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第54回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手「八幡高校社会福祉部(オレンジリボンS’特派員)」の皆さん

「八幡高校社会福祉部(オレンジリボンS’特派員)」の皆さん

今回は、「八幡高校社会福祉部(オレンジリボンS’特派員)」の皆さんと対話を行いました。

八幡高校社会福祉部は1971年に発足した福祉ボランティアの部活動です。約100名の部員が所属し、歌に手話をつけた手話パフォーマンスなどのボランティア活動を行っておられます。昨年の4月からは、県と県警が児童虐待防止を目的に推進する「オレンジリボンS’プロジェクト」の「特派員」として、児童虐待と虐待防止の取組について理解を深めてこられました。

昨年11月には、その取組が評価され、「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」で内閣府特命担当大臣表彰も受賞されました。

今回は、手話パフォーマンスを披露いただいた後、「オレンジリボンS’特派員」として活動する中で学んだことや、課題として感じていること、虐待防止に向けてこれから何ができるのかなどを話し合いました。

知事から

今回の対話にあたって

  • 皆さんが昨年、とても大きな賞である「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」内閣府特命担当大臣表彰を受賞されたと聞いた。児童虐待について知り、日常的に犠牲になって辛い思いをしているが声が出せないもしくは気付いてもらえない人がいることを広く知ってもらおうとする皆さんの活動が評価されたことによる受賞であり、とても素晴らしいと思う。私も敬意を表して感謝を申し上げたい。
  • 私は高校生と大学生の父親である。皆さんのお父さん、お母さんと同じ世代かもしれない。悲しい思い、辛い思いをしている人がいるなら、どうやってそれを救ってあげたら良いのかを、よく娘や息子と話している。辛い、悲しい思いをしているなら、どうやってそれをみんなとシェアすれば良いかということを話している。
  • 一緒に考えることは大事で、無理する必要はないが、出来ることからみんなが一歩ずつ踏み出すことは大事ではないかと思っている。今日は、皆さんが高校生活の中で様々に考えながら、一緒に一歩を踏み出していただいていることを聞かせてもらって、一歩踏み出せていない人がいるなら、どうやってそれを広げていったら良いかを一緒に考えたいと思っている。

「長浜バイオ大学の学生」の皆さんから

取組概要について

  • 八幡高校社会福祉部は、昭和46年に設立された伝統的な部活動。現在は1、2年生を合わせて110名の部員で活動を行っている。社会福祉部という名前になったのは、ボランティア部という名前だと、ボランティアに限定されてしまうからである。
  • 活動内容としては、まずはオレンジリボンS’特派員としてフィールドワークで学び、発信する「オレンジリボン啓発活動」。また、保育所、高齢者施設、近江八幡の余暇支援クラブ「はちの子」、竜王町のサマースクールでボランティア活動もしている。東近江やまの子キャンプでは青年リーダーとして子どもたちの活動を指導・支援するとともに、地域のお祭りや青少年赤十字活動、国際交流へも参加している。手話パフォーマンスを披露するなど色々と活動させていただいている。
  • 保育所や高齢者、介護施設、障害者施設への訪問では、利用者さんと話をしたり、アクティビティに協力したりしながら、楽しい時間を過ごしている。地域にある作業所の祭りにはスタッフとして参加し、模擬店の運営や司会進行も行った。
  • 社会福祉部は、2004年からJRC(青少年赤十字)に加盟し、活動している。JRCメンバートレーニング・センター(=JRCの教育プログラムの一つ)や青少年赤十字スタディー・センター(=全国のJRC高校生メンバーを対象にした教育プログラム)、青少年赤十字国際交流集会などに参加する機会があり、学校中心の地域活動から、全国、海外への活動まで視野が広がった。
  • 児童虐待防止のシンボルであるオレンジリボン活動には9年前から参加し、今年で10年目になる。地域での街頭啓発や、知事も来られた「びわ湖一周オレンジリボンたすきリレー」など様々なオレンジリボン活動に参加してきた。その活動が認められて「オレンジリボンS’特派員」に任命された。過去に虐待を受けていた方から実体験を聞いたり、彦根子ども家庭相談センターに訪問したり、里親の方に取材したりした。訴えることができず苦しんでいる子どもや親がいるという現実を、私たち高校生の目線で発信し、全国に知ってもらえたら良いと考えている。また、出前講座などを通じて虐待の現状を他の高校生にも知ってもらいたいと思っている。
  • このような活動が認められて、内閣府主催の「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」の内閣府特命担当大臣表彰をいただいた。内閣府で賞状をいただいて緊張した。内閣府はめったに行けないところである。東京も初めてだったので緊張したが良かった。私はとても誇りに思っている。社会福祉部は他の部活動と違って、ほとんどの活動を校外で行っているので、地域の方々と関わる機会が多い。コミュニケーション能力やボランティア精神、責任感などを身につけることができる。
  • 活動の一環として、童謡やJポップの曲に手話をつけた手話パフォーマンスを行っている。学校の文化祭でのステージ発表だけでなく、「平和祈念式典」や、人権尊重と部落解放をめざす「県民のつどい」といった地域のイベントで披露している。
  • 「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」で内閣府特命担当大臣表彰をいただいたことは、とても名誉なこと。運動部だとインターハイ優勝などの目標を持って活動するが、ボランティア活動はそういった種類の目標はない。なので、今回、私たちのボランティア活動を評価していただいたことは、とてもうれしいことで、モチベーションも上がっている。
  • 内閣府特命担当大臣表彰大臣賞を受賞した時に、祖母が新聞を見て「載っていたな」と喜んでくれた。すごく反響があった。活動を新聞などで取り上げてくださるので、知ってくださる人が増えて、広まっていると感じる。

