甲賀市甲賀町の東部に位置する本地区は、北は野洲川、南は杣川に挟まれた丘陵地に位置し、当時干ばつ被害が多かったことから、約1,100ヘクタールもの農地に安定した用水を供給するため、「県営甲南四ヶ町村大規模かんがい排水事業」が昭和18年より着手されました。
完成まで約20年もの歳月を要した巨大プロジェクトによってつくられた大原貯水池(大原ダム)や農業用水路は、半世紀以上経った今もなお同地区内の農地を潤しています。
県営甲南四ヶ町村大規模かんがい排水事業(大原貯水池土地改良事業)概要
工期 | 昭和18年度 ~ 昭和37年度 | |
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事業費 | 429,180千円 | |
工種 | 細目 | 内容 |
貯水池 | 中心刃金式土堰堤 | 堤高 23.3 m / 堤長 191.7 m貯水量 212 万m3 |
幹線水路 | 三面コンクリート張水路U字フリューム他 | 延長 20.3 km最大流量 1.4 m3/s |
しかし、築造より50年以上が経過した水路は老朽化が著しく、近年、機能の低下やそれに伴う安全性が問題となっていたため、平成18年度から改修事業(新農業水利システム保全整備事業 大原地区)がスタートしました。
ここでは現在行われている幹線水路の改修事例について紹介します。
今回の改修事業では、老朽化で漏水等の支障をきたしている水路を改修し、安定した用水を供給するだけでなく、特に、「適切な用水配分」と「維持管理の省力化」も図ることから、水路のパイプ化を主要な工法とし、併せて用水の取り口(分水工)へバルブを設置します。
現場は、曲がりくねった山の尾根部を縫うように走っており、水路までたどり着く進入路が無いだけでなく、水路際まで用材林が生い茂り、山林の所有者の特定も困難な状況であったため、通常の管水路を埋設する工法では非常に労力と費用がかかる課題に直面しました。
そこで候補に浮上したのが、既設の水路をそのまま残し、道路として利用してパイプを運搬・埋設するパイプイン工法でした。
当初の工事では、下水道管の更正工法として採用されている、特殊な小型フォークリフトによるパイプの運搬・据付けを行っていましたが、曲線部の通行や下流側へ工事路線が進むにつれて狭くなる水路幅に対し使用が困難となること、また、特殊な工法であることから施工費が高くなる等の課題が残りました。
そのため、昨年度実施された工事ではこの工法からヒントを得て、短管パイプ等でコンパクトに組み立てたアイデア専用台車でパイプを運搬し、独自のやぐらで吊上げ据付けました。
これにより、施工条件の厳しい区間についても施工が可能になりました。
人力による原始的な工法で重労働ではあるものの、予想以上に現場は順調に進み、工事を無事完了することができました。(※厳しい現場条件の中、機械を使用しないで知恵と汗により作業をしていただいた作業員の皆さんに心から感謝を申し上げます。)