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令和2年(2020年)7月(第147号)
皆さんは、国連が様々な「国際デー」を定めていることをご存知でしょうか?
この国際デーの中には人権に関わるものも多く、7月の国際デーの一つとして、「人身取引反対世界デー」(30日)があります。
この「人身取引」が重大な人権侵害であるということは容易に想像がつくと思いますが、遠く離れた開発途上国の問題で、日本においてはあまり馴染みがないと感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、日本国内でも人身取引は発生しており、あなたの周りにも被害者がいるかもしれません。
じんけん通信7月号では、人身取引について知り、身近な問題として考えていただくために、特集記事をお届けします。
そもそも人身取引がどのようなものかを知らない方が多いのではないでしょうか。
人身取引については、「人身取引議定書[1]」において定義づけがされていますが、この定義を図で示すと、次の様になります。
簡単にいうと、人身取引とは社会的・経済的に弱い立場にある人を、暴力や脅迫、誘拐、詐欺などの手段によって支配下に置いたり、引き渡したりして、売春や強制労働、臓器摘出などの目的で搾取することです。被害者の多くは女性や子どもですが、性別や国籍を問わず誰でも被害者になり得ます。
また、暴力、脅迫、詐欺などの手段が用いられた場合には、たとえ被害者が売春などの性的搾取や労働搾取、臓器摘出に同意していたとしても人身取引にあたります。
さらに、18歳未満の児童の場合は、性的搾取、労働搾取、臓器摘出の目的で支配下に置いたり、引き渡したりすれば、暴力、脅迫、詐欺などの手段が用いられなくとも、人身取引とされます。
ところで、毎年6月末頃、アメリカの国務省により、人身取引に関する世界各国の状況をまとめた年次報告書が発表されます。この報告書の中では、人身取引の阻止に向けた各国の取組が4段階で評価されます[2]。
日本は、未成年による援助交際や、いわゆる「JKビジネス」と称される接客サービス、アダルトビデオ(以下AVと記載)への出演強要などが問題視され、先進7か国(G7)の中で、人身取引の阻止に対する取組に関して長年後れを取っていたのですが、こうした状況を、皆さんはご存知だったでしょうか。
次項では、日本における人身取引の実態について、詳しく見てみましょう。
[1] 正式名称は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」です。
[2]アメリカ国務省の年次報告書においては、世界各国の人身取引の阻止に向けた取り組みが、
1.最低限の基準を十分に満たしている(=最高ランク)
2.基準を十分には満たしていないが、それらを満たすためにかなり努力している、(=ランク2)
3.基準を満たすためにかなり努力をしている一方で、成果が出ていない(=ランク3)
4.基準を満たしおらず、改善努力もしていない(=最低ランク)
の4段階で評価されています。
日本は2017年まで、先進7か国(G7)の中で唯一ランク2にとどまっていましたが、2018年に、人身取引議定書の締結や、上記のような性的搾取への取締りが評価され、ようやくG7と並んで最高ランクに分類されました。
下記の表は、直近の5年間で、日本において人身取引事犯の被害者数として公表されている件数と、JKビジネスや児童買春の被害者数として公表されている件数を併記したものです。JKビジネスや児童買春は、前項でご紹介したように、アメリカの人身取引に関する年次報告書において人身取引であるとされています。
※1 人身取引・児童買春は警察庁、JKビジネスは内閣府により公表されている被害者の人数。
※2 JKビジネス被害者数の集計期間は、平成29年は4月~12月、平成30年は1月~12月であり、直近5年間のうち公表されている件数を記載しています。
過去5年とも、児童買春の被害者数の方が人身取引の被害者数よりはるかに多く、平成30年にいたっては、JKビジネスの被害者数だけで人身取引の被害者数を上回っています。
これはどういうことかというと、日本において認知・公表される「人身取引」と、人身取引議定書上の「人身取引」の定義にはずれがあり、JKビジネスや児童買春などの多くは、人身取引事犯として認知・公表されていないということです。
つまり、日本において発生している、国際的に人身取引として認知される事犯の件数は、人身取引事犯として公式発表された件数よりもはるかに多く、日本の人身取引の実態は、国際的に見ると芳しくないと言えます。
JKビジネス、児童買春なども人身取引にあたるということや、これらの件数がどのくらいあるのかを知ると、人身取引が、決して他国だけの問題ではないということが分かるのではないでしょうか。
人身取引の被害をなくしていくためには、まず、どのような事例が人身取引につながり得るかを知る必要があります。
警察庁のホームページでは、人身取引事犯の事例として、次のようなものが紹介されています。
・フィリピン国内においてダンサーの募集に応じたフィリピン人女性が、興行の在留資格で来日
後、旅券(パスポート)を取り上げられ、客の接待を伴う飲食店のホステスとして働かされた
うえ、報酬を搾取された。
・日本人女性が、日本人男性が勤務する飲食店で遊興などをして負わされた借金返済の名目で、
