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「家族と犬、それからキツネ。都会と違う暮らしだから、都会で出来ない創作活動が出来る」
自然と動物をモチーフにした温もりある切り絵が人気の切り絵作家・早川鉄兵さん。大阪で商業カメラマンとして働く日々に疑問を感じ、期間限定のつもりで米原市の地域おこし協力隊に就任。任期中にイベントで発表した切り絵が評判となり、切り絵作家の道を歩み始めました。現在は米原を拠点に、全国的に活躍中!
――米原市を訪れたきっかけは?
石川県で育ち、専門学校卒業後は大阪で商業写真のカメラマンをやっていました。先輩の仕事のアシスタントで米原市の一年を撮影する機会があったんです。それまでも長期休暇には北海道や小笠原諸島、モンゴルなどへ出かけ、ライフワークで大自然を撮ったりしていたのですが、外から訪れて美しい部分だけを切り取るのは何か違うなと感じていて…。米原には大自然はないけれど、昔から変わらぬ暮らしが脈々と受け継がれていました。この場所に腰を落ち着けて内側から撮影してみたい、そんな思いに駆られて、ちょうど募集されていた米原市の地域おこし協力隊「みらいつくり隊」に志願しました。
――実際に住んでみてどうでしたか?
みらいつくり隊の任期が終わって仕事がなければまた大阪に戻ればいいかと、当初は大阪の部屋も解約していなかったんです。でも、住みだして半年ほどでずっとここで暮らしたいと強く思うようになりました。
僕が家を借りたのは曲谷という山間集落。20年以上空き家になっていた築100年の古民家を自分で手直ししました。イノシシ・シカ・キツネなどの動物がいるのが当たり前の環境で、動物好きの僕にはぴったり(笑)。なにより窓からの眺めが最高に贅沢なんです!
――早川さんはご結婚されていますが、奥様の反応は?
付き合っているときにみらいつくり隊に志願する話をしたら、「日本国内ならどこでもついていくよ」と言ってくれて。とはいえ、奥さんは都会育ちなので、ここまでの田舎暮らしはどうだろうと少し心配しましたが楽しんでいるみたいです。朝、ごみ捨てに出かけていくと、両手いっぱいに野菜をもらって帰ってきたり…(笑)。中途半端な地方都市なら、都会の暮らしに足りないものを探してしまうけど、都会と180度違う曲谷の生活は逆に楽しいって。ここで暮らすようになって7年。いまは娘と犬、保護したキツネも一緒です。僕の後にも2組の若い夫婦が移住してきたので、集落の平均年齢は若返ってきています。
――大変だと思うことはないですか?
移住して3年目に集落の組長を引き受けることになりました。まだまだわからないことだらけだったし、責任ある仕事だから大変でしたね。でも、組長を任せてもらえるということは集落の人から信頼してもらえてるってことですよね。会社で席はあるのに仕事が与えられなかったら寂しいのと一緒。同じ場所で生活しているなら、集落の仕事にも積極的に参加しないとね。その後も神社の総代や消防団の班長など次々と役が当ります(笑)。でも、そのたびにより深く集落のことを知れるし、やってよかったと思っています。
――現在は切り絵作家として活躍されていますね
みらいつくり隊の任期中に地域おこしのために「伊吹の天窓」というイベントを開催しました。そこで切り絵の灯篭を作ったのが始まりです。それが好評で作品展を各地で開くようになり、最近では大手企業のカレンダーなどにも使ってもらっています。
米原が素晴らしいのは、新幹線を使えば大阪でも東京でも日帰りで打ち合わせにいけるところ。都市圏へのアクセスが良いから、切り絵作家を仕事として成り立たせることができます。
僕の切り絵は自然や動物がモチーフになっています。ビルに囲まれた都会でなく、この場所だからこそアイデアも自然に湧いてくる。僕にとっては最高の仕事環境が米原にあると感じています。
――移住を考えている人へアドバイスをお願いします
理想の田舎暮らしを描いていると挫折するかもしれません。郷に入っては郷に従え、そこでの生活を受け入れることから始まると思います。
都会と田舎では生活コストが全く違う。僕が借りている家なんて都会では破格の家賃ですよ!生活にかかるお金が抑えられるうえに、静かな環境の中で制作に没頭できるから若手クリエイターさんの拠点にもすごく適していると思いますよ。ゆったりとした空気は作品づくりにもいい影響があるんじゃないでしょうか。