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平成30年(2018年)4月(第120号)
2020東京オリンピック・パラリンピックの開幕まで残りわずかとなりました。
4年に1度の世界的なスポーツの祭典、オリンピック・パラリンピックは、私たちにたくさんの勇気と感動をもたらしてくれます。1964年以来、56年ぶりに日本で開催される2020年大会はどのような大会になるのでしょうか。とても楽しみです。
さて、皆さんは「ゴールボール」という競技をご存知ですか?ゴールボールは、オリンピックにはない、パラリンピックならではの競技です。
今回は、一般社団法人日本ゴールボール協会 副会長で、守山ゴールボールの代表も務めておられる西村秀樹さんにゴールボールとの出会いや魅力、そして、パラスポーツ(※1)を通じた仲間づくり・地域交流についてお話を伺いました(※2)。
(※1) 年齢、障害の有無などに関わらず、だれもが楽しめるよう工夫されたスポーツ。
(※2) 今回の記事は、2月14日に立命館大学びわこくさつキャンパスにて開催した「若年層向け人権啓発講義」での講演内容を基に記事を作成しています。
ゴールボールとは?3名1チームで、鈴の入ったボールを投げ合い相手ゴールに入れ、得点することで勝敗を決める、対戦型の競技です。選手は全員、「アイシェード」という専用のゴーグルを装着します。視覚障害と一言で言ってもその程度は様々であり、同じ条件で試合に臨むためです。ボールの音や選手のかけ声や足音、ラインテープの下に敷かれたたこ糸の感触といった視覚以外のすべての感覚を研ぎ澄まして戦います。一番のみどころは、チームで協力しあって攻防をくり広げる「チームワーク」です!滋賀県ホームページ「しがスポーツナビ!」競技情報(ゴールボール)をご覧ください。 |
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◆ ゴールボールとの出会い
初めてボールを受け止めた時 「自分の人生に大きな影響を与えてくれるものになる」と直感
私は現在、全盲です。でも最初から、全く見えていなかったわけではありません。
子どもの頃は、弱視でしたので、友だちと同じようにできないこともあり、辛いこともありましたが、自転車にも乗れ、目を近づければ新聞も読め、字を書くこともできました。小学校卒業後は盲学校に進学し、そこで出会ったのが、視覚障害に配慮したスポーツです。体を動かすことは好きだったので、グランドソフトボール(当時は、盲人野球)にも挑戦し、社会人になっても続けていました。
しかし27歳のとき、完全に光を失いました。まずは、早く全盲に慣れ、自立して生活できるようになりたいと思い、一人歩きや点字の読み書きなどの訓練に取り組みました。私の場合は、盲学校時代に全盲の人の生活を見ていたこともあり、施設に入らず、独学で訓練を行いました。訓練を続ける中で、これからの「新しい自分の人生」のために、何か熱中できることを見つけたい、という思いも持つようになりました。
そのような中、私が30歳のときのことです。日本で初めて、ゴールボールの選手やコーチを育成する教室が東京と京都で開催されることを知り、歩行訓練も兼ねて通うことを決めました。
初めての練習の日。非常に大きくて重たいボール。それを投げて、受け止めたときの衝撃は今も忘れません。「痛い」ではなく、「これは何か自分の人生に大きな影響を与えるものになるのでは」という予感を感じました。これが、私とゴールボールとの出会いでした。
◆ ゴールボールの魅力
自分の能力を最大限に活かせる!
海外の選手と競技ができる!ゴールボールが自分の人生に大きな影響を与えるものになる、と思えたのは、ゴールボールにたくさんの魅力を感じたからです。
まず、競技が簡単です。目を使わずに、鈴の音、ラインの糸の感触、チームメイトの声を頼りに競技できるゴールボールに「これなら、自分の能力を遺憾なく発揮できる!」と思いました。
また、ゴールボールは国際的なスポーツなので、スポーツを通じて海外にも行くことができます。「言葉がわからなくても、いろいろな国の視覚障害の仲間と試合ができる!」「海外の人たちと出会える!」という希望も見えました。
全盲になった時は、このようなことを自分ができるようになるとは、まったく想像できませんでした。光を失って、できなくなったことの方が圧倒的に多かったからです。
1992年にゴールボールをはじめ、1994年5月に日本ゴールボール協会を設立し、初めて、胸にJAPANと書かれたユニフォームを着たときは本当にうれしかったです。パラリンピックに出場したことはありませんが、日本代表選手として4回の海外遠征を経験しました。中でも、イギリスの大会で勝利した瞬間は、今でも忘れません。スポーツで負けて悔し泣きをしたことはありましたが、勝って、自然に涙が出てきたのは初めてでした。ゴールボールを通じてこんな体験もできるのか、と思いました。
◆ 視覚障害者スポーツの課題 (現実問題)
交通アクセス、用具が特殊、・・・そして「仲間づくり」!!
