文字サイズ

じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

 ブラウザの「お気に入り」に入れていただければ幸いです。

 「じんけん通信」は、バックナンバーもご覧いただけます。

/c/jinken/keihatsu/jinkentushin/images/jinkentushin_bak1.jpg

令和3年(2021年)1月(第153号)

 今年も人権に関するいろいろな情報を分かりやすくお届けしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、じんけん通信令和2年(2020年)11月号では、滋賀県障害福祉課の田渕千恵子さんに、手話通訳士のお仕事についてお伺いしました。

 今月号では、その続編として田渕さんが手話通訳士になられたきっかけや、お仕事をされるにあたって抱いている思い、そして読者の皆さんに伝えたいことなどをさらに深く掘り下げてお届けします。

田渕さん

特集 手話でつながる あなたと私

~手話通訳士になったきっかけ~

記者)手話通訳士を目指されたきっかけを伺ってもいいですか?

田渕)手話に出会ったんではなくて、自分の子どもが通っている小学校で私が役員に当たってしまい、その行事に参加した聞こえないお母さんとの出会いがきっかけです。

 「耳が聞こえないけどよろしくお願いします」とあいさつをされましたが、発語がとても上手でしたので私は不便ではありませんでした。接するうちに、私は、彼女ともっと話がしたいと思うようになり、彼女もまた、私と話がしたいと思ってくれたようで、私の知らないうちに手話の講座に申し込みをしてくれていました。行ってみたらそのママ友が講師担当で、「手話って何?」みたいなところから、人との出会い・つながりでここまで来たって感じです。

 出会いは大阪での話です。その後、滋賀に引っ越しすることになったのですが、せっかくなので、手話サークルを覗くことにしました。ろうの方々はすごいウェルカムなんですよ。初対面の私にとても興味を持ってくれて、すごい質問攻めでした(笑)2つ目のサークルを覗いたときに先日会ったろうの女性が2人ともいて、私が自己紹介しようとすると・・・その方々が私のことを全部紹介してくれました(笑)その空気に吸い込まれるようにサークルに入りました。

 その後、1泊2日で近畿のろうの女性が集まる大会があったんですが、ろうだけの実行委員の一人が急に休んだらしく、「おいで!!」って言われて飛び込んでみたら、ろうの皆さんが笑ってるのに一緒に笑えない、まさに「聞こえる私の方が情報障害者だわあ!」という悔しい思いもしましたが、案外居心地が良くて、すごく楽しかった記憶があります。

 その後も、ろうの方と一緒に活動する中で手話の世界に深くはまっていったみたいな感じですね。

~手話通訳のやりがい みんなと一緒に笑ってほしい~

記者)手話通訳をしていてやりがいを感じた瞬間は?

田渕)担当した役員の行事に社会見学があり、そのバスツアーが出発する時に私が朝の挨拶をするのですが、その時に手話という方法を知らない私は、「ママ友だけ聞こえなくてぽかんとしているのは嫌やなぁ~」と考えたんです。そこで、挨拶文を2枚用意して、隣の人に指で追ってもらったんです。その願いは、「ママ友にみんなと一緒に笑ってほしい」でした。

 そこが出発点で、次の段階は、さっき話した滋賀に引っ越して来て、ろう者の中に放り込まれたときに、「一緒に笑いたい」と変わります。そして、通訳になってからは、講演に来ているろう者が通訳をうんうんと見てうなずいているだけではなく、みんなが笑っているときに「一緒に笑ってほしい」になりました。その場の空気に溶け込んで普通であってほしい。どこにろう者がいるかわからない状態が理想です。なので、講師が笑わそうと話したときに、手話表現が伝わって、ろう者が周りの人と同時に笑ってくれた時はやりがいを感じますね。

 また、自分の仕事は、言語の変換だけではなくて人と人をつなぐ仕事だと思っています。聞こえない人と、手話が分からない人と手話サークルや研修会などで出会ってもらって、私がいないときに、手話でコミュニケーションが取れなくても、挨拶ができたんですよとか少しコミュニケーションが取れたという話を聞くと嬉しいです。

~難しいと感じたことや、課題を感じたこと、心掛けていること~

記者) 手話通訳をされていて、手話では伝えるのが難しいことがあると思うんですけど。特に、最近の新型コロナウイルス感染症の関係では、難しい言葉や新しい言葉が出て来ていると思いますが?

