キャスター国谷 裕子さん × 滋賀県知事 三日月 大造
国際社会がSDGs(持続可能な開発目標)に合意して2年、滋賀県がSDGsを県政に取り込むことを宣言してから1年が経ちました。持続可能な滋賀に向け、いかに取り組んでいくべきか。SDGsをテーマに取材を続けておられるキャスターの国谷裕子さんとともに話し合いました。
「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」とは?
Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。2030年までに、発展途上国だけでなく、先進国も含めた国際社会が取り組むべき17の目標。2015年9月の国連サミットで採択されました。
持続可能な社会をつくるために、経済成長、社会的包摂(「誰一人取り残さない」)、環境保護という3つの課題を統合的に解決することを求めています。日本でも2016年12月に実施指針が定められ、SDGsの実施に最大限取り組むとされています。
国谷
滋賀県は都道府県の中で最初に、知事が、SDGsを県政に取り込むことを宣言なさいました。1年を経過して大きく変わった点は。
知事
県民や地元企業の皆さんが「私たちにできることは?」と考え、様々な取組が広がっています。県内の大学でも「キャンパスの中や自分の研究分野で何ができる?」という視点で議論が始まっています。私もいろいろな所で話していますし、県の政策や予算の方針にも取り入れようと進めています。
大阪府出身。1979年、米国ブラウン大学卒業。1987年からキャスターとしてNHK・BS“ワールドニュース”、“世界を読む”などの番組を担当。1993年から2016年までNHK総合“クローズアップ現代”のキャスターを務める。著書に『キャスターという仕事』。
2030年に向けて世界が合意した「持続可能な開発目標」です
地球上のあらゆる形の貧困をなくそう | 飢えをなくし、だれもが栄養のある食糧を十分に手に入れられるよう、地球の環境を守り続けながら農業を進めよう | だれもが健康で幸せな生活を送れるようにしよう | だれもが公平に、良い教育を受けられるように、また一生に渡って学習できる機会を広めよう | 男女平等を実現し、すべての女性と女の子の能力を伸ばし可能性を広げよう | だれもが安全な水とトイレを利用できるようにし、自分たちでずっと管理していけるようにしよう | |
すべての人が、安くて安全で現代的なエネルギーをずっと利用できるようにしよう | みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、だれもが人間らしく生産的な仕事ができる社会を作ろう(2025年までに、子どもの兵士をふくめた、働かなければならない子どもをなくそう) | 災害に強いインフラを整え、新しい技術を開発し、みんなに役立つ安定した産業化を進めよう | 世界中から不平等を減らそう | だれもがずっと安全に暮らせて、災害にも強いまちをつくろう | 生産者も消費者も、地球の環境と人々の健康を守れるよう、責任ある行動をとろう | |
気候変動から地球を守るために、今すぐ行動を起こそう | 海の資源を守り、大切に使おう | 陸の豊かさを守り、砂漠化を防いで、多様な生物が生きられるように大切に使おう | 平和でだれもが受け入れられ、すべての人が法や制度で守られる社会をつくろう | 世界のすべての人がみんなで協力しあい、これらの目標を達成しよう |
出典:unicef「学校のための持続可能な開発目標ガイド」
誰一人取り残さない持続可能 な共生社会の実現に向けて…
国谷
貧困など見えにくいものについては、具体的な掘り起しなどの手だてをとっていますか。
知事
県内では早くから子ども食堂が展開されています。82カ所(2017年12月現在)から、さらに拡大していく見込みです。食堂という居場所から困っている子どもや十分に食事ができていないかもしれない子どもを自然な形で把握し、学校や福祉へとつなぐ。貧困を見つけに行く意味でも重要です。
「遊べる・学べる 淡海子ども食堂」
食事や遊び、学びを通じて地域の様々な人がつながる取組を支援
