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第26回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手近江大中肉牛研究会ウシラボの皆さん

近江大中肉牛研究会ウシラボの皆さん

今回は、近江大中肉牛研究会ウシラボの皆さんと対話を行いました。

近江大中肉牛研究会ウシラボは、大中地区の肉用牛飼養農家の後継者12名で設立された団体で、20代から30代のメンバーを中心に、近江牛の肥育技術の向上に取り組む一方で、各種イベントでの積極的な広報活動や、フェイスブックなどインターネットを利用した情報発信にも意欲的に取り組んでおられます。

今回は、対話への参加メンバーのうち、お二人の牧場を知事が訪問し、近江牛の肥育や繁殖の現場を見学させていただいたうえで、「ウシラボ」の皆さんと、生産現場が抱える課題や、今後の近江牛の目指す姿などについて、知事が語り合いました。

参考URL(近江大中肉牛研究会ウシラボfacebook):
https://www.facebook.com/近江大中肉牛研究会ウシラボ-458586080872397/

知事から

今回の対話について

  • 日頃は私達滋賀県民の誇りである近江牛を生産していただき、本当にありがとうございます。
    それぞれの生産者が個別に近江牛の生産に取り組むだけでなく、互いに情報交換して悩みを共有したり、ブランド力を上げるために活動する「ウシラボ」という組織の存在は、本当に心強く、素晴らしい研究会だと感じている。
  • 先ほど、今日の出席者の方のうち、お二人の牧場を見学させていただき、宮崎などで買ってきた子牛を肥育されている施設と、母牛に子牛を産ませる繁殖と肥育を一環して手がけられている施設について説明いただき、それぞれのメリットやデメリット等をお教えいただいた。近江牛には様々な課題もあるが、大きな可能性を持っていると私は感じている。先人方が築いてこられた「近江牛」というブランドは、これから世界に向けて、更に高めていけるものと考えている。また、近江牛の中でも、さらに上質な「スーパー近江牛」「近江牛プレミアム」といったブランドを作るのも良いのではないかと考えている。
  • 滋賀県では、「キャトル・ステーション(繁殖用の雌牛や、肥育するための子牛を哺育・育成し、生産者に供給する施設)」の整備に取り掛かったところだが、体外受精胚を移植する技術を活用した子牛の生産なども、県畜産技術振興センターで取組を始めたところであり、今日はそういった取組への皆さんのご意見などもお伺いして、県の主力産物である近江牛を更に高めていくための糧としたいと考えている。

近江大中肉牛研究会ウシラボの皆さんから

近江大中肉牛研究会ウシラボの発足の経緯の説明

  • ウシラボの前身にあたる「牧友会」は、ウシラボのメンバーの親の世代がつくった肉質向上委員会から発展したものだったが、自分達の世代が増えてきた時期に解体再編成して、後継者世代によりウシラボを2012年に発足した。

    発足当初の目的は、牧友会からの流れで肉質の研究のみがテーマとなっていて、月に1回の各メンバーの牧場の巡回とディスカッションを始めた。翌年から、自分達の大会をしようということになり、ウシラボのメンバーの牧場から牛を選んで、その牛の肥育過程を追跡して、年末に枝肉の研究会を開いて、発表するという取組を始めた。今年の研究会では、牛のビタミン摂取量が牛の健康状態や肉質にどう影響するかを京都大学と協働で研究している。

    また、近江牛の情報発信などにも取り組んでおり、近江牛自体をもっと活発にしていきたいと考えている。近江牛の定義は飼育した土地でしか括られておらず、コンセプトが弱い所があるので、大中という地域で近江牛のブランディングを強化していきたいという話が、最近の会議では話題に挙がっている。

ウシラボのメンバーの出席者11名の自己紹介

  • 先ほど知事にも見ていただいたように、200頭の規模で肥育一本でやっている。
  • 和牛が40頭と、F1(黒毛和種と乳牛などの組合せによる交雑種)が70頭で、肥育に取り組んでいる。
  • 繁殖肥育一貫の経営をしており、全部で400頭ぐらいを飼育している。
  • 繁殖肥育一貫経営でトータル110頭ぐらいを飼育しており、そのうち繁殖が40頭となっている。
  • 大中の南部で肥育を専門にやっており、頭数は270頭前後。副業として、堆肥の販売をしているほか、近所の耕種農家(穀物や野菜などを栽培する農家)と協力して、牛の餌にする稲わらの収穫・販売も行っている。
  • 父の経営する牧場とは別に、自分で200頭ほどの牧場を経営しており、近江八幡の駅前に、自分の牧場で育てた牛の肉を扱う飲食店を最近オープンさせた。
  • 宮崎県産の子牛を中心に、肥育専門でやっており、和牛のみで200頭ほどを飼育している。
  • 和牛の繁殖肥育一貫経営をしている。母体を全て但馬産の牛でそろえており、但馬で買ってきた母体に種付けして繁殖させている。最近、F1にも取り組み始めたが、従来のF1とは違った路線のF1としてブランディングしていきたいと試行錯誤している。国産飼料だけで育てた和牛など、いろいろなチャレンジもしている。
  • 42歳で、ウシラボのメンバーの中では最年長になる。交雑種40頭、和牛90頭の肥育をしている。、最近、繁殖の親牛を2頭導入し、繁殖にも取り組み始めた。
  • 知事にさきほど見ていただいたとおり、繁殖肥育一貫経営をしている。外部からの子牛の導入もしているが、いまは子牛の値段が高騰しているので、繁殖に力を入れて、もう少し繁殖の方を増やしていきたいと考えている。
  • 肥育一本の経営をしており、和牛を230頭ほど飼育している。