田渕)対象とするろう者の語彙数や言語レベルは人それぞれです。ろう者は、ろうコミュニティーの中で手話言語で育っている方も多いので、手話が第一言語で、日本語が第二言語になるんです。手話でしか情報を得られない人へ必要な情報を、内容をどう伝えたらいいだろうかということを一番に考えました。もちろん「クラスター」とかいう用語も大事ですが、今回のコロナに関しては、ろう者が感染するという可能性もあるので、「伝えねばならない」という思いを強く持って、より具体的な表現を心掛けました。

 知事の記者会見前での打ち合わせにも入らせてもらって、「それではろう者には伝わりにくいので」というようなことも遠慮なくお伝えします。例えば「『3密』って言ったら聞こえる方はだいたいのイメージがつくでしょうけど、ろうの方に『3密』の意味を問うと、『3つの秘密』って本来の意味とはかけ離れた手話表現をされるんです」、という風にです。

 知事も、「なるほど!!」とわかっていただいて、密閉・密集・密接と具体的な表現に変えてもらいましたし、日本語独特の言い回しとかも、そのままの文字が出てきたのでは分かりにくい場合には、できるだけ噛み砕いて文章を変えてもらったこともあります。

記者)通訳でも、英語の通訳とかだと話者が英語でそのまま喋っていて通訳が日本語で意味を分かりやすく変えて伝えるって感じですけど、手話の通訳では、話者が「3密」って言っていて手話通訳で分かりやすく伝えるのではなくて、「3密」という言葉自体をわかりやすく噛み砕いて伝えたうえで、手話通訳するという感じなんですね。

田渕)字幕も出るのでそれを想定してやっています。事前に打ち合わせがなくて、難しい言葉が出てこれでは伝えられないな、と思ったらできる限り噛み砕いて表現するんですけど、「3密」と短い言葉を発語している間に、「集まらない」、「閉めきらない」、「距離を保つ」とその言葉を噛み砕いた長い手話表現はしきれませんし、発語に合わせて表示される字幕では噛み砕いた内容が伝わりません。

 これを伝えないと、これを守ってもらわないとっていうものも沢山ありますが、「感染防止の対策を徹底してください」と言われても伝わりにくいので、「手指の消毒」とか「マスクの着用」と言ってもらってそれが字幕にも出るっていう風にしてもらいました。

記者)指文字で伝えるという方法もあるかと思いますが。

田渕)指文字はろう者が後から覚えた手話を補うための記号です。手話で出せないものを補うためにあるものなので苦手なろう者もいますし、高齢のろう者の中には語彙がとても少ない方も多いので、「クラスター」と指文字で伝えても、その言葉を持っていなければ伝わりません。ですから状態を具体的に伝えねばと苦慮して「集団感染」っていう風に表しました。もちろん「クラスター」という言葉も大事なんですけど意味が伝わらないと意味がないので。

 例えば、普段アイロンかけしているろうのおばあちゃんに「アイロン」持ってますか?って書いても伝わらなかったけど、アイロンをかける身振りとか熱いっていう身振りとかをしながらある?って聞いたらあるあるって伝わったりします。指文字で「アイロン」ってやったところで筆談で書いたところで持ってない語彙は相手には伝わらないんです。

記者)ニュースで用いられる「緊急事態宣言」とか「クラスター」という言葉は、どのように手話として統一されるのでしょうか。

田渕)日本手話研究所という機関が京都にあります。そこが協議して決めはるんです。「令和」っていうのも協議されて決定されたんです。「令和」だけは全国共通で使用されるので手話関係者はもちろんろう者も注目していました。ところが、今回のように、にわかに社会に広まった「クラスター」などの専門用語は、とにかく伝えねばと考えて表現しました。

記者)日本手話研究所が手話を統一する前には、「緊急事態宣言」、「クラスター」とかそれぞれの都道府県でばらばらに表現が使われていたって聞いたんですけど。

田渕)見比べるろう者はいるかもしれませんが、たいていは滋賀のニュースを中心に見るじゃないですか。そしたら、田渕がこうしているからこれがクラスターの意味かっていう風にとらえてずっと見てくれはるので、あとから全然違うクラスターっていう表現が出て来たとしてもその時点でクラスターっていう意味が伝わっていればそれでいいと思うんですよ。統一されるまで待ってられませんからね。私自身が他府県の通訳者の表現を参考にしたこともあります。

記者)統一されたらこれを使わなダメってことでもないんですか?

