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多言語・翻訳アワー in 滋賀 #3「機械翻訳・手動翻訳、外国語以外の表記方法」議事録

多言語・翻訳アワー in 滋賀 #3

滋賀県内に住む、また訪れる外国人が不自由なく生活・滞在するにあたって、彼らを支える翻訳者・通訳者が、これまでどのような困難・失敗に直面してきたのか、経験談に基づく共感によって、言語対応のあり方を模索しあう「多言語・翻訳アワー in 滋賀」。
第3回は「機械翻訳・手動翻訳、外国語以外の表記方法」をテーマに、翻訳業務をあたっている方々の経験談・失敗談をもとに、意見交換を行いました。

  • 日時:平成29年7月22日(土曜)16時00分~18時30分
  • 場所:米原エンジンビル 2階(米原市下多良一丁目2)
  • 参加者:10名(県内外国人相談員・国際交流員、文化財キュレーター・保存修理技師、外国人向けプロモーション支援事業者、観光支援事業者、市町行政職員、行政書士、NPO関係者)
  • ゲスト:山田尚貴さん(株式会社エニドア 代表取締役)

意見交換の内容

1. 機械翻訳とどう向き合っていますか?

ここ最近、様々な形で機械翻訳のサービスがニュースで取り上げられています。ニュースをみていると近未来な印象を受けますが、一方で誤訳によるトラブルなども耳にします。前半はそんな「機械翻訳」について、その仕組みを学ぶとともに、その向き合い方について意見交換をしました。

機械翻訳の仕組み

そもそも機械翻訳はどのような仕組みで行われているのでしょうか?今回はゲストに株式会社エニドアの山田尚貴さんをお招きし、下記の動画を見ながら機械翻訳に関する基礎的なことを伺いました。山田さんは機械翻訳サービスに使える大量の翻訳データ構築を行っています。
https://www.youtube.com/watch?v=X4BmV2t83SM(外部サイトへリンク)

  • 機械翻訳の方法は大きく分けて「ルール翻訳」「統計翻訳」という2つの方法があります。ルール翻訳は辞書に近いもので、100%その言葉がマッチしていたら返すというものです。統計翻訳は文章の構造が違っていても、同じ単語が出てきた場合は機械に学習させた結果を返すというものです。統計翻訳の方法は様々なパターンに対して柔軟に変換できるのが特徴ですが、2017年頃からニューラルネットワーク(深層学習)を活用した新たな機械翻訳が取り入れられるようになり、その柔軟性が増したことで精度が向上しました。
  • どちらの翻訳方法が良いのかはケースによって変わりますが、いずれの方法も精度を決めるのは対訳データにあるといっても過言ではありません。「日本語= ”今日はいい天気です。”, English=“It’s fine.”」みたいな情報をデータとしてどれだけ蓄積できるかが、機械翻訳の精度向上に繋がります。

どういう時に機械翻訳を使おうとしましたか?

この意見交換会を開く前に色々な方に話を伺っていたところ、機械翻訳は外国語のわからない人だけでなく、翻訳者さんも仕事などでよく使っていることがわかりました。どういう時に機械翻訳を使っているのでしょうか?

