令和5年に大津市の個人から滋賀県立琵琶湖文化館(以下、文化館と略称)に寄託を受けた文化財5件の中に、「西郷隆盛書簡」が含まれていました。文化館がその真贋や内容について調査鑑定したところ、アメリカ滞在中の大久保利通にあてた自筆書簡の原本であることが判明。昭和2年(1927)に紹介されながら所在不明となっていた重要史料の再発見として注目されます。今後、文化財講座での紹介や滋賀県公文書館での展示などを予定しています。
年次記載や宛名を欠くが2月15日付けで西郷吉之助の署名があり、明治5年(1872)岩倉具視や大久保利通らの政府高官が欧米に大規模な外遊を行った際、「留守政府」首班として日本の政治を守っていた西郷から在米の大久保へ出されたものと考えられる。
内容は、主として大久保出発後の国内状況や島津家の内情などを報告するもので、豊富な情報を提供する一級史料として日本近代史研究上、しばしば引用されてきた。尚々書き(追伸)に大久保の肖像写真について「醜体」と批判する記述もあり、西郷の写真嫌いを象徴する発言としてしばしば引用される。
再発見した西郷隆盛書簡とその伝来―アメリカから滋賀へ―
【日時】令和6年5月22日(水)14:00~
【会場】コラボしが21(大津市打出浜2-1)
【講師】井上優(滋賀県文化財保護課・琵琶湖文化館副館長)
井上優「再発見した西郷隆盛書簡とその伝来について」
【掲載誌】『滋賀県立琵琶湖文化館研究紀要』第40号(令和6年3月発行)
幕末を生きた人々の群像~公文書に残る直筆書簡~
【会期】 令和6年5月27日~9月26日
【会場】 滋賀県公文書館(大津市京町四丁目1-1 県庁新館3F)
・まごうことなき、南洲隆盛の自筆書簡。筋が通り、均一の行間で書かれるなど筆跡の特徴が如実にあらわれている。
・内容は周知のものだが、まさか今に実物が出てくるとは驚いた。良いものが見つかってうれしい限りだ。
・西郷の書簡は多く存在するが、在米の大久保利通のもとへ国内状況をつぶさに報告した内容は、一級史料として特に貴重なもの。
・京都市の政治家である坪田光蔵から服部岩吉に贈られた点にも関心を抱く。坪田は立憲政友会、京都民政会、自由党などに属した政治家で、服部とは旧知の間柄であったと推測できる。また昭和36年(1961)時点で滋賀県スポーツ会館取締役を務めるなど滋賀県との関係もあった。寄贈の時期は不明だが、京滋の政治家がともに西郷隆盛を敬慕し、遺墨を愛蔵した時代があったのだろう。