田渕)でもないんです。逆に言ったら、広がってしまっていてそれをもう一回勉強しなおすのは手話通訳者だけなんですよ。本が出てこういう風にするのかこれからはみたいな。通訳者みんなが同じ手話をして、「それって何?」って聞いてきはったらああそうなんやって言ってリニューアルされるんですけどね。

記者)やっぱり最初に使われていた手話っていうのは、緊急事態とかだとテレビ見なあかんって感じでみんなが見るので浸透が早いと思いますけど、後で統一された方にはなかなか移行しにくいんでしょうか?

田渕)そういう面はありますね。

記者)そういう場合って、どっちの手話を使われるんですか?

田渕)その対象者にもよりますけど。大きな大会とかなら新しい方の手話を使うことを心がけますけど、その間を埋めるのがサークルとかで、今までこうしていたけどこれからはこうでっていうようにろう者も聴者も一緒に学ぶようにしています。
でも私は普段の会話なら伝わる方を出すと思います。

記者)びわ湖放送とか、県内の放送だけなら県内で浸透している方の手話で伝えるとか。

田渕)それは環境にもよりますけど。例えばびわ湖放送の手話タイムプラスワンとかで、ろう者がキャスターをされる場合だったら、字幕も横についてクラスターって出ていての手話なら新しい手話を使った方がそれにリンクされるのでいいかもしれないですね。

 もちろん新しい方にシフトしていく方がいいのかもしれないけれど、それにろう者がついてきてくれるかどうかですね。音声言語でも同じだと思うんですけど。

★ちょこっと休憩!~ジンケンダーと学ぶ手話~

ありがとう
白



左手の甲から右手を縦に垂直に上げると、

「ありがとう」という意味なのだー!

~手話を勉強したいと思ったら~

記者)手話を勉強したいなって思ったらどういう方法がありますか?

田渕)市町の広報で、「講座が開かれます」と案内が載りますので応募してください。また、市内の近くの公民館などで活動しているサークルに参加してみるとか。今後は、「第24回全国障害者スポーツ大会」に向けて、ボランティア養成の中に手話ボランティアもありますので、学ぶ機会も増えると思います。ぜひ、いろいろなところに参加してみてください。

~手話ができなくても、ろう者へ情報を伝える~

記者)筆談などの方法もあると思いますが、手話ができなくてもろう者へ情報を伝えたいときにはどうすれば良いでしょうか?

田渕)いつもは口形や表情をとても見てはるんで、今はみんなマスクをしているのでろう者にとってはしんどいと思います。少し離れてその時だけでもマスクを外して「こんにちは」って言うとか、身振りとか、文章を書くよりも指差しとかで伝えてみるとか、伝わっていなかったらまた違う身振りを試してみるとか、「絶対にコミュニケーションをあきらめない」ということをお願いしたいなと思っています。ろう者は何とかしてコミュニケーションを取ろうとしてくれるので、こっちがあきらめてしまうと、コミュニケーションが途切れてしまいますので。筆談するとしても文章にせずに、単語を書いてこれでOKですか?みたいにやり取りするのも一つかなと思います。

 これは災害時にも関係すると思うんですが、避難所で手話ができなくても視覚的に見てわかる表示が大事かなと思います。文章ではなく単語と矢印みたいな形で。

記者)絵とか入れながら?

田渕)そうそう。よくあるじゃないですか、「12時のチャイムが鳴りましたら体育館の裏で食事の配給が行われますので並んでください」みたいな。長文はとても苦手な方が多いので、例えば、「12時、食事、配ります、体育館裏、→(やじるし)」みたいな感じで書いてもらえば、誰が見てもわかりやすいですよね。

記者)時間、場所、何をしてもらえるか。必要な情報をわかりやすく。

田渕)あとはソフト対応で、おにぎりを握る身ぶりをしてあっちあっちとか、食べる身ぶりをしてあっちあっちとか、口だけじゃなくて身ぶりをしてもらえれば、人の流れで絶対何かあるなと敏感に気付く人たちなのでとても助かると思います。身振りや指差しはろう者だけでなく知的障害のある方にも伝わると思います。

