が増えた。いわゆる加工キャベツ、ブロッコリー、タマネギが増えている。
  • 最近は若い農業参入者がトマトやイチゴを作っている。トマトが少量土壌培地耕法(=土壌を培地として用いる滋賀県独自の養液栽培システム。本来、養液栽培では土を使わないが、あえて土の持つ力を利用する)で、イチゴは高床式砂栽培(=地面から一定の高さに置いた栽培用地に種や苗を植え、自動潅水(かんすい)によって、液肥と水を供給して、土ではなく砂で植物を栽培する方法)という参入が多い。農協にそういった方への助成や担保免除措置、農業をサポートする人の紹介などを行ってほしい。土地利用型農業(=米、麦、大豆など栽培に関する作業のほとんどが農業機械で行えるが、収益を出すためには様々な農業機械と採算に合うための広い土地が必要)での参入は今は厳しい時代である。ハイリスク、ローリターンでリスクの塊である。
  • 家業を継いで就農している後継者には支援がない。親元就農して5年以内であれば、新規就農扱いで支援があるが、5年が経てば支援はなくなる。
  • 他産業などから完全に新規参入される場合には非常にリスクが大きいが、自分の家の経営をそのまま継ぐ場合には、そのようなリスクがないので支援の対象にならない。例えば、お父さんが米や大豆をやっているところに、野菜・花きなどの新しい部門を立ち上げる場合は支援がある。
  • 最近の農業は個々でやっていくよりも、集落単位でという大きな流れがあるが、それができる集落と、できない集落がある。私は大津で兼業農業をしているが、段々田の保全管理的な農業である。これで儲けるというより、兼業で手の空くときに農業をして家の財産を守るというかたちである。農業をする人も減ってきて、トラクターやコンバインを買っても儲からないうえ、お米は買った方が安い。
  • 県や国が獣害対策のフェンスを設置してくれたが、なかなかそれに見合うような農業をする若い人がいない。集落の中で定年帰農をした人ばかりを集めて一緒に野菜づくりをしている。大津は消費地でスーパーでも地場野菜コーナーが重点的に置かれているので、兼業でそこに出荷している状況である。
  • 私の地域も中山間地で後継者がいない。国では農地を集約して法人化するように言っているが、中山間地では無理だと思う。今は兼業農家がほとんど。地域ごとにきちんとしたビジョンを作らないといけないと思っている。私の地域では集約は難しく、それぞれの家の長男が農業をやっている。そこで、農家の長男を集めて、田植えや水のやり方、コンバインの使い方などを教えている。自分の父親から言われるとなかなか聞けないが、近所の人から言われると意外と素直に聞けるものである。そこで、専業の野菜農家などに研修に行くようにしている。
  • 自分の田は、自分で植えて刈り取りするというかたちにすると、そのシーズンになれば田植えや稲刈りをしないといけないという認識を持てる。いかにその気にさせるかということが大切。20,30年前から農業組合の役員は30歳代後半、40歳代、50歳代の若い人ばかりにしている。年齢層が若いと機動力があり、率先して遊びに行く計画などもたててくれる。
  • どうしても農業ができなくなったり、後継者がいなかったりする場合は、親戚の者が代わりにやる。それでもどうしてもダメならみんなで農地を管理してあげようというかたちにしている。農地は一作でもやめてしまうとなかなか戻れないので、できるだけそういうようなかたちにしている。
  • 地域ごとのビジョンはそれぞれの小さい集落単位で考える。大くくりになってしまうと、責任感がなくなってくる。今は自分の田という認識がはっきりしており、おじいさんや父親がやってきたという意識が強いので、それでいこうと思っている。結局、2反や3反の田では利益が出ないので、その分を農業以外で稼いでくるというかたち。
  • 野菜や花は補助金が無い。米の生産調整は国の政策なので補助金は当然かもしれないが、米などは補助金が付いてくるイメージがある。補助金以外のところでいうと県の普及指導員の充実や県からJAへの営農指導のサポートなど側面のサポートをしてほしい。何かお金がほしいとか、ものがほしいとかということではなく。昔は普及指導員がもっと多かったが減少した。今また少し増えているのだが。
  • 野菜はどうしても相場が乱高下する。豊作の年と不作の年とで価格が上下する。相場が高い年は何にも問題はないが、世の中にものがありふれて、キャベツ1個が30円でしか売れないというときに困る。これは全国的にそうだと思うが。
  • 色々な品目を作ると効率が悪くなるが、一品目に絞らず何品目か作るという自己防衛策、リスクを少しでも軽減する工夫もしているが、次は販路の確保で困る。販路を増やすと、ものがないときに対応できない。滋賀県はロットが少ない。
  • 花で言うと、和歌山県知事は花の市場の方にセールスに行かれると聞いたことがある。知事にも時間があれば京都の市場に滋賀の野菜を持ってPRに行っていただきたい。
  • このあたりの地域では、漬物野菜のカブラ等を多く生産しているが、京都の漬物に使われて、なかなか滋賀県産として売り出せない。加工業者も漬物業者も県内の大規模事業者との取引条件が比較的良いが、小規模な漬物業者に出荷すると価格があまりよくない。
  • 京都の大手の漬物業者は価格条件が良い。10トン車にカブラを満載して大ロットで送っている。滋賀県でも、「これ!」とセールスできるようなものができたら良いと思う。日野菜でも良いと思う。滋賀県産の日野菜として広がり見せるようにバックアップをしてほしい。例えば知事が日野菜を持って、市場にPRに行ってもらってもいい。
  • 日野菜の旬は秋であるが、ハウスや施設だと2月頃まで収穫できる。無理をすれば、真夏以外は収穫できる。知名度もある野菜なので、日野菜が高く売れたらありがたい。
  • 滋賀県は野菜生産額が全国41位だが、40位を目指して頑張っている。麦と大豆と米は全国でもそこそこ順位が良いが、野菜や果樹がまだまだである。野菜もキャベツの生産が上がったことでランクは上がってきているが、他の果樹がなかなかである。
  • 次の世代につなぐ予算を考えてほしい。単にばらまくのではなく、人を育てる、若い世代を育てる予算を措置してほしい。現状は良いかもしれないが、次の世代には重荷になることもあるかもしれないため、それを踏まえて考えてほしい。

