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第65回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手公益財団法人滋賀県建築士会女性委員会の皆さん

滋賀県建築士会女性委員会の皆さん

公益財団法人滋賀県建築士会女性委員会の皆さんと対話を行いました。

滋賀県建築士会は、大規模災害に対応できる応急危険度判定士の育成を行い、安心安全な建物の保全に寄与しながら、地域の歴史的建造物の保存と活用に貢献できる専門家であるヘリテージマネージャーの育成を行ったり、行政と連携しながら空家対策を行ったりと、建築士の職能を活かして、より広く社会に貢献することを目的に活動を行っておられます。

 その中において、滋賀県建築士会女性委員会は、女性建築士の技術向上と社会との連携及び、交流と親睦を図り、女性の感性・情熱を持って当会の発展に寄与することを目的として設立され、女性 建築士としての可能性を拡げるため、地域社会に発信できる人づくり、まちづくりの一助となる様々な事業を展開されています。

 今回は、女性委員会の皆さんと三日月知事が、女性建築士ならではの目線で考える住みよい居住空間等について語り合いました。

知事から

今回の対話にあたって

●まずは私からのお願いとして、ぜひ、滋賀を盛り上げるために、皆さんの力をお貸しいただきたい。県も含め、まだまだ女性の参画が足りないと感じており、そのような状況を改善しつつ、女性の視点ももっと加えられた滋賀県にしたいと思っている。

●例えば、現在放送中の連続テレビ小説『スカーレット』は、信楽焼というものにスポットライトを当て、ドラマではあるが女性の頑張りがクローズアップされる展開となっている。

●また、明日(10月22日)から始める戦国のキャンペーンについても、戦国武将といったら男性ばかり思い浮かべがちであるが、その周りにいた女性を少しクローズアップして、PRしようとしている。

●ぜひ今日は、女性建築士である皆さんから、様々なご意見をきかせていただきたい。

滋賀県建築士会女性委員会の皆さんから

滋賀県建築士会女性委員会について

〇滋賀県建築士会は、昭和26年に設立され、昭和33年に社団法人となり、平成24年に公益社団法人に移行した。安心・安全な建物建設に関わりながら、より広く社会に貢献することを目的に、活動を行っている。近年、地震災害や台風被害が想像を超える規模で発生しており、建築士会としても、応急危険度判定士の育成を行い、災害時には現地に赴いて、建物の安全性を調査している。

〇また、日本が世界に誇れる歴史的建造物の保存と活用に貢献できる専門家、ヘリテージマネージャーの育成を行い、日本文化を次世代につないでいく活動をしており、現在多くの地域で問題となっている空家対策についても、行政と連携しながら対応しているところ。

〇この建築士会の中で、平成2年に女性委員会が誕生し、来年30周年を迎える。技術向上や社会貢献はもちろんだが、女性の感性、情熱をもって本会の発展に寄与するように設立された。

〇活動の一端について、「Doシリーズ」と題して年に2~3回、女性委員会主催の事業を開催しており、今年度は11月に竹生島でNo.80、来年の3月に大津市の坂本でNo.81の計画をしている。

〇各県の女性委員会が集まり、近畿では近畿建築士協議会女性部(以下、「近建女」)、全国では、全国女性建築士連絡協議会(以下、「全建女」)を形成している。

〇2府4県の近建女では、年に5~6回の会議を開いて、共同で事業も開催しており、今年度は「くらしと住まいをみつめる継続セミナー」として、「高齢社会と住まい」と題したセミナーを11月に京都で開催予定であり、一般の方や学生さんといったどなたでも参加いただける。

〇全国大会も毎年夏に行っており、情報交換やスキルアップを目的とした勉強会をしている。一昨年前から魅力ある和の空間とし、日本家屋の住環境の良さを再確認しようということで、各都道府県の推薦する建物を2、3選び、ウェブ版のガイドブックを作成した。

