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第19回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手甲賀市山内自治振興会の皆さん

甲賀市山内自治振興会の皆さん

甲賀市では、小規模多機能自治の取組を進めており、概ね小学校区をエリアとした新しいコミュニティの形として自治振興会が設立されており、土山町山内地域においても「山内自治振興会」が設立されています。

山内地域が抱える課題として、「獣害対策」「少子高齢化」「若者の定着」などがあり、自治振興会の喫緊の課題として、重点的な取り組みを進めています。

特に「獣害対策」については、侵入防止柵の計画的な設置や里山保全による人里との緩衝帯整備をはじめ、鳥獣捕獲状況分析やドロップネットなどの新技術の導入を進めています。また、捕獲した鹿肉を活用したジビエ料理開発などにも取り組んでおり、これらの活動で有害鳥獣被害を大幅に軽減したことが評価され、平成26年度には農林水産省の鳥獣被害対策優良活動表彰を受賞されました。

今回は、「ドロップネット」を使って鹿と猪を捕獲する実際の作業現場を見学し、その後に、鹿肉を使ったジビエ料理のディナーコースをいただきながら、甲賀市山内自治振興会の皆さんに知事と語り合っていただきました。

知事から

今回の対話にあたって

  • 私自身は大津育ちだが、三日月姓のルーツは旧甲賀町にある。国会議員時代も草津に住んでいたために、山間部や北部のことはよく知らないこともあり、色々な地域に実際に住み、地域の方々と一緒に食事をしたり、皆さんと膝を突き合わせて対話することで、知事として地域の課題を知り県政につなげたいと考えている。今日は、その一環として山内に寄せていただいており、今夜は集落内の一軒家をお借りして泊まらせていただき、明日は小学生の登校の付添いをしたり、山内小学校で交流会に参加させていただくので、よろしくお願いしたい。
  • つい先ほど「あけびはら山の子はうす」で、鹿と猪がドロップネットで捕獲される現場を見学させていただき、鹿や猪がこんなに身近にいるのだなと実感した。鹿も猪も尊い命を持つ生き物でもあり、人間との共生や住分け等もしっかりしていかないといけない。このジビエ料理も山内の皆さんが精力的に研究して広めておられると聞いており、私も大切にいただいたうえで、今後の方策を皆さんと一緒に考えていきたいと考えている。

甲賀市山内自治振興会の皆さんから

【料理(前菜)についての説明】

  • テーブルにお出ししている料理について説明したい。食前酒代わりの赤いジュースは、アロニアというブルーベリーによく似た赤い実を使ったもので、ジュースには今回初めて加工した。アロニアは北米原産で寒冷な山間部が栽培に向いており、栽培を始めて3年目の今年は約30kgの収穫があった。前菜は、冬瓜の湯葉巻、赤ズイキのせんば、花ざんしょう煮。地元のものばかりで、湯葉も土山のお店の湯葉を使った。花ざんしょうは、山椒の花をつくだ煮に炊いたもので、山椒の実はぴりっと辛いが、花はそこまで辛くはない。

【山内自治振興会についての紹介】

  • 山内自治振興会には、地域福祉部会・安心環境部会・山内夢づくり部会の3つの部会があり、各部会が更にいくつかの班に分かれて実際の事業を進めている。今日の対話には、自治振興会の役員である会長、副会長、会計、3つの部会の部長に加えて、「地域おこし協力隊」として県外から来てもらっている若い二人も参加してくれている。
  • 3つの部会では、それぞれ沢山の事業を行っており、例えば今日見ていただいた獣害対策や里山の整備は安心環境部会、アロニアを使った特産品を考えたり、ホームページなどの広報は山内夢づくり部会、運動会や福祉のことは地域福祉部会といった形で分担しており、それぞれが3年計画で事業を進めている。
  • 「地域おこし協力隊」として、3年間の任期で山内に来ており、現在は空き家に住まわせていただいている。今まで川の近くに住んだことがなかったが、山内には泳ぐことができるくらい水のきれいな川が身近にあることを新鮮に感じている。
  • 「地域おこし協力隊」には、移住することも考えて応募した。既に結婚しており、妻は関東出身だが、一緒に山内に来てくれている。

【料理(スープ、主菜)についての説明】

  • この「鹿すじ肉のトマトスープ」は、本来ならば、根菜、レンコンとか里芋なども入れるのだが、ボリュームが多くなりすぎるので、今回は玉ネギ、すじ肉とトマトでスープを作った。
  • メインの「ビートスモーク鹿肉」は、会長自らが桜の木のチップで燻製にした鹿肉で、会長ご自慢の一品。メインのもう一品は「ロース肉の香草焼き」で、色々なハーブを使ってオーブンで焼き上げたもの。鹿肉には独特な臭いがあるので、そのままでは使いづらいが、このように燻製にすることや香草を使ったりするなど、きちんと手間をかけることで美味しくいただける。

