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多言語・翻訳アワー in 滋賀 #2「名称の表記ルール、対訳表づくり」議事録

多言語・翻訳アワー in 滋賀 #2

滋賀県内に住む、また訪れる外国人が不自由なく生活・滞在するにあたって、彼らを支える翻訳者・通訳者が、これまでどのような困難・失敗に直面してきたのか、経験談に基づく共感によって、言語対応のあり方を模索しあう「多言語・翻訳アワー in 滋賀」。
第2回は「名称の表記ルール、対訳表づくり」をテーマに、翻訳業務をあたっている方々の経験談・失敗談をもとに、意見交換を行いました。

  • 日時:平成29年6月24日(土曜)14時00分~16時00分
  • 場所:石山寺 明王院(大津市石山寺一丁目1-1)
  • 参加者:13名(県内外国人相談員・国際交流員、文化財キュレーター・保存修理技師、外国人向けプロモーション支援事業者、市町行政職員、行政書士、観光事業者、寺社関係者)

意見交換の内容

1. あなたが表現した訳語について、他の人は何と翻訳したのか、気になったことはありますか?

固有名詞については観光庁や国土地理院といった機関がガイドラインを定めています。地名などある程度はこのガイドラインに沿えば訳語が作れるのですが、これが施設名になるとガイドラインを読んでいても解釈が分かれてきます。
前半はこのような「訳語の不一致」の現象について、翻訳実務にあたっている方を中心にお話を伺いました。

固有名詞をどう翻訳するか

  • あまり知られていない小さな会社の名称を翻訳する際に悩みます。「○○工業」という名称も、音の方を尊重して「○○ Kogyo」と書くべきなのか、工業を英語に翻訳すべきなのか。また韓国語と中国語の翻訳の仕方も、英語の考え方とは違っていて、統一的にすることが難しいです。
  • 雄琴温泉をOgoto Onsen と書けばよいのか Ogoto Hot Spring と書けばよいのかで悩むことがあります。パンフレットによって書き方が異なっている。「おごと温泉」駅は「Ogoto Onsen」なんですが。
  • 固有名詞の翻訳は一言で説明しきれないですよね。音を大事にすると意味が伝わらないだろうし、意味を大事にすると現地に来られたときにその言葉で日本の方に尋ねてもわからないだろうし。音読みの綴りと意味での翻訳とを併記することもあります。その固有名詞をもって外国人が何をしたいかを把握して翻訳することが大切だと思っています。

訳語を作っても勘違いされることがある

  • まだ皆さんが外国語対応への意識が低かった時代に、私が勤めていた施設で、封筒などにカッコよく施設の英文名を付けてみたことがありました。でも組織としての公式名という位置づけではなかったため、公式にはその数年後に別の名称で定めたのですが、市内の英語案内板などでは当時封筒に入れた非公式の表記で掲載されてしまいました。
  • 「大津京」駅を京都だと思っている外国人観光客がいるんですよ。「京都に降りた」と思っている、或いは京都の中に大津京があると思っている方がいる。英語表記ではなく、日本語の文字の見た目で勘違いされる方がおられるようです。
  • あまり市外を運転したことがないのですが、別の市町に出ると土地勘がないため、信号の英語表記で混乱することがあります。信号の名前は漢字とローマ字で書いてあるじゃないですか。でも「唐橋西詰」「唐橋東詰」といった表記について、ローマ字では「詰」まで入っていないことがあるんです。だからこの信号機でいいのかどうかわからないことがあります。
  • 通訳案内士の資格を持っているのですが、その資格試験勉強にあたって、「日本を英語で紹介しよう」という内容の本を何冊か読んだことがあるのですが、本によって訳語が違っていたり、また訳語というより説明と思えるようなものもありました。お寺の「護摩」ってありますよね。あれも4行ぐらいの訳語で書いてあるんですよね(笑)。また本に書かれていたある制度の訳語を覚えてお客さんに堂々と話したら、「何だそれは」と言われてしまったこともあります。そもそもその制度がお客さんの国になかったので、何のことかわからなかったそうです。直訳すればそうかもしれないけれども、その先にある知識を説明しないと結局伝わらないんだなと思いまし

