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第33回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手大野木長寿村まちづくり会社の皆さん

大野木長寿村まちづくり会社の皆さん

今回は、米原市の大野木長寿村まちづくり会社の皆さんと対話を行いました。

8年前、このまま過疎・少子高齢化が急速に進むと大野木は限界集落となり廃村に追い込まれるかもしれない。そんな危機感から集落の将来のために「今元気なうちに何をしておかなければならないか」が検討されました。このことが基盤となり平成23年9月、7人の有志によって「大野木長寿村まちづくり会社」が立ち上げられました。

会社と名乗ってはいますが法人ではなく、地域の課題は地域で解決すること(「小さな新しい公共」にチャレンジ)をコンセプトに、インフォーマルな組織で地域福祉活動を展開しています。5年が経過した今日、大野木集落では高齢者にとって安全・安心な暮らしを送るために、なくてはならない存在となっています。

今回は、集落内の空き家を改装した「たまり場“よりどころ”」にお邪魔し、大野木長寿村まちづくり会社の活動を見学するとともに、「小さな新しい公共」にチャレンジする大野木の皆さんと、高齢者の“働く場”、“やる気”、高齢者ビジネスについて語り合いました。

知事から

今回の対話について

  • 高齢長寿の方だけでなく、地域のつながりの中から外れ、取り残されている人を、誰一人として放っておかないということを、無償ではなくて有償で、いろいろな人たちとつながりの中でやっているのは、これからの社会のモデルになり得る取組だと思う。
  • 高齢だから運転が怖いので、免許返納したいが公共交通での移動は難しいという人が、ものすごく増えている。実際は、家族に言われ、無理やり免許返納させられて、その後、行きたいところに行けず、会いたい人に会えず、どんどん体の機能が低下しいくということがある。大野木長寿村まちづくり会社では移送サービスをされているが、これからの社会にとって、大事なサービスだと思う。
  • 知事になってから「新しい豊かさ」をつくろうと言っている。今だけ、自分だけ豊かであってもダメであるし、ものの豊かさとお金の豊かさだけでもダメで、将来も周りの人も豊かであってほしいし、お金よりも心で感じられるような豊かさを滋賀県から、みんなでつくろうとしている。
  • 「小さな新しい公共」をつくろうという理念は、「新しい豊かさ」の理念ともぴったり当てはまると思うので、皆さんの取組を僕も勉強させていただいて、各地に広げていきたい。

