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平成31年(2019年)4月(第132号)
スマートフォンやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及し、誰もが簡単に情報の受発信ができるようになりました。しかしその一方では、誹謗中傷や差別書込、プライバシー侵害など、インターネット上の人権侵害は大変深刻な状況になっています。
一度、書き込まれた情報は完全に削除することは難しく、差別の助長・拡散にもつながることから、人権侵害の被害者にならないだけでなく、情報の転載や同調などによって、差別情報の二次発信者として人権侵害の加害者にもならないように気を付けることも重要です。
こうしたことから、当課では毎年、行政職員等を対象にインターネットにおける差別書込等の現状や問題点を把握し、インターネット上においても人権が尊重される社会を実現することを目的として研修会を開催しています。
今回のじんけん通信は、今年度の研修会で総務省「インターネット上に公開された個人に関する情報等の取扱いに関する研究会」の構成員であり、違法・有害情報相談センター長である桑子博行さんにご講演いただいた内容について紹介します。
■インターネット利用と被害の現状
平成29年版の情報通信白書(総務省)によると、スマートフォンの保有率は、全体で56.8%(5年で4倍に増加)。年代別では、20代で94.2%、30代で90.4%、13~19歳で81.4%となっており、若年層の多くがスマートフォンを保有しています。また、代表的なSNSであるLINEやFacebook、Twitterなどのいずれかを利用する人は71.2%となっており、その中でも13歳~19歳のTwitter利用率は6割を超え、若者ほどTwitterを使っている状況です。
若年層にSNSが普及したことで、子どものSNSによる被害が多発しています。2017年に被害にあった18歳未満の子どもは、1,813人となり年々増加する傾向にあります。また被害の多くが淫行に関する内容や、わいせつ画像を撮影・送信させる「自撮り」となっています。
■インターネット上の違法・有害情報とその対策
インターネット上の違法・有害情報は2つに分けられます。「権利侵害情報や法令により違法となる情報」は、発信者に法的責任がありますが、「違法でない情報(有害な情報)」については、発信者に法的責任がありません。
違法となる情報については、サイト管理者が一方的に削除することが可能ですが、違法ではない情報(公序良俗に反する情報)は、サイト管理者が一方的に削除することが難しくなります。
違法ではないが有害な情報についても、青少年を対象にそのようなサイトを見ない、見せない取り組みが進められています。
違法・有害情報には具体的に以下のような対策がとられています。
○ フィルタリングソフトの普及、フィルタリング設定の義務化
18歳未満の子どもが使う場合、有害サイトなどへのアクセスをブロックするためのフィルタリング設定を有効にして販売することが義務化されています。
○ プロバイダ等による自主規制
電子掲示板の管理者やインターネットサービスプロバイダ等が、自らの提供するサービスの内容に応じて、自らが必要とする範囲内で契約約款を定めています。
この契約約款の中で、利用上の禁止事項などを明記し、利用者による違法・有害な書き込みに対する規制が行われています。
○ 違法・有害情報対策に関するモラル教育の充実
情報リテラシーを理解したうえで利用することが重要であることから、モラルの向上のための教育や啓発が行われています。
○ 相談窓口の充実
削除するためには、具体的にどのように対応すればよいのか。また、削除するためには専門的なノウハウが必要なケースもあります。相談窓口を充実する取り組みが必要であり、違法・有害情報相談センターもその1つです。
■プロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法とは、インターネットにおける情報の流通により自己の権利が侵害された場合に、関係するプロバイダ等に対し、流通の停止やプロバイダ等の免責要件を定めるとともに、発信者の情報の開示を請求できることなどを定めた法律です。
人権を侵害する書込をされた被害者は、誰が書き込んだかわからないため、プロバイダ等に対して書込の削除を求めるしか方法がありません。プロバイダが被害者の求めを受けて、発信された情報を削除することは表現の自由を奪い取ることになり、また、削除しないと、被害者から責任を問われることもあります。
こうした場合に削除するのか、しないのか、その判断基準などがプロバイダ責任制限法に記載されています。
インターネットによる情報発信には、匿名性という性質があり、書き込んだ人が誰か分かりません。書き込んだ人を知るため、プロバイダ等に対して発信者の情報の開示を求めることができる内容が、第4条に定められています。
また、発信者情報の開示請求をしたにもかかわらずプロバイダが開示してくれない場合は、裁判に訴えるという方法があります。
〔参考〕
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆる「リベンジポルノ法」)がプロバイダ責任制限法の特例として、平成26年(2014年)11月27日に公布されました。プロバイダ責任制限法では、削除要請に対し、情報発信者が7日を経過しても反論しない場合は、プロバイダが削除できるところを、リベンジポルノ法では2日としています。
■違法・有害情報対策の基本的視点とプロバイダ等による自主規制
インターネット上に様々な内容を書き込む行為は、憲法第21条に保障されている表現の自由に当たります。
また、同条では「検閲はしてはならない」「通信の秘密は侵してはならない」とも明記されています。
さらに、電気通信事業法にも通信事業者に対し「通信の秘密を侵してはならない」と記載されています。
事業者としては、表現の自由を保障するとともに、通信の秘密を確保しなければなりませんが、一方で、表現の自由を保障した結果として、いろいろな書込があり、現実問題として、被害を受ける人も出てきている状況にあります。
表現の自由の保障や通信の秘密の確保と、被害者の救済や情報流通の適正さの維持確保は、相反する場合が多く、このバランスをどうとるかということが、違法・有害情報対策の基本的な視点です。
このため、プロバイダ等では自主規制による取組が進められています。
■契約約款モデル条項の禁止事項
契約約款モデル条項の“禁止条項”にはプライバシーや肖像権を侵害する行為や不当な差別や差別を助長する行為、児童ポルノ、規制薬物などを販売等する行為、違法行為の仲介や誘引する行為などがあります。
平成28年6月3日に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が施行されたことや、平成28年12月16日に「部落差別の解消の推進に関する法律」が施行されたことを踏まえ、違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項の解説の改訂が次のとおり行われています。
通信事業者は、憲法や電気通信事業法により、表現の自由と通信の秘密を厳守しながら、併せて違法・有害情報対策などに取り組んでいます。
今回は、主に急速に普及するスマートフォンとSNSの人権侵害の現状や書き込みに対するプロバイダの対策・対応の状況についてお伝えしました。
違法・有害情報の書き込みをさせない取り組み、アクセスをブロックするフィルタリングの取り組み、また、書き込みの削除に関する仕組みづくりなど、様々な取り組みが進められています。
後編では前編の内容をさらに掘り下げて、インターネットの特性を踏まえたインターネット上の人権侵害への対応策等についてお伝えします。
先日、法務省より平成30年における「人権侵犯事件」の状況について発表されました。
インターネット上の人権侵害に関する事件数は全国で1,910件で、過去2番目に多い件数でした。
この件数は、法務局・地方法務局に相談があったもののみですので、相談されていないものも含めると、さらに多くの数になると思われます。
桑子先生のお話にもあったように、インターネット上の人権侵害を防ぐためのさまざまな制度や取組がありますが、まず私たちの意識を変えていかなければなりません。
ぼくたち一人ひとりが、モラルを持って正しくインターネットを使うことが大切なのだー!!