文字サイズ

じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

 ブラウザの「お気に入り」に入れていただければ幸いです。

 「じんけん通信」は、バックナンバーもご覧いただけます。

/c/jinken/keihatsu/jinkentushin/images/jinkentushin_bak1.jpg

令和2年(2020年)10月(第150号)

 新型コロナウイルス感染症に伴う差別や偏見が問題となる中で、その様相はハンセン病に関連した差別と共通する点も見られます。

 ただ、そもそもハンセン病とは何か、ハンセン病に関連してどのような人権問題があるのかを、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。

 じんけん通信10月号では、感染症を理由とした差別という過ちを繰り返さないために、ハンセン病問題の歴史と現状、解決に向けた取組について取り上げます。

特集 差別を繰り返さないために~ハンセン病差別の歴史から考える~

ハンセン病とは

 ハンセン病とは、「らい菌」という菌がおこす慢性の感染症です。おもに皮膚、末梢神経を侵しますが、眼、鼻・のど・口などの粘膜、一部の内臓にも病変が生じます。1873年に菌を発見したノルウェーの医師アルマウェル・ハンセンにちなんで、ハンセン病と呼ばれるようになりました。

 ハンセン病は、そもそも感染力が弱く、現代では特効薬も開発されており完治する病気です。治療をせずに放置すると身体の変形を引き起こしたり、障害が残ったりする恐れもありますが、初期に治療を開始すれば障害も全く残りません。

 ※じんけん通信の中では、医学用語、法律用語、歴史的用語としての「らい」「癩(らい)」についてはそのまま使用しています。

ハンセン肖像
アルマウェル・ハンセン(1841~1912)※国立感染症研究所ホームページより引用

官民一体となったハンセン病患者への差別

 前述のとおり、ハンセン病は治療せずに放置すると身体の変形を引き起こします。

 ハンセン病患者の外見と感染に対する恐れから、患者たちは何世紀にもわたり差別や偏見の目にさらされてきました。ハンセン病の記録は世界の数多くの古い文書に残っており、その記述からも、ハンセン病が業病、呪いなどととらえられ、忌み嫌われてきたことがわかります。

 日本でも古くから、病気への差別や偏見から周囲の冷たい仕打ちにあい、家や故郷を追われて各地を放浪する人たちがいました。

 明治に入ってから、日本政府は「癩予防ニ関スル件」という法律を制定して、野外で生活するハンセン病患者を療養所に入所させ、一般社会から隔離しました。以後、平成8年(1996年)に法が廃止されるまで、隔離政策は89年間にわたって継続されることとなるのです。

 昭和6年(1931年)には新たに「癩予防法」が成立し、すべてのハンセン病患者を強制的に隔離することによるハンセン病絶滅政策が決定され、全国各地に国立療養所がつくられました。

 また、「癩予防法」の制定と前後して「無らい県運動」が行われ、各県が競って、患者を見つけては強制的に療養所へ入所させるようにしました。この「無らい県運動」では、地域住民が患者の発見、通報の役割を担っていたため、その実施を徹底する過程で、多くの国民に対し、ハンセン病は恐ろしい伝染病で、その患者は地域社会に危険をもたらす存在であるという誤った認識を強く植え付ける原因となりました。「無らい県運動」は昭和24年(1949年)の全国国立癩療養所所長会議においても引き続き行うことが決定され、戦後なお、患者の強制隔離は続きました。

 療養所の中でも、患者たちは安静に過ごすことはできませんでした。退所も外出も許されず、炊事や療養所内の土木作業、重症患者の看護、遺体の火葬など多種多様な作業を強いられ、病状はむしろ悪化することすらありました。

 また、療養所長に与えられていた「懲戒検束権」により、療養所内の規則に背いた患者は所長の一存で収監罰を与えられたり、結婚の条件として断種・堕胎を強いられたりするなど、患者に対して、筆舌に尽くしがたい人権侵害が行われていたのです。

 戦後、プロミンをはじめとする有効な治療薬が普及していったことで患者の多くが治癒するようになりましたが、強制隔離、外出禁止などの差別的な性格を残し、療養所の退所規定も設けられていない「らい予防法」が、昭和28年(1953年)に患者の反対を押し切って公布されました。

 療養所を自主的に退所する人も中にはいましたが、療養所の外では退所者への医療支援や生活支援がなく、ハンセン病患者・元患者に対する差別も根強く、やむなく療養所に戻る人も少なくありませんでした。

