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第40回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手「日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部および家庭医療学夏期セミナーの学生・研修医スタッフ」の皆さん

「日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部および家庭医療学夏期セミナーの学生・研修医スタッフ」の皆さん

今回は、「日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部および家庭医療学夏期セミナーの学生・研修医スタッフ」の皆さんと対話を行いました。

日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部は、平成27年1月に発足し、家庭医療専門医および指導医の育成・確保に取り組んでおられます。

過去28回関東で開催されてきた学生研修医部会主催「家庭医療学夏期セミナー」が県内で初開催されることとなり、8月5日から7日にかけて全国から家庭医をめざす学生や研修医が長浜ロイヤルホテルに集いました。

今回は日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部の皆さんやセミナーに参加する学生、研修医の皆さんと三日月知事がセミナーのプログラムの一つであるポスターセッションを見学するとともに、これからの地域医療について語り合いました。

知事から

今回の対話について

  • 私は先日お亡くなりになった日野原重明先生がつくられた「新老人の会」に入れてもらっている。知事になってから出会い、「君も入ったらどうだ」と誘ってもらった。その日野原先生がプライマリ・ケアを非常に大事に考えておられた。日野原先生が京都大学で学ばれたときに初めて看取った患者さんが、お金がなく、父親もなく、母親と一緒に滋賀県で女性工員をしていた16歳の女性だったと著書に記されていた。その女性が死の間際に「これから母親が病院に来るが、私はもたないので、母親によろしく言ってほしい。心配を掛けたから。」と言われたときに日野原先生は「何を言っているんだ、そんなことを言わずに」と言って回復する注射をされたが、お母さんが来る前に息を引き取られた。その時のことを、その子のことを考えたら注射よりも「分かった。安心しろ。私がちゃんと言ってあげるから」と言えた方がよかったのではないかと述懐されていた。
  • それ以外にも先生はたくさんのことを我々に諭してくださった。問診で聞くことと話すことで診断の6割はとれるのではないかと言われていて、私たちが医療政策・福祉政策を考えるうえにおいても、示唆に富む御指導をいただいたと思っている。
  • 日野原先生のように100歳を超えるまで医療をやりましょうとは申し上げないが、偉大な先人が、この分野のことでとても大きな功名を残しておられることも踏まえて、一緒に勉強をしたいと思う。

「日本プライマリ・ケア連合学会滋賀県支部および家庭医療学夏期セミナーの学生・研修医スタッフ」の皆さんから

取組紹介

  • 日本プライマリ・ケア連合学会の学会員は約1万2000名で、そのうち医者が1万1000名ほどであり、学生の会員は極めて少ない。全国には約80ほどの医学部があるが、プライマリ・ケアが大事だという教育が日本ではほとんどされてこなかった。日本の医療はまだ大病院指向で、分化した専門医療中心に動いている。住民目線で医療の基盤をつくることがプライマリ・ケアの真骨頂であり、そこを目指して30年間続けている。
  • 若い人たちにプライマリ・ケアをアピールするために、この企画を家庭医療学夏期セミナーを続けており、今年で29回になる。そこに集まった若い学生の中から、我々の背中を見て育ってくれる先生がたくさん出てきている。
  • 日本プライマリ・ケア連合学会には滋賀県支部がある。今まで県内でそれぞれ頑張っておられた先生方が横につながって、学生の教育、専攻医の教育を行い、診療所が学生や研修医の教育の場になるように、切磋琢磨して学びあえるよう平成27年1月に支部を作った。
  • 滋賀県支部の活動としては、家庭医養成事業で専攻医の先生のための勉強会や指導医の勉強会を年3回ずつ行っている。また、国内、海外の先進地見学に行って勉強もしている。平成28年からは在宅を担う先生を増やすため、現場での体験授業も始めた。また、海外講師に講演会をしてもらったり、診療所に来てもらい指導いただくサイトビジットを行ったりしている。また、滋賀医大では学生たちが勉強会をやっているので、それを支部としてバックアップしている。今年はこの夏期セミナーに合わせて診療所視察ツアーも企画した。
  • 夏期セミナーは1986年に発足された家庭医療学研究会、後の旧日本家庭医療学会が、学生研修医が家庭医療学に関心を持ってもらうことを目的として開催されたのが始まり。第1回から第12回までの間は、研究会のメンバーである医師の先生方が企画運営されていたが、1999年に学生研修医部会が発足されたのを契機に、13回からは学生が運営を任されるようになった。第20回までは、「医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」という名称で開催していたが、参加者層の広がりを受け、様々な学部の学生の参加も受け入れたいとの思いから、医学生の「医」を取って、「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」という名称に改めた。現在では、医学部のほかに看護学科と薬学部のスタッフもメンバーに加わっている。また参加者の中には鍼灸師や検査技師の卵の学生も参加者している。
  • 今回は、「道標(みちしるべ)」をテーマとしている。本セミナーに参加することによって、家庭医療、総合診療、ひいては現行日本で行われている医療の「未知」を知り、これから医療者として進んでいくうえでの道標となるようにという思いを込めた。参加者約200人、講師約300人と、大勢の方に北海道から沖縄まで全国各地より参加いただいている。
  • 今年のセミナーでは、家庭医療の基礎を学ぶ講演、それぞれの専門性と連携することの大切さを学ぶ講演、第一線で活躍されている家庭医、総合診療医と熱く語る参加型のセッション、具体的に自らのキャリアを考えるポスターセッションなど様々な企画を行っている。セミナーで家庭医療、総合診療のエッセンスを学び、各々で振り返り、その学びを定着させるのと同時に、同じ考えから違う考えまで、さまざまな考え方を持った仲間やロールモデルとなる先人と出会うことで、将来像をより明確にイメージすることができる内容とした。
  • 今は学生だが、家族をまるごと診られる医師になりたいと思っている。実習中に患者さんのところに毎日通ってお話を聞いていると、患者さん自身から患者さんの文化や歴史をいろいろ学べる。医学的な実行だけでなく、勉強になるということを自身で学べたので、医師になっても患者さんに寄り添い続ける医師になりたい。