ゴールボールに限った話ではありませんが、視覚障害者がスポーツをする上でいくつかの課題があります。
まず、会場までの「交通アクセス」です。視覚障害者にとって「会場はどこか?」が一番の関心事です。自ら車を運転できない視覚障害者は電車やバスを乗り継いで行かなければなりません。そこで、乗り継ぎ時間や場所を予め調べる必要があるのですが、「バス停から徒歩5分」という説明だけでは何とかバス停に到着しても、その後、どの方向へ歩けばよいのかがわかりません。
次に、「特殊な用具が必要」であることです。パラスポーツの中でも特に視覚障害者スポーツの用具は特殊です。ゴールボールについて言えば、ゴールは「幅9m、高さ1.3m、奥行き1m以上」の大きさです。また、鈴が入ったボールも輸入品です。そのため、どこでも気軽にプレイすることはできません。
最後に一番大切なことが、「仲間づくり」です。3人1チームでできる競技ですが、視覚障害者だけではできません。例えば、コートの準備には、障害のない人も含めて5、6人で作業をしても1時間近くかかります。また、レフェリーや記録係、タイムキーパーなど、視覚障害者ではできない役割があり、競技をするためには、視覚に障害のない人も一緒に楽しめるような「仲間づくり」が大切なのです。
◆ 2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて
滋賀県・守山市は、ホストタウンです。みんなで選手を応援しよう!!
50代になり、今、自分にできることは何かと考えた時、ゴールボールの普及活動だと思っています。日本代表として海外遠征に向かう選手を見て、うらやましく思う反面、今まで自分が続けてきてよかったという思いもあります。続けてこられたことは、自分の誇りでもあり、原動力にもなっています。また、ゴールボールを通してできた仲間がいることも心の支えになっています。このことを自分のセールスポイントとして、普及活動をがんばりたいと思っています。
そうした思いで、2015年に地元・守山市に「守山ゴールボール」という練習会を立ち上げました。守山ゴールボールでの活動がきっかけとなり、県内大学との交流や地域での体験会など、様々なつながりができつつあり、今後がとても楽しみです。
そして、2020年には東京パラリンピックが開催されます。これまでの日本のゴールボールチームの成績は、女子が2004年アテネで初出場・銅メダル、北京・7位、ロンドン・金メダル、リオ・5位でした。2020東京パラリンピックには、開催国は必ず出場できる決まりがあるため、男女ともに出場することが決定しています。しかし、選手たちは自らの力で出場権を勝ち取りたいという思いで、がんばっています。
特に、滋賀県と守山市は、2020東京オリンピック・パラリンピックに向けたホストタウンに登録しており、今年の春には早速、ゴールボールの強豪国との合宿練習を予定しています。これを機会に、選手にはしっかりと力をつけてもらいたいと思っています。また、合宿には立命館大学など県内の大学に協力をいただきますので、ぜひ、皆さんで応援してください!
◆ ゴールボールという競技を通じて
一緒に過ごすことで得られる新たな発見や出会い。それが、自然と仲間をつくる。
以前は、「障害者スポーツ(パラスポーツ)は、障害者のためのスポーツ」という捉え方がされていました。当事者である私たちも「自分たちのスポーツ」という意識でした。でも今は「障害者のためだけのものではない」と思っています。
また、「手伝い」や「支援」もありがたいことではありますが、継続してやるとなるとなかなか難しいと感じています。継続するためには、やはり仲間として一緒にできることが一番よいですし、スポーツを通じての交流でなら、それが実現できるのではと思っています。
少し、スポーツから離れますが…「障害者理解」ということがよく言われます。周りの人に障害のことを理解してもらうことは大事なことではありますが、それだけではだめだと私は思っています。「障害者自身が自分をさらけ出すことも必要だ」と。例えば、自分の財布から硬貨を落としてしまったとき、だれでもその硬貨を拾おうとします。視覚に障害がなければ、硬貨が転がる先を目で追ってピンポイントで拾えると思いますが、視覚障害者の場合は、じっと音を聞いた上で検討をつけ、地面に手を這わせて探すことになります。全盲になって最初の頃は、人前でその動きをすることが恥ずかしく、情けなく感じていました。でも、目が見えないということはそういうことなのです。それをまずは見てもらわないと、理解につながらないのでは、と思っています。
スポーツを通じて一緒に同じ時間を過ごす中で、自然に障害者が自分自身のことをさらけ出せ、障害のことを自然と知っていただけたら…そこから、お互い新しい発見が得られ、仲間になっていくのではないかと活動を続けてきて今、感じています。
東京パラリンピックの後も今の活動を続けていけるか、少し不安もありますが、まずは今のつながりを大切にして、自分にできることを精一杯がんばりたいと思っています。そして、守山ゴールボールに、ぜひ、皆さんも参加いただき、新しい発見や出会いを体験してもらえるとうれしいです!