〇このように、建築に携わるものとしての自己研鑽に務めながら、生活者の目線や地域との繋がり、コミュニケーションを持って、色々な問題と葛藤しながら元気に活動している。

日頃の取組について

〇不動産会社において、古くなった賃貸マンションをいまの時代に合った建物にリノベーションしたり、建物や設備の点検をしたりといった業務を担当をしている。

〇女性委員会では、前々委員長を務め、いまは相談役をしている。建築設計事務所を運営しており、行政施設の設計監理も請け負っている。近年、「公共建築物等木材利用促進法」というのが施行されたので、各市町で木造を使った子ども園や研修施設を設計させていただいている。地元産材を使うといっても、JAS材なのか、びわ湖材にするのか、非常に難しいなと思いながら、日々勉強しながら仕事をしている。

〇自分を含めて女性スタッフが5名おり、新入社員の1名を除き、皆が子どもを育てながら、産休・育休を取って仕事を続けているような状態である。自分自身も、息子二人を育てながら仕事をしてきたので、大変さを痛感した。子どもの手が離れた今、逆に若いスタッフが働きやすい環境をつくれるように、少しでもバックアップしていきたいなと思っている。

○建築設計事務所を開業しており、民間業者から委託された仕事が中心である。住宅、保育園、社会福祉・医療関係施設等様々であるが、自分なりの女性目線でどういうものにしたらいいのかなと思いながら仕事をしている。

〇自分も設計事務所を運営しており、住宅の設計監理や公共工事を主に担当している。建築主の思いを、いかに自分で受け止めながらするかということに関して、コミュニケーションを取り、建築主さんとどういうかたちでお話しすれば、自分の考えが通じるのかいつも考えるようにしている。特に公共施設については、施主とのコミュニケーションが十分でないままに設計監理されているものも見受けられるように思うので、職員や利用者の話を聞き、設計に反映させながら、監理をしている。

〇私の会社は工務店なので、現場に出る機会も多く、女性建築士として様々な経験をしてきた。オールマイティーな建築士でいたいと考えており、新築住宅や住宅改修にあたり、絶対に建築主の話を聞くようにしている。相手の思いを丁寧に吸い上げ、まとめるという部分は、見た目の柔らかさ等も含め、女性の得意分野であると思っている。男性社会であった建築業界において、自分なりに剛と柔を使いわけながら仕事をしてきた。

県産木材の活用について

〇かつて、新築住宅を県産材で建てようという際に、材料が欲しいときに必要なだけ準備できない、なかなか使いたくても使えないという経験をしたことがある。

〇福祉施設の設計監理をした際、入所者が自分の家庭にいるかのような気持ちになれるような雰囲気のものを建ててほしいという意向をいただいたことがある。用事がしやすいからとか、移動がしやすいからというのではなしに、「家庭だったらこんな雰囲気の生活かな。」「こう工夫をすると支援しやすいよね。」といった視線で物事を考え、優しい空間を構成するためには、やはり地元の木を使いたいなと思っている。

〇県産材を使用する際、補助金を活用するとなると、交付決定がされ、着手、完成までを単年度で行わないといけないのでかなり厳しい。木材を使用するとなるとそのわずかな期間で確保し、乾燥させるといった準備も必要になる。年度当初からスタートさせてなんとか間に合うといった感じである。

〇柱材については、あらかじめ長さ・太さも分かるので揃えやすいが、梁材となると、設計してからでないと必要な部材がわからない。滋賀県産材はどうしてもスギとかヒノキが多く、県内のものだけでは賄えないことは多い。

〇びわ湖材にしようと思うと、基本的には県内で加工までしないといけないが、県内にどうしてもJASの認定工場が少なく対応できなかったり、加工できなかったりすることがある。なかなか、県内で全てを賄うことができるような施設が整っていないというのが現状である。

〇単刀直入に言うと、他県から材を買ってきた方が安かったりする。わざわざ滋賀でやって、滋賀でする方が高くつく。長野とか、岐阜とか、良質な木が一定数確保できる県から買った方が安く、素材も良かったりする。