【山内地区について】

  • 山内地区の人口は現在893人で、昨年に比べて約40人減少し、戸数も13戸減った。東京一極集中と同じように、甲賀市でも水口に一極集中していく傾向にある。両親は山内に住んだままで、子の世帯のみが水口へ移住するというケースが多い。そのため、山内には夫婦のみの二人家族の世帯が多い。甲賀全体でみると、人口が増えていないのに戸数が増え、増えている部分は水口へ流れている。
  • かつては、このあたりにも柿の木が沢山あり、1軒に1~2本は必ずあったが、軒先に柿の実があるとサルを呼び寄せることになってしまうので、20年ほど前にみんな切ってしまった。
  • 最近では、山内でも農家が減っており、サラリーマン世帯がかなりの割合を占めている。水口や湖南地域、あるいは京都あたりに勤めている方が多く、朝早くに出勤し、山内へは夜遅くに寝に帰ってくるだけという感じになっており、若い人には地域に対する愛着といったものが昔に比べて薄くなっていると感じる。
  • 甲賀市は工場の多い地域で、山内からも水口や甲南に立地する工場に通いやすい。もう一足伸ばせば湖南市にも工場がたくさんある。
  • 山内小学校には遠距離を歩いて通学する子どもも多いので、私は毎朝、猪鼻(山内小学校の所在する黒川の隣の集落)から通ってくる小学生の通学の付添いをしており、明日は知事にも加わってもらって、山内小学校まで一緒に送って行くこととなっている。

【料理(御飯)についての説明】

  • 御飯は鹿肉のそぼろご飯を用意した。そぼろは灰汁抜きした鹿肉をミンチにしており、炒めたショウガやネギと一緒にご飯に混ぜている。米は副会長の田で作った「みずかがみ」を使っている。
  • 「みずかがみ」は知事も精力的に宣伝されているので、今日の料理にはぜひ使いたかった。この米は、米ぬかや油かす、大豆などを使った有機肥料で栽培したもので、収量は私の田で、1反当たり8俵ぐらい。これはまだ1年目の土壌だが、4~5年経って土壌ができてくると、とても甘いお米になってくる。有機は年々土壌ができてくる。
  • 「みずかがみ」は冷えてもおいしいとよく言われる。弁当にも向いている。食感もコシヒカリ並みにもちもちしており、この鹿肉のミンチとの相性も良い。

