顕微鏡で見ると、ぶどうの房のように集まっていることから、この名前がつけられました。
この細菌は、食中毒の原因となるだけでなく、おでき、にきびや水虫等に存在する化膿性疾患の代表的起因菌です。一般的には、健康な人でも20~30%が鼻前庭、咽頭、皮膚、腸管内等に本菌を保菌しており、食品取扱者自身が本食中毒の主な汚染源になっているものと推察されています。
本食中毒は、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖する際に産生する菌体外毒素(エンテロトキシン)が原因となって引き起こされます。
黄色ブドウ球菌の電子顕微鏡写真
(東京都福祉保健局ホームページより転載)
本菌は、増殖するときに菌体外代謝産物としてタンパク質の一種であるコアグラーゼ(血漿凝固因子)を産生し、これは本菌の同定および疫学マーカーとしての重要な性状の一つとなっています。
コアグラーゼは、その抗原性の違いから1~8型に分類されます。
黄色ブドウ球菌が増殖する際に産生する菌体外毒素(エンテロトキシン)の本体は単純タンパク質で、抗原特異性によりA~H型に区分されています。食中毒原因食品から分離される菌株のエンテロトキシンはA型が圧倒的に多く、また1つの菌株が2種以上のエンテロトキシンを同時に産生する事例もみられます。
エンテロトキシンは、タンパク分解酵素や酸に対して抵抗性が強いため、胃液中のペプシンなどの消化酵素ではほとんど分解されず、そのまま胃や腸で吸収され、食中毒を引き起こします。
米国で発生したチョコレートミルクによる食中毒事例では、一人当たりのエンテロトキシン摂取量は94~184ngであったと報告されています。
2000年、関西を中心に発生した低脂肪乳等による食中毒事例では、さらに少ない摂取量でも発症がみられています。
菌自体は熱に弱いが、エンテロトキシンは100℃、30分の加熱でも分解されません。
本食中毒の予防としては、本菌がほとんど増殖できない10℃以下(できれば5℃以下)での食品の保管を目安とすべきです。
本菌は耐塩性菌であり、多少塩分があっても毒素を産生します。
0.5~6時間(平均約3時間)
主症状は吐き気、嘔吐で、下痢を伴う場合もありますが、一般に、高い熱は出ません。
エンテロトキシンに対する感受性は個人差が大きいといわれ、それが症状の発現に大きく影響を及ぼします。そのため、同じ食品を喫食しても発病しない者と重い症状を呈する者がみられます。
症状は通常24時間以内に改善し、一般に予後は良好です。