新型コロナウイルスのため、大規模な文化イベントに自粛要請が出された令和2年3月、びわ湖ホールはオペラ『神々の黄昏』を無観客で上演し、YouTubeにより無料のライブ配信を実施。世界30カ国約41万人が視聴した、この活動が評価されて「第68回菊池寛賞」を受賞しました。館長の山中隆さんに、緊迫の舞台裏、コロナ禍の中で見つけた新たな可能性、地元・滋賀への思いをうかがいました。
2020年3月7・8日に上演された『神々の黄昏』の7日のカーテンコール。出演者の「やり遂げた」という表情が印象的。
びわ湖ホールプロデュースオペラ『神々の黄昏』は、びわ湖ホールが毎年一作ずつ4年にわたって上演してきた超大作『ニーベルングの指環』4部作の完結編でした。
3月7日・8日の公演に向けて、1月下旬にはヨーロッパから演出家やキャストも来日して、立ち稽古を始めました。ところがコロナ感染の拡大で、オーケストラも加わって稽古が佳境に入った2月26日になって、政府の自粛要請が出たのです。
県が公演の中止を決定した28日、スタッフ・キャスト全員を大ホール集め、無観客で上演し、映像化することを提案しました。どういう反応があるかと思いましたが、全員から賛同の大きな拍手につつまれました。すぐに公演キャンセルの手続き、映像化の打ち合わせや手配などを大急ぎで進めました。当初は視野になかったネットでのライブ配信を決断し発表したのは、本番のわずか3日前でした。
びわ湖ホールには舞台技術などの専門職員がいる。11月の『マタイ受難曲』より新しく機材を揃え有料配信を開始しました。
キャスト・スタッフ全員で想定外の事態に対応して迎えた本番は、アーティストの思いがこもった、すばらしい舞台になりました。
コロナ禍のこんな大変な時にーと、お叱りの言葉を覚悟しての上演でしたけれど、2日間のライブ配信には世界中から約41万のアクセスがあり、本当に多くの方にオペラをご覧いただきました。この配信を見た方から思いがけずネットでたくさんの寄付と温かいコメントをいただいて、胸が熱くなりました。
地方の劇場がこれほど高いレベルのオペラを上演していることへの驚きの声も多く、びわ湖ホールの存在を全国の方に知ってもらうきっかけになりました。
今回の無観客上演で、閉塞感の中で音楽が求められていること、そしてホールの活動が滋賀県の皆さんのご理解に支えられていることを改めて実感しました。
ホールでの公演と、専属の声楽アンサンブルが県内外各地に出向いての公演などの活動に加えて、ホールの第3のサービスとして、今後もネット配信を続けていきます。まずはホームページにアクセスして配信をぜひ一度ご覧ください。
「びわ湖ホール声楽アンサンブル」は、日本初の公共ホール専属の声楽家集団。コロナ禍で公演は減りましたが、県内各地で小さな音楽会も開催しています。一流の歌声に触れる機会をぜひお楽しみください。