【山内地区の地域おこしについて】

  • 今日食べていただいたジビエ料理のコースは、まだ販売するには至っていないが、将来は「農家レストラン」といったものを開業したいと言う思いがある。鹿の解体の施設も自前の施設を建てて運営していきたいと考えているが、今の段階ではまだ夢のような計画。
  • 今日のコース料理であれば、値段としては安上がりで、3千円で十分に元は取れる。野菜やお米は地元にあるので、地産地消にこだわりたいとも考えている。一部の足りない素材も、市内の甲南高校には生物コースがあり、農場で果樹なども栽培しているので、調達できる。
  • 鹿の捕獲数は累計で229頭だが、去年が一番多く、1年間で77頭だった。専門家に聞いたところでは、年間100頭捕ると採算ベースに乗るとのことだった。自然のものでもあり、現時点では、まだ難しいが、年間100頭を安定して捕れると、解体施設を建設しても採算ベースに乗ることになる。
  • イベントの時などには、鹿肉のカレーもよく作っている。今日も、ドロップネットの捕獲作業のために出てくれた獣害対策班のメンバー等の、対話に参加されていない方のためにカレーをたくさん用意しているので、よければ知事にも食べてほしい。
  • 山内では鮎も採れる。昔は小さな鮎がたくさん琵琶湖から上がってきていた。今は放流された鮎だが、山内の鮎は身が締まっていて美味しい。毎年解禁日には子どもや孫と一緒に投網をしているが、今年は大漁で解禁日には97匹も採れた。鹿がないときなどは、レストランで鮎を出すこともできるかも知れない。
  • 旧土山町には小学校が4校と中学校が1校あるが、小学校の統廃合の話が出ている。山内では、運動会も自治振興会と区長会と小学校の合同で行っており、30年以上前から続いている。学校は地域のコミュニティの中心でもあるので、何とか学校を守りたいと考えている。
  • 山内小学校の来年度の入学生は5人で卒業生は10人なので、5人減ってしまう。現在全校生徒が30人なので、来年は25人になる。3年前から特認校(保護者の希望に基づき、児童や生徒を自然環境に恵まれた小規模校等へ校区外から通うことを認める制度)の指定を取って、水口や甲南等の子どもに、自然の豊かな山内の学校へ来てほしいと取り組んでいるが、なかなかこちらへ来ていただける方が居ない。
  • 先日近くのゴルフ場に来ていた大阪の方が、山内の小学生は横断歩道で止まったら、きちっとお礼を言ってくれると感心していた。その方は教師をしているとのことで、どういう教育をしているのか教えてほしいと電話がかかってきた。このように地域でみんなで子どもを育てているという点は良いのだが、人が少なく、ずっと同じ顔触れなので競争がないと言う保護者も居る。子どもが一番多かった団塊の世代の頃には、1学年2クラスで全校生徒も200人以上はいたが、今はクラス替えもない。
  • 山内では、昔はお茶と、稲作、林業の三つが盛んだった。特に戦後の物不足の時分には、この三つで、ゆっくり生活することができたのだが、まず山が駄目になり、次に田が駄目になり、最近では茶も駄目になってきた。田や茶畑だったところが耕作放棄地となっており、荒れているところが多い。
  • 少し前に台風が来て大雨警報が出た際に、雨が止んでから田の様子を見て回ったが、全ての田が満水状態となっており、本当に田というものがダムのような機能を果たしているとわかり驚いた。その後洪水警報も出ていたが、田がダムの役割をしていなければ、本当に洪水になっていたと感じた。経済的な面で稲作は大変ではあるが、景観の保全や保水という役目も重要なのだと改めて気づいた。会社勤めをしていたころには気付かなかったが、退職して地域にいる時間が長くなった今になって、そうしたことが分かり、しみじみと田んぼや山の大事さを感じている。
  • 知事には、森林組合と一緒に間伐を行った里山を、明日の朝に見ていただく。間伐をしない山は、真っ暗で下草が生えないために保水機能が低下するうえに、雨が降ると山の土が流れ出る。このあたりの山林は、昔は60年に一回くらいの周期で木を切り出していたが、今は老木ばかりになってしまい、木の吸水も弱くなっている。また、獣害対策の面でも、間伐で里山の見通しがきくようになると、鹿や猪が山から下りてこなくなる。
  • このあたりの川は、大雨が降ると真っ黒な水が流れて濁る。雨で山の土が水と一緒に流れ出ている。根本的な改善策としては、山の木々を広葉樹に変えていかないといけない。広葉樹にすることで、山が豊かになり、鹿も里から山に帰ってくれる。

【料理(デザート)についての説明】

  • デザートには、アロニアジャムを乗せたチーズケーキを用意した。アロニアは食前酒代わりのジュースでも使ったが、ジュースもジャムも、アロニアを冷凍して解凍し、また冷凍して解凍するということを2回ほど繰り返し、その後、鍋で10分ほど煮ている。アロニアは、ブルーベリーと違って苦みがあるので、そうすることで苦みを飛ばしている。アロニアは、アントシアニンなどのポリフェノールがブルーベリー以上に含まれており、少し苦いが、目にはすごく良いと言われている。
  • アロニア栽培は取り組み始めて3年目だが、だいぶ木も大きくなってきた。アロニアは寒い所の作物で、初めは獣害に強い木だということで植えたのだが、結局獣害にあってしまったので、今は木の周りにネットを張っている。
  • 知事はシソジュースがお好きだと聞いていたのでシソジュースをと考えていたのだが、季節的に遅かったために、アロニアジュースにした。アロニアジュースは今回初めて作ってみたが、うまく行って良かった。

知事から

対話を振り返って

  • 今日はすっかりごちそうになり、ありがとうございます。明日まで山内でお世話になるが、今日この目で見た害獣捕獲の体験と、この舌で味わったこの味は忘れない。これから、ぜひ、いろいろなところで一緒にPRしていきたいと考えている。
  • 私の妻は熊本の山奥の出身だが、段々畑があったりお茶を作っていたりと、妻の実家と山内の風景には似ているところが多いと感じた。自分には山間部に住んだ経験がなく、住むうえでの苦労もわかっていないと思い、今日のように山間部に行く機会を多く持ちたいと思っている。日頃から琵琶湖を守ると言っているが、琵琶湖を守るためには、水源である川や田、そして山を守らなければならない。今日も話に出たように、時間はかかるが、山の針葉樹を広葉樹に変えていくといったことも重要だと考えている。
  • 「地域おこし協力隊」のお二人はご縁があって、こちらに来ていただいたので、協力隊として過ごす期間を大事にしていただき、できれば、この山内にずっと住んでいただければと願っている。どうせ死ぬなら、この滋賀県で一生を終えられたらいいなと思ってもらえるような、そんな地域にしたいと考えて知事をしているので、また今後ともよろしくお願いしたい。