オレンジリボンS’特派員の活動で学んだこと

  • オレンジリボンS’特派員になって初めての活動では、過去に虐待により施設に入所されていた経験のある男性に学校に来ていただいて話を聞いた。身近な範囲に、本当に虐待されている人がいるんだと思った。私の周りの子はお父さん、お母さんに「かわいい、かわいい」と育ててきてもらっている子ばかりで、暴力を振るわれたという子はいない。本当にそういうつらい過去を持った人がいるんだ、悩んでいる同世代の子どもがいっぱいいるんだと思った。
  • 彦根子ども家庭相談センターへも訪問し、職員さんにお話を聞いた。虐待を実際に受けている人は私の身近にもいなくて、初めて聞く話ばかりだったが、実際は虐待されている子がたくさんいるということが分かった。虐待が年々増えていっているという事実を知って、ショックだった。
  • 大津にある児童養護施設の「小鳩の家」に訪問させていただいた。実際に子どもさんが暮らしているところを見に行って、施設の子と遊んだりもした。幼稚園や小学生の子もたくさんいたし、高校生もいた。行く前は不安で、どういう子たちなんだろうとずっと思っていた。でも会ってみたら、普段ボランティアで行っている保育所の子たちと変わらず、いっぱい遊んでいっぱい笑ってという子どもたちだった。全然違うのではなくて、本当に同じという感じのとても明るい子どもたちだった。過去に虐待を受けているし、親とも一緒に暮らせないから、心に傷を負ってふさぎ込んでいるかと思ったが、全然違った。楽しそうにしていた。
  • 里親への取材訪問もした。里親の家に行って、里親になられたお父さんお母さんに色々と話を聞いた。子どもさんにも会いたかったが、学校に行っておられた。最初は気遣いも必要だったと思うし、血のつながっていない子どもを自分の子どものように育てるのは色々と大変だったと思うが、今は本当に打ち解けておられるようであった。
  • 「小鳩の家」は家庭的で、「家」という感じだった。職員の中には、専門性のある保育士さんや看護師さんもいらっしゃったので、これなら十分だと思ったが、「小鳩の家」の看護師さんにお話を聞くと、施設では子どもたち一人一人と十分に向き合うことが難しいことがあるとのことであった。やはり、親という存在は子どもたちに必要だと思った。
  • オレンジリボンS’の活動を通じて「なぜ虐待される子どもがいるのか」と考えると、母親や父親の心に余裕がなく、ストレスのはけ口になって、子どもが犠牲になってしまうというケースがあると思う。子どもを無料で預けて、時間を作って働いて、自分のための時間を持てたら、親もリフレッシュできるという面から、保育所の無償化は良い取組だと思う。ただ、保育所の設備などで、大人数の子どもを受け入れる準備が整っていないと聞いたので、保育士が足りない状態や安全が確保されていない状態で受け入れたらだめだと思う。保育士の人数を増やした方が良いと思っているので、受け入れはまだ待ってほしいと思っている。無償化する前に、保育士が増えないといけないと思う。例えば、保育士1人で園児30人の対応をしないといけない状況なると、命に関わる事件が起こってしまうと思う。

