県営経営体育成基盤整備事業 甲西南部1地区および2地区は平成13年度から事業着手しましたが、これまで実施してきたほ場整備工事において自然環境に配慮した取り組みを行ってきましたので、その一部について実施状況を報告します。
甲西南部1地区および2地区とも平地部の用排水路に自然圧パイプラインシステム(=コップスシステム)を採用しており、ほ場整備工事において同システムの整備を進めてきました。導入するメリットとして次のような点が挙げられます。
●用排水管理が農道沿いに設置されるコップスユニット1箇所で可能であり、労力軽減につながります。
●用排水管理が省力化され水位調整を確実に行うことで、用水の無効放流を少なくすることができます。
ひいては琵琶湖等への濁水対策につながります。
●用排水路を管路にすることで潰(つぶ)れ地が少なくなり、水田や農道として土地を有効利用できます。
実際に同地区のほ場整備後の水田の大部分では「滋賀県環境こだわり農業実施ほ場」として登録されており、同システムによる水管理を行って濁水を流さないように努めておられます。
ただし、パイプラインによる灌漑方式では共通して言えることですが、管路内にゴミや落ち葉等の雑物が入り込まないように、用水の取込口にスクリーン等を設置して管理する必要があります。また、開水路のように水路内にどれだけ泥や雑物が詰まっているが分からないため、用水時期の前および定期的に管内へ水を流して泥を流し出す必要もあります。システムを良好な状態で維持するためには、地元農家のひと手間が必要なのは言うまでもありません。
事業区域内の幹線排水路の最下流部、甲西南部1地区は約50m(水路両側)、甲西南部2地区は約200m(同片側:ほ場側)に、魚巣ブロックを水路側壁の一番下部に設置しました。幹線排水路の先は最終的に野洲川につながっており、区域内で水量が最も多いことから、そこから魚貝類等が遡上できる環境を整備しようと設置しました。水路底部は栗石を投入したり、または現場発生土で均したり、2地区で異なった方法を取って試行錯誤しながら施工しました。
1地区は平成15年度、2地区は平成17年度の工事で施工され、竣工してから平成20年度末で3~5年経過しています。現状を見ると、水路はどちらも直線区間ですが、水路内に泥が堆積しており、かつ水草の繁茂が多く見られます。魚の生息については目視ですが両区間にて確認できます。そこで、先日タモ網を用いて捕獲を試みたところ、1地区では取ることができませんでしたが、2地区においては5~10cm程度のタモロコを捕獲することができました。
魚が生息するには、流速、水深、日照、底部形状、周辺環境等さまざまな条件があり、それも魚種によって異なることから、魚巣ブロックの設置だけで魚の生息環境を守ることができたとは断定できませんが、反対に阻害要因にはならず、水路の直線区間で魚が確認できたということは、魚の退避場として一定の効果があったのではと考えています。
甲西南部1地区 柑子袋工区 山田地先は周囲を山に囲まれた谷地にあります。用水源は工区内に改修したため池とし、そこから用排兼用水路を通じてほ場整備した水田へと配水されます。同水路は工区の東側境界付近に設置され、そのことで地区外の山と整備されたほ場との間に深さH=300~500mmの三面張り水路ができることから、山側から誤って水路内に落下した小動物(ヘビ、カエル、カメ等)が水路外へ脱出できるように、下記図面のような小動物階段工を設置しました。
当該水路延長は約700mで、階段工は約50m/箇所とし全15箇所あります。工事は平成14~15年度に実施、工事後5~6年経過しています。実際に小動物が階段工を登っていく現場は目撃できていませんが、山からの湧水や土砂が同水路に流れ込んでいる状況が見られることから、小動物が水路内に落ちる可能性もあり、階段工の設置は有効であると考えています。
甲西南部2地区 夏見工区 里屋敷地先において農村公園を整備する計画があり、その施工に先立って平成14年度に「滋賀県環境アドバイザー制度」を適用し、地区別連絡会議を開催して、各専門家の方々から工事に対するアドバイスや対応策について教授を受けました。主な内容を要約すると、
「当該箇所は湿地帯であり、地区境界付近に注目すべき種が生息しているため、境界から5.0m程度は触らずに湿地環境を残すこと。また、貴重種のクロミノニシゴリが工事区域内にあるので移植を行うこと。」
里屋敷地先は以前よりかなりの湿地帯であったため、地区境界付近に深い排水路を掘り込んで、ほ場側を乾田化させる方法も考えられましたが、上記の指導を受けて、境界付近の農村公園および畑については盛土を行い、さらに暗渠排水を敷設したり、山側の法面の法尻に素掘水路を設けたりして、外周の湿地環境をそのまま残したまま触らずに施工をしました。工事は平成19年度に実施。クロミノニシゴリもその工事期間中に移植を行いました。移植が困難な種と聞いていましたが、現在、壊死した枝もある一方で新しい枝葉も出てきています。