〇とても自然豊かな県なので、滋賀県の良さをもっと生活の中に密着させるような取組ができれば、気持ちの面でもすごく豊かになると思う。都会に行くほど、木造建築自体が子どもたちにとって身近なものではなくなっていたりする。

〇家に畳がなく、柱の存在に気が付かないような様式が多い。

〇滋賀県には、工場を持ち、自分で刻みながら仕事をしてくださる大工さんが今でも多くいる。土壁の職人さんもそう。関東の友人に話すと、土壁なんかとてもじゃないができないとのことであった。滋賀にはまだ職人さんが残っていて、材料はあり、こういうのを絶やさないようなかたちで継続していくことが大切だと思うし、行政にもがんばってほしい。

文化的な建築物や古民家の維持や利活用、空家対策について

〇女性委員会の中でもヘリテージの講座に参加して、資格を習得している者がたくさんいる。地域そのもの、建物にまつわる人々の暮らしといった文化そのものが残っているので、それを保存し、いまある有形文化財を、今後どのように活用していくかというのを考えるのもヘリテージマネージャーの大きな役割である。県内には現在で112人がいる。

〇昔は、その土地その土地で、とてもいい独特な雰囲気の街並みがあったが、いまの新興住宅というのは、日本中どこも似たようなものになっている。滋賀県では、「県の顔」となるような町づくりができたらいいのではないかと考えている。

〇生活様式ががらりと変わっており、今から昔の生活水準に戻るというのは不可能である。

ただ、土壁とか、木の空間というのは、やはりよいものであり、誰もが空間の持つ魅力を肌で感じることができる。昔のものを古いままを残すということではなく、日々の生活の中にマッチするようなポイントを一つ入れてしまえば、あとは皆が自分の趣味に合わせて、例えば居間や蔵にリノベーションすることができる。

〇例えば、古民家といったら、暗い、寒いというようなイメージが先行しがちなので、そうではなく、こんな空間が味わえるというようなところをPRすれば、魅力に気づいてもらえるはずである。ヘリテージの調査においてもそういう経験はある。

〇古民家等の保存・リノベーションについては、本当に緊急を要する話だと思う。良いものでも、良い評価を得られないと所有者はそのことに気づくことができず、維持しようとも思うことができない。

〇それだけ費用をかけるのなら、新築が建つというような場合もある。文化的な価値があり、思い出の詰まった家屋を残すのか、壊してしまうのか、葛藤されることも多い。

〇空家対策への力の入れようは市町によって様々であるように思う。空家予備軍に該当するものでも、少し手を加えれば何とかなるのに、持ち主がまったく気がないというパターンが多い。持ち主が遠くに住んでいることが多く、その場所に愛着もなければ、どういう価値があるかというのも知ろうとしない。だからこそ、これだけ利用価値がある、このように使えるというのをお知らせするところが出発点だと思う。

医療福祉と建築の関係について

〇現在、建築士の中で全国的に問題視されているのが、医療福祉と建築の関係である。

厚生労働省が提唱している地域包括ケアシステムは、小さなコミュニティーの中で小さく助け合いながらやっていきましょうというものだが、その構築に向けての資料等には、小型の病院、診療所、通所施設といったところに、それぞれの専門職名がきちんと書かれてある。できれば最期は住宅で迎えたいという意味から、「住宅」も記載されているが、そこからは建築士の名前が欠落してしまっている。

〇建物・住宅というのは、生活と密着しているものなので、その生活の中に介護する状況をつくり上げるというのであれば、建築士がもっと医療福祉分野の中にも入っていく必要があり、それが本来の姿ではないかなと思っている。高齢社会で介護福祉が住宅の中にも関わってくるという意味で、建築士の住まいに関する考え方というのもそこにプラスされていかないと完成されないのではないかと思う。