持続可能な地域医療について

  • 医師不足は行政にとって大事な課題であると思うが、医師不足と言っても実際は人口は減っていく傾向にある。医師の働き方、医師の在り方そのものが変われば、今の状況でも十分賄えると考えており、つまりは総合的な医療をする医師を増やしていくことが必要であると考えている。また、「これは医者の仕事だ」と言って握りしめず、できるところは看護師等にタスクシフトしていかないと今後はうまくいかないと思う。
  • 今は格差社会が確実に広がってきている。診療所や病院に電話や通院ができる人は診られるし、訪問診療することも出来る。しかし、これからは電話できない人も出てくると思うし、実際、かなり顕在化してきたように思う。そういったことを含めて医療の在り方を考えるには、今とは違う方法で地域の中でやっていかざるを得ないと思っている。
  • 福井県での2年間の長期研修を終え、今年から地元の滋賀県に戻ってきたが、初めて診療所での医療を経験している。今までは大病院で救急などを中心とした長期研修だったので、急性期が終わったら患者を早く帰すという感じだったが、今は逆で皆が集まる拠点の診療所で内・外来や在宅で患者さんを継続的に診て、必要なときに、専門の先生に引き継いでいる。逆の立場になったことで学ぶことが多い。どちらの医者も必要だと思うが、滋賀県支部を立ち上げた先生方の今までの努力で、滋賀県はプライマリ・ケアを学ぶ環境が整ってきていてありがたい。
  • 私が大病院で研修をしていた時、家庭医(総合診療医)を目指しているので患者さんが退院するときには患者さんやその家族の思いや退院後の生活を考えるようにしていた。そうするとその方の住所でホッとしたりしなかったりする。家での選択肢を自由に安心して提案してあげたいと思う時に、無理なく提案できる地域とそうでない地域がある。往診を存分におこなっている診療所がある地域とない地域では選択肢がだいぶ違う。ない地域の場合には家ではなく、転院など病院に居続けるなど違う選択をすることが多くなる。
  • 私が滋賀県にこだわった理由をストレートに言うと、滋賀県で結婚相手を見つけて子どもを育てたかった。研修医として大きな病院で働いていた時に、救急車で運ばれてきた人をその場でどうするか決めなければいけなかったが、この人が本当にこういう医療を望んでいたのか、静かに過ごしたかったのかが全く分からなかった。父が在宅医療をしていて、その背中を見て育ってきたこともあり、私は受け入れる側よりは、患者さんと一緒に考えて、何かあったときに、病院の先生に「この人はこういう希望を持っているから、そこをくみ取ってほしい」という情報を送る側の医師の方が向いていると思った。家庭医としてキャリアを積みたいと希望したときに、県内では唯一、弓削メディカルクリニックで家庭医の専攻医を採用されていたのですごくありがたかった。県内で道がなければ、他県に出るしか選択肢がなかったと思う。私は同級生に女性が50人いる。100人の学年で50人が女性で、50人が男性だったが、女性の先生の離職率はすごく高い。医者は専門を求められ、労働環境も厳しい。同期でも、もう働いていない人もいれば、きつい思いをして泣きながら子どもを育て、家のこともやりながら働いている人もいる。そういう意味で、プライマリ・ケアの現場は、女性には適していると思っている。子どもを産んだ時に勤務先の先生が今後のキャリアについてすごく考えてくださった。家庭医は患者の家族、地域を見ているので、私を医者としての職業人としてだけでなく、一人の女性として、滋賀県に住んでいる一人の人として見てくださった。「キャリアのなかで子どもを産むのは、女性にとってとても大切なことだから遠慮しなくていいんだよ」と言っていただいた。まだ子育て期なので、今の病院でも時短勤務で働いているが、「帰らなくて大丈夫か」とまめに調整してくださり、一緒に働いていてありがたいと思う。
  • 子どもが一定に大きくなってしまえば手を離れて、またフルタイムで働ける。そのときまで、ちゃんと時間をつないでくださるのは本当にありがたい。医者の数は足りないと言われており、辞めるよりは働き続けてもらった方がいいと思うので、こういう職場があるよ、理解をしてくれる人たちがいるよということを女性に啓発をしていくことが大切だと思う。
  • 子育てをしているお母さんは、家族の介護を抱えている人たちと共通点も多く、女性の医師をめがけてくる患者さんもおられる。本来そうであるべきなのだが、産んだことがマイナスにならない世界がいいと思う。
  • 滋賀県支部の会員は100名くらいで、まだまだ少ない。診療所の先生方もたくさんいらっしゃるが、家庭医を育てるという視点で考えるともっと仲間が欲しいと思う。