将来の夢について

  • 私は将来、保育士になりたいと思っている。社会福祉部が保育所でボランティア活動をしていることを中学生の時に知って、ずっと入部したいと思っていた。保育所に行くだけでなく、他の活動にも参加することで、色々な人と関わることができて、社会性やコミュニケーション能力が身に付いた。取材も色々と受けて、昔より話す能力も上がったと思う。将来にも影響があるので、この部活に入ってよかったと思う。
  • 姉が介護職を目指して勉強している。八幡高校に社会福祉部という部活があることを知った時に、姉の影響もあり、入ってみようと思った。私も介護の勉強をしたいと思っている。
  • 手話ができるようになりたくて、この部活に入った。将来の仕事に手話が関わるかは分からないが、どこかでぱっと使えたらかっこいいと思ったので、頑張ってみようと思った。
  • 外国には、親がおらず、自分がきょうだいを育てなくてはならないため、学校に行けない子どもたちがいるので、国際支援のボランティアができたらと思っている。
  • 社会福祉士になりたい。社会福祉部は、社会福祉士になるための経験を養える場所だと思ったので入部した。
  • 看護師になりたい。幼いころからこの夢を諦めたことがない。社会福祉部は子どもや高齢者と関わる機会があるので入部した。

これからの活動について

  • オレンジリボンの活動で虐待を減らしていったり、活動を通してグループ間で話し合ったりできると良い。
  • 入部前は手話だけの活動だと思っており、保育所や老人ホームに行く活動もあるとは思っていなかった。入部して部長から説明を受けた時に、こんなこともするのだと驚いた。1年過ごして、2年生になり、だいたい分かってきた頃に、オレンジリボンの活動に関わり始めた。私が初めて行ったオレンジリボンの活動は、彦根にあるショッピングモールでのティッシュやオレンジリボンを配ることであった。その時に滋賀県のキャラクターのキャッフィーの着ぐるみに入った。オレンジリボンの最初の活動がキャッフィーに入る活動で、すごく個性的だと思った。部長も頑張ってくれているし、私たちもサポートしていきたいと思っている。
  • 違う学校にも同じような活動する仲間を増やしたいという思いを持っている。ボランティア活動をしている部はあると思うが、社会福祉部のような部は県内にない。
  • オレンジリボンのグッズを作って、その売上金は募金するという活動をしてはどうかと思っている。私たちが販売することで、同世代の意識が変わるのではないかと思う。
  • 啓発のために校外で活動する時は、オレンジリボンをつけている。11月の児童虐待防止推進月間に、オレンジリボンを学校の昇降口に置いて、自由に持って帰れるようにしたら、多くの生徒がカバンなどにつけてくれた。高校生も問題に関心を持ってくれているようで嬉しかった。他の学校でもこのような取組をやっても良いのではないかと思った。