ウシラボで行っている研究について

  • 知事からも、近江牛の中で更に上質なブランドとして「近江牛プレミアム」といったものを作るという提案をいただいたが、ウシラボでは近江牛のブランディングの強化が一つの課題だと考えており、「やっぱり、これは近江牛だよね」と納得してもらえるようなものを作っていきたいと思っている。
  • 従来から肉質を決定づける一番の要素は血統だと言われているが、牛肉の味を決める要素については様々な説があり、味の解明自体がかなり難しい。脂の組み合わせもあれば、アミノ酸・タンパク質など肉の赤身の部分の組み合わせも多様にあり、多くの要素を兼ね備えた良質の肉を追求すると、天文学的な確率となってくる。そうした中で、牛の血統と肉質の関連性は安定しているので、肉質を追求する一番分かりやすい指標は牛の血統だということになる。
  • 一方で、ウシラボでは血統以外の要素についても研究しており、先ほども話したように、いまは京都大学と一緒にビタミン摂取量について研究している。ビタミンAと病気の関連性や肉質との関係はよく知られているが、最近注目されている不飽和酸脂肪の一つであるオレイン酸についても、これからデータを取っていこうと考えている。

近江牛のブランド戦略について

  • 宮崎県などで子牛を買ってきて肥育するのは、どこの産地も同じなので、オリジナリティを追及するために、例えば、繁殖肥育一貫の生産者は滋賀県で産ませることにこだわっている。ウシラボのメンバーの中には、先ほどの自己紹介でも出たように、近江牛のルーツでもある但馬産の牛にこだわっている生産者もいる。
  • 何か近江牛の中からもう一つ、自分達ウシラボから新しいブランディングができればと考えている。近江牛の枠にはまらないブランドが作れればと、自分自身も色々とチャレンジしており、こういう場で意見交換する中で新しい考えが出てくればと思う。
  • 何か一つの道を作って、成果を挙げていかなければ、誰も付いてくる人もいないので、何らかの売っていくための道を作らねばならないと模索している。いま模索が始まったばかりの段階であり、ちょうどいいタイミングで知事とお話しする機会がいただけたので、知事からもアイデアがいただければと考えている。
  • いろいろなチャレンジをしているが、神戸ビーフと松阪牛が大きな壁になる。神戸と松阪は、その名前がついているだけで基準となる価格帯が、近江牛よりもかなり高くなる現状があり、日本三大和牛(近江牛・神戸ビーフ・松阪牛)の中で差をつけられており、最近では、三大和牛として、近江牛の替わりに米沢牛が入っている場合もある。
  • 松阪などはブランディングがうまい。すべての牛にしているわけではないと思うが、「牛にビールを飲ませている」「牛を散歩させている」等といった、「すごい牛をつくっている」というイメージを戦略的に植えつけている。
  • 神戸ビーフの生産者を取材したことがあるが、神戸ビーフは国際的にも有名なブランドであり、生産者の持っているブランドに対する自信が違う。近江牛とはブランドのレベルが違うと感じて、良い刺激になった。
  • 近江牛のブランド価値を高めるために、近江牛の定義を変えることも考えていきたいと思っているが、関係する団体もたくさんあるので、簡単なことではない。すぐには難しいが、生産者が世代交代していく中で、こつこつと進めていくしかない。
  • 近江牛の定義は、神戸や松阪に比べると緩い。神戸ビーフであれば、兵庫県内で生まれた牛に限られるうえに体重制限などもある。松阪牛であれば、松阪地方の未経産(子を産んでいない)の雌牛といった定義がしっかりとあるが、近江牛の場合は、滋賀県内で一番長く飼育された黒毛和種という定義しかない。
  • 自分は国産の飼料、とくに滋賀県産の飼料にこだわっており、コメ農家に堆肥を提供して、稲わらをもらうなどの形で耕畜連携にも取り組んでいる。農協に協力してもらって滋賀県産の大豆を飼料用に焙煎してもらうなどもしているが、県内産にこだわろうとしても入手が難しいものも多く、トウモロコシなどは県外産になってしまう。自分の思いとしては、地元でつくった飼料で、自分達で産ませて肥育した牛を出荷したいと考えている。滋賀県で生まれて、県内産の飼料で育った純粋な近江牛こそが、先ほどから話題に出ている「近江牛の1つ上のブランド」の一つの形になるとも思っている。