 また、災害時に第一線に立つだろう警察や消防の方向けに警察学校とか消防学校にも行かせていただいて、聴覚障害への理解とか、一般的な障害者理解とかを中心にお話ししています。災害時は、避難所に100人いたらこの中に聞こえない人や見えない人がいるかもという気づきがあるかどうかが大事です。その気づきがあれば、分かりやすく書いて張り出さなあかんとか、声に出して知らせなあかんとかいう動きにつながると思います。

 警察学校や消防学校では、「がれきの中にろう者がいたらどうします?」と聞くんです。災害救助の時、一回は「誰かいませんか」って聞くと思うんですが、きっとその奥にろう者がいたら見つからない。声で呼びかけるだけでなく、夜にもう一度見回って、ライトを照らしてくださいってお願いしています。我々は、ろう者と笛を吹く練習とかもしていて、警察学校や消防学校の方には「ライトの光が見えた時に笛を吹かれます、そのことで助けられる命があるかもしれない」と伝えています。

 平時はその人なりのスタイルで生活されていても、災害時はいつもできていることができないということがいっぱい出てくると思うので、気付きを持って、コミュニケーションがとれる警察官・消防士になってくださいねとお話を閉じています。 

~読者の方に伝えたいこと~

記者)この記事を読んでくれている方々に伝えたいことは何かありますか?

田渕)聞こえないろう者にとって、ろうコミュニティーの中で自然発生的に作り出された視覚的言語である手話はろう者のものであり、母語(第一言語)です。日本語は第二言語なのです。

 ですから、日本語特有の言い回しが分からなかったり、日本語の文法にある助詞が手話にはないので長文は苦手だったりする方が多いです。言語には文化がついてきますよね。お互いにその文化について知り、認め合いたいものです。

 そして、手話もしくは手話通訳はろう者のためだけにあるのではないということです。私はろう者のためだけに働いている訳ではないと言ったら語弊がありますが、手話ができない人とろう者をつなぐ役割だと思っています。例えば、通訳の現場では「私たち通訳者の動きも気を付けなあかんなぁ~」と感じていますので可能な限り、講師とお話をするようにしています。「今日はろうの方がいらっしゃいます。先生のお話をしっかり伝えたいと思いますのでよろしくお願いします」と。

 ろう者のお手伝いをしているとか、ろう者の支援をしているという風に見られがちなんですが、私たちは講師のために来ていますっていう感じで挨拶をさせてもらっています。

 そういうお話を講師にすると、「僕が手話出来たらいいけどなぁ~、よろしく頼むわ!」ってすぐに理解してくださる方もいます。それは、どういうことかというと、例えば、講師がろう者の場合、つまり手話で話をした場合、聞こえる人は通訳がなければ困りますよね。手話を音声言語(日本語)に変えてつなぐ読み取り通訳がいますから、みんなはろう者の話が分かるわけで、その場合、通訳を利用しているのは聞こえる方々な訳です。どちらか一方が受益者という訳ではないですよね。手話通訳者はその間を繋いでいる訳です。そういうことを知ってほしいし、そういう風にこれからも聞こえない人たちと手話の分からない聞こえる人たちを繋いでいきたいと思っています。

 (おわり)

※今回のインタビューでは、田渕さんの話ぶりが伝わるように構成していますが、より内容が分かりやすいように一部内容を編集しています。

人権カレンダー1月

・15日~21日 防災とボランティア週間/17日 防災とボランティアの日
 「防災とボランティアの日」および「防災とボランティア週間」は、防災、減災、災害対応のためのボランティア活動に多くの人が取り組み、公助と連携した自助・共助の取組みがより広がることを狙いとしています。日頃から災害時の連携・協働の取組みを考え、地域の中で防災に携わる方々の間の連携を深めましょう。

・26日 世界ハンセン病の日
 昭和29 年(1954 年)、フランスの社会運動家、ラウル・フォレローさんが提唱。毎年1月の最終日曜日を「世界ハンセン病の日」としています。この日には、世界各地でハンセン病に関するさまざまな啓発活動が行われます。

ジンケンダーのちょっと一言

ジンケンダー
白



手話とその背景にある文化について、

もっと学んでみたいのだー!

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
Adobe Readerのダウンロードページへ(別ウィンドウ)

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。