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琵琶湖北湖では、過去30年間で細菌生産量が およそ5分の1まで低下したことを明らかにしました

 国立環境研究所と滋賀県琵琶湖環境科学研究センターは、琵琶湖の有機物の循環の特性や問題点を明らかにした研究プロジェクト(環境研究総合推進費5-1607)において、1986年と2016-17年の水中の細菌の生産量を比較したところ、琵琶湖北湖では、この30年間で細菌の生産量がおよそ5分の1まで低下したことを明らかしました。

湖の水質と生態系
湖の生態系の模式図 (細菌は栄養塩の生成や食物連鎖に関わっている)

 かつて富栄養化していた琵琶湖では過去30年間に水質改善が進みましたが、水中のリン濃度はいまだ富栄養化前までの水準に戻っていません。しかし、生物に利用しやすい湖水中のリン酸態リン濃度には顕著な減少があり、細菌の生産速度の減少は,その減少によって説明できることが示されました。湖沼生態系において、このような水質改善と連動した細菌の生産速度の長期変動を明らかにしたものは世界的にも珍しく、将来的な微生物を含めた生態系の変化を予測する上で重要な知見となります。

 この研究成果は、日本陸水学会が発行するLimnology誌(英文)に掲載され,令和3年9月21日に2021年度日本陸水学会論文賞(Limnology Excellent Paper Award)を受賞しました。

論文タイトル: Decrease in bacterial production over the past three decades in the north basin of Lake Biwa, Japan
著者名:土屋健司、冨岡典子、佐野友春、高津文人、小松一弘、今井章雄(国立環境研究所)、
早川和秀、永田貴丸、岡本高弘、廣瀬佳則(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)
掲載誌名: Limnology, volume 21(1), page 87-96 (2020)
公開URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s10201-019-00582-2

(注意:研究論文のダウンロードにはSpringer社の会員登録が必要です。文献の入手には公共図書館等をご利用ください)

研究成果のポイント

  • 天然水中の細菌の生産量の測定には、通常、放射性同位体を用いるため、放射性物質の取扱い規制が厳格な日本国内では、湖沼の細菌生産量の測定は数例しかありませんでした。しかし、本研究では放射性物質ではない安定同位体の指標を用いる新たな方法を導入して、琵琶湖北湖での細菌の生産量を測定しました。
  • 得られた2016-2017年の測定結果を、1986年に琵琶湖で放射性同位体を用いて測定された結果と比較するため、両方法の比較実験などを行って慎重に検討した結果、1986年と2016-2017年では、細菌の生産量に約5倍の違いがあることが明らかになりました。
  • 琵琶湖水中のリン濃度の減少によって植物プランクトンが減少していることは、これまでも周知のことでしたが、本研究によって細菌類にも大きく影響していることが明らかとなりました。このことは、水中の栄養の減少による細菌類の減少だけでなく、細菌類の捕食を起点とする湖水中の微生物の食物連鎖、ひいてはそれらを捕食する大型の生物群にも影響がある可能性を示しています。また、水中の有機物の分解は細菌類が担っていることから、湖内の水質浄化機能においても、リン濃度の影響を考慮する必要を示しています。
  • 一方で、研究プロジェクト(環境研究総合推進費5-1607)では、食物連鎖のシミュレーションモデル計算から、琵琶湖のリン濃度の増減がただちに魚類現存量の増減につながるものでないことを明らかにしており、アユの不漁などの問題は水中の栄養減少と結びつけて考えるのでなく、様々な角度から考える必要があります。

■日本陸水学会論文賞とは

  • 日本陸水学会論文賞は、日本陸水学会が発行する和文誌「陸水学雑誌」および英文誌「Limnology」の最新2年間に掲載された論文の中から、新しい知見を示しかつ優れた論文が選考され、その論文の著者全員に授与されます。

■研究体制と支援

  • 本研究は、2016-18年度環境省環境研究総合推進費「琵琶湖における有機物収支の把握に関する研究 (5-1607)」(研究代表機関:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター、分担機関:国立環境研究所、滋賀県立大学、京都大学)の一環として実施されました。研究報告書は以下で公開されています。 https://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/pdf/seika_1_r01/5-1607_2.pdf
  • また本研究は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターと国立環境研究所琵琶湖分室との2017-19年度地方創生共同研究「琵琶湖の健全な水環境保全に向けた総合的湖沼環境評価と改善手法に関する研究」の支援を得て行われました。さらに、研究の一部は科研費(JP15K21449,JP17K12814, JP17J11577)の助成を受けて研究を完遂しました。
お問い合わせ
滋賀県庁 琵琶湖環境科学研究センター 管理部企画係
電話番号:077-526-4800(代)
メールアドレス:[email protected]