  • 自分で繁殖させた子牛を県内産の飼料で育てた、純粋な滋賀県産の牛というのは、一番のオリジナリティになるとは思うが、現状でそれをやるとなると生産コストがすごく高くなってしまう。
  • いまは、いい牛肉=すごくサシが入った牛肉となっているが、それ以外の価値観を見いだすのに、どうすればいいかというのが、自分にとって一番の悩みとなっている。
  • 小売業者の開催するイベントなどで一般消費者の方と話すと、かなり細かなところまで聞いてこられる方もおられる。情報社会なので、自分達生産者があまり知ってほしくない情報も知っておられる。「どの産地も、みんな宮崎から子牛を買ってるんだから、どこの牛でも一緒」と思われるのが一番怖いところで、そうなると近江牛自体のブランドがどんどん落ちていってしまう。現時点で、近江牛の何が貴重かと言えば、近江牛の数が少ないから、ブランド価値が保たれているとも言えるかもしれない。
  • 近江牛に新たに価値を加える手段として滋賀県産にこだわるという話が出たが、ただ単に繁殖で、滋賀県で産ませればいいというものでもないと思う。県内の繁殖も重要だが、但馬や九州から買ってきた子牛を肥育してきた近江牛の歴史の中で、いまの近江牛ブランドを築いてきたノウハウや技術があるので、その点について県としてバックアップして、これまで蓄積してきた技術に裏付けられた牛を近江牛として売り出すということも絶対に必要だ。
  • われわれ生産者が話を聞く機会があるのは、精肉業者の方までの場合が多いが、私は外食店の方から色々と話を聞いている。そこでは、少し前までは赤身の牛肉がほしいという声が大きかった。その要望に応えて赤身の肉を生産していたが、市場ではサシが入った肉に比べて値が付かず、まったく儲からなかった。
  • 最近は、赤身とサシのハイブリッドのような肉、つまり赤身に溶け込んだ脂を作ってほしいという声をよく聞く。詳しく説明すると、すき焼きやステーキで食べられるロースにサシが入っているのは当たり前で、サシが入りにくい部位であるモモにサシが入った肉がほしいと言われる。赤身の部分に入っているサシはくどさがなく、すごく食べやすいので、求める消費者は多い。
  • 「お尻は血統、ロースは技術」と言われており、モモにサシが入るかどうかは血統の要素が大きい。ほぼ7~8割ぐらい血統で決まる。
  • モモにサシが入っている肉は、単価が高く売れる。お肉屋さんもそういう肉を求めていると実感している。
  • 消費者によっても好みは様々なので、個人的には、あまり肉質を限定するのは好きではない。牛には色々な牛がいるので、絶対的に霜降りがいいとか、赤身がいいとかいうことではないと考えている。私の望みとしては、その日の気分によって、ワインのように、牛肉も選んでもらえたらと思う。そのためにも、牛肉についての知識をお客さんに持ってほしいし、そういった様々な肉質の牛を近江牛として売りたい。近江牛はどれを食べてもおいしいのだけれども、「牛肉の脂の具合は、ワインのように、今日の気分や体調によって決めてくださいね」と提案できればよいと思う。
  • 震災や、その前の口蹄疫の流行などの影響により子牛の数自体が減っており、価格も高騰している。牛肉の流通量も、今年の年末にかけて1割程度減ると言われているが、これから、近江牛というブランドを高めていくためには、数は重要な要素だと考えている。現状では、東京に出荷している頭数も少なく、東京で近江牛が食べたいと言ってもらっても、安定供給できていないために、固定客がつきにくい。
  • たとえば、松阪牛はほとんど東京に出荷しているので、東京でしか手に入りにくい。逆に近江牛は滋賀県内で売れるから、東京へ出さなくても、ある意味安定している。頭数を増やしても、質は大事なので、むやみに増やすのでなく、東京と県内とどちらもある程度安定供給できるぐらいの頭数に増やしていく必要がある。
  • 近畿東海北陸連合肉牛共進会(共進会は農家が育てた牛の品質を競う品評会で、近畿東海北陸連合肉牛共進会は全国最大規模の共進会・略称「近東」)は、毎年、京都か神戸の中央卸売市場で開催されているが、滋賀食肉市場で開催したいという話が出ている。近東の共進会は規模が大きく、地元で開催すれば活気も出る。