制度の翻訳

  • 「戸籍抄本」「戸籍謄本」「除籍謄本」「戸籍の付票」「住民票の除票」という書類の違いが外国人にはわかりづらい。英語などの外国語でわかりやすく表記するというより、その書類そのものが利用者にとって分かりやすいかという、ユーザビリティの視点が足りないと思います。
  • 戸籍を申請したいと市役所に問合せに来られる外国人の方が多いので、訳語を作らせてもらったんです。でも言葉が難しくて、どれが何かがわからない。そこで下の方に「戸籍謄本は姓が載っているもの」「戸籍抄本は~」と説明を入れるようにしています。名前は訳さず「Koseki Tohon」「Koseki Shohon」とか、翻訳というよりは説明文として書いています。
  • ある自治体には「所得証明書」と「課税証明書」の2種類があるのですが、私の自治体は「所得課税証明書」1つだけなので、勘違いされることがあります。違う自治体から来られた方と「これが欲しいんやけど」「所得課税証明書ですね」「いやいや、課税証明書がほしいんです」という会話になることもあります。税金の名称が市町によって違うこともあります。
  • あるお客さんに「実印を持ってきてください」と言ったら「何それ?」と言われたことがあります。手彫りの印鑑を実印だと思ってらしたようなんです。ところが役所に行ったところで、「印鑑登録証明」という看板はあっても「実印」という言葉はどこにもない。紙一枚作っておいて渡してくれたら分かることが、窓口に行って聞かない限りわからないんですよね。
  • 制度の言葉を訳すときは、まず制度の説明について書かれた国内自治体のウェブサイトやWikipediaの説明を読んで理解しています。その後、その国の政府機関のウェブサイトにアクセスして、似ている制度の言葉が見つかればその言葉を使うのですが、全く同じ制度ではないため誤解される恐れもある。なのでカッコ書きを加え、そこに日本語の表記を載せるように心がけています。
  • 中国語で「支援」というと、金銭的・物質的に助けてくれるという意味で、例えば震災の時の「支援」に近い意味合いで使われているようなんですね。一方で日本でいう「支援」はそういったものではなく、ちょっと話を聞いてどこかの施設を紹介する等といた意味合いで使われるため、例えば子育て等の場面で「支援」という言葉を使うと勘違いされる可能性があります。実際に知り合いの中国人も、日本に初めて来たとき様々な「支援」と書かれた制度があったので、「日本は色々もらえてすごくいいところだ」と勘違いしたという話を聞いたことがあります。

カタカナ語でも外国人には通じないことも

  • まちづくりセンターなど、名称に英語が入っている公共施設が多いですよね。「センターは英語のままで表記するのか、「Senta」と読み方で書くのか、迷います。
  • 行政機関は制度の名称などに愛称をつけがちですが、名称の裏に隠された意味がすごく深くて翻訳者が悩むことがあります。私の自治体には「ハートフルスペース」と「ハートフルフレンド」と「ハートフルルーム」という3つの制度があるのですが、これらの制度の微妙な違いが外国人には伝わりません。「ハートフル」という言葉自体も英語だとheartwarmingという感じになるかと思うんですけど、そういった実際の英語の意味とはかけ離れてしまっています。
  • アメリカ人の方に「リフレッシュ保育」という言葉を見せたところ、「リフレッシュ」はコーラや炭酸飲料を飲んで「あぁスッキリした」といったニュアンスなのに、それを保育につなげることにすごく違和感がある、という話をいただきました。
  • マイナンバー制度ができた頃、外国人から「外国人登録の番号はマイナンバーじゃなかったんですか?」というすごく素朴な疑問をいただきました。それが普通名詞なのか制度の固有名詞なのかが外国人には判断しづらい。普通名詞の固有名詞化というのは和製英語になりがちなので訳す側としてはすごく難しいです。

「琵琶湖」の表記も人によって様々

  • 「母なる湖、びわ湖」、英語では「Mother Lake」と翻訳されていますが、ポルトガル語では「母」は女性名詞、「湖」は男性名詞。文法的には普通訳せないのです。なのでブラジル人向けにも、そこだけ英語のまま「Mother Lake」にしています。
  • 自分のウェブサイトを英語で作ったとき、当初「Biwako」と書いていたのですが、その後いろんなサイトを見ていると「Biwako」よりも「Lake Biwa」って書いてる方が多いなと思い、「Lake Biwa」に書き換えたことがあります。
  • 私たちは「琵琶湖」だったらハングルでは「비와코(호)」と、カッコをつけて湖と入れることにしています。滋賀の方だと「びわ」と聞けばすぐ湖に直結するかと思うんですが、琵琶ではなく枇杷に慣れ親しんでいる地域の人にとってはちょっと混乱してしまうかもしれません。

境内の案内板、どのように表記されている?

