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じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

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令和3年(2021年)7月(第159号)

テレビやラジオ、新聞や雑誌などのマスメディアにおいても、番組や記事の中で、人権侵害に当たる事例が時々発生しています。今年3月12日に放送された日本テレビ放送網株式会社の番組で、アイヌの人々を傷つける非常に不適切な差別的表現が使用・放映されたことは、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。

また、過去には日本を代表する政治家による「日本は単一民族国家である」との発言が問題になったこともありました。

人権侵害は、「知らない」ことや、「誤った理解・認識」によりおきることが多くあります。今回の番組での差別的な表現も、番組の関係者がアイヌの人々がたどってきた歴史を「知らなかった」から起こったことと考えられます。

今から24年前の平成9年(1997年)7月1日に、ようやくアイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図るため、「アイヌ文化振興法(令和元年5月に廃止)」が施行され、アイヌ語や伝統文化の維持・伝承の裾野が広がるきっかけとなりました。

また、後述しますが、実は近江商人もアイヌの人々との関わりがあった歴史があります。今回のじんけん通信では、アイヌの歴史と文化や、それらを守り引き継ぐ取組などについて紹介します。同じ日本に住むアイヌの人々についてまずは「知る」ことから始めませんか?

特集 理解を深めて、偏見・差別をなくそう~アイヌの人々の歴史と文化~(前編)

■「アイヌ」とは

アイヌ※1とは、おおよそ17世紀から19世紀において現在の北海道を中心に、東北地方、サハリン(樺太)、千島列島などの地域で、固有の言語や伝統的な儀式・祭事、ユカラ※2などの多くの口承文芸等、独自の豊かな文化を持って暮らしてきた日本の先住民族です。

北海道にある市町村の名前はおおよそ8割がアイヌ語に由来し、東北地方北部にもアイヌ語に由来した名前の市町村があるといわれています。


※1「アイヌ」・・・アイヌ語の「カムイ(神)」に対する「人間」を意味する言葉で、民族の呼称ともなっている。

※2「ユカラ」・・・アイヌ民族に伝わる叙事詩の総称。


■アイヌの人々の歴史

現在に認識されているかたちでのアイヌの文化の原型は、7世紀に入り始まった擦文(さつもん)文化※3の時期にみられ、これに北海道のオホーツク海沿岸地域を中心に形成されたクマを特別な存在とするオホーツク文化が影響を及ぼしているといわれています。

さらに、それに続く13世紀から14世紀頃にかけて、狩猟、漁労や採集を中心とした生活の中で自然とのかかわりが深く、海を渡った交易を盛んに行うアイヌの文化の特色が形成されました。

アイヌの人々を史料のうえで確認できるのはおおよそ15世紀頃からといわれ、15世紀半ばには、渡島(おしま)半島の沿岸に和人※4が拠点を築き、先住していたアイヌの人々と交易を行いました。交易の拡大に伴い両者の間でコシャマインの戦い※5などの抗争が続きましたが、16世紀半ばには講和しました。

しかし、江戸時代には松前藩が家臣にアイヌとの交易の独占権を与えるようになり、アイヌの人々の交易は制限されました。この交易にはやがて近江商人などの商人が関与してきます。近江商人は廻船によって上方※6とアイヌの人々との交易の中心を担い、近江商人からはコメや酒、衣類などを、アイヌの人々からは海産物やクマの毛皮などを渡して交易をしていました。

こうした中、18世紀に入ると近江商人を含めた商人たちが商い場での交易を請け負うようになり、利益を増やすために自ら漁業を経営し始めましたが、アイヌの人々はサケ漁やニシン漁などの漁業に従事させられるなど過酷な労働を強いられました。

明治19年(1886年)には北海道庁が置かれましたが、江戸時代の松前藩による支配や、明治維新(1860年代後半)以降の「北海道開拓」の過程で、アイヌ民族独自の文化の制限・禁止や日本語の使用の強制により、アイヌの人々の和人への同化を進め、その文化は失われる寸前になりました。

こうした政策の中で、アイヌの人々は社会に存在するという民族の尊厳が認められず、日常生活も困窮がいっそう甚だしくなる中、明治32年(1899年)に「北海道旧土人保護法」が作られました。

しかし、この法律はそれまで狩猟、漁労、採集や交易を主な生業としてきたアイヌの人々への農業奨励のための土地の付与をはじめ、医療、生活扶助、教育などの保護政策を柱としており、同化政策を進めるものでした。さらに、第二次世界大戦後に実施された農地改革によって、農地の多くが取り上げられるということもありました。そのため、アイヌの人々の窮状は改善されなかったうえに、おおよそ100年にわたり固有の文化が否定され続けてきました。

また、このように苦しい生活や文化の否定を経験してきたアイヌの人々ですが、同時に、彼らを動物にたとえる、食べているもので差別するなどの人権侵害も存在しました。

さらに、大学の研究者たちによってアイヌの人々の遺骨が墓から持ち出され、研究対象としてナンバリングされるなど、人を人とも思わないような扱いを受けてきた歴史もあります。

このような人権侵害を受けてきたアイヌの人々を中心とした新しい法律を求める幅広い運動に応じて、平成9年(1997年)に「アイヌ文化振興法※7」が施行され、この時に北海道旧土人保護法は廃止されました。

