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第70回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手「琵琶湖とつながる生きもの田んぼ物語推進協議会」の皆さん

「琵琶湖とつながる生きもの田んぼ物語推進協議会」の皆さん

「琵琶湖とつながる生きもの田んぼ物語推進協議会」は、環境こだわり農業に取り組み、かつ生きもののくらしに配慮した水田である「豊かな生きものを育む水田」の取組を一層拡大することを目的として設立された任意団体です。

世界農業遺産に申請中の「琵琶湖システム」の中心的な取り組みの一つである「魚のゆりかご水田」に取り組んでおり、認定に向け、機運を盛り上げておられ、海外からの視察も積極的に受け入れ、国外へのPRにも努めておられます。

 この度、環境・生態系に配慮しながら、米生産の取組の拡大を目指して活動されている皆さんと知事が、多様な生物を育む水田づくりや世界農業遺産認定に向けての取組について意見交換を行いました。

知事から

今回の対話にあたって

○琵琶湖と繋がり、守りながら漁業・農業を営むというこのシステムが日本遺産に認定されたが、その中核的なものが「魚のゆりかご水田」ということで、10年程前だったか、「魚が卵を産み、稚魚が育つ場所をつくり、それを守って米づくりをする。」というお話を聞かせていただき感動し、それ以降、色々な場所をご案内いただいた。

○県内でこういう取組が大事にされていること、広めていただいていること、また、それにまつわるお酒や、商品等もつくっていただいていることをとても心強く、うれしく思っている。

○皆さんご存じのとおり、「日本農業遺産」として認定され、そういったものを次の世代にしっかりと繋ぎ、残していけるように皆さんと一緒に考えていければなと思っている。

協議会の皆さんから

琵琶湖とつながる生きもの田んぼ物語推進協議会について

○以前から魚のゆりかご水田自体はあるが、もう少し山の方でも豊かな生きものを育む水田をつくっていきたい、平たく言えば、生物多様性の水田農業を滋賀県中に広げたい、という思いで活動を行っている。

○先ほど、知事もおっしゃられたように、やはり次世代に残していくということが大事であると思っている。

○この会自体は、生産者や企業の方にも関わっていただき、様々な立場で集まり、情報交換をし、お互いに意識を高めながら取組を広げていこうという目的でやっている。

○平成28年度からこの会を設立させていただき、現在、活動組織12組、農業者3者、そして流通関係者5者、企業1社、学識経験者3人で構成されている。

○特に、やはりこの協議会でできることとして、情報交換+PR活動という部分が大きいと考えており、勉強会も含めたスキルアップ活動ということで先進地視察に行かせていただいたり、PR販売に行ったりするうちに、会員も増えた。また、水田自体の面積も僅かずつではあるが増えているということもあり、さらにここからステップアップしていきたいなというところで、県にもぜひバックアップしていただけたらうれしいなと思っている。

○「豊かな生きものを育む水田づくり」については、これは魚のゆりかごだけではなく、先ほども申し上げたように、山の方、琵琶湖周辺ではないところも含めた県内全域で機運を高めていきたいと思っている。

○魚のゆりかご水田の面積とそこで獲れる米の量について、今はもう減反政策は一応なくなったが、実際には減反政策は続いており、つくれない田んぼもあるなかで、若干の増減はあるが、だいたいなだらかに伸びてきているという感じである。

○この後、各会員から紹介があると思うが、このような活動と小学校等における農業教育、「たんぼのこ」とか、そういったものにつながっているというケースもあって、魚のゆりかご水田米は消費者の方にもだいぶ名前を覚えてきてもらえたかなと思っているところ。

○一方で、「なぜ、魚と田んぼなのか」という部分、やはり消費者の方に食べていただかないと水田が広がらない、続かないので、どうしたら食べてもらえるかという消費推進のあたりを今後はPRとともに重点的に行っていけたらと思っている。

○このような、年に2回ほどこの協議会が集まって色々活動をしており、県等のご協力もあって、PRができている。協議会の説明は以上である。

各会員の日頃の取組について

○須原魚のゆりかご水田(せせらぎの郷ともいう)で活動させていただき、もう13年目を迎える。この間、行政の皆さんはじめ、大学、または地域の皆さんに本当にお世話になり、今年も積極的に参加をさせていただいた。

