人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。
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令和5年(2023年)1月(第177号)
「滋賀県障害者差別のない共生社会づくり条例」をご存知ですか?
全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害者差別の解消を推進することを目的として、平成28年(2016年)4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」と言います。)が施行され、本県においては、平成31年(2019年)4月に「滋賀県障害者差別のない共生社会づくり条例」(以下「条例」と言います。)が施行されています(全面施行は令和元年(2019年)10月)。
今月のじんけん通信では、この条例により新たに設置された「地域アドボケーター」の方にインタビューを行いましたので、その内容も含めてご紹介します!
すべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を目指し、県ではさまざまな啓発活動を実施しています。ぜひ積極的にご参加ください!
この条例では、「障害を理由とする差別」について、正当な理由なく、障害を理由として、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりすることと定義しています。
また、条例では、障害のある人の生活に関わる下記の11の分野について具体的に差別の内容を示すとともに、11の分野以外の行為についても「その他」として包括的に禁止しています。
◆障害のある人の生活に関わる11の分野
1.教育分野、2.労働・雇用分野、3.商品の販売またはサービスの提供分野、4.福祉分野、5.障害福祉分野、6.医療分野、7.建物・公共交通分野、8.不動産取引分野、9.地域活動分野、10.情報の提供分野、11.意思表示の受領分野
障害を理由とする差別の具体例
・アパートを借りるときに障害があることを伝えると、それを理由に貸してくれなかった。
・盲導犬と一緒に飲食店にはいろうとしたら入店を断られた。
・障害のある人は保護者や介助者が一緒でないと窓口対応しないと言われた。
・本人を無視して保護者や介助者にだけ話しかけた。
障害のある人が日常生活や社会生活において受ける制限は、障害のみによって生じるものではなく、社会の中にあるバリア(社会的障壁)によって生じるものであるという考え方です。
この条例により、下図のとおり、差別を受けたり、合理的な配慮がされなかったなどの相談に応じ、必要な助言や調査、調整などを行うため、差別解消に関する専門性を持って中立の立場で相談に応じる「◎障害者差別解消相談員」を県庁に設置し、自身で相談することが難しい障害者に寄り添い、相談内容を代弁することなどにより、障害者の権利を擁護し、障害者差別解消相談員につなぐ役割を担う「★地域アドボケーター」※を設置しています。
※本県独自の制度で、条例の第9条において、「知事は、障害者が相談をする際に、自らの意思を適切に表明するために必要な支援を行うことを、障害者の福祉の増進に関し、熱意と識見を有する者に委託することができる。」と規定されています。現在、県内の26名の方が、障害者の権利を擁護し、障害者差別解消相談員につなぐ役割を担っています。
この条例では、誰でも障害を理由とする差別に関する相談をすることができる仕組みになっています。また、障害を理由とする差別の個別の事案が生じた場合、罰則を設けて対処するのではなく、まずは障害者差別解消相談員が中立・公平な立場で相談を受け、相談員を交えた話合い等を通じて、事案の当事者同士が相互に理解を深める中で解決を図っていくことを目指しています。
障害を理由に差別を受けたり、合理的な配慮がされなかったときの相談の流れは、下図のような流れとなります。また、会社やお店など事業者や県民の方から、合理的配慮の提供に関する相談なども受け付けています。
ここでは、これまでに障害者差別解消相談員(以下、県相談員という)に寄せられた相談に対応した事例から2件を紹介します。なお、事例の取扱いにあたっては、個人情報取扱事務の適正な執行を図る観点から、実際の事案を踏まえつつ、内容を一部変更するなどしていますのでご了承ください。
【事例1】盲導犬の入店拒否について(商品・サービス分野)
【相談の内容】
コンビニエンスストアに盲導犬ユーザー、盲導犬、ガイドヘルパーで訪れたところ、店員(オーナー)に「犬はダメです。人が一緒なら盲導犬を連れて入る必要はないはず。」と言われた。盲導犬の説明をしたが、理解してもらえなかった。諦めて、別のコンビニで買い物を済ませた。
【対応概要】
障害福祉課職員より当該店舗、本社へ連絡し、身体障害者補助犬法に反することを説明。本社は HPで受入方針を示しているが、方針が行き届いていなかったため周知を徹底する旨を説明された。
【分類】不当な差別的取扱い(身体障害者補助犬法に抵触)
【解説】
この相談事例については、身体障害者補助犬(以下、「補助犬」という。)を同伴した障害者の入店等については、身体障害者補助犬法(以下、「補助犬法」という。)において「拒んではならない」と規定されており、県としても、食品営業許可の更新のため保健所を訪れる飲食関係事業者に啓発を行うなど入店拒否の解消に向けて様々な取組を行っています。
こうした取組にも関わらず、上記事例のほかにも、聴導犬を伴って県内の観光地を訪れた聴覚障害者が、複数の店舗から入店を拒否される事案が発生しており、いまだ入店拒否が後を絶ちません。
補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)は、目や耳、手足に障害のある方をサポートする大切なパートナーであり、補助犬法に基づき必要な訓練を受け、社会のマナーを守ることができるほか、ユーザーは、補助犬の衛生・行動管理をしっかり行っており、飲食店への同伴も、食品衛生法施行規則上問題ありません。
今後も引き続き、入店拒否事案の再発防止のため、関係団体等に対し、補助犬法の趣旨の周知啓発等の取組を行っていきます。
【事例2】路線バスの乗車拒否について(建物・公共交通機関分野)
【相談の内容】
車椅子を利用している。市内のバス停から乗車予定であったが、2本連続で断られた。
【対応概要】
バス事業者に事実の確認を行った。乗車予定のバスはノンステップ式でなかったため乗車できなかったものであるが、スロープがないことを丁寧に説明できていなかったと思われるため、社内教育の徹底を申し入れた。
【分類】不当な差別的取扱い
【解説】
この相談事例では、バス協会を通じて、バス運営会社に確認したところ、乗車予定の時間に連続でツーステップ式でスロープがないタイプが運行していたもので、運行時間の制約もあり丁寧な説明ができていなかった可能性が高いとのことでした。
障害者差別解消相談員からは、時刻表に車いす乗車可能等の表示があればわかりやすいのではないか、事前に連絡すれば可能な限りノンステップバスの運行をされる取扱いについての周知が不足しているのではないかとアドバイスを行いました。
今回は、「地域アドボケーター」の石黒賀津子さんに、実際の相談事例やその対応等も含めて、色々とお話を伺いました。
Q 「地域アドボケーター」になられたきっかけは?