ハンセン病の主な年表1
表1

患者家族の苦しみ

 厳しい差別を受けたのは、患者本人のみではありません。官民一体となった患者の強制隔離や、見せしめのような住居の消毒などにより、患者の家族への差別意識も生まれました。

 家族は近所づきあいから疎外され、通学や結婚、就職を拒まれたり、引っ越しを余儀なくされたりすることもありました。学校でのいじめや、就職の際に身元調査を受ける例も多くありました。こうした過酷な差別から逃れるために、やむなく自分の親族と関係を絶った人もいます。

 ハンセン病患者の家族は、自らが受ける過酷な差別を肉親のせいだと思わされ、また差別から逃れるために周囲に事実を隠さねばならないという、何重もの苦しみの中を長い間生きてきました。

ハンセン病問題の現状と解決に向けた取り組み

 平成8年(1996年)に「らい予防法」がようやく廃止され、隔離政策に終止符が打たれましたが、当時、厚生大臣は法の廃止が遅れたことのみを謝罪し、これまでの人権侵害に対する補償や、社会復帰などの支援策はありませんでした。

 これに対し、平成10年(1998年)、療養所入所者13人が、熊本地裁に「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟を提起しました。この訴訟では隔離政策の違法性や、平成8年に至るまで「らい予防法」を廃止しなかったことの違法性などが争点となり、同種の訴訟は東京や岡山でも提起されました。平成13年(2001年)に熊本地裁は原告勝訴の判決を下し、国は控訴せず判決が確定しました。

 これを受けて、国は入所者らに謝罪し、新たな補償制度や療養所非入所者のための給与金制度も設けられました。

 また、平成21年(2009年)には「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(ハンセン病問題基本法)」が施行され、毎年6月22日が「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」と定められました。

 さらに昨年(令和元年(2019年))11月、ハンセン病元患者家族が、偏見と差別の中で家族関係の形成が困難になるなど、長年にわたり多大な苦痛と苦難を強いられてきたにもかかわらず、彼らに対して何ら取り組みがなされてこなかったことへの反省と補償を明記した、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が施行されました。

ハンセン病の主な年表2
表2

 元患者やその家族を救済することを目的とした法の整備は進みましたが、ハンセン病問題は決して完全に解決したわけではありません。療養所入所者の多くはすでに高齢となっており、ハンセン病の後遺症から重い身体障害を持つ人もいて、社会復帰して自力で生きていくことは困難です。

 また、強制隔離の経験は元患者やその家族に深い心の傷を残し、いつも「病気がばれないか」と怯えながら生きることを余儀なくされてきました。医療や介護サービスを受けることが必要になってきているにもかかわらず、病歴が明らかになることを恐れて受けていない人や、根強く残る差別や偏見に不安を感じ、やむなく療養所へ再入所する人もいます。家族に迷惑がかかることを心配して本名や戸籍を捨て、故郷では死亡したことになっている人や、亡くなってからも実家の墓に入れない人もいます。

 こうした、今もなお残る差別や偏見、元患者の方々が感じている不安をなくすために私たちにできることは、地域で暮らす一人ひとりが、ハンセン病の歴史や問題を学習するなどして、自分も無関係でないという意識を持って関わっていくことです。

 本県では現在、ハンセン病療養所に入所されている滋賀県出身者の一時帰省招待事業や、ハンセン病に関する正しい知識と理解を得るための啓発事業として、講演会の開催、リーフレットの作成・配布、療養所での現地学習会などを行っています。

ハンセン病療養所全国配置図(令和2年5月1日現在)

配置図
配置図
滋賀県作成 ハンセン病問題啓発リーフレット「ハンセン病問題を正しく理解してください。」より引用

差別の歴史を繰り返さないために

 新型コロナウイルス感染症に関連した、患者や濃厚接触者、医療従事者などに対する人権侵害が問題となっています。

 ハンセン病と新型コロナウイルス感染症は、感染力の強さや現れる症状など、感染症としての性質は異なります。しかし、誰もがかかる可能性があり、たとえ感染したとしても、患者やその家族、治療にあたる人たちが悪いのではないという点は共通しています。

 ハンセン病の歴史や社会問題について学ぶことで、人権を侵される側の痛みを想像し、差別の歴史を二度と繰り返さないことが、私たちに求められているのではないのでしょうか。

