人々は心の居場所を探し鐘の音に耳を澄ます。山々には神が宿り、命の水を生み出し、水の民を見守る。水の浄土、琵琶湖を取り巻く、大津の寺社を巡り、自らを見いだす旅へ。
園城寺(三井寺)
黄昏時、琵琶湖に鐘の音が響きわたり、人々の心に深い安らぎを与える。近江八景のひとつ「三井の晩鐘」の荘厳な音色だ。この鐘には琵琶湖の主である竜神にまつわる悲しい伝説が残っている。園城寺の別名でもある三井寺とは、天智・天武・持統三天皇が御産湯に用いられた霊泉があることから、「御井の寺」と呼ばれたことが由来となっている。
「閼伽井屋」
三天皇が御産湯に用いた泉。
日吉大社
比叡山の麓に鎮座する日吉大社は、大宮川の渓流が流れる森に社殿が点在している。境内を水路が巡り、本殿を清めている。この清らかな水を生み出す「山の神」の再生を願う祭りがある。湖国三大祭のひとつ、山王祭だ。町内を巡った七基の神輿が琵琶湖に渡御し、湖国の寒い冬に別れを告げ、春の訪れを祝う。この山の神の集まる場所、それこそが母なる琵琶湖なのだ。
日本が世界に誇る「たから」である文化・伝統のストーリーを認定する「日本遺産」。高度な「水の文化」が認められ平成27年4月に認定された。
詳しくは日本遺産滋賀HP(外部サイトへリンク)にて
西教寺の客殿庭園には、琵琶湖の姿をかたどった池泉(ちせん)が庭の中央に配置されている。そこには石組、石橋による奥行きの演出がなされ、琵琶湖を囲む滋賀の姿が見事に表現されている。水を用いた美しい庭園美だ。
水は祈りに欠かせないもの。本堂下から湧き出る水を毎朝仏様にお供えする。瀬田川の西岸に建つ石山寺には水と関わってきた深い歴史がある。境内の奇石は天然記念物の硅灰石からなり、古代より船を通じてこの奇石を運び出し、飛鳥、川原寺の本堂の礎石としても使われたという。
水源の森百選にも選ばれる「比叡山の森林」は比叡山延暦寺の寺域でもある。平安末期の「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」では、「近江の湖は海ならず、天台薬師の池ぞかし」と歌われ、琵琶湖を根本薬師の宝池に讃えた。根本中堂では不滅の法灯が揺れる中、根本薬師が水の浄土、琵琶湖を見守っている。
山王院近くに湧水し、いまも東塔の水源になっている。