県民活動課から「ラウンドテーブルしが」と今回のテーマの趣旨および会議運営ルールの説明
今回は、「野生生物の『保護』と人との『共生』について」というテーマで、冒頭の事業担当課からの情報提供と施策説明に基づいて、様々な視点から課題を抽出し、今後のあり方について意見を出し合った。
この中で、出席者の皆さんから多くの意見を出していただいた結果、現場の実態などが浮かび上がってきた。
一つには、野生生物の影響による農林水産業の被害については、行政も明確かつ有効な対処法をあまり持っておらず、暗中模索している状態であるということである。
したがって、この課題に対しては、行政や当該産業に従事されている方だけでなく、その分野に関して知識・経験、ノウハウを持っているNPOや市民団体の知恵や力を活用することが必要であり、これらすべての主体が役割分担あるいは連携して、考え、行動していかなければならない、ということであった。
なお、国が所管している区域の森林などに対しては、現在のルールでは地方自治体が直接施策を講じることが非常に困難である。県としては、その理由・背景を住民の方に十分理解していただくとともに、一方で、野生鳥獣による森林被害への対策といった地域に身近な課題については、地方分権の観点から、県や市町がNPOや地元の団体と協働で解決に取り組める仕組みができるよう、今後関係機関と調整していくことも必要ではないか。
また二点目としては、被害を受けておられる方からの有害鳥獣駆除の要望と、野生動物を保護すべきだという市民の意見の狭間で、行政が難しい判断を迫られているということである。
これに関しては、まず行政が、野生鳥獣による被害の現場の実態を都市部の人にも理解してもらうことが必要である。また、あわせて子どもたちが自然に触れ合い、生き物の生死に直面することにより、命の大切さを学ぶ機会をつくっていくことが必要なのではないか。
今年度、滋賀県では、昨今の多様化する地域の課題やニーズに対応するため、県民、地域団体、NPO、企業等の多様な主体からの現場視点による協働提案に基づき、民間・行政双方の社会的資源や特性を組み合わせながら、ともに公共政策を作り上げていく「協働提案制度」の創設を検討している。
とりわけ野生生物の問題は、行政が明確かつ完全な対処法を持ち合わせていないことから、今後この制度を大いに活用し、積極的に他の主体からの提案を求めることが望まれる。
県湖東地域振興局森林整備課および琵琶湖環境部自然環境保全課から、県の施策・事業等の概要を説明。
もう一つは森林と人の関わり。明治の産業革命を契機に人口が増えてから石油が使われだすまでは、エネルギーは山からとってきた。さらに建物に使う木などは、日本の森林から出してきた。明治から昭和の終戦後のエネルギー革命が始まるまでは、非常に森林が痛めつけられてきた時代だったと考える。したがって、野生生物が持つ勢力は非常に弱かったと思う。そこから、次第に人が山に入らなくなって、植林したものが大きくなるなど、森林の量が増えてきた。そのような中で、狩猟者の減少や過疎化の問題などが相まって、現在は、人間に比べて野生生物の力が出てきて、今のような状態になっているというのが個人的な印象である。
NPOほか:カワウを原因とする森林被害の問題は、少し人間が入れば何とかなると思う。
行政が後押ししてくれれば、カワウが住みつかない森とカワウが住む森の区分けができるのではないかと思っている。
NPOほか:伊崎国有林の森をハイキングコースにしようという取組の一環で、林野庁にパンフレットを作ってもらった。人が入ったら実際にカワウが減っている。狩猟者にも聞き取りしたら、増えていないとのことである。
NPOほか:人が森に入れば、カワウの集団が一部に固まる。10年間の調査の中でわかった。カワウと人の共生の森として、森を複数の区域に分けることを提案している。「カワウが住み着かない森」と「カワウが生活する森」を作りたい。散策道も一部木道にするなどの補修もした。今現在植栽をしている。国有林だから県は関与しないというのではなく、県としても取り組んで欲しい。