その後、会場である石山寺の方に境内を案内していただきながら、境内にある外国語表記について参加者どうしで意見交換しました。

  • ここ数年外国人旅行者の数も増えており、境内の多言語対応を進めなければという思いの一方で、お堂の中や仏様の前にまで多言語表記をすることが果たしてよいことなのか、悩んでいます。
  • 境内の看板はお寺とは別に教育委員会が建てていることがあります。この看板ができたのは平成5年(24年前)のようですが、大抵の看板は更新の頻度が少ないためか、20年経っても看板の文字が見えれば古い言い回しのままで運用されることがあります。看板が掲げられている以上ご覧になる方もいらっしゃると思いますが、このような看板は年数が経てば経つほど、参考ぐらいに思っておいた方がよい気がします。
  • 国では重要文化財を「Important Cultural Property」という表現で定めていますが、これが海外には伝わらないと感じています。Propertyといえば「財産」ですから「重要な文化的な財産」と解釈できるけど、海外の人にとっては財産というニュアンスだとあまり大したものでなさそうに捉えられることが多いのです。なので個人的には「Treasure」という言葉を使いたいんですが、日本の文化財の制度では「National Treasure」しか「Treasure」という表現を使えないので、困るところなんですよね。滋賀県指定文化財という言葉も「Prefectural Treasure」と表現
  • 日本人でも「国宝」と「重要文化財」と聞いたとき、たぶん国宝のほうがすごいもので、重要文化財の価値がそれより低いと思われがちですが、重要文化財のなかで特に素晴らしいものが国宝と位置付けられているだけで、本来フラットな関係なんですが、それは日本人でも分からないところなんでしょうね。

2. 社内や仲間どうしで対訳表を作ったことはありますか?

後半では対訳表についての考え方を話し合いました。参加者の多くは独自の対訳表を作ったことがあるそうです。どのような目的でつくり、仲間と共有していったのか、その難しさについて意見交換をしました。

対訳表をつくる目的

  • 対訳表は自分自身の翻訳作業のために、また後任者のために作っています。翻訳していると何度も同じ言葉に出会うことがありますが、なかなかその訳語が覚えられない。だからウェブサイトや辞書を参照する度に表現で悩むことのないよう、自分用の対訳表を作って都度追加するようにしています。
  • 私も子育て情報の翻訳などで似たような単語を何度も使うので、自分なりの表現を統一する必要があると思い、独自の対訳表を作っています。後輩の通訳さんにも「自分のだけでもいいから作ったほうがいいよ」と言っています。
  • 他の自治体ではどんな単語、どんな言葉を使っているかが気になることがあり、それらの訳語を参考にさせてもらうことがあります。

組織で対訳表をつくることの難しさ

  • 訳語には正解がないという話がありましたが、自分が翻訳した言葉に対して「これは違うんじゃないか」と指摘をくださる方もいらっしゃるんですよね。そういう指摘に答えられるようにするためにも、私たちがなぜこの表現に決めたのかという根拠を、仲間と相談しながらきちんと持っておく必要があると思います。
  • 対訳表は翻訳者個人のために作っている方が多いと思うのですが、その対訳表を共有したりディスカッションする機会があまりありません。
  • 表現も時代で変わるものですので、対訳表を作って終わりではなく、関係者どうしで連携をとりながら「ブラジルでは最近こう表現しますね」など情報共有して、どれが現代にあった表現なのかを一緒に考えていくのがよいと思います。
  • 以前在籍していた翻訳者が作った対訳表を見たら、自分たちの表現と比べると不自然に感じるものだったので、対訳表を組織でつくることがネガティブに捉えられてしまったことがあります。後任者などに叩かれたりしないか、対訳表を作るにも怖くて引いてしまう人もいるんじゃないかなと思います。
  • 誰かが作った対訳表を使わなきゃいけないと思うと、その表現に引きづられて全体的におかしくなることがあります。何年か経ったら表現の条件が変わるものですので、ある程度の時期で見直しの作業は必要なのかなと思います。
  • ある自治体の仕事で、自治体で定められていた対訳ルールに沿って翻訳していたら、ある現場では違う対訳ルールが作られていたことがわかり、そこだけ例外の訳語を作らなければいけなくなりました。組織全体で対訳表をつくろうとしても、どこかでローカルな基準が作られると、なかなか一律のルールが確立されなくなるものだと感じます。
  • 複数人で翻訳をするとき、誰と組むかで訳し方も変えないといけない時があります。チームを主導している人の好みみたいなものがありますので、混乱しうるけれども今のところ仕方がないのかなと感じています。
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