○ヨシ群落保全基本計画
平成16年6月11日
滋賀県告示第369号
ヨシ群落保全基本計画
滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例(平成4年滋賀県条例第17号)第9条第1項の規定により、ヨシ群落保全区域におけるヨシ群落の保全に関する基本計画を次のとおり定める。
当該計画は、滋賀県琵琶湖環境部自然環境保全課および各地域振興局ならびに関係市役所および関係町役場に備え置いて一般の縦覧に供する。
平成5年滋賀県告示第83号(ヨシ群落の保全に関する基本計画の決定)は、廃止する。
琵琶湖の環境保全を図るためには、種々の動植物が活発に生息・生育する多様な生態系を積極的に維持する必要があります。
とりわけ、湖辺に分布するヨシ群落は、生態系として微妙な均衡を保って維持され、水域から陸域への推移帯にあって、多様な働きをしており、湖沼の環境保全にとって大変重要な存在です。
湖辺の自然景観、動植物の生息・生育環境等を包括的にとらえて、ヨシ群落を県民等と事業者および県が市町村の協力も得て一体となって保全することにより、美しい琵琶湖を次代に引き継ぐことが大きな課題です。
そのため、ヨシ群落を守り、育て、活用し、「自然と人との理想的な共生関係を育む場づくり」を目指して、滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例(平成4年滋賀県条例第17号。以下「条例」という。)第9条第1項の規定に基づき、ヨシ群落の保全に関する基本的な事項をここに定めます。
第1 ヨシ群落の保全のための基本的かつ総合的な方針に関する事項
1 ヨシ群落の現状
琵琶湖および内湖ならびにこれらの周辺地域(以下「琵琶湖等」という。)に分布するヨシ群落は、昭和30年代と比べて著しく減少しましたが、その主な原因は干拓や埋め立て、湖岸堤の整備等と言われています。
琵琶湖等のヨシ群落は、良好な状態で維持されている地域もありますが、まばらな状態で分布するなど必ずしも良好とはいえない状態のものもあります。県では、ヨシ群落の保全に努め、刈取りや清掃等の適切な維持管理を行うとともに、平成13年度(2001年度)までにおよそ15ヘクタールを新たに造成しました。
2 保全のための基本方針
(1) 琵琶湖等の総合的な環境保全を図るためには、ヨシ群落が持つ自然景観の保全、生物多様性の保全、水産資源の保護、湖岸の浸食防止および湖辺の水質保全などの働きを最大限に活かすことが重要です。
そのため、ヨシ群落の良好な状態を保全するとともに、ヨシ等の植栽や適切な刈取り等の維持管理の実施を通じて、ヨシ群落の健全な育成を図ります。
(2) また、ヨシ群落保全を進めるためには、県民等や事業者とともにヨシ群落やヨシの持つ価値を共有することが重要です。
そのためには、ヨシ群落やヨシを使用したイベントや体験学習、また刈り取りヨシの新たな有効な利用について県民等や事業者との協働によって進めることが望まれます。
(3) これらの事業の実施に当たっては、ヨシ群落の持つ多様な機能との調和を図りながら、琵琶湖等のヨシ群落に関係する各種の行政計画等と連携し、相乗的な保全効果を上げることが大切です。
3 保全区域の許可制度等の適正な運用
4 ヨシ群落保全区域の保全目標
琵琶湖等におけるヨシ群落は、保護地区、保全地域および普通地域のそれぞれの地域区分に応じた適切な保全のための措置を講じて、湖辺の代表的な生態系として保全を図り、将来にわたりその多様な機能を発揮させる必要があります。
また、このような多様な機能を有する健全なヨシ群落は、自然景観の構成要素としても重要です。
そのため、琵琶湖等の景観の保全、生物の多様性の保全、水産資源の保護および湖岸の浸食防止などの観点から、ヨシ群落の存在が重要な地域を対象に、良好なヨシ群落が現存している場所においてはその状態を維持し、失われた場所においては再生するとともに、地域の特性に応じた刈取りなどの維持管理を積極的に推進し、ヨシ群落の健全な育成を図ります。