国や県の行う畜産振興施策への期待について

  • 県内の子牛の生産数が少ないこともあって、現在の近江牛には、「これが近江牛の血統だ」と言えるものがほとんどない。他の有名産地には、種牛をしっかり持っているなど産地の血統がしっかりしているところが多い。滋賀県にはこれまで、そういった研究機関などが充実していなかったので、これから県が整備するキャトル・ステーションに期待している。
  • 鳥取県では、牛の新しい品種や血統を、今から創ろうと取り組んでいる。こういった取組から、地域のオリジナリティが生まれてくると注目している。同じような取組を滋賀でやれば、もともと近江牛の知名度があるので、ブランド化にはもっと有利になる。
  • キャトル・ステーションが得た繁殖や子牛の育成に関するノウハウを、われわれ繁殖農家に教えていただくことで、繁殖の技術を高めていくことができる。そうした面でも、キャトル・ステーションに期待している。
  • 既に繁殖に取り組んでいる生産者には、もちろん技術がある。しかし、ウシラボで情報交換していると、10人の生産者がいれば10人それぞれが違うノウハウを持っており、お互いに学び合うことで、みんなが知識を増やしていくことができている。キャトル・ステーションでは、多くの頭数の繁殖や子牛の育成を手掛けられるので、小規模な繁殖農家が知らないノウハウが得られるのではないかと思う。
  • 現状では、良い牛を生産しても、(頭数が少ないと)消費者に「またあの牧場の牛を食べたいな」と思ってもらった時に手に入らないということになる。国が進めている畜産クラスター事業(畜産農家をはじめ、地域の関係機関・団体・耕種農家等が連携し、地域ぐるみで高収益型の畜産を実現するための体制を構築する事業)を活用して、例えば田んぼを宅地にして牛舎を建てるなどして経営規模を大きくして、頭数を増やしていく必要を感じている。
  • 畜産クラスター事業の対象は、畜産農家以外との連携により収益の向上を目指す体制の構築だが、この大中地区には水田もたくさんあり、やる気のある若い耕種農家も多い。牛の餌に使える稲わらは豊富なので、既にある耕種農家との連携を強化していけば、繁殖にも取り組みやすい。そういった連携を強化しながら繁殖に取り組むことで、純滋賀県産の一つ上の近江牛ブランドに繋げていくこともできる。また、経営の安定化のためには、繁殖することで子牛の購入経費のコストを削減することも重要な要素になってくる。
  • ここにいるメンバーと、県や関係機関などが知恵を出し合って、「ウシラボ」クラスターといったものを立ち上げて、大中の干拓地は、ちょうど入植50周年の節目の時期でもあるので、畜産農家も耕種農家も一緒になってみんなで地域を盛り上げていければよいと思う。
  • 同じ近江牛の生産者でも、現在は流通の流れなどで系統が分かれており、情報の流れ方も違っていたりする。これから、私たちの若い世代がまとまって一つの事業を興して行くことで、ウシラボが流れを一つにまとめていく足掛かりになって行けばとも思っている。
  • 三日月知事には、去年の近東の予選にきてもらって、嬉しく励みになった。またバラエティ番組に出演された時に近江牛を宣伝されていたのも、近江牛の情報発信として、すごく大きなことだと感じたので、これからも知事自身にどんどん情報発信をしていただきたい。

知事から

対話を振り返って

  • 近江牛の中で更に上質なブランドを作るという提案をさせていただき、皆さんからも滋賀県で生まれて、県内産の飼料で育てるなどの考えを聞かせていただいた。生産者の皆さんが考えているのと同じように、消費者にも「どこで生まれて、どうやって育てられた牛なのか」という基準で肉を選びたいという需要は高まりつつあると感じる。これまで培ってきた近江牛のブランドを保ちながら、もう一段上の近江牛を作っていくという取組には、課題も多く、簡単なことではないが、そういった取組をモデル事業として県が補助するなどの方法もあると考えている。
  • 昨年に共進会に伺った際には、正直なところ、皆さんの話しておられる専門用語などが良くわからなかったが、生産者の皆さんの意欲は強く感じることができた。それもあって、上京した時には、市場へ近江牛の値段を見に行くなどして、私自身も勉強するようにしている。テレビなどのメディアを通じて発信することも、私の重要な役割だと思っているので、これからもどんどん発信していくつもりだ。そういった時に、生産者の方々の色々なこだわりを知っておいて、見ている人にキチンと説明していきたいので、そのためにも、これからも色々と情報を教えてほしい。