滋賀県と彦根市は、彦根城世界遺産登録に向けた国際会議を開催しましたので、その概要をお知らせします。
国際会議は、資産の価値を国際的な視点から確認し、広く国内外で共有することを目的に、通常は現地査察を含めて開催するものですが、今回は、新型コロナウィルス感染症の状況から、文化庁や国内有識者と協議を重ねたうえで、議題を「彦根城の価値の証明」に限定し、オンラインで開催することとなりました。
会議の結果、価値の方向性については問題ないと確認できた一方、価値をさらに掘り下げ丁寧に説明すること、資産の範囲の妥当性、国内での比較研究の充実などの課題も明らかになりました。
今回の国際会議は、オンラインという制約の多い方法で実施せざるを得ないものでしたが、国内外の先生方の熱心なご議論により、これまで進めてきた内容をご理解頂くことができたとともに、今後に必要な作業を明らかすることができ、彦根城の世界遺産登録に向け、大きな一歩となりました。
なお、国際会議は、推薦書の内容に関する議論につき、非公開で実施しました。
令和3年(2021年)8月18日(水)、19日(木)いずれも15:00~17:00
オンライン開催
彦根城のOUV(Outstanding Universal Value : 顕著な普遍的価値)について
海外研究者3名
国内研究者:彦根城世界遺産登録推進学術会議委員7名
オブザーバー:文化庁文化資源活用課文化資源国際協力室 鈴木地平調査官
事務局(滋賀県・彦根市)
・価値の方向性について、問題ないと確認できた。
・今後に必要な作業(下記(2)課題)を明らかにすることができ、彦根城の世界遺産登録に向け、大きな一歩とすることができた。
・専門家の熱心な議論により、彦根城の価値について海外研究者にも理解いただくことができた。
・「17~19世紀の統治」という視点からOUVを導き、単独登録を目指す方向性は理解できる。ただし、「城」という存在と「平和な時代の政治拠点」という繋がりがイメージしにくい。これを端的に示すような、フレーズや表現が必要。
・現在の資産の範囲(特別史跡の範囲:中堀に囲まれた範囲)が政治拠点を証明し得ることの明確な説明が必要。
・彦根城がこのOUVにおける城郭の代表であることは理解できる。ただし、世界遺産としてOUVに即した一層の国内外の比較研究の深化が求められる。
江戸時代は、将軍の強い統制力によって大名相互の争乱は発生し得ず、国内の平和が実現された時代である。大名は領地の安定と領民の保護に専念し、領民は各々の生産活動に専念できた。彦根城は、この250年にもおよぶ安定を維持した江戸時代の城郭の構造と機能を示す顕著な見本。
この時代の大名は、自らの領地において自立し完結した政治権力を形成したが、彼らは伝統的にその領地の権益を持つ存在ではなく、将軍によって認められ、領地と城を与えられたことを唯一の正当性とした。この大名の政治拠点が城郭である。城郭は将軍の管理の下にあり、各領地の最適所に一か所営まれた大名の政治拠点である。それは政治体制に即した構造と必要な機能を持つとともに、「将軍-大名」の権力の象徴としても機能した。
こうした、将軍の下における大名の政治体制と政治拠点としての城郭は日本全国で共通する構造となり、将軍の下で統一的で安定した社会を形成・維持することを実現した。一方、こうした政治体制と政治拠点は、世界のどこにも存在しない日本独特のもので、世界遺産としての価値を持つ。
彦根城は、日本の城郭の中でも日本列島の要所に築造されたこと。井伊家という特別な地位の大名が治めたこと。江戸時代の開始期に、幕府の許可を得て築造されたことなどから、その典型であり、また、明治以降の廃城や焼失を克服し、現在も最もよく保存されており、日本の城郭の代表である。