大野木長寿村まちづくり会社の皆さんから

  • 大野木長寿村まちづくり会社は、30年後の大野木のために何をしなければならないかを約2年間勉強し、その当時の区長など7名の有志が集まって平成23年9月に発足した。高齢者支援訪問事業を中心に、「支え手よし、受け手よし、地域よし」の三方よしを目指し活動している。毎週水曜日には、あったか「ホームの日」、毎週木曜日は30食の弁当配食、毎週土曜日は近所の八百屋さんに来ていただいて食料品の販売を行っている。また、子ども食堂もやっている。食事の後には、ここの囲炉裏を囲み、認知症予防教室を毎週やっており、ここはしょっちゅう賑わっている。その他は随時、病院や診療所等への送迎をやっている。また、荒れた畑で色々なものを作ったり、再生したりする借り貸し農園、ふるさと郵便局、空き家の管理、移住促進などをやっている。
  • ちょうど2、3日前に名古屋から若い家族が5人で移住してきた。ネットで、このまちづくり会社の活動を見て、ぜひ大野木に住みたいとやって来られた。
  • 発足当時からやってきたが、役所とか企業が関わりを持ちにくい「見て見ぬふり」をしているような事柄、いわゆる制度のはざまを放置しないということで、「インクル出前」という形で人々の問題を解決、地域福祉の新たな実践にチャレンジしている。
  • 大野木という限られた非常に小さい地域でのインフォーマルな活動により、「大野木人が大野木人によって知恵と力を結集」して、地域の課題は地域で解決するという、「小さな新しい公共」にチャレンジしている。
  • 地域コミュニティーの笑顔と安全・安心の質の高い発展を目指し、少子高齢化、人口減少社会における地域を支えていきたいと思って、一生懸命頑張っている。
  • 大野木区は高齢者世帯が57.8%を占め、高齢化率34%程度になっているが、介護認定率が非常に低く高齢者が頑張っている集落と言える。
  • 創立から半年間は会社運営の基盤づくりに励み、平成24年4月から、たまり場“よりどころ”を拠点として多くの事業を展開してきた。設立して5年が経過し、現在は社員が60名、役員は10名、全般的に女性が少し多い人員構成。平均年齢は69歳。大野木区内のおおむね7割の家庭が何らかのかたちで関わっている。
  • 5年の成果としては、顔の見える関係づくりや見守り体制の強化ができた。高齢者の生きがいづくり、元気づくりや安全・安心な生活の増進が図れた。また、次代を担う人材の確保にも見通しが付けられるようになった。
  • 「インクル出前」については、工業製品でも何でもそうだが、その人に合わせたデザインで製品を開発するということで、イギリスから始まった「インクルーシブデザイン」という言葉がある。私たちは「インクル出前」と省略しているが、いわゆるニッチな部分、民生委員、区長、市役所、駐在、または公的機関が入り込めない、いわゆる隙間の人たち(とじこもりを含む)に弁当を持って行き、会話を求めて声掛けをし、話を聞いている。
  • 高齢者支援訪問事業と社員の高齢者ビジネスは、当社運営の両輪となっている。支援をする高齢者も、有償なので働きがいや持続性がある。福祉といえば無償のボランティアが主流だが、無償では会社が自立できず、続かないのではと論議した結果、「有償」とした。5年経った今となっては、有償にして本当に正解だったと思っている。
  • 高齢者支援訪問事業の支援対象者は大野木に暮らす一人暮らしの高齢者等を優先としつつ、困っている人なら誰でも相談に乗っている。仕事は有料で見積制としているので、時間にとらわれず見守りもできるようになった。支援のメニューは多様だが、中でも移送サービスが非常に多い。
  • 手間賃は、30分未満は切り捨てとなっているため、無償となることも多い。安い設定になっている。7割が作業者に支払われ、高齢者ビジネスの中核となっている。3割は会社で留保し、大野木館を作るための基金などにしている。
  • 役員の仕事は無償と規約に書いてある。視察に来た人から、「なぜ無償でやっているのか」「こんな例、見たことない」と言われるが、このことを区民は知っていて大きな信頼を得ている。
  • 実績を見ると、毎年170%ぐらい増加しており、これ以上増加するとどうしたらいいものか。社員募集が必要。送迎サービスが非常に伸びている。
  • 高齢者からの依頼は多岐にわたってきており、私たちの活動に信頼が出てきた証拠だと思っている。巨大なスズメバチの巣を天井裏から命懸けで取り出したこともある。
  • 高齢者ビジネスでは、商品開発にも力を入れている。高齢者が真剣にやる気を出せば何でも実現する。昨年暮れには、大根をいぶしてから漬物にする秋田の「いぶりがっこ」に挑戦した。
  • 毎週土曜日に開店する、たまり場の食堂は、八百屋さんと提携して買い物ができるようにしたら大勢が来るようになった。忘れられないように前日の夜に区内の有線放送を使って、たまり場情報を流している。
  • 社員に募って中学生のホームステイの受け入れも行っている。今年4年目で合計7回、横須賀の中学生が大野木に来た。会社では高齢者ビジネスの一環として受け入れているが、一クラス、バス1台を受け入れるよう会社が調整している。将来、彼らの中で一人でも大野木にご縁ができればと期待している。
  • 毎週木曜日の宅配弁当は女性陣の活躍が光る。地場産の材料を使いこなし、弁当配達と回収を役員が行い、一人暮らしの生活見守りを兼ねている。