 県で発行している広報誌「滋賀プラスワン」の特集「ふれあいプラスワン」でも取り上げていますので、併せてご覧ください。

人権カレンダー10月

里親月間
 里親とは、さまざまな事情で家族と暮らせない子どもたちを、自分の家庭に迎え入れ、温かい愛情を持って養育する方々ですが、今、数が不足しています。10月の里親月間中は、全国各地で里親制度の説明会や里親経験者による体験発表会、ポスター掲示など、さまざまな周知活用を行います。里親になるには特別な資格は必要ありません。あなたも子どもたちの未来のために、仲間に加わってみませんか。

臓器移植普及推進月間
 臓器移植とは、臓器の機能が低下し、移植でしか治らない人に、臓器を移植し、健康を回復しようとする医療で、広く社会の理解と支援があって成り立つ医療です。臓器提供に関する意思表示においては、「臓器を提供する」という意思、「臓器を提供しない」という意思、どちらの意思も尊重されます。家族など皆さんの大切な人と、最期を迎えようとするときの話をしてみませんか。

骨髄バンク推進月間
 白血病など命の危険にかかわる血液疾患の患者さんは、骨髄移植および末梢血幹細胞移植により治ることが期待できます。これらの移植は、患者さんの血液と同じ血液のタイプ(白血球の型=HLA型)を持つ方が、骨髄液(骨の中心部にある血液で、慣例的に「骨髄」とも言います)などを提供してくださることにより行われます。一人でも多くの方に骨髄等提供希望者(ドナー)として登録していただくことで、多くの患者さんの命が救われます。なお、新型コロナウイルス感染症の影響により、現在、ドナーの新規登録者数は減少しています。骨髄などの提供について皆さんのご理解、ご協力をお願いします。

高年齢者雇用支援月間
 事業主のみならず、広く国民の皆様に対して高齢者の雇用問題についての理解と協力を要請するため、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が厚生労働省等と協力して、さまざまな啓発活動を展開します。

1日 法の日 / 1日~7日 「法の日」週間 
 「法の日」(毎年10月1日)は、法を尊重し、法によって基本的人権を擁護し、社会秩序を確立する精神の高揚を図ることを目的として昭和35年に制定されました。以来これに基づいて、10月1日からの1週間が「法の日」週間とされ、「法の日」の趣旨の徹底を図るため無料法律相談などの各種行事が実施されます。本年は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、例年開催している「法の日フェスタ」に代わり、法務省ホームページや法務省Youtubeチャンネルを用いたオンライン広報を実施し、「法の日」の趣旨や法務省の施策等を皆さまにお伝えします。法務省ホームページに特設ページを開設予定ですので、詳しくはそちらをご確認ください。
総務省「「法の日」週間記念行事」

1日 国際高齢者デー
 昭和57年(1982年)の高齢者問題世界会議で採択され、同年に国連総会によって承認を得た「高齢化に関するウィーン国際行動計画」などを受け、平成2年(1990年)12月14日の国連総会で10月1日を「国際高齢者デー」とすることが採択されました。

2日 国際非暴力デー
 この日はインド独立運動の指導者であるマハトマ・ガンジーの誕生日に当たり、「非暴力の原則の普遍的意義」および「平和、寛容、理解および非暴力の文化を実現する」意思を再確認し、「教育や国民意識を高める運動を通して非暴力のメッセージを広める」ための機会とされています。

10日 世界メンタルヘルスデー
 平成4年(1992年)にNGO世界精神衛生連盟(WFMH)が、メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、人々に体験発表の場を設けるためにこの日を定めました。

11日 国際ガールズデー
 平成23年(2011年)12月の国連総会で定められました。世界の国々、とりわけ開発途上国では、女の子の多くが、経済的、文化的な理由により学校に通えず、10代前半での結婚を余儀なくされ、貧困の中で暮らしています。こうした状況の改善を目指し、様々なイベントが行われます。

17日 貧困撲滅のための国際デー
 昭和62年(1987年)のこの日、10万人以上の人々が世界人権宣言の採択されたパリのトロカデロに集まり、「貧困は人権の侵害である」と声をあげたのが由来です。あらゆる国々において貧困撲滅の必要性を広く知ってもらうことを目的として定められました。

15日~21日 精神保健福祉普及運動
 地域社会における精神保健及び精神障害者の福祉に関する理解を深め、精神障害者の早期治療並びにその社会復帰及び自立と社会参加の促進をします。また、精神障害の発生を予防し、精神的健康の保持及び増進を図り、精神障害者の福祉の増進や国民の精神保健の向上を図ります。

ジンケンダーのちょっと一言

ジンケンダー
白



過去の過ちを反省し、差別を二度と

繰り返さないことが大切なのだー!

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
Adobe Readerのダウンロードページへ(別ウィンドウ)

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。