滋賀県では研究機関等が連携して、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う病床逼迫への影響や必要病床数の計算等を行うことが可能な独自の数値モデルを開発しました。またその成果がこのたび、国立保健医療科学院の発行する「保健医療科学」に掲載されました。
新型コロナウイルス感染症がどの程度拡大し、また病床の逼迫に影響を与えるのかを予測することは、適切な感染対策を実施して医療崩壊を防ぐ上で大変重要です。予測のために、国内外で様々な数値モデル(注1)が開発、運用されてきましたが、過去の感染拡大状況を将来に引き延ばしたり、新規感染者数のみを予測したりする比較的単純なものがほとんどでした。感染拡大の予測だけでなく、日本の実情に合わせて症状(重症、中等症、軽症等)や隔離状況(入院、宿泊療養施設等)を区分し、変異株ごとの感染力の違いやワクチン接種の状況を考慮し、かつ実際の地方自治体の病床数等のデータで検証したモデルはありませんでした。
新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になった2020年4月より滋賀県独自の数値モデル開発に着手し、同5月にプロトタイプを完成させ、その後改良を重ねながら将来の感染拡大の予測や必要病床数の計算等に活用してきました(図1)。過去の感染状況からモデルを検証したところ、再現性が高く十分な予測性を持つことが確認されました。地方自治体の職員が自ら感染症の数値モデルを開発し、現場のニーズや感染拡大状況を踏まえて適時予測を行い政策決定に活かした事例は、全国的に見てもほとんどなく、EBPM(注2)(証拠に基づく政策立案)の先進事例ともいえます。
以上の研究成果の一部が、「保健医療科学(注3)」2021年12月号に掲載されました。
論文タイトル:感染症数理モデルを用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病床逼迫への影響分析:滋賀県を対象として
著者名:佐藤祐一(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)、大塚泰介(滋賀県立琵琶湖博物館)、井上英耶(滋賀県感染症対策課)、水野敏明(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)、鈴木智之(滋賀県衛生科学センター)
掲載誌名:保健医療科学、70(5)
県立試験研究機関(計8機関)が「滋賀県試験研究機関連絡会議(注5)」を組織して、長年様々な課題の解決に取り組んできました。2019年度、この連絡会議内に「統計勉強会」を立ち上げたのを契機に、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター、滋賀県立琵琶湖博物館、滋賀県衛生科学センター、滋賀県感染症対策課の職員が新型コロナウイルス感染症への対応について検討しました。その結果、感染症疫学、数値モデル、統計学、リスク管理等の専門家がタッグを組んで、今回の解析チームが結成されました。
注1 時間的に変化する様々な現象を数式で表現したもの。天気予報や気候変動の予測など多様な分野で用いられる。
注2 Evidence-Based Policy Makingの略称で、証拠に基づいて合理的、論理的に政策を評価し立案をすること。限られた予算・資源のもと、各種の統計を正確に分析して効果的な政策を選択していく際に重要となる。
注3 国の保健、医療、福祉に関係する職員などの教育訓練や、それらに関連する調査及び研究を行う機関である「国立保健医療科学院」が発刊する査読付きの学術誌。
注4 1人の感染者が感染させる平均人数のこと。感染力の指標ともいえる。
注5 琵琶湖と滋賀県の環境に関する試験研究を実施している県立の試験研究機関相互の連絡調整を行い、その試験研究の円滑な推進や広く情報の発信を図ることを目的とした組織。
論文として公表したのは、あくまで過去(2020年度末頃まで)に生じた事象に関する分析内容となっています。その後、新たな変異株の発生やワクチン接種の状況などに応じて、随時モデルを改良しつつ対応しているところです。
現在急速に感染拡大しているオミクロン株による第6波については、従来の変異株とは大きく特徴が異なることから、解析方法を含めて検討中です。
健康医療福祉部 滋賀県衛生科学センター
電話番号:077-537-7438
(数値モデルに関すること)
電話番号:077-526-4800(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター代表)
(新型コロナウイルス感染症全般に関すること)
健康医療福祉部 感染症対策課
電話番号:077-528-3578