○せせらぎの郷の活動報告について、毎年西武百貨店で開催されている、「滋賀のええもん、うまいもん祭り」において、私たちのゆりかご水田米、また「月夜のゆりかご(酒)」の展示販売をさせていただいている。おかげさまで非常に販売も好調で、米もお酒も全て完売となっている。びわ湖放送でも今年1年間、田植え、稲刈り、観察会の全ての行事、イベントを取材いただき、それで、「われら楽農宣言!」というテーマで10月2日に放映された。

○企業との連携ということでは、今年度も滋賀銀行、損保ジャパン、日立建機といった様々な企業の方にお世話になり、東京の「LIFE CREATION SPACE OVE」で行われたフェア(サイクリングについて、琵琶湖、浜名湖、霞ヶ浦の三湖連携に伴い、約1カ月間のフェアが実施された)に参加された方にお米を提供したところ、おいしかったということで東京の方にも来訪いただき、オーナーとなっていただいた。また、東京の東大の弥生講堂で毎年されている「田園再生活動の集い」において、全国から集まった約200人の方の前で、今年はお米とお酒をPRした。脱プラということで、3年前から麦わらストローをつくる活動もしている。

 

○自分は、会員の中では若い方であるが、それを強みにして、青年農業者クラブという組織に参加している。マルシェ等に参加させていただく機会があり、ゆりかご水田米を配りながら、「こういうお米もあるので、ぜひともよろしくお願いします。」と微力ながらPRをしており、もっと大々的にしていかないといけないなと常に考えている。

 

○私は、近江八幡の牧というところで、農地水環境委員会というものを組織し、活動している。ゆりかご水田をさせていただき、今年で3年目ということになるが、来年からは、環境に加え、生態系への配慮という点にも力を入れていこうかと考えている。

○田んぼから排水や落水が漏れたりした場合、それを回収してくれているのは水草であるという考え方をしている。淡海保全財団というところで水草堆肥をいただき、それを田んぼに返すことにより、琵琶湖に流した水を回収し、再利用することで循環する。また、田んぼで採れた藁、もみ殻、粉糠といったものを採れた分については全部田んぼに戻すことにより、化学肥料が少なくなる。

○肥料であっても、やはり琵琶湖に関していえば、負担をかけていることになるので、環境を保全しながら継続的な農業をやれるような取り組みをしていこうとしている。

○豊かな生きものを育む水田づくりについては、今年度からやりましょうというところであるが、田んぼの中の水がどれだけプランクトンを含んでいるのか調査し、田んぼで魚たちの餌を供給できるような環境をつくっていくということも、われわれの責務であるのではないか、それが水田と魚との関わり合いの中で重要なことではないかと考えている。

 

○販売面について、卸している東京の米屋は42000円/玄米60kgでゆりかご水田米を売っているが、琵琶湖と繋がり、魚が田んぼの中で泳いでいるとなると、すごく安全なイメージをもってくださる。滋賀県や周辺の人が琵琶湖に持つイメージは良いものばかりではないかもしれないが、そういう点をもっと推していく必要があると考えている。微力ではあるが、毎日ゆりかご水田の情報をFacebookで流している。

 

○栗見出在家町魚のゆりかご水田協議会で活動している。うちの地域では、自治会長がこの協議会の会長を務めることになっており、地域を挙げてゆりかご水田米づくりに取り組んでいる。琵琶湖に面しており、新興住宅地も10戸ほどあるが、老若男女問わずということで取り組んでくれているのが特徴である。

○3月末に、せき板はめをするが、全集落から80人余りが参加してくれており、区の年間行事にもなっている。オーナー制度を取っており、水田のオーナーさんと地元の子どもで田植えをする。

○濁水を流さないようするため、GPSの田植え機を使用しており、濁水や深水でも田植えできるので、濁水は流さないですみ、琵琶湖の保全という部分を考えている。

○知事にもお越しいただいたことがあるが、6月には、生きもの調査会ということで、琵琶湖博物館の学芸員を講師に招き、魚の勉強会をする。これも、オーナーさんも家族連れで、県立大学や長浜バイオ大学も参加してくれ、大賑わいである。

○また、農家民泊ということで、他県から修学旅行で来た京都に来た小中学生の受け入れもやっている。だいたい家一戸に3人から4人、10軒ぐらいで、1クラス。伝統料理のヨシの葉と、米粉でちまきを作り、食べてもらっている。県水産課の職員に頼み、ふなずし漬けも体験してもらう。

