広報誌「滋賀プラスワン」2020年9・10月号掲載
Yuki Uchida
広島県出身。平成7年NHK入局。岡山局勤務を経て、平成11年に東京の制作局ドラマ番組部に異動。以後一貫してドラマ制作に携わる。平成30年より二度目の大阪局勤務、現在に至る。大阪で携わった番組は、連続テレビ小説『カーネーション』『ごちそうさん』など。制作統括としては『ツバキ文具店』『アシガール』などを担当したのちに、2019年度後期の連続テレビ小説『スカーレット』を手掛ける。
ひたむきに陶芸に打ちこむヒロインの姿が全国から熱い共感を集めた、連続テレビ小説『スカーレット』。地上波・BSの放送は好評のうちに終了しました。現在はNHKオンデマンドで配信されています。この作品をプロデュースした内田ゆきさんに、信楽焼やヒロインの生き様に込めた思い、そして働く女性へのメッセージをうかがいました。
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自分の手で何かを生み出す主人公を描いた作品を作りたいと考えていました。信楽に何度か足を運び、大都市圏との距離感、昭和の時代にとても栄えた歴史、ある時期まで女性がほとんどいなかった窯業界など、ここなら良いドラマができると感じました。
信楽焼は、作品の形を想定して作り始めるものの、最終的にどういう色や形になるかは完成するまで分からない。思っていた通りにいかない部分があっても、決してそれは失敗作ではない。なにか人生に通じるドラマチックなものがあり、われながら良いところに目を付けたと思います。
『スカーレット』では、ヒロイン・喜美子が若い頃に思い描いていた自分とは違う、少しずつ変わっていく姿を信楽焼に重ねて描こうと考えました。
喜美子と夫・八郎の関係もそれぞれにプロ意識をもって接しているが、上手くいかないことがでてくる。自分が得をしようと思っているわけではなく、なるべく良く生きようと思いながらも、上手くいかない、そうしたリアルな同業夫婦のあり方や、幼なじみをはじめとした「善意のある普通の人々」が関わることで、登場人物の人生模様が変わっていく面白さをドラマにしたつもりです。
信楽の火まつりや窯焚き、青い火鉢が並んでいるシーンなど、撮影全般で、地元の方に本当にたくさん助けていただきました。炊き出しをしていただいたり、火鉢を一つ一つ洗って据えつけていただいたり、琵琶湖をほぼ一周して人工物がない湖岸のロケ地を探してくださったり。滋賀の方の協力がなければ、撮影はできませんでした。
滋賀は少し足を延ばすだけで豊かな緑や美しい水辺があって、いいなと思う場所がたくさんありますし、野菜や山菜がとてもおいしくて。いいものをいっぱいもっているのに、そのことに滋賀の人が気付いていないのがもったいない!
コロナ禍が落ち着いたら、滋賀の方にもぜひ信楽に行っていただきたいですし、信楽の方はお客さまを迎える準備を整えて待っていてほしいです。
プロデューサーは、まずドラマの企画を立てて、脚本や出演者の大筋をつくります。撮影に入れば、脚本家とやりとりをし、撮影が順調に進むように、そしてそれぞれの役割の人が仕事をしやすいように目配りをします。さらにお金の計算や、ロケの地元の方と関係を築いたり。全体の流れを考えながらも、意外に細かい仕事をしています。
企画を立てるという種をまくのがプロデューサー。たくさんの方が関わって制作が進む中で、自分の手を離れて種から木へとどんどん育ち、最後は想像を超えるような大木へと成長することがあります。『スカーレット』は、まさにそんな作品でした。
ある年齢や年代までに、「これを成し遂げていなければ」というライフプランを思い描きがちなのですが、それはあまり意味がないと思います。絶対にやりたいと思う気持ちは大事、でも、一度流れに身を任せてみるということも大事。こうでなければいけないという考えをやめると、できることの幅が広がります。
特に若い時は、私も、「今やらないと間に合わない」と思っていましたが、年月を経て振り返ると、そんなことはほとんどなくて、問題があると思っていたことも、間に合わないと思っていたことも、実はそうでもなかったことが多いです。
誰かはすごく早くスタートしていても、自分はゆっくり始めて間に合うようなこともあります。例えば、出産や子育てのブランクのことを思っている女性には、長いスパンで「いつか自分のやりたいことができればいい」という気持で取り組むことをお勧めしたいです。
そして、仕事を続けていると、やりたくないことをやらなくてはいけない期間もあります。でも、どんなにくだらないと思えることでも、何も得られない仕事はないんですよね。そこから何を得るかは自分次第です。『スカーレット』の喜美子も、そう考えていたんじゃないのかな、と思います。
スカーレット情報
連続テレビ小説スカーレット』がNHKオンデマンドで配信中。
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