「返済が足りなかったら殺されるかもしれない」などと言われ、出会い系サイトを通じて
募集した者との売春を強要されたうえ、代金を搾取された。
上記のように国籍を問わず被害にあう可能性があり、日本人が被害者となるケースも多いようです。
また近年は、手口が巧妙になり、被害者自身が人身取引の被害にあっていることを自覚できない、または被害を訴えることができない場合もあるようです。
さらに身近な例を見てみましょう。
・SNSで「お客様の隣でおしゃべりするだけ!」「体験入店で○万円稼げる!」というアルバイト
の募集広告を見つけ、応募した。実際に働いてみると募集広告とは異なり、客に性的な行為を要
求された。
・街で「モデルに興味ありませんか」と声をかけられ、「単なる登録だから」と説明された書類に
サインした。その後AV出演を求められ、断ると、契約違反だと言われ多額の違約金を請求され
た。
この二つは、JKビジネス・AV出演強要の事例です。面識のない人からの誘いだけではなく友達の誘いがきっかけで、信頼している人であるため断りにくく、被害にあってしまう場合もあるようです。
日本国内における人身取引被害者の多くは、売春などによる性的搾取を受けています。性的搾取を目的とする人身取引の場合、被害を受けたことを自らは言い出しにくく、また、私たちの人身取引に対する関心の低さも、被害の表面化を妨げる一因となっているものと思われます。
人身取引は重大な人権侵害です。大切なのは、人身取引になり得る事例を知るとともに、自分がそのような事例に遭遇しても、安易に誘いに乗らずきっぱりと断ることで、被害者にも加害者にもならないことです。それと同じく大切なことは、もし被害にあってしまった人がいたら、一刻も早くその状況から助け出すことです。
人身取引の被害ををなくすために私たちにできることは、まずはこの問題を知り、関心を持つことです。声をあげられず苦しんでいる被害者が周囲にいないか、また、もしそのような人がいればどんな支援ができるかを、誰もが自分にも関係のある問題として考えることが必要ではないでしょうか。
被害者かもしれない人を見聞きした場合、または自分が被害者かもしれないと感じた場合は次の連絡先に相談してください。
○人身取引の被害者が助けを求めてきた場合、被害者らしい人の情報などを聞いた場合の連絡先はこちら
・都道府県警察
警察相談窓口(電話):#9110
・匿名通報(警察庁)
電話:0120-924-839
ウェブサイトhttps://www.tokumei24.jp/
・出入国在留管理庁
大阪入国管理局大津出張所:077-511-4231
○「児童買春」「JKビジネス」「AV出演強要」に関する相談先はこちら
・警察相談専用電話:#9110
令和元年度 人身取引対策ポスター
出典:政府広報オンライン(クリックすると政府広報オンラインのHPが開きます)
令和2年度 AV出演強要・JKビジネス被害防止啓発ポスター
出典:内閣府男女共同参画局ホームページ(クリックすると内閣府のHPが開きます)
・なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間
県および市町では、企業の経営者や従業員等が同和問題をはじめとする人権問題に対する正しい理解と認識を深め、差別のない明るい職場づくりを推進するため、企業における就職差別の撤廃と同和問題をはじめとする人権研修がより一層充実・強化されるよう、毎年7月を「なくそう就職差別 企業内公正採用・人権啓発推進月間とし、各種啓発活動を行っています。
・青少年の非行・被害防止滋賀県強調月間
「地域の力で子どもをまもり、はぐくむ」を重点テーマに、地域が一体となった青少年の非行防止活動を推進するため、関係機関・団体等の有機的な連携の下に青少年の非行防止と被害防止に関する諸施策および諸活動を集中的に実施します。
・「社会を明るくする運動」強調月間~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~ 強調月間
「社会を明るくする運動」は、すべての国民が、犯罪や非行の防止と罪を犯した人たちの更生について理解を深め、それぞれの立場において力を合わせ、犯罪や非行のない安全で安心な明るい地域社会を築こうとする全国的な運動で、本年、第70回の節目を迎えました。強調月間である7月を中心に、1年を通じてSNS等を活用した広報活動に力を入れて取り組みます。
・再犯防止啓発月間
平成28年(2016年)12月に「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」が施行され、7月を再犯防止啓発月間とする旨が定められました。
・1日 アイヌ文化振興法の施行
平成9年(1997年)のこの日に施行されました。「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与する」ことを目的としています。
・16日 性同一性障害者特例法の施行
平成16年(2004年)のこの日に施行。性同一性障害である場合、家庭裁判所の審判を経て、戸籍上の性別を変えることができるようになりました。
・30日 人身取引反対世界デー
国連により、2014年に定められました。人身取引の問題を世界中の人に知ってもらうため、キャンペーンが展開されます。
知らなかったけれど、実は身近な問題だった
ということもあるのだー!