  • 付き添い移送サービス(※道路運送法で有償運送の規制がある)は平成24年に1年間かけて社協と一緒になって検討して実らせた。正規の送迎保険に入り、役員の中でも事故を起こしていない者が担当している。無理をしないということをモットーにやっている。好天時のみの対応で、夜は動かない。夜間や天候が悪い時などは救急車を呼んでもらう。リスクは最小限に抑えて対応している。ガソリン代しか貰っていないので儲かることはないが、これからの生活支援には不可欠。75歳以上で運転免許返納者の受け皿としてこのサービスを進化させていきたい。
  • インクル出前で、課題、問題が出てくれば、まず、まちづくり会社で対応しているが、それが無理なものについては、円卓会議(市役所、社協、民生委員、区長など地域の関係者による)につなぎ、関係機関との連携のもと課題解決への道筋をつけていくこととしている。
  • 昨年10月からは、介護の新しい総合事業として、本格的に要支援のB型対応の運用も始めた。
  • ふるさと郵便局を開設した。大野木には郵便局がないので、ポストを郵便局にすることとした。本当の郵便局と連携しているわけではないが、ふるさとを離れた人の思いを受け止めるため、そういう方と文通をしたり、ものを交換したり、来ていただいたりして交流をしている。
  • 昨年2月にはご挨拶代わりに、ふるさと郵便局で、たまり場の特産物を送り、大勢から喜びの声をいただいた。ふるさと来訪につながるとうれしい。将来は借り貸し農園とうまくマッチさせていきたい。
  • 認知症予防教室を開催しており、今年1月からは、専門職の派遣事業を取り入れている。
  • 子ども食堂の取組も行っているが、大野木は従来から地域の子どもを地域で育てることに力を入れてきたため、子ども食堂を開設するには何の抵抗もなかった。
  • 社会保障費がどんどん膨らんで行っているが、インフォーマルな諸集団が動いていくことで認知症を予防し、かつ健康な人々が増える。小さいローカルなコミュニティーが市を、それから県を支え国をも支えることができる。
  • 今後は生涯を懸けて地域に、どういうものを残していくのかを考え、後継者の人材育成をしながら、この活動をつないでいく必要があると思っている。
  • 県内外問わず活動を視察しに来られる。総務省や厚生労働省の方も多い。
  • ここに来て、お年寄りが安心して、今日も元気に話ができるという笑顔が大事。
  • 高齢者が長く仕事をしていくには、一生懸命だけではダメで、半分遊びながら、半分真剣に仕事をする。そういう遊び心がなければ長続きしない。
  • 定年まで働いて、様々な経験をしてきた人たちが元気なうちに、元気を発揮する場所、高齢者の働く場があることが大事。
  • 日本全体の人口が減っていくなかで、地方間で人を引っ張り合っていても仕方がない。そうではなく、盆と正月だけじゃなくて、それ以外のときも、いつでも帰れるようなふるさとにしたい。
  • 都会で百姓をしたいという人のために、農園を借りて現在耕作している。いつでも貸せる体制はできている。空き家も耕作放棄地もセットでシェアできればいいと思っている。この前調べたところによると、いつでも入れるような空き家が9軒ほどある。持ち主に貸してもらえるかどうか、修繕箇所はどこかなどの情報を集めているところ。半分つぶれているような空き家を含めると、20軒ほどある。空き家は、空いてから2年半とか3年ぐらい過ぎるとダメになるので、早いうちに手を打たないといけない。
  • 大野木に来たいという人を、全面的にバックアップする体制をとっている。引っ越しのお手伝いも、空き家の整理もする。
  • 土曜日に200円でランチを提供している。厨房で働く女性には多少手間賃を払っているが、それ以外の人はみんな無償でやっているし、材料もほとんど自分で作ったものを使っているがほとんど赤字。
  • 里山をどうするかが大きな課題になっている。地主が高齢になり手が出せず、ほとんどが放置状態。国産材の低迷もあり、全く人手が入らない。材木が売れる時代はまだ良かった。山の手入れができていたから顔をしかめるほどマツタケが採れた。
  • 広葉樹などを植える活動を手掛けはじめた。先日1カ所植えた。
  • アイデアが、幾らでも出てくる。インフォーマルなかたちなので、やりたいことはいつでも何でもできる。
  • 葬式のスタイルも変わってきており、高齢化してくるとお葬式の不安がある。なので、お葬式とか法事を、まちづくり会社で請け負うことについても検討を始めている。
  • 昔は家で、結婚式からお葬式まであったが、今はセレモニーホールで何百万円もかかる。年金生活の人にとっては厳しい。最近は家族葬が多くなっている。不安を取り除いて、まちづくり会社が家族葬のようなものをできると良いと考えている。
  • 役員はみんなが、ここで生まれ育った人間ばかりなので、話が早い。全部分かっている。土地勘というか、共通認識がある。今の世の中は、そういうところが欠け始めている。結(ゆい)の精神を大事にしないといけない。

知事から

対話を振り返って

  • このように思いを持って活動してくださっている方がおられる県の知事だということに改めて誇りを持った。今後の進化に期待し、注目したい。
  • 行政も皆さんの進化に遅れないように、水を差さないように一緒に歩き、走っていきたいと思うので、現場を見て聞くようにするが、より詳しく分かる皆さんから現場の感覚を注入していただきたい。
  • 地域の方々のために汗を流し、時間を使っていただくところを、私たちにこういう学びの機会を与えていただいたことに感謝している。