◆ レポート!! 第1回守山ゴールボール大会
2018年3月10日土曜日、守山市役所の近くにある守山市民交流センターにて、「第1回守山ゴールボール大会」が開催されたので、見学 & 体験に行ってきました!
大会の主催者は、西村さんが代表を務める「守山ゴールボール」。当日は、子どもから大人、初心者から経験者、障害のある人もない人も、約50人が集まり大盛況でした。
☆まずは、みんなで協力して準備。それぞれができることを、声をかけあいながらやります。
(1)まずは、ゴールの組立て。 | (2)次に、たこ糸を仮止めします。 | (3)最後にテープを貼って、完成。 |
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☆さあ、いよいよ大会スタート!開会式
「守山ゴールボール初めての大会です。約2年9か月続けてきて、ようやく、自分たちで大会を開くことができて、とてもうれしいです!今日は皆さん、楽しんでください!」と西村さん。
☆初心者もいるので、まずは練習
相手からのボールの受け方を練習。目を閉じ、ボールの音がした方向に倒れ込む練習です。集中力が必要。初心者には、守山ゴールボールの方が、丁寧に個別指導してくださいました。
☆試合がスタート!たくさんの笑顔
試合は年齢や経験、性別に配慮した組分けで行われました。視覚障害のある人もない人もアイシェードをすれば、条件は同じです。試合の途中で、守山ゴールボールのメンバーによるエキシビションマッチが行われ、さまざまな技が繰り出され、会場は大盛り上がり!(動きが素早く、写真はうまく撮れませんでした…)
☆参加者にインタビュー!!
●参加した子どもたちに感想を聞いてみました。
Q) 大会に参加してみて、どうでしたか?
A) ・ 初めはアイシェードで何も見えなくて怖かったけど、やり方がわかってとても楽しめました。点数が入ったときがうれしかったです。(中学生)
・ 楽しかった!うれしかった!サッカーのPK戦みたいで、おもしろかったです。(サッカーチーム)
●守山ゴールボールの方に、ゴールボールについてお聞きしました。
Q) ゴールボールをはじめたきっかけは?
A) 視覚障害の人が楽しめるスポーツはなかなかありません。そのような中、守山でゴールボールができるようになると知り、守山ゴールボールの立ち上げ時から参加しています。選手全員がアイシェードをつけて同じ条件で、年齢も関係なくプレーできるところが魅力です。守山ゴールボールにも3、4歳~60歳くらいまでの人が所属しています。
Q) 今後の目標や夢はありますか。
A) パラスポーツのことを知らない人はまだ多いと思うので、この活動を広げて、多くの人に知ってもらえたらと思います。障害のあるなしに関わらず、たくさんの人に参加してもらえるとうれしいです!
●2017年12月10日から4日間、アラブ首長国連邦で開催されたアジアユースパラ競技大会に出場した田辺選手にも、お話しを伺うことができました。
Q) 海外での試合は、どうでしたか。
A) 中国との試合が一番印象に残っています。リオオリンピックへの出場経験がある中国の選手の球を間近で感じることができたのですが、とても速く強い球で驚きました。日本の中で力があっても、世界に通用するためには、もっと練習が必要だと強く思いました。がんばります!
「守山ゴールボール」に参加したい!見学してみたい!という方へ定期練習会は、「第2、3、4水曜日の18~21時頃」に、「守山市民交流センター」で開催しています。https://m.facebook.com/moriyamagoalball610/?locale2=ja_JP)または、代表の西村秀樹さん(携帯電話:090-8987-8856)まで! |
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さらに詳しくは、フェイスブック(https://m.facebook.com/moriyamagoalball610/?locale2=ja_JP
ゴールボール初心者という以前に、本格的に運動すること自体が十数年ぶりで、不安でしたが、西村さんをはじめ、参加者の皆さんのサポートのおかげで、楽しくプレーすることができました! アイシェードをつけると、全く光のない世界…恐怖もありましたが、チームメイトの声や点数が決まった時の拍手が聞こえると、勇気づけられました。
そして今回、西村さんにお話をお聞きし、人と人とのつながりを大切にされながら、何事にも前向きに取り組まれる姿勢はとても勉強になりました。
障害者差別解消法の施行から2年になります。法には「不当な差別的な取扱いの禁止」「合理的配慮」と難しい言葉がならんでいますが、まずは、障害の有無に関わらず、スポーツなどを通じて一緒に過ごしてみてはどうでしょうか。交流する中で、お互いが気持ちよく過ごせるためには何が必要かということに、自然と気づけるのではないかと思いました。