行政:滋賀県はほとんどが民有林で、その他一部で県有林、国有林もある。行政の区分としては、国有林以外は県で施策を立ててやっているが、国有林の管理は国がする。県が国有林そのものを触るのは難しい。カワウの対策としては、当然県全体でどうしていくかという問題があるから、別途対策を実施することはある。
NPOほか:県の上を飛んでいる鳥だから、国で考えるよりも県が対応すべきと思う。現場に来られる森林ボランティアも参加されているが、なんで県が放っておくのかと言っている。また、竹生島の現場を見学したかったのだが、NPOではだめだとのことであった。私たちも実際にカワウが作っている巣を見て対策を考えたいというのが本音である。
世話人:県の方で協働型行政を進めると聞いているが、本当にこのような問題の解決を誰が主体になって行うのかは大事な問題である。
世話人:カワウの件では行政も困っている。行政も色々な人の知恵を集めて考えるべきかと思う。今、県の事業で協働の事例を集めているが、行政側が「NPOの発想は良いな。」と受け入れたら前に進んでいくが、行政が「自分達はプロだから。」と思ってしまうと、自分たちのバリアから抜け出られなくなり、一歩も進まない。
NPOほか:先日、天井川で深く掘られコンクリートブロックで覆われている小さな川に、穴を開けて、蛍を集めようということになったが、大きな木が出てきた。そこで、地元の人とNPOが、木を切るための「はしご」をかけて欲しいと所管の行政に要望したが、洪水になってはしごが流れて、民家などに被害を与えたら責任がとれないので、できないとのことであった。
NPOや市民団体が何か言えば、行政はまず、「それは良い考えである。」と言うべきであると思う。何か新しいことに取り組むときに、外部から提案があれば、行政は一旦受け止めて考えて欲しい。それが行政には非常に欠けていると色々なところで感じる。
行政:協働の経験があるかないかでも変わる。「一緒にしましょうか。」という構えの人と、そうで無い人、行政職員にも色々な人がいる。
世話人:野生鳥獣を駆除したらかわいそうだという話はどういう形で出てきているのか。直接行政に話があるのか。
行政:カラスについては、地元の要望で駆除して欲しいと言われるが、要望を受けて行政が許可して駆除しようとすると、一方の都市部の人からは駆除するなと言われる。シカは山の生き物だからそういうことはないが、身近にいるものについては、かわいそうだという話は、市町役場によく来て、行政がその狭間に立っている。
行政:狩猟者に聞くと、個体数調整で獲ったシカなどを、殺すだけではかわいそうだから活かしたい、という思いがある。「かわいそうだ」という話は、都市に近いと結構多いと思う。
世話人:県外の限界集落に近いところでも、シカを獲って料理して売り出せないかと考えているが、保健所は加工施設が必要だと言う。流通させるのには制約があったりして難しい。山で駆除すること自体に対する批判は出ていないが。
行政:野生獣で個体数が増えると、他の生態系全体のバランスを壊す。シカもカモシカと棲み分けができていたが、今はカモシカが追いやられている。シカは毒のあるもの以外は全部食べてしまう。
NPOほか:今はシカは雌を獲るのか。以前は雌を獲ってはいけないということであった。
行政:平成16年まで雌は狩猟禁止だった。特にシカの場合は一夫多妻制なので、雌が個体数の増減に関わっている。滋賀県では平成14年から16年にかけて個体数の調査をして、これは増えすぎているということで雌が解禁になった。しかし、狩猟者の努力も限りがある。
NPOほか:昔の猟は獲ったものを利用することを考えてしていた。今は、雌を撃って個体数を減らすということが目的になっているが、それは少し違うと思う。
行政:個体数が増えているので、農作物や林業の被害が多い。実際、地元の白菜、大根も全部食べられてしまっている。
NPOほか:里山が減ってきたということにも問題があるのか。
行政:オオカミがいなくなったことがあるのと、昔は雪が多く降ったから、多くの小さいシカが死んだ。今は雪が少なくなったので、淘汰されずに増えているようだ。
NPOほか:農業で里山を使わなくなったということも大きな原因だと思う。
世話人:増えた原因として狩猟者の絶対数が減ったというのがあるのか。