この法律の制定によりアイヌ語や伝統文化の維持・伝承の裾野は広がりましたが、民族としての先住性と先住民族としての権利が認められたわけではありませんでした。


※3「擦文文化」・・・土器を使用し、狩猟、漁労や植物の採集を生業としてきた文化。

※4「和人」・・・アイヌとの関係において、当時日本人とされていた人を指す歴史用語。

※5「コシャマインの戦い」・・・康正3年(1457年)、北海道渡島半島で、首長コシャマインに率いられたアイヌ諸部族が和人の圧迫に対して起こした戦い。

※6「上方」・・・京都およびその付近一帯をさす語。また広くは畿内地方。京阪地方。関西地方。上(かみ)は皇居のある方角の意。

※7「アイヌ文化振興法」・・・正式名称は「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」


アイヌ関連の主な年表1

13~14世紀ごろ アイヌ文化が成立

明治19年(1886年) 北海道庁が置かれる

明治32年(1899年) 北海道旧土人保護法 制定

平成9年(1997年)7月 アイヌ文化振興法 施行、北海道旧土人保護法 廃止

■「先住民族」として

世界の先住民族が失った権利をどのようにして回復するかについて、国連で長年検討が進められてきました。そして平成19年(2007年)9月、国連総会において、各国が達成すべき基準が明記された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されました。

さらに、平成20年(2008年)5月には、国連人権理事会は日本に対して「アイヌ民族との対話勧告」を出しました。


「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の主な内容

政治的自決権

文化的伝統と慣習の実践化と再活性化の権利

伝統的に領有、占有もしくは使用や獲得している土地や資源に対する権利

同意なく没収または占領、占有、使用、損害を与えられた土地や資源に関する返還または弁償を含む賠償を受ける権利

※公益財団法人人権教育啓発推進センター「人権ポケットブック12アイヌの人々と人権」から引用


これらを踏まえて同年6月に国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で採択され、これにより、内閣官房長官は、「政府として、アイヌの人々が日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族であるとの認識の下に、これまでのアイヌ政策をさらに推進し、総合的な施策の確立に取組む。」との見解を示しました。

この決議を受け、同年7月に政府は「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」を設置し、平成21年(2009年)7月に報告書の提出を受けました。この報告書をもとに同年12月、政府はアイヌの人々の意見を政策推進等に反映するための協議の場として「アイヌ政策推進会議」を設けて、新たなアイヌ施策の展開について検討してきました。

その結果、平成26年(2014年)6月に「アイヌ文化の復興等を促進するための『民族共生の象徴となる空間』の整備及び管理運営に関する基本方針」が閣議決定されました。

また、平成31年(2019年)4月には「アイヌ施策推進法※8」が公布、5月24日に施行され、アイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるとの認識が示されています。その中で「何人も、アイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」とも規定されました(第4条)。これにより、国や自治体はアイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進する責務を負うことになりました。


※8「アイヌ施策推進法」・・・正式名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」、この法律の施行により、「アイヌ文化振興法」は廃止。


アイヌ関連の主な年表2

平成19年(2007年)9月 国連総会で「先住民族の権利に関する国際連合宣言」採択

平成20年(2008年)5月 国連人権理事会による日本への「アイヌ民族との対話勧告」

平成20年(2008年)6月 国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」採択

平成20年(2008年)7月 政府が「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」を設置

平成21年(2009年)7月 政府が「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」報告書の提出を受ける

令和元年(2019年)5月 アイヌ施策推進法 施行、アイヌ文化振興法 廃止


では、国や自治体によって、どのような取り組みが行われているのでしょうか。次号(令和3年8月号)のじんけん通信では、アイヌの人々の現状と理解・振興に向けた取組、そして固有の文化等について紹介します。


○引用・参考資料等

法務省人権擁護局ホームページhttp://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken05_00004.html

「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」報告書のポイント内閣官房アイヌ総合政策室

「人権ポケットブック12アイヌの人々と人権」公益財団法人人権教育啓発推進センター

公益財団法人アイヌ民族文化財団ホームページhttps://www.ff-ainu.or.jp/index.html

公益財団法人北海道アイヌ協会ホームページhttps://www.ainu-assn.or.jp/

「三方よし」第46号特定非営利活動法人三方よし研究所令和2年10月20日発行

人権カレンダー7月

なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間
県および市町では、企業の経営者や従業員等が同和問題をはじめとする人権問題に対する正しい理解と認識を深め、差別のない明るい職場づくりを推進するため、企業における就職差別の撤廃と同和問題をはじめとする人権研修がより一層充実・強化されるよう、毎年7月を「なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間とし、各種啓発活動を行っています。

青少年の非行・被害防止滋賀県強調月間
内閣府では、7月を「青少年の非行・被害防止全国強調月間」と定めています。本県においても、同月を「青少年の非行・被害防止滋賀県強調月間」とし、関係機関・団体、地域住民等が青少年の非行と犯罪被害に対する共通の理解と認識を深め、青少年はもとより、社会全体が規範意識を高め、社会環境の浄化を図るための諸施策・諸活動を集中的に実施し、青少年の非行や被害の防止と保護の徹底を図ります。

「社会を明るくする運動」強調月間
~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~ 強調月間
「社会を明るくする運動」は、すべての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築こうとする全国的な運動です。強調月間である7月を中心に、1年を通じてSNS等を活用した広報活動に力を入れて取り組みます。

・再犯防止啓発月間
平成28年(2016年)12月に「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」が施行され、7月を再犯防止啓発月間とする旨が定められました。

・16日 性同一性障害者特例法の施行
平成16年(2004年)のこの日に施行。性同一性障害である場合、家庭裁判所の審判を経て、戸籍上の性別を変えることができるようになりました。

・30日 人身取引反対世界デー
国連により、平成26年(2014年)に定められました。人身取引の問題を世界中の人に知ってもらうため、キャンペーンが展開されます。

ジンケンダーのちょっと一言

滋賀県人権啓発キャラクター「ジンケンダー」

「知らない」ことで人権問題につながることがあるのだー!

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
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