知事から

対話を振り返って

  • 色々な方のお話を聞いて、皆さん自身が変わったことがあると思う。知らなかったことや、自分たちが普通だと思っていたけどそうではないことや、色々な境遇、事情の人たちがいることなどを学べたと思う。言葉で表現できないことを学べていると思う。
  • 施設で元気に暮らす子どもたちもいてくれる。でも人数が多いと、どうしても向き合う時間が少なくなるので、より家庭的な状況で過ごしてもらうため、里親を増やそうと思っている。お父さん、お母さんになりたいと思ってもなれない人もいらっしゃる。そのような中、色々な御縁で結びつく子どもたちに愛情を注いであげたいと、里親になってくださる。いざ里親になってみると、想像していたのと違う、こんな大変だと思わなかったと上手くいかないこともある。また、子どもたちが成長してきた時に、本当のお父さん、お母さんではないということで、関係が上手くいかなくなることもある。なかなか簡単ではないが、増やしていきたいと思っている。
  • 今回、手話パフォーマンスを披露していただいたが、手話以外にも様々なコミュニケーションの方法があるので、コミュニケーションの方法を一度テーブルの上に載せて、どう普及していったら良いのか、手話言語や情報コミュニケーションについて条例が必要かどうかも含めて、県として検討を進める。このような対話の場面でも、言葉を出せない人も一緒にコミュニケーションを取れると良い。私も手話を学ぶ必要があるかもしれないし、必要に応じて、通訳の人を配置したり、多様なコミュニケーション手段を用意するなど、誰でも共有できるようにした方が良い。もっと、もっと改善していきたいと思っている。
  • 虐待を受けた人が親になった時に知らず知らずのうちに暴力に手を染めてしまうことがあるようである。だからずっと連鎖し、続いてしまう。日常的に暴力が振るわれているので、お子さんが気付かない。痛いし、嫌だろうが、当たり前になっており、声を出せない。それはすごく闇が深いというか、難しいと思う。周りにも虐待を受けている子や友達がいるかもしれないし、今はそうではなくても、そうなってしまう友達や周りの人たちもいるかもしれないので、絶えず「大丈夫?」「何か困ったことない?」とお互いに声を掛け合うことや見守り合うこと、気付く心は大事だと思う。そういう意味でも、皆さんはすごく良い活動をしてくれているし、勉強してくれていると思う。
  • この部活は色々なことを体験できるので、様々な角度から幅広く経験した上でやってみたいことを伸ばせると思う。自分が好きなこと、得意なこと以外でも色々と活動して幅広くなれば良いと思う。
  • これから幼稚園やこども園、保育所が無償化になっていく。そのこと自体は私もとても良いことだと思う。私たちが払っている税金で子どもを育てる応援をして、保育所に子どもに行ってもらうのにお金がかからなくなる、かかっても安くなるのは良いことだと思うが、その分、預けたい、働きたいという人が増えてくると、保育士や保育所が足りなくなる。実は今、足りないところは保育所だけではなく、例えば介護や看護の職場も足りない。今取り合いになっている。給料や処遇を上げてきているが、こっちが上げると、あっちも上げてというように取り合いになる。あと、給料も大事だが、給料だけでなく、仕事以外で余暇を楽しめたりする職場が選ばれるようになるので、環境を改善していくことも大事になる。
  • 虐待を受けた人の話を聞いて、自分でどう消化するか難しかったところもあると思うが、そういう側面から社会や家庭、親を見てみるのは一生忘れない活動になったと思う。だから、なぜ虐待が起こるのか、虐待を防ぐためにはどうしたら良いのかということを、自分の家族や友達など色々な人にぶつけてみると良いのではないか。皆さんが虐待を受けていないなら、なぜお父さんお母さんは自分たちを虐待せずにいられるのか。もし周りの友達が親から虐待を受けているとすれば、なぜそうなっているか、何が違うのかということを考えてみると、虐待を減らしていく、なくしていくヒントがあるような気がする。不満、負担のはけ口が、より弱いところにいってしまっている。私も一緒に考えたいと思う。
  • 活動を広めたいと思っているなら、他の都道府県で、同様の部活動をやっている人、もしくは、他の国の高校生で、同じような部活をやっている人がいるのか、私たちも探す。探して、うまくつながりそうだったら、「こんな部活があるよ」と皆さんに紹介してみる。それでその部活とコミュニケーションを取って、「どうしてる、何してる」と話してみれば、また広がるのではないか。
  • 八幡高校は理系、文系、看護系に分かれているが、看護系でも色々な科学のこと知らないといけないし、文系でも看護のことを知っているとより幅広くなる。もちろん今の3年間は専門で頑張ってほしいが、大事なことは意外と、その間にあったり、そのつながりの中にあるかもしれないと、卒業してだいぶ経った今は思う。私は文系だったが、卒業してみると、意外に理系と文系はあまり変わらないし、これからは看護や福祉をもっと知らないといけないとすごく思う。
  • 県では、オレンジリボンを作業所などでつくってもらっている。例えば、オレンジリボンをみんなでつくって、販売するのも良いかもしれない。皆さんの目線で、もっとかわいく、もっと付けやすいものにして、「協力して、買って。この一部が困っている子どもたちや人たちにいくから」と販売するのも私は良いと思う。例えば、オレンジリボンを他校に広めるなら、他の高校に行った友達に協力してもらうのも良い。応援するので、色々とやってみたら良いと思う。