行政:シカならば、かつては雄しか獲ったらいけなかった。捕獲数が多かったわけではない。カワウもそうだが、戦後はシカも少なく、個体数を増やすために雌は獲ってはならないという保護施策をとっていた。
また、戦後すぐの状態は、どこも禿げ山で生息環境として餌が少なかった。数が増えるというのは、そこに餌が増えてきたということがある。一方で、森が戦後から「いびつ」に成長してきているので、それにうまく適応した特定の個体が増え、一方でその環境に適応できないものが希少種となっている。
行政:エネルギー革命があって以降、急に里山に入らなくなった。明治以降、森林がいびつに変わってきた影響かと思われる。
NPOほか:県は「ナラ枯れ」についてどのような考えを持っているか。これの手当をするのかどうか。
行政:北部から南部に拡がっているが、その中で北の一部では被害が既に収まっていると聞く。いわゆる「マツ枯れ」のように壊滅的な状態になるものではないようである。
NPOほか:私の見た所では、京都や近江八幡の山もそうなっている。何とか良い方法はないか。
行政:県も対策をしている。樹脂を塗ると収まっているものもある。
世話人:マツ枯れの根に植えたら治るもので、割と少しで効き目があるものもある。個別の対策はそういうもので対応できると思うが、全般的に温暖化の影響で植生が変わってきているのか。
行政:樫の木など、枯れやすいところから発生して南下している。
行政:今の状況だけを見て何かをしようとしているが、10年前、30年前、50年前に何かがあって、今このようなことが起こっている、という考え方ができていないと思う。知らないままにやると、例えば、とりあえず駆除するだけになる。何でこうなったのか、昔はどうだったか、何が変わって、何が変わっていないのか、等を考えなければならないと思う。家族構成など、以前と生活スタイル自体が違う。そのような人間の暮らしと結びつけて考えないといけない。
世話人:都会の人が、助けたい、かわいそうだと言う気持ちもわかる。一方で農山村の人の気持ちも分かる。そのギャップを埋めないといけない。状況の変化で対応しないと生きていけない。行政は答えが決まっていることでないと対応するのが難しい。答えがないことにどう折り合いをつけるかが難しい。野生生物とどのように生きていくか。そういうことを子どもの頃に体験しないといけないと今思う。例えば、魚を釣って料理して食べる、というような経験が無いと、頭の中だけで生き物がかわいそうだと思い、リアルなものが浮かばない。子どもの頃こそ、リアルな生死について考える時期かと思う。都会の人が山の中に入る、牛舎に遊びに行くなど、そういう仕組みを作らないといけないのではないか。案外ニーズがあるかとも思う。森は森、都会は都会、でいると、いつまでも平行線ではないか。
行政:今の話と関連があるが、日常の仕事を通じて、都市部の人が、必要以上にカラスやヘビなどの野生生物に対して身構える傾向があると感じる。要するに環境教育といえば大きな話になるが、そのような経験は大切だと思う。
世話人:そういった山に入って環境学習の機会を設けるNPOは、滋賀県では多くあるはずである。
行政:県外の例では、山に入って2泊3日で体験活動を実施するNPOもある。限界集落の問題も片方であるが、一つの場で何とかしようというのは無理がある。逆に解決策の一つとしてそういった方法が考えられる。
世話人:里山に人が入れば良いというのは、どの程度の規模が必要か? 行政:産業と結びついていないといけない。以前は産業と結びついていたので、日常から燃料、田んぼの肥料、牛の餌等で毎日山に入っていた。そうすると緩衝帯ができるが、今はなかなか難しい。
行政:例えばドイツには、バイオマスエネルギーを活用するため、集落ごとに地域熱供給の施設がある。燃焼機器の問題で進まない面もあるが、そういう形ができれば理想的である。
世話人:例えば今回の問題について、行政職員は各々少し所属の業務から外れて、来年NPOと一緒に何かできそうだというアイデアはないか? 行政:相手方は企業だが、琵琶湖森林づくり県民税の関係で、先日協働の森林づくり事業をやった。企業の社員が山に入って木を手入れするのに、技術指導は行政の林業職員ができるし、教育も関係課が来ると思う。「ここの部分を行政がやって欲しい。」と具体的に提案をいただければと思う。NPOから、山で何かをするという具体的な提案があれば、山村で何とかしないと、という行政の部署もあるから、持っていき方は結構ある。