機械翻訳を使う場面
  • 外国語の文書の意味を知りたいとき、わざわざ通訳者さんの手を止めることはできないので、ニュアンスを知る程度の補助手段として機械翻訳を使っています。
  • 海外の事例をインターネットで調べる時、あまり意味の理解できない文章があると、エッセンスだと思うような箇所だけをを機械翻訳で確認することがあります。それで8割ぐらいの理解に至ることができるので、役に立っています。
  • 翻訳している時、わからない言葉があれば辞書を使うのですが、辞書に出てきた言葉ではピンとこないとき、インターネットの機械翻訳サービスで調べて判断することがあります。
  • 知り合いから、入会した海外の有料サイトが解約できないという相談がありました。相手に問合せをしようとするのは機械翻訳では難しいと思いましたが、単純にウェブサイトにチェックを入れる方法だったので、機械翻訳を使って解約することができました。
機械翻訳の失敗談
  • 機械翻訳は人件費削減につながることから職場での機械翻訳導入を検討したことがあるのですが、試行したところ誤訳によるトラブルが懸念されたので、結局機械翻訳は採用されず、通訳員を採用することになりました。
  • SNSで外国人の方と会話するきっかけがあったのですが、そのSNSについている機械翻訳機能を参考にしても「これは本当にこう翻訳するのか?」と思うことが多々あり、その都度単語辞書を引いていました。
機械翻訳を使わない場面
  • 思いをこめた文章を届けたい場合、機械翻訳は使いません。たかが2行の文章でも、その2行にこだわる人たちと仕事をするときは、機械ではなく、その思いを理解してくれる人に翻訳をお願いするようにしています。
  • 売上に影響するような文章を扱うとき、機械翻訳は使わないようにしています。機械翻訳で8割の意味が通じたとしても、通じない2割の意味が、企業の信用にも繋がったり、補償問題にもなるからです。
  • 私は逆にお客さんに機械翻訳を薦めることもあります。印刷物など後々翻訳文が残るような場面では機械翻訳は危険でしょうが、口頭の会話で8割だけでもニュアンスが伝わればよいような時などは、翻訳しやすい日本語を使うように気をつけるだけで、わざわざプロの手に頼らなくても取引ができる場合があります。
  • 広告で使うキャッチコピーのような文章は、機械翻訳にかけた瞬間に単純なセンテンスになりますが、そのような機械翻訳文は「ポストエディット」という人の手で修正をかける工程を組み入れることで、クリエイティブの質を担保させています。機械翻訳もこのような使い方・付き合い方が大事なのかなと思います。

機械翻訳が良くなっていくために

機械翻訳サービスはただ利用するだけではなく、私たちがサービスの精度向上に貢献することもできます。山田さんから次のようなアドバイスをいただきました。

  • 機械翻訳ではまだ地名・施設名に関する情報に弱いです。国もガイドラインを定めてはいますが、いろんな人がいろんな解釈で翻訳をするので、表記がバラバラなんですよね。その辺が整備されていかないと機械翻訳の精度も向上しません。知事の名前や公共施設名など、そういった対訳表を自治体が公表していれば、いろんな企業が欲しがると思います。対訳表は専門的な知識を必要とせず、普通にExcelデータのような形式で構いません。「Chicken, 鶏」といったシンプルなもので大丈夫です。

2. 外国語以外で外国人と会話したこと、ありますか?

後半では、外国語を使わずにコミュニケーションをとった時の経験談を共有しました。

ピクトグラム

ピクトグラムは日本語で「案内用図記号」といいます。日本では1964年の東京オリンピックで日本人と外国人とのコミュニケーションを媒介する手段として開発されたことを契機に広く普及されたと言われており、特にサイン表記の場面で世界でも積極的に活用されています。

  • 観光施設に勤務していたとき、外国人のお客さんに「道がわかりにくい」と怒られたことがあります。路上のサインにあるピクトグラムを頼りにしようとしたそうですが、その方がイメージしていたものとは違うピクトグラムで案内していたので、アクセスに苦労されたようでした。
  • トランスジェンダーの人への配慮の観点で、トイレのピクトグラムに「男女」の表現はふさわしくないという声を聞いたことがあります。
  • 国によってマークの意味が変わる場合があります。例えばチェックマークも日本だとバツを示しますが海外だとオッケーを示すもので、どう表現すべきか悩んだことがあります。
  • 仕事で使えそうなピクトグラムを見つけたが有償で、組織内で購入決裁を経ないと使えないということがありました。お金をかけてイラストを買う手間からなかなか職場では有償の素材に手が出しにくいのですが、一方で無償で使える素材も豊富にあるわけではなく、困っています。
  • 国や地域特有のピクトグラムを扱うときは啓発が必要ですね。滋賀県内ではよく見かける「飛び出し坊や」もただの「かわいいオブジェ」だと思う外国人もいます。