後進の育成について

  • 今後重要だと考えているのは、まず卒前教育。医学部卒業前に家庭医、在宅に触れないと別のキャリアに行ってしまうので、卒業前に家庭医に関する正規のプログラムやインフォーマルな勉強会が増えるといいと思う。そして、家庭医を志す方が県内のプログラムで定着して、指導医同士の交流でそのプログラム自体のレベルが上がり、家庭医といえば滋賀となるといいと思っている。そして家庭医になった皆さんが、生涯学習やタスク連携で学び合い、励まし合い、地域でチームとなる関係づくりができるようになるといい。それぞれに直接会って関係を築いていくのは大変なので、ICTの技術をしっかり取り入れてネットワークをつくっていけたらと思っている。
  • 総合診療専門医のプログラムを県内5か所の病院で行う予定をしており、1学年の定員が約10人。定員が埋まるかどうか不安な面もあるが、このプログラムに参加した人が滋賀県に残れば、10年で100人になる。コンスタントに各学年で育っていけば、マンパワーの積み重ねになる。
  • 大学6年間は大学病院ばかり見るので、家庭医や地域医療に興味を持っても、気持ちが育たないことがあるが、持続的に触れる機会があること気持ちが続いていく。
  • 大学の同期100人のうち10人が総合診療の道に入った。14年前なので、当時からすると相当な割合だと思う。他の大学は1人いるかいないかくらいだったと思う。学生の中でキーになる人がいて、その人がみんなに声を掛けた。キーになる人が興味深い情報をたくさん送ってくれたので、「面白そうだな」と興味を持った人が多かった。学生の仲間うちや身近な人がいいと進めてくれる状況をどうつくるかというのが鍵になるかと思っている。財政的な支援や寄附講座を含め、ハード、ソフト両面の支援が大事。教育はそれ自体ではあまりお金にならないので、そういった部分で行政のサポートが大事になってくる。
  • プライマリ・ケアの医師は様々な健康問題を受け付けているので、地域全体の健康レベルを上げるためのアドバイザーに適任である。そういったところにプライマリ・ケアの医者を配置すると、患者さんを医療機関で診ているだけでなく、そんなところにも関わるんだ、面白そう、と学生にも興味を持ってもらえるのではないかと思う。
  • 大学に家庭医が行く機会が増えるといいと思う。学生さんが勉強会を主催しているが、1回主催者になると、なかなか次の代に引き継げずにしばらくその役割を担わないといけなくなる。もう少し家庭医が大学に行って学生さんを元気づける機会ができるといい。地域で頑張っている先生が学生の教育に携わるのがなかなか難しい状況。
  • 在宅に魅力を感じる学生もいれば、まちづくりに魅力を感じる学生、子育てと両立できるところに魅力を感じる学生もいる。いろんな切り口があるので、その一つとして政策への関与や助言する機会がもっとあると良いかもしれない。
  • 海外に興味があり留学を希望する学生も一定数いるが、全く制度が違う海外から学ぶのと、同じ仕組み・制度のなかでやっている国内の別の場所で学ぶのは、同じぐらい学びの価値があると思う。海外の方がよく学べて、国内の方が学べないということはない。言葉の問題がない分、国内の方がより応用可能かと思う。
  • 孤軍奮闘してそのまま終わってしまうのはいけないと思っている。家庭医療、総合診療の研修を利用してもらって、優れた指導医として県内で活躍されている先生のところに若い人がサブで行き一緒に勉強しながらやってもらえると、指導医も若手も成長できる。一人で行けというのは非常に厳しいので、若い人たちがグループで活動するようにすることで続けられるのではないかと模索している。

知事から

対話を振り返って

  • 孤軍奮闘ではなく、永続可能なシステムをどうつくっていくのかは課題であると思う。この滋賀の地をプライマリ・ケアが整っていて、養成もしてもらえる先進先端地域にしてはどうだろうか。簡単なことではないとは思うが、先生方の御尽力のおかげで全国でもかなり進んだ今の滋賀県の状況がある。さらに足りないところを少し補ったり、先端なものを取り入れたりしながら、今までの取組を土台にし、さらに深くする。こういう医療を目指すなら滋賀だぞというのを一緒につくっていければいいと思う。
  • 地域の中でじっくり話を聞いて診てもらえば、もっとその人に合った医療が受けられるということもたくさんあると思う。こういったことが社会のロスを産んでいるとすれば、整えていかなければいけない時代だと思う。