世話人:東近江では、市がNPOに委託している。フィールドの限界はあるけれど、取り組み方には多様性があると思った。
行政:高島でも、朽木のNPOが受けており、地域の専任講師としても関わっている。
世話人:せっかく税金をつぎ込んでやっているのだからまさに地域に合ったものにしないといけない。
NPOほか:兵庫県内の町では、小学生からお年寄までを対象に、組織化された素晴らしい取り組みを行っている。また、和歌山県内の町でも率先してやっている。非常に力を入れ、民有林を守るために、企業がバックアップしている。完全に軌道に乗っていた。今年の春、企業のお金で研修しているのを見てきた。
行政:一番良いのは、NPOと施設の所有者が事前にある程度話をしていて、その上で行政から支援が欲しいというものである。「環境学習をしたいから、どこかに山がないか。」など、漠然とお問い合わせいただいても、難しいところがある。一番に何がしたいというのがあって、ある程度フィールドも決まっていて、そういう時に支援が欲しい、というのが行政も乗りやすい。行政が一から施設の所有者と交渉するというのは協働になりにくい。逆に言うと、フィールドやプログラムが既にあって、そこにもう少し何かが欲しいとなると協働もうまくいく。
世話人:その時の行政の入り方としては、昔なら助成金等であるが、今は専門性や情報か? 行政:備品を貸し出すという方法もある。間伐なら技術者もいる。お金以外の面でできることは多い。中身が面白ければ、参加者からある程度お金をいただいても良い。
NPOほか:自然公園の法律で規制があり、人に現場見学に入ってもらおうとしても、トイレがつくれない。何か良い方法がないか。
行政:そのような話は具体的な課題があってわかりやすい。その課題を基に、県とNPOがどのようにしたらよいか考えればよい。それがややもすると、NPOが良いことをやろうとしているのに、行政は意見を出してくれない、となるとけんか別れになる。そのプロセスが抜けているので、県に対する不満などが出てくる。具体的な話があって、法律の規制があるのだが何とかしたいと、それを皆で解決しようという場を作るのが一番である。
世話人:具体的な課題があれば、それを協議する「しが協働ル~ム」という場がある。県民活動課に言ってもらえば良い。
世話人:それも、学識経験者、NPO、県で構成する「しが協働モデル研究会」で検討したものである。NPOの皆さんにはあまり知られていないが。
世話人:シカやイノシシは、獲って解体して、肉として流通させる仕組みができて、全国で例えば「鹿肉流通コース」のようなものを作れば、案外やってみたいという人はいるのではないか。
行政:東近江や高島などでも同様のことを考えている。
世話人:若年者を対象とした職業訓練のコースを作れば、今のニーズとしてはマッチングできるのではないか。
世話人:どちらにしても部局横断的にやらないといけない。
行政:今、先進的に取り組んでいるのは北海道と長野で、そういうところは特命チームを作っている。
世話人:今日の課題は大きく、しかも行政だけで対応することは無理なので、NPOだけでなく、地域団体などでも、一緒に知恵を絞ってくれるような人がいれば良い。来年度「協働提案制度」ができる予定である。行政側がテーマを示す「応募型」というのがあり、そのようなテーマを出してもらえると、興味のある団体から提案があるかもしれない。ぜひ考えていただきたい。「創造型」という自由テーマのものある。事業化するのは、さらに1年後になるが。具体的にもう少し協働の形が見えればと考える。
世話人:具体的な話などで割と小さなところからできればと思う。このような制度を活用していきましょう。
情報掲載日 2009年01月26日
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滋賀県県民活動課NPO・協働推進担当
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