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平成30年(2018年)1月(第117号)
滋賀県には現在約25,000人の外国人が住んでいます。言語や文化、習慣などが異なる様々な外国人住民の滞在長期化や定住化が進んでおり、これらの方々が学校や地域でともにいきいきと暮らすには、言葉の支援は欠かせません。日本語の理解が不十分なことで必要な情報を得ることができなかったり、コミュニケーションがうまくとれなかったり、地域の活動に参加できないなどの困難に直面するといった状況がみられます。
今回は中学校で外国人生徒への日本語指導を行いながら、地域でボランティアグループ「カリーニョ」※を立ち上げ、さまざまな活動をされている青木義道さんに、ポルトガル語と出会ってからボランティアグループを立ち上げるに至った経緯や、カリーニョでの活動等についてお話を伺いました。
※ポルトガル語で「愛情」の意味
Q. 大学でポルトガル語を学ばれたとのことですが、そのきっかけについて聞かせてください。
A. 私は大津市で育ったのですが、子どもの頃から自然が大好きで、アマゾンの自然や動植物にとても興味がありました。これがブラジルに興味を持ったきっかけです。
また、大学受験では、中学校の英語教員になるため、語学を中心に学ぶことができる大学を選びました。その当時から滋賀県には南米系の外国人住民が住んでおられることを知っていたので、自分の将来の仕事にも生かしたいという思いもあり、ブラジルで話されているポルトガル語を専攻することに決めました。
Q. 外国人生徒に日本語指導をしようと思ったきっかけについて聞かせてください。
A. 大学4年生の頃、ブラジルに留学することになるのですが、留学する前からブラジルからの留学生へのサポートや、滋賀県国際協会でのボランティア活動を行っていました。この時期の活動が今の日本語指導につながる素地を形作ったと思います。
ブラジルでの留学生活では、80人のクラスの中で日本人は私一人だけでした。それまでの3年間ポルトガル語を勉強していたにもかかわらず、現地での授業では、言葉が理解できず途方にくれていました。そんな私を見て、クラスメイトたちが食堂で簡単なポルトガル語を使って授業の内容を教えてくれました。彼らの助けもあって、なんとか1年間の留学生活を終え、日本に戻って来られたのですが、外国で生活することの大変さとブラジル人のさりげない優しさを身をもって知ることができました。そうした経験から日本に戻ったら、今度は自分が外国人住民に対し、恩返しをしようという気持ちを強く抱くようになりました。
帰国後、私の英語教員としてのキャリアは石部町(現・湖南市)から始まりました。その当時から、石部町には南米系のニューカマーがたくさん来られていて、学校での通常業務の傍らで通訳をしたり、ボランティア活動を行うなどして外国人住民への支援を行っていました。この時、私が日本語の支援をしていた子どもたちがのちの「カリーニョ」のメンバーになっています。
石部中学校で6年間、英語教員として過ごした後、リオデジャネイロの日本人学校への派遣を経て、この日枝中学校にやってきました。日枝中学校がある地域も南米系の住民が多く、いつかは日枝中学校に行くだろうな、と思っていた矢先の赴任でした。日枝中学校に来て2年後、当時の日本語指導担当教員の後任となって今に至っています。
Q. ボランティアグループ「カリーニョ」を結成した経緯をお聞かせください。
A. カリーニョを立ち上げる前から、仕事の延長線上で保護者や生徒の依頼を受けて、通訳のボランティアをしていました。日枝中学校で日本語指導を担当するようになってから、外国人の子どもたちに、より集中して関われるようになり、この支援体制を強化したいと思うようになりました。でも、そんなことは一人ではできません。そこで、地域の有志を募って支援に参加していただくことにしました。現在、社会人や学生、中には80歳代の方など、様々な方が来てくださいます。「私は外国語を話せないけど大丈夫?」とよく言われますが、問題ありません。大事なのは言葉よりも、寄り添っていこうという気持ちであって、周りにサポートしてくれる人たちがいるということ自体が子どもたちの励みとなるのです。
ある時、サポーターの方からもっといろんなことが知りたいので、ポルトガル語を教えてほしいという要望がありました。地域の日本人住民と外国人住民との交流をさらに深める良い機会になると考え、私は石部中学校の教え子である高橋ファビオ君に協力を依頼し、月二回ポルトガル語教室を開くことにしました。これをきっかけにカリーニョが結成され、高橋君が代表となっています。
日枝中学校でのポルトガル語教室のようす(講師は教え子でカリーニョ副代表のイワサミドリさん) |
Q. 現在、カリーニョではどのような活動をされているのですか。
A. これまで地域の日本人住民に向けたポルトガル語教室を4回/1セットで3期と、同じく4回/1セットでスペイン語教室を1期やってきました。講座では自己紹介や買い物をする時に使う表現を中心に学んでもらい、修了後は実際に文化や食に触れてもらうため、南米系の食料品店に買い物をしに行きます。この企画は学生や先生、地域の方に大変好評をいただいています。
また、出張ポルトガル語教室ということで湖南市の全中学校に出向いて、教員有志を対象にポルトガル語教室を開きました。さらに、日本の代表的な武道の1つで外国人住民に人気のある剣道を通じた文化交流も県内の有段者の協力により行っています。
Q. カリーニョの活動を通じて伝えたいことは何ですか。
A. これらの活動を通じて、滋賀県には外国人住民がたくさん生活していて、外国の文化に触れたり、言語を学ぶ機会が身近にあるということを日本人住民の皆さんには知ってほしいと思っています。そして外国人住民には、地域にはブラジルの文化をはじめとする外国の文化や言語に関心を持っている人たちがたくさんいるということを知ってほしいです。
中学校の外国人生徒やその保護者には、カリーニョのポルトガル語教室のサポートにきてもらっている方々もいます。こうした取組を通じて、日本人と外国人の相互理解に向けた歩み寄りや交流が促進されれば、と願っています。
Q. これまでのカリーニョの活動で特に成果のあった取組は何ですか。
A. 先ほどお話ししたように、留学中、私は現地の学生にとても親切に接してもらいました。今の私は、当時、自分がしてもらって嬉しかったことをしているのです。近年、社会における人間関係が希薄になってきたと言われていますが、外国の文化に直に触れることで理解し合えることや、お互いを尊重する気持ちの大切さを学ぶことができるのではないでしょうか。
カリーニョのメンバーには日本人やブラジル人をはじめ様々な国籍の人がいます。どこか一つに偏ることなく、それぞれの文化や考え方を共有し、尊重し合いながら活動しており、そうしたことも様々な人々に活動を受け入れていただいている理由の一つだと考えています。
そういった意味で、カリーニョの活動の輪が広がることにより、日本人住民と外国人住民のお互いの理解が深まってきたことが一番の成果だと思っています。
Q. 学校での活動で反響のあった取組はありますか。
A. 外国人生徒や保護者への連絡用に母国語と日本語を併記したコミュニケーションスタンプを作成したところ、生徒や保護者からわかりやすいと好評価をいただきました。
この取組に賛同いただいたブラジルの有名漫画家マウリシオ・デ・ソウザさんからはマウリシオさんのキャラクターを使った、コミュニケーションスタンプと日本の学校での過ごし方をポルトガル語で描いた漫画を寄贈いただきました。
青木さんが当初考案したコミュニケーションスタンプ | 現在使用されている、キャラクターの入ったコミュニケーションスタンプ |
学校での過ごし方を描いたポルトガル語の漫画 |
Q. 同じ地域に住む構成員として日本人、外国人住民それぞれに必要なことは何だと思いますか。
A. 日本人から見ると外国人住民の生活習慣の違いに戸惑いを感じることがあるかも知れません。例えばゴミの捨て方ですが、地域のルールと異なったことをしていたら正しいルールをわかりやすく教えてあげればきちんとしてくれると思います。また、外国人住民の皆さんには、日本人住民と交流をする中で日本のことを知って、好きになっていってほしいです。お互いがお互いをよりよく知ろうとする気持ちを持てば、相互の理解はもっと進んで皆が暮らしやすい社会ができていくと思います。
Q. カリーニョのこれからの活動についてお聞かせください。
A. 「地域の中での身近な国際交流」を念頭において長く続けていくことを第一の目標にしています。これからもユニバーサルな視点を持った若者たちが地域に育ち、活躍できるよう、活動を続けていきたいです。日本に住む外国人の子どもたちは文化や言葉の違いに悩みながらがんばっているケースがたくさんあります。カリーニョには、代表の高橋ファビオ君や副代表のイワサミドリさんをはじめ、今まで多くの苦労を経験しながら様々な壁を乗り越えてきた頼もしいメンバーがいます。カリーニョの活動を通してこうした子どもたちの支援にもつなげられたらと思っています。
カリーニョの1周年記念イベントとして、1月6日(土曜日)に水戸小学校で、本場リオデジャネイロで活躍するミュージシャンを招いてブラジル音楽の無料コンサートを開催する予定です。日本での生活が長く、ブラジルの本場の文化から離れているブラジルの方々にも、日本人の皆さんにも楽しんでいただけると思いますので、ぜひお越しください。
Q. 最後に県民の皆さんにひとことメッセージをお願いします。
A. 滋賀県には南米系のスーパーや私たちカリーニョのようなボランティア団体など、身近なところに外国の文化に触れるチャンスがたくさんあります。ぜひ、目を向けて自分から歩み寄ってみてください。