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広報課インタビュー企画『滋賀ゆかりのがんばる人』Vol.6「アーティスト・イン・レジデンスで広がる地域の輪」 ―世界と滋賀をつなぐ 西村のんき さんの挑戦―

アーティストに一定期間特定の場所に滞在し、創作活動に専念することができる環境を提供するプログラム「アーティスト・イン・レジデンス」。

 今回インタビューしたのは、芸術の国際交流を目的に展覧会やレジデンスにアーティスト送りだす活動をしている団体「AT ARTS」の代表を務める 西村のんき さん。

 大阪府に生まれ、教員として長年教育現場に携わった後、海外での経験をきっかけにアートの世界へ進みました。現在は長浜市を拠点に、世界各国からアーティストを招き、地域の人々との交流を通して作品を生み出す「アーティスト・イン・レジデンス」をはじめ、「ながはままちなかギャラリー」や「長浜国際芸術祭」の企画・運営に取り組んでいます。

 アートを通して世界と地域をつなぎ、新たな文化を育む西村さん。その活動に込める思いや、世界から見た滋賀の魅力、そして長浜への思いについてお話を伺いました。

「アートは世界共通のコミュニケーションツールだ」

教員からアートの世界へ。西村さんの現在の活動の原点には、海外での経験がありました。

―教員からアートの世界へ進んだきっかけは。

 教員時代は、障害のある子どもたちが笑顔で暮らせる社会をつくりたいという思いで教育に携わっていました。しかし、本当に目指す社会を実現するには、教育現場とは違う形で社会に働きかけたいと考え、教員を早期退職しました。

 その後、ポーランドの芸術大学で活動する中で、日本では当たり前だった表現が思うように伝わらず、文化が違えば価値観も表現の受け取り方も全く異なることを痛感しました。転機となったのは、「母性」をテーマにした作品を制作し、教会ギャラリーいっぱいに展示した時のことです。それまで言葉では伝えきれなかった自分自身の思いや、日本ならではの紙の文化や表現を、作品を通して多くの人に理解してもらうことができました。

 その時に確信したのが、「アートは世界共通のコミュニケーションツール」ということです。言葉や文化が違っても、お互いを理解し、新しい価値観に出会うきっかけをつくることができる。その経験が、現在の活動の原点になっています。

「滋賀はアーティストにとってオアシスのような場所。」

 海外での経験を経て帰国した西村さんが活動の拠点として選んだのが滋賀県でした。そのきっかけとなったのは、彦根市で始めた「アーティスト・イン・レジデンス」でした。

―なぜ活動の拠点として滋賀県を選ばれたのでしょうか。

 最初に彦根市で海外のアーティストを受け入れた時、築200年を超える古民家や町並みに皆さん本当に驚いていました。

 その様子を海外のアーティストが発信すると、「ここはどこなんだ」「ぜひ訪れてみたい」と世界中から多くの反響が寄せられました。その姿を見て、滋賀には私たちが思っている以上に世界へ誇れる文化があることに気付いたんです。

 都会は世界中どこへ行っても似ています。でも滋賀には自然があり、人々の暮らしがあります。その自然の中で生活する営みがあり、古民家や庭、琵琶湖など、日常そのものが創作の源になります。

 だから私は、「滋賀はアーティストにとってオアシスのような場所」だと思っています。

 その思いから2020年に長浜市へ移住し、古民家を活用したアーティスト・イン・レジデンスを始めました。地域の暮らしの中で制作することが、海外のアーティストにとってかけがえのない経験になっています。

「初めて、生きていて素晴らしいと思えた。」

 「アートには、人の心を動かし、その土地の価値を改めて気付かせる力がある。」西村さんは、それを実感した出来事があったと話します。

―海外のアーティストとの交流を通じて、アートが持つ力を実感した出来事はありますか。

 2022年、戦禍のウクライナから一人のアーティストを滋賀へ迎えました。来日した当初は、うつむきながら足元ばかりを見つめ、田んぼの風景を描いていました。そんな彼女を竹生島を望む琵琶湖へ案内すると、夕日が湖へ沈み、空の色がゆっくりと変わっていく景色を長い時間眺めたあと、静かにこう話してくれました。

「私は初めて、生きていて素晴らしいと思えた。」

 その言葉は今でも忘れられません。私たちにとっては当たり前の日常の風景でも、海外から訪れた人にとっては、生きる希望を取り戻すほどの力を持つことがあります。だからこそ、滋賀の自然や歴史、暮らしそのものが世界に誇れる文化であり、その価値を、アートを通じて国内外へ伝えていきたいと思っています。

「地域も一緒に変わってほしい。」

 西村さんが長浜市で取り組む「アーティスト・イン・レジデンス」や国際芸術祭。その根底には、「アーティストだけでなく、地域も変わってほしい」という思いがあります。

―人口減少が進む地域だからこそ、アートにはどのような役割があると考えていますか。

 私は、アーティストだけが変わるのではなく、地域の皆さんにも変わってほしいと思っています。

 世界中にアーティスト・イン・レジデンスはありますが、地域との距離を縮めるのは決して簡単ではありません。それでも、アーティストが地域に入り込み、人々と対話しながら作品を制作していくことで、少しずつ地域にも変化が生まれていきます。

 例えば、作品に使う布を探していると相談すると、翌日には地域の方が自転車いっぱいに古着を持ってきてくださいました。また、地域のお年寄りから戦時中の話を聞き、その記憶を作品として表現したアーティストもいます。

 こうした交流を重ねることで、人と人とのつながりが生まれ、地域の皆さんも作品づくりや文化づくりの当事者になっていく。私は、そうした積み重ねが地域を少しずつ変え、新しい可能性を育んでいくのだと思っています。

 長浜には、歴史や文化、町並みなど守るべき大切な財産があります。でも、守るということは閉じることではありません。時には新しい風を受け入れることで、新しく守るべきものが生まれる。私はそう信じています。

 「ながはままちなかギャラリー」や「長浜国際芸術祭」も、単に作品を展示する場ではありません。歴史ある町並みを歩き、地域の人と出会い、アートに触れることで、長浜というまちに幾重にも重なる歴史や暮らし、文化を感じてもらいたい。そして、その出会いが新しい文化を育むきっかけになればと考えています。

「アートは生き方。続けることが大切。」

 最後に、これからアートを志す若い世代への思いを伺いました。

―最後に、これからの世代へメッセージをお願いします。

 アートは作品を描くことではなく、生き方そのものだと思っています。流行や評価を追いかけるのではなく、「自分は何を表現したいのか」という軸を持ち続けること。そして何より、続けることが大切です。

 すぐに結果が出るものではありません。でも、続けることで、その人にしかできない表現が生まれます。その積み重ねが、やがて文化となり、人と地域を豊かにしていくのだと思います。

 私自身も、長浜での活動を一歩ずつ積み重ねながら、世界と地域をつなぎ、新しい文化が育つ土壌をつくり続けていきたいと思っています。

 現在、長浜市中心市街地では西村さんが代表を務める「AT ARTS」が企画するアート散策オリエンテーリング「ながはままちなかギャラリー」が8月20日(木)まで開催されています。また、8月8日から20日には現代アートの祭典「第2回長浜国際芸術祭」が開催予定です。

 西村さんが語る「アートは世界共通のコミュニケーションツール」という思いのように、歴史ある町並みや人々の暮らし、そして世界各国のアーティストとの交流から生まれる新たな文化に触れながら、長浜ならではの魅力をぜひ体感してみてください。

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