ボディ・ランゲージ

ピクトグラムのように絵を使う場合と異なり、体を使ったコミュニケーションは不思議と気持ちが伝わるものです。当初予定していなかった話題だったのですが、いくつかの体験談が出てきました。

  • 一緒に仕事をした相手がボディ・ランゲージを大事にする人でした。「経験でわかる。言葉なんて通じなくていい」と言うんですが、実際に道具を出してほしいとお願いしたら、通訳を介さずにちゃんと持ってきてくれたんです。人間ってすごいなと思いました。
  • 自転車でツアーをするときは、ハンドサインを使います。そのとき「止まるときはこの合図を出しましょうね」というのは言葉で説明するのですが、実際に自転車を乗ったら手だけでコミュニケーションをとります。安全や緊急性に関わるものであればあるほど、ノンバーバルな言語が使われていくのだと思います。

やさしい日本語

日本語を学んでいる外国人でも、身近でない言葉の意味はなかなかわからないものです。「やさしい日本語」は、できるだけ簡単な表現を用いることで、日本語をおぼえたての方でも必要な情報を理解してもらえるような配慮の試みです。滋賀県内の市町などでも様々な「やさしい日本語」の活用啓発が行われています。
ここで参加者どうしで「やさしい日本語」づくりにチャレンジしてみました。皆さんならこの文章、どうやさしく表現しますか?「明日は降雪のため、交通機関が乱れる可能性がありますのでご注意ください。」

  • 「明日は雪が降り、交通が遅れますので、注意してください。」
  • 「明日は雪が降ります。電車が遅れることがあるので、注意してください。」
  • 「明日は雪が降ります。電車やバスが遅れます。注意しましょう。」
  • 「明日は雪が降ります。道が車いっぱいになります。電車も時間どおりに動かない。注意してください。」

ちなみにこの文を紹介した方のブログには、次のように記されていました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaiki/20161124-00064777/(外部サイトへリンク)

  • 「明日は雪がふります。電車やバスが遅れるかもしれません。気をつけてください。」

翻訳と同様、一意に表現が定まるものではありませんが、極力熟語を減らしたり、文章を短く、文の構成をシンプルにする姿勢が重要なのでしょう。そんな「やさしい日本語」について、よく似た経験も含めて伺いました。

「やさしい日本語」に関する経験談
  • 「やさしい日本語」を職場で使うための研修を行っています。でも厳密に取り組むとハードルが高いので、職場で普及させるにあたっては、うるさく言わないようにして、みんなで勉強する姿勢で取り組んでいます。
  • 留学生と話す機会があるのですが、彼らは日本語を勉強しにきているから日本語を喋るようにしています。その日本語は、彼らのレベルに合わせるようにしています。これも「やさしい日本語」ですよね。
  • 「やさしい日本語」の普及啓発をするなかで、積極的に捉えてくれる人もいれば、「これは間違った日本語だ」としか捉えてくれない人もいます。また「どうしても熟語を使いたい、熟語を使わなければ馬鹿にされているように感じる」と言う人もいました。そう思う気持ちも理解できるのですが。
  • ある美術館で、作品の解説をやさしい表現で説明する試みがあったのですが、「○○○皿」という名称が「鳩の絵が描かれた皿」といったような表現になりました。やさしい日本語だから意味は通じているのかもしれないけど本質が違うことになり、そこに抵抗感をもつ人もいます。
  • 英語でも「やさしい日本語」と同様の「やさしい英語」があると思います。例えば英語が公用語でない国の人に英語を使って説明するときは、文章を短くして、主語や動詞を明確にする工夫をしています。「ネイティブ英語を使わなくても中学英語で外国人に通じるよ」と言うのと同じ発想で、「やさしい日本語」と向き合えばよいのかなと思います。
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滋賀県総合企画部国際課
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