国谷
特に母子家庭の貧困は厳しいとされていますが、これは目標5にもつながる問題です。以前、ジェンダー平等の推進や問題について滋賀県内で講演を行いましたが、参加者の大半は男性でした。このままでは若い女性たちが他府県へ流出してしまうかもしれないと思いました。自分が活躍できない地域にはもう戻らないと。そして若い女性たちが戻ってこない地域は、おのずと持続可能性を失っていきます。
知事
県の取組の一つとして、結婚・出産で会社を退職したけれど、もう一度働きたいという女性のためにマザーズジョブステーションを県内の2カ所に設けています。多くの方が再就職の希望を叶えられています。
国谷
起業に対する女性の発想や行動力にも注目が集まっています。例えば、クラウドを使って在宅医療を行う開業医をサポートする事業とか、多くは社会問題を解決しようとするところから発想されています。
知事
県内でも、滋賀医科大学の女性助産師さんが発案した授乳期の乳房をサポートする下着などのアイデアを県内の企業と結びつけたり、乳児食を安全なものにしたいという発想から新たなベビーフードの会社ができたりといったことがあります。女性の問題意識や行動力をサポートしていきたいと思っています。
国谷
世界的に見てもジェンダー平等において日本は遅れています。女性たちが能力を発揮し活躍できるようになれば、地域全体が活性化、より持続可能になると思います。
「女性のためのアグリカフェ」
女性農業者団体等と県が協働で女性農業者の活躍を支援
国谷
エネルギーについては、具体的には何をなさっているのですか。
知事
まず、原子力発電に依存しない新しいエネルギー社会をつくろうというビジョンを掲げ、県内の企業や工業団地における再生可能エネルギーの利用を進めています。家庭や各地域でエネルギー循環を行える地産地消の仕組みづくりもその一つです。農業用水路での小水力発電をはじめ、琵琶湖の水草や家畜糞尿を原料としたバイオマス発電を進めようとしています。
国谷
これからは自治体が中心となって再生可能エネルギーの地産地消を進める時代だと思います。
知事
滋賀県が目指すエネルギー社会の姿を明確に示し、宣言することで、企業の協力を得ていくことも可能になると考えています。
国谷
いいモデルができるといいですね。
昨年6月、SDGsについて考えるシンポジウムを県と滋賀経済団体連合会が共催しました。国連のトーマス・ガス事務次長補は基調講演で「現在では、環境や貧困などの問題を一国では解決できない。みんなが豊かになるために、経済を持続可能な形で成長させ、富を分かち合おう。今、世界が試されている。助けを必要としている人を取り残してはいけない。一人ひとりの皆さんの努力が、希望を生む」と語りました。
国谷さん、三日月知事のほか、行政・経済界・若手起業家・地域のリーダーなどの多様な方々が参加。会場の皆さんと一緒に、「未来との約束」を宣言して締めくくりました。
滋賀で生きていく私たちは、自らが望む未来に向かって約束します。
すべての人が幸せに生きていく滋賀をつくります。
そのために、
すべての人がサステナブルな滋賀を目指します。
滋賀で暮らす私たちは、世界が望む未来に向かって約束します。
世界の人たちが幸せに暮らせる世界をつくります。
そのために、
世界の人たちと共にサステナブルな地球を目指します。
~「サステナブル滋賀×SDGs」シンポジウム(H29年6月1日)宣言 ~
国谷
先日、国連副事務総長のアミーナ・J・モハメッドさんにSDGsの進捗を尋ねると、彼女は「歩き始めたけれども、まだ走り出していない」と言っていました。これからの世の中は、大量生産、大量消費、大量廃棄では立ちいかなくなるという一方で、エネルギーの消費を抑えながら本当に経済成長できるのか、サステナブルな経済をつくっていけるのか。このような疑問や課題が残ります。そこには革新的なイノベーションが必要です。それを実現できるのは、資金や人材、技術力を持った企業です。しかし、日本の企業はよいアイデアがあっても実証実験できる場を得られないといいます。自治体がその場を提供できるようになれば、変化につながるのではないでしょうか。
知事