〇最初に委員長から説明があった「全建女」においては、既にこの地域包括ケアシステムの中に建築士も入れようかという県も出てきていて、先進県はかなり活発的に動かれたりしているが、滋賀ではまだまだというのが現状である。

〇在宅介護において、施設から退所し、在宅で暮らそうとされているような場合において、自分の住まいでゆったりと過ごしたいと思われているにも関わらず、いわゆる「施設」をそのままお宅に再現されようとするパターンが多く見受けられる。建築士としては、そういった方々が安心、安全、快適であるための知識も経験もあるので、是非とも制度の中に加わりたいが、入り込むスペースがないのが現状である。

〇施設とか公のものはある程度誰でも使える、最大公約数的な仕様となるが、住宅は一人一人のものであり、手が不自由な人、足が不自由な人、背の高い人、低い人と個々のケースに応じたものにすべきである。また、家族に健常者もいるわけで、そういう方の利便性も考えたものにしないといけない。動線の工夫等が全くなく、家族が無視されたような建物が多いように感じる。

〇本来、住宅有りきで、そこにどう住むのかではなく、まずはどんな生活をしたいのか、将来像もイメージしつつ、住まいを建てていただくのが一番だと思う。案外、家族の中でもその辺りを話せていないことが多く、そこに建築士が入ることにより、家族皆の思いや意向が引き出せたりもする。

〇同じような思い・志をもつ全国の建築士から情報をいただくが、例えば、長崎、愛知、岐阜県等は、「福祉建築士」というような名前で、何時間もの講習を受けた結果得ることができる、福祉に特化した資格を独自に設けている。

〇福祉住環境コーディネーターというのもあり、建築士でその資格を取り、福祉に関わる住宅改修を行っている建築士はたくさんいるが、まだ仕事と結び付いていないようなところがあるのかなというのが正直な感想である。介護、医療、福祉といったそれぞれの分野のプロの方々の考え方に、ほんの少しだけ建築士の目線を加えていただくだけで、より充実した住まいが出来上がってくると思う。

〇医療・福祉部門の関係者の方々とうまく連携していくためにも、知事がおっしゃったような仕組みをつくってもらい、その一つのハブに建築士を入れていただければと思う。

知事から

対話を振り返って

●県産材をもっと活用していくにはどうすればよいのかと日々考えている。必要な時に必要な量を提供できるような体制づくりを進めており、従来と比べると徐々に改善されているとは思うが、今後も更なる改善に向けて取り組んでまいりたい。

●公共建築物や保育所、住宅の中でも子ども部屋やおもちゃといった形でも、もっと木材の使い道があるのではないかと考えている。

●滋賀県にはお預かりしている文化財もたくさんあり、建築物も含め、しっかり守っていかないといけないと思っており、街並みとか、昔ながらの建築物とか、そういうものを残しながら活用するために、そもそもどんなことが課題になってくるのか今後も意見を聞かせていただきたい。

●知事になり、県内各地で短期居住させてもらっており、古民家保存等に関する切迫感や、なくすのはもったいないという感覚については、私自身も共有している。古民家で過ごしていると、本当に「いいな」と思うが、お金をかけて保存していくことについて、皆さん様々な葛藤があるのだろうなと感じており、ヘリテージマネージャーや古民家の再生活用と、空家対策とはリンクすると思う。

●住まいのことを一番理解しているのは建築士さんなので、医療福祉のネットワークに入っていただけるよう動いていきたい。これから、社会的なニーズもますます大きくなってくるので、早速、福祉部局とも話をする。

●本人のQOLという観点からも、住まいというものがとても大事な要素だということは、おそらく多くの医療福祉の関係者が理解されていると思うので、あとは仕組みをなんとか作っていくことができればと思う。

●今日は、県産材の利用、古民家、空家の活用、医療・福祉のネットワークの中に建築士を組み込むための仕組みづくり等、たくさんのことをお話しいただいた。今後、医療福祉の関係機関とも連携して皆で勉強を行う機会を作っていきたいと思う。