障害児者は、少なからずその障害の特性により、人に迷惑をかけてしまうことがあります。特に障害児の保護者は、迷惑をかけた際に「自分の子が悪い」と思いこんでしまうので、もし差別的な言動をされたとしても、それが差別だということに気づくことが困難なこともあります。
私自身も障害者の親ですので、同じ親の立場であり、そういうことを聞くと、人権と言えば大げさかもしれませんが、その人自身を否定されているように感じることもあり、そういったことを改善していく必要があると思いました。
また、行政にも実際にこういう状況がある、ということを伝える必要もあるので、その役割も含めて「地域アドボケーター」を引き受けることとしました。
Q 「地域アドボケーター」として活動する中で苦心されていることは?
苦心しているということは特にはありませんが、実際に相談を受けた際に、相談の答えや相談をつなぐ先など正確な情報を知ることが重要だと感じています。また、相談内容は個人情報でもあるので、答えを探したり、つなぐ先を検討する際に、個人を特定できないように配慮する必要があります。
また、相談内容を受けとめることも大切ですが、一方の意見でもあるので、注意することも必要です。ただ、私も同じ障害児の親の立場でもあり、しっかりと寄り添うようにしていきたいといつも考えています。
Q 実際の相談事例について教えてください
実際の相談事例としては、「身体障害者の方が、鉛筆やカッターがうまく使えないため、受験時に配慮をお願いしていたが、配慮されなかった」事例や、「公園の看板の漢字にルビが振っていないので、周りの人に聞くと不審者扱いされた」事例などがあります。また、「障害特性のため、ペットの犬を散歩している際に、普段と異なる状況となったときにきつく叱ってしまうことがあるが、それを警察に動物虐待と通報されてしまい、警官から注意を受けることとなってしまった。警察の方に障害特性を理解してもらえなかったことがショックだった」事例といったものもありますが、差別というよりも合理的配慮がもっと社会で進んでいれば、このような事例が起こらないのではないかと思うことも多いです。
そういう意味でも、障害者とかかわりが少ない人に正しい情報を伝えることが重要と感じていますし、障害に限らず様々な個性がある人が社会にはいますので、「色々な人が世の中には居る」ということが当たり前の社会になることが重要と感じています。
Q 課題や何か必要と思われることはありますか?
「地域アドボケーター」の方も、それぞれ自分や子どもの障害以外にも様々な障害があることは知っていますが、わからないこともあるので、交流の機会を設けてほしいと思います。自分の周りのことで精一杯、その障害は自分には関係ない、ではなく、色々な人の声を聴く機会を通じて、障害者福祉全般の底上げにつながるのでは、と感じています。
大津市の障害者自立支援協議会の差別解消部会に参加し、バリアフリーの現地調査に伺ったことがありますが、段差があるところは車いすの人はフラットにしてほしい、と言うが、視覚障害者の方は段差を頼りにしていたり、盲導犬も段差で覚えていることがある、というように、障害の種別により対応が異なるものがあることも、実際の生の声を聴くことでよく理解できるようになりました。
Q 最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします
障害者や高齢者、子どもなど弱い立場にある人が大事にされる社会は、結局すべての人にとってやさしい社会だと思います。そういう弱いところに視点を当てた社会づくりが、みんなが住みやすい社会づくりにつながることが理解されていく中で、障害者への理解も深まっていけば、と思います。
障害者差別解消法の施行から6年が経過していますが、いまだ「障害を理由とした差別」に直面している障害のある方は少なくありません。
「差別」は人の生活を脅かし、尊厳や人権を傷つける、決して許されない行為ですが、障害に対する理解不足などから、無意識のうちに差別的な対応をしてしまうケースも多くみられます。
障害の有無にかかわらず、誰もがその人らしく暮らせる社会の実現を目指すためには、県民一人ひとりが、条例に定義している「障害の社会モデル」の考え方を理解し、社会のあり方を変えようと努力し続けること、そして、障害について自分の事として捉えることが重要であると考えます。
ぜひ皆さんも「自分事」として考えてみてください。
●15日~21日 防災とボランティア週間/17日 防災とボランティアの日
「防災とボランティアの日」および「防災とボランティア週間」は、防災、減災、災害対応のためのボランティア活動に多くの人が取り組み、公助と連携した自助・共助の取組みがより広がることを狙いとしています。日頃から災害時の連携・協働の取組みを考え、地域の中で防災に携わる方々の間の連携を深めましょう。
●29日 世界ハンセン病の日
昭和29 年(1954 年)、フランスの社会運動家、ラウル・フォレローさんが提唱。毎年1月の最終日曜日を「世界ハンセン病の日」としています。この日には、世界各地でハンセン病に関するさまざまな啓発活動が行われます。