可能な実験であれば積極的にチャレンジしたいですね。例えば、県内でも山間部で自動運転バスの実証実験が進められています。実用化すれば自動運転と公共交通を組み合わせた新たなサービスや社会モデルが期待できます。昔から県内の企業は、水に対する厳しい規制をクリアするべく努力を重ねてきました。工場排水をきれいにする技術を高めることで信用が高まり、ビジネスチャンスも広まるという好循環をつくってきたのです。こうした努力をエネルギーや貧困、教育といった社会的課題の解決と結びつけることで新たな好循環が生まれると考えています。
「自動運転実証実験」
ハンドルから手を放した状態で公道を走行する自動運転バス(東近江市奥永源寺地域にて)
「水環境ビジネス」
環境保全と経済発展を両立する「琵琶湖モデル」で、世界の様々な水環境課題の解決に貢献
国谷
世界気象機関の発表によると、一昨年は平均気温、二酸化炭素濃度ともに過去最高を更新するなど、待ったなしの状況にあるといわれています。
知事
地球規模の気候変動は滋賀県も無縁ではありません。県としても二酸化炭素等の削減に取り組んでいますが、何よりも県民の皆さん一人ひとりの省エネ意識や日頃の行動が大切だと思っています。
国谷
人間が排出する二酸化炭素のうち8%が、捨ててしまう食品を作ることから生み出されています。食品を捨てなければ、こうした二酸化炭素の排出も減らせるのです。
知事
買う人の意識を変えていく知恵は、滋賀の昔ながらの暮らしの中にあると思います。これからは「つくる、売る、買う」の好循環をグリーン購入やエシカル消費を広めることによって、作っていきたいと思っています。
国谷
ニューヨークで行われた世界経済フォーラムでは誰もが「いちばん大事なのは社会的対話だ」と言っていました。「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」に「地球よし・将来よし」もプラスしてお話しされてみてはいかがでしょう。新しい価値観に対する合意を得ていくために、いろいろな人たちとの活発な対話を大切にしていただければと思います。
知事
滋賀のSDGsのキーワードは「パートナーシップ」だと思っています。県民の皆さんをはじめ、企業NPO、大学などいろいろな方と対話し、つながることで、持続可能な滋賀の実現を目指したいです。
SDGsを学んだ学生の声
立命館大学では、SDGsの活動として、社会問題の「解決」を図ること、イベント等でSDGsの「啓発」をすることの2つを軸にしています。この軸を他大学、さらに次の世代へとつないでいくため、システム化することが必要になってきます。活動の中で気をつけていることは、学生ならではの視点。豊かでユニークなアイデアを出していくことです。これは、SDGsを周知してもらう上で、「楽しいこと」だと先に感じてもらうための工夫です。
私たち活動の方針は、まず自分の周りの人を幸せにすること。この行動がSDGsの達成につながっていくと信じています。そしてSDGsの活動を多くの人に知ってもらい、自分たちの世代が社会のメインプレイヤーになり、未来を描くことが目標です。
11月19日に開催された「みなくさまつり」に出展し、啓発活動を行った。
今、あなたが着ている服や食べている物は、どこで作られたものでしょうか?私たちの生活は、世界とつながっています。
持続可能な社会をつくるためには、一人ひとりの行動を変えていくことが大切です。あなたの一歩が、世界の未来を変えていきます。
できることから、始めてみましょう!
人や社会、地球環境のことを考え、それらの課題に取り組む事業者を応援するような消費(買い物)をすることを言います。
□ 地元の野菜を食べる | □ グリーン購入を心がける | □ 適正で公正な値段のもの (フェアトレード商品)を買う | |
□ 地元の工芸品を購入する | □ 使い捨てのものより長く使えるものを選ぶ | □ 寄付付きの商品を買う |
食べ物は、作るときにも捨てるときにも、エネルギーを消費し、二酸化炭素を排出します。大切な食べ物を無駄のないように消費しましょう。
□ 食べ残しを出さない | □ 調理の際は食べられる部分を捨てないようにする | |
□ 食品の賞味 (消費)期限に注意する |