知事から

対話を振り返って

  • 私自身は農業をやっていないが、妻の実家が専業農家で、中山間で米とお茶を作っている。他にも、獣害対策でイノシシを捕って、イノシシの肉をスライスして売っている。あとは道の駅で団子を売っている。妻を含め、子どもが全員家を出ているので、茶畑や田がどうなるのかというのが、集落全体にも関わってくる悩みである。若い人が入ってきて、やりがいを持って、収入も得ることの難しさ、厳しさの一端を感じているところ。
  • 一定「おいしが うれしが」の統一ブランドは持っていたとしても、個人の名前、ネームバリューで売れる人は一歩抜けてもらったらいいと思う。また、いいものは高く、掛けてもらった労力を値にして売りたいと思っている。
  • 滋賀の野菜が京野菜といって売られているのは悔しいと思う。農家さんやみんなのためになるなら、それもいいのかもしれないが、もう少し地のものは地のものとして売りたい。
  • 今回はいろいろ考えるべき宿題をいただいた。例えば環境こだわり農業をこれからどう進めていくのか。こだわるならこだわるで、ブランド化してどう値を保ち高めるのかということを考えないといけない。琵琶湖のため、山のため、もしくは未来のために環境にこだわっているので、そういう部分で消費者と共感し合えるような、これなら払おうと言ってもらえるような打ち出しができないのかということも考えたい。また、直売所をはじめ売るところをどう支援できるのかも考えたい。
  • 県の課題でもある普及指導員の充実をソフト対策として、これからも大事に育てていきたいし、広めていきたい。
  • 中山間と大規模農家とではやれることが違ってくるので、中山間は独自のブランド作物をどうつくってどう売ってもらうのか、県としてそれらにどう支援ができるのかを一緒に考えていきたい。
  • ちょうど今、来年度の事業を組み立てる時期に来ているので、生の貴重なお声をいただいたと思って、これからにしっかりと活かしていきたい。