また、必要な調査を実施し、それを基に保護地区、保全地域および普通地域について指定の見直しをしていきます。
(1) 保護地区(現状の良好な環境の維持)
保護地区においては、現状の良好なヨシ群落の状態を維持し、湖辺の代表的な生態系と多様な生物相の保全を図ります。
そのために、保護地区の生態特性に応じた適切な維持管理を実施します。
(2) 保全地域(より良好な環境に向けた保全・再生)
保全地域においては、ヨシ群落の保全状態を把握し、ヨシ群落の連続性の確保を図りながら、より良好な状態に向けた保全を行うとともに、失われた場所においてはその原因を十分理解し再生を図ります。
そのために、現状を十分把握した上で地域の特性に応じ、ヨシ等の植栽や適切な刈取り、清掃、ヨシ等の補植などの維持管理を実施します。
(3) 普通地域(良好な環境を創出)
普通地域においては、小規模なヨシ群落がまばらな状態で分布している現状を踏まえ、その原因を十分理解し、良好で連続したヨシ群落の形成を図ります。
そのために、現状を十分把握した上で、地域の特性に応じヨシ等の創出や刈取り、清掃、ヨシの補植などの維持管理を積極的に実施します。
第2 ヨシ群落の保全のための造成事業および維持管理事業に関する事項
ヨシ群落保全区域の保全目標を達成するため、造成事業によりヨシ群落を育てていくとともに、適切な維持管理を行い、良好なヨシ群落として存続を図る必要があります。
そのため、ヨシ群落の持つ多様な機能に十分に配慮しながら、積極的に以下の保全事業を実施し、ヨシ群落を守り、育てます。
なお、事業は、行政、地域・各種団体が協働して取り組むことが望まれます。
1 ヨシ群落造成事業
ヨシ群落は、琵琶湖の自然景観の重要な要素であるとともに、生物の生息・生育の場、人々の安らぎの場など、様々な機能を有しています。しかし、湖岸の浸食や干拓、埋め立てなどによりその規模が減少し、本来持つ様々な機能が損なわれています。
このため、失われたヨシ等の再生、魚類の産卵繁殖の場の確保、自然的環境の復元などを目的とした事業を通じて、ヨシ群落の持つ多様な機能を再生させていくことが重要です。
なお、造成事業は、ヨシ群落の生育する環境を十分理解し、地域特性に配慮し、自然の回復力をできるだけ活かした工法により進め、平成22年までに、おおむね20ヘクタールのヨシ群落の再生等に努めます。
また、ヨシ群落の再生に当たっては、昭和30年代の湖辺のヨシ群落の形状を目指します。
2 ヨシ群落維持管理事業
ヨシ群落は、地域ごとに生態特性や生育状況が様々な条件により成り立っています。また、ヨシ群落は、過去・現在にわたり、様々な人との関わりによって維持されてきました。
このため、魚類の産卵繁殖の場や、鳥類をはじめ生物の生態特性や利活用などヨシ群落や地域の特性に応じて、その多様な機能に十分に留意しながら、波の影響やごみの堆積など、ヨシ群落の生育を阻害する要因を可能な限り除去することや、ヨシの刈取り、清掃、火入れ、ヨシの捕植などの維持管理、抽水植物環境を維持するためのヤナギやハンノキなどの剪定や伐採を時期や生物への配慮など、専門家の意見を聞きながら適切な形で行っていきます。
具体的な地域ごとの維持管理については、地域住民、関係団体、行政を含む関係機関、学識経験者などで構成される地域協議会を開催し、策定していきます。
第3 ヨシ群落を活用した環境学習および自然観察に関する事項
環境への配慮を欠いた人間活動は、琵琶湖等の環境悪化をもたらすとの認識を深めるとともに、環境にやさしい行動を心がけ、自然とのつきあい方を学習し、より良い生活環境の創造に向けて活動することが重要です。このため、環境問題に関する普及啓発や実践活動として、学校での環境教育や地域での環境学習など様々な取組がなされています。