○9月になると、オーナーさんと地元の子どもたちも交え稲刈りを行う。東近江市のふれあいフェアということで、ゆりかご米のおにぎりと米粉ロールケーキの販売を行う。ロールケーキについては、週に2回、県立大でも販売するがおかげさまですぐに売り切れる。

○企業として唯一この協議会に参加している(積水化学工業株式会社滋賀栗東工場)。ゆりかご水田の魚道について、当社ではプラスチックの形成品、塩ビパイプや強化プラスチックの製品を作っており、その材料を魚道に活かしてもらおうということで提供させていただいている。2014年度から、当初は3地区ぐらいから始まったが、いまは7地区まで広がった。

○木製だとどうしても傷んできて、その都度付け替えをしないといけないため、耐久性に優れ、水に濡れても強いプラスチック形成品は大変好評いただいている。

○どうせ付け替えるのであれば魚が上りやすいものにしたいということで、単に付け替えるだけではなく、傾斜角や板の間隔が適切なものか水産振興協会の人にも見ていていただいている。その縁もあって、先ほど話があった、生きもの観察会とか稲刈りに社員4、50人が参加させてもらっている。新入社員は全員参加としている。

○工場の中でもやはり従業員にもゆりかご水田のことを知ってもらうため、食堂で提供したり、祭りのときにお米を提供していただき、祭りの場でゆりかご水田もPRしたりもしている。

協議会としてのこれまでの取組

○この協議会の発足当初は、とにかくこのままの農業ではだめだという危機感から、将来について話しあい、挑戦しようと。「各地で色々な取り組みをされている。まずはそのまねでいい」という感じであった。当時はゆりかご水田ありきではなかった。

○それだけでは先発の人が絶対的に強いので、それなら私たちはもっと特徴を持たそうということで、環境配慮・循環型ということも盛り込んだかたちで進めていくこととなった。

ちょうど有機肥料を提供いただけることとなり、化学肥料はもう絶対に使わないでおこうということで、全部有機肥料となった。

○私がゆりかご水田を始めた1年目の収量は、8.5俵、品種はコシヒカリ。世の中に出回る他の米が安すぎるだけで、思っていたよりは高い金額ではなかった。

○肥料をたくさんやり過ぎると倒れやすいので、そのためにヤタカスというケイ酸の類いのものをJAさんからいただき、肥料として使っている。

豊かな生き物を育むための水田づくり・魚のゆりかご水田(米)の普及のために

○地域の人間が特産物を調理し、有名人に食べてもらう人気番組がある。それをゆりかご水田でやらないかというご提案をいただいたことがあるが、放送されると2千袋は注文が入るとのこと。他の会員にも相談したが、とてもじゃないがそこまでの数は準備できず、諦めた。今後、さらに水田米をPRしていくとなると、それなりの体制を取っていかないといけない。

○世界農業遺産を目指しているということで、私たちのところにも年間千人近く視察に来られるが、そのたび、のぼり旗を立てて、皆さんにPRをさせていただいているところ。

○しっかりと次世代に継承できるよう、仕組みをしっかりとつくり、農業の価値を高めて、PRをしていくというストーリーで頑張っている。SDGsのロゴシールも、のぼり旗の下に貼り、PRもしているところ。

○だが、情報発信がまだまだ十分に行えておらず、魅力が十分に伝わっていないという点が課題かと思う。遡上から産卵、生育、そしてまた琵琶湖に帰っていくというこのストーリーの中で米づくりをしているので、それをしっかりといかにより多くの方に伝えていくかが重要。徐々には広がっているが、今後もぜひ県にバックアップいただきたい。

○一般の農業の委員会とか、市の農業関係の会議に出ても、なかなか「ゆりかご」という単語自体も出てこない。県でも、私たちのような者が集まるこういう場だから出ているのではないかと思う。

○もしかしたら生産者にも、「ゆりかご水田は難しそう」と思っている人が多いのではないかと思う。自分たちのように先に取り組んでいる者が、そういった方々にも伝えていくことができるような、そういったシステムや勉強会、普及員さんを通じて試験的に実施したりといった取組があればよい。PRも大切だが、そういうところも同時に進まないとやはりさっき言っておられたように、オーダーがあっても出荷できるだけの量がないとなってしまう。

○百聞は一見に如かずで、やはり一度田んぼの現場で、魚が遡上するような場面をみていただければよいのではと思う。いずれにせよ、いかに消費者との交流をもっと増やしていくか、直接PRするような機会がもっとあれば必ず共感いただけると思っている。

○減反政策自体はもうないが、やはり皆が作りすぎると米が余り、値段が下がってしまう。

それを避けるために、全国的にJAが中心になって調整されているという状況。ゆりかご水田のような環境に配慮した米作りを行っている地域はそれを免除するとか、そのための特区を作るとか、そういった制度があれば環境や生態系にも配慮した農法をする農家が増えるのではないか。

○あとは、魚のゆりかご水田米と別の農作物も一緒に、「魚のゆりかごブランド」みたいな感じで、ブランド価値を上げていくようにすれば、もっと知名度も上がっていくのではないか。

○滋賀県はその辺に縛りがある。他の事例、生物多様性の観点からいえば、例えばコウノトリを育む地域等は、お米以外の、例えば大豆をつくっても「コウノトリを育む農法」としてマークが付き、それが売れるという。確かに、水田はスターターとして絶対に必要だったが、「水田」という縛りをいつまで続けるのかというところもある。

○環境に配慮したとか、生物多様性に配慮したとか、認証制度のようなものもいっぱいあるから少し分かりづらいのかなというのも感じている。生物多様性の取り組み認証制度、魚のゆりかご水田、豊かな生きものを育む水田といったその辺を、世界農業遺産になるであろうというタイミングででも少し整理できたらと思う。

○全体を括るこの「滋賀生物多様性」という大きなカテゴリーの中に、ゆりかご水田米、生きものを育む水田、生物多様性大豆もあるとか、そんな整理もあっていいかと思う。

○ゆりかご水田米の量を集められないという理由について、銘柄の関係もある。例えば、皆がコシヒカリばかりつくったら量はそれなりに集まるが、 魚のゆりかご水田=コシヒカリ となる。その土地土地で事情等もあるので、それは難しい。

○直接支払交付金について。自分は「環境こだわり」+「魚のゆりかご水田」でやっているが、交付金額はこだわりの方は1反当たり4千円、魚のゆりかごは3千円である。残念ながらいずれかでしか交付金が下りず、そもそも金額的には逆であるべきなのではないかと思う。それなら高い方をもらおうと「こだわり」で申請するし、そういう扱いをされるとなると手間をかけてゆりかごに挑戦しようとならないと思う。ゆりかご水田の普及が進まない理由はそこにもあるかもしれない。

知事から

対話を振り返って

●(米粉ロールケーキとシフォンケーキについて)もちもちでとても美味しい。これは売れるわけだと思う。

●私達も広められるようにバックアップしていくが、生産者さんも、がんばって作っていただいているという部分を発信いただきたい。すごく頑張っていただいている皆さんのような方々の周りの人にも「いいよ」ということを言っていただく。やはり、それがまずは一番かと思う。

●「魚のゆりかご」と水田がどう結びついているのか、そこが消費者にとって難しいのかもしれない。私自身もPRしていて、「どういう仕組みなの」「なぜそんな名前なの」と言われることがある。魚が川を遡上するという事実はわかるのだが。

●米が収穫できるまでのストーリーについて、消費者に分かりやすく、共感が広げられるような、取組を伝えることができるような動画のようなものが必要かもしれない。

●日本農業遺産の認定式の翌日、ここ滋賀のお客さんにゆりかご水田米を食べていただいたら、ものすごく好評だった。やはり、ストーリーを話しながら売ると買っていただけるが、普通に置いてあるとなかなかという部分がある。そこはやはり動画を見せたりとか、少しアプローチしてもらうような工夫をしていけたら違ってくるのかとは思う。

●米作りの制限免除について、県と協議会等が調整しながら、一定の作付面積等を特区とするのは一つの方法かもしれない。

●交付金については、国の制度であるので金額そのものを県が変更することはできないが、

例えば先ほどの話ではないが、世界農業遺産認定と併せて、5年なり10年なり期限を切り、国費の制度に県単で補助を上乗せすることにより、ゆりかご水田の価値を高めたり、挑戦してくれる農家さんを拡大していったりというのは方法の一つかもしれない。それにより、すでに関わっていただいている積水化学さんのように、皆さんに協力してくださる企業も出てくる可能性がある。

●まだまだお伺いしたいことはあるが、たくさんお話を聞かせていただいたので、どうやって応援していくか、広めていくのか、われわれも考えますので。ぜひこれからも一緒に力を合わせて頑張っていきましょう。