ヨシ群落は、その機能の多様性から、自然の営みや琵琶湖等が抱える環境問題、さらには、人間活動と琵琶湖等とのかかわりについて理解するうえで、身近でふさわしい対象であり、それらの活動を展開する場として重要です。
そのため、ヨシ等の刈り取りなどの実践活動やヨシ群落と親しみやふれあいを深めることができるような自然観察会の実施、ヨシ群落の動植物観察施設などの整備を行い、ヨシ群落に関する知識や湖沼の生態系の保全の必要性について普及啓発を図っていきます。
これらの活動は、地域、各種団体、学校、行政などが協働し進めていくことが効果的です。
第4 ヨシの有効な利用に関する事項
ヨシ群落の保全を図る場合、適切な刈取りや火入れ等の維持管理が欠かせませんが、保全事業の実施に際して発生する刈り取ったヨシ等について有効な利用、活用を図っていく必要があります。
かつてヨシ群落とその刈取りや火入れ、刈り取ったヨシ等の利用、活用は、一連の流れとして見事につながっており、ヨシはあらゆる生活の場で利用、活用され、それを生業とする産業が成り立っていました。
生活様式の変化から、それらの大部分は失われ、また、他の代用品に置き換わっていきましたが、もう一度これらを見直して、これからの生活の中で活かしていくことも大切です。
現在、すでに利用されている堆肥や紙等については、事業として成り立つような体制づくりや新たな付加価値を付けるなどの工夫が必要です。また、創作民芸品としてオリジナル性をもたせる工夫や生活用具としての新たな開発、吹きつけ材、合板などの材料や薬の原料など新たな利用・活用法を見いだしていくことも重要です。
このため、これら新たな利用、活用法の情報収集、発信、また調査・研究を進めていくことも大切になっています。
第5 保全事業の執行体制に関する事項
琵琶湖等の総合的な環境保全に寄与するヨシ群落の保全については、県の積極的な取組はもとより、広く県民等が参加し、体験を通して、自然の営みを理解しながら取り組むことが大切です。
このため、県民等と事業者および県が市町村の協力も得て一体となって、総合的かつ効果的な保全事業が展開できるように、体制を発展させていくことが必要です。
1 県等の体制
ヨシ群落の保全は、琵琶湖等の管理の一環として総合的かつ効果的に取り組む必要があるため、県や関係機関が参画した組織体制を整えていきます。
2 地域の体制整備
ヨシ群落を保全するための取組は、県民等の深い理解のもとに地域に根ざした保全活動として発展していくことが望まれます。
そのために、住民一人ひとりはもとより、地域の自治会をはじめ各種団体、学校および事業者との協働により、環境学習、ヨシ等の刈取りなどの組織化された保全活動の展開に向けて取り組むことが望まれます。
第6 その他ヨシ群落の保全に関する重要事項
1 調査研究
ヨシ群落の適正な保全を図るため、その分布状況や生育状況等を継続的に把握するとともに、ヨシ群落を生息の場として利用している生きものとのかかわりなど、生態系についても調査します。
また、効果的な保全事業を推進するため、ヨシ等の植栽方法および刈取り手法等について、調査、研究を行います。
さらに、刈取りヨシの利用、活用については、循環型社会の構築の視点を考慮して調査研究を行っていきます。
2 普及啓発
ヨシ群落の保全は、県民や湖国を訪れる人々の理解の下に定着してはじめて効果的な保全活動に発展するものであり、そうした保全のための地道な活動が琵琶湖の総合的な環境保全に通じることになります。
そのために、県民等が環境保全のための知識として理解するのみならず、具体的な行動に結びつくような普及啓発を図る必要があることから、多くの県民等の参加が期待できるヨシ等を活用した体験型イベントの開催や各種広報媒